古川本舗、5年ぶり音楽活動を再開 音楽に求めている機能とは
INTERVIEW

古川本舗

5年ぶり音楽活動を再開 音楽に求めている機能とは


記者:村上順一

撮影:

掲載:21年02月05日

読了時間:約8分

 マルチクリエイター・フルカワリョウによる音楽プロジェクトの古川本舗が2月3日、6年ぶりとなるシングル「知らない feat.若林希望」をリリースした。ボカロPの先駆者として2009年に音楽活動を開始し、その後カヒミカリィや野宮真貴とコラボ、さらに声優の花澤香菜、シンガーのMEGらに楽曲提供を行うなどその活動の幅は広い。キャリアを重ねるにつれ「自分の中で矛盾というか、無理が出てきた」と感じ、2015年に音楽活動を終了した古川本舗。そして、2020年個人事務所「DONAI paris」を設立し、5年ぶりに活動を再開した。古川本舗の音楽は米津玄師もリスペクトする存在で、楽曲のクオリティと唯一無二の世界観が多くのアーティストたちに影響を与えた。MusicVoiceではアンケートを実施。活動を再開した理由から、インターネット、弾き語りを中心に活動する若林希望をボーカルに迎えた「知らない feat.若林希望」の制作背景、ここからの活動スタンスについてなど古川本舗の今に迫った。【村上順一】

活動再開を決めた理由とは

「知らない feat.若林希望」ジャケ写

――2015年に音楽活動を終了されましたが、当時はどのような思いで活動終了を決心されたのでしょうか。

 古川本舗はもともと自分自身が「プロデューサー(兼コンポーザー)」という立ち位置で始めたものでした。フロントマンが自分ではない、ということです。2nd albumまではその立ち位置で制作が出来ていたのですが、その頃からだんだんライブをやってほしい、等の意見が、スタッフやお客さんからも出始め、自分も(もともとはバンドマンなので)やってみようとなり、だんだんプロデューサーからバンドマン的な立ち位置に変化していきました。

 とはいえもともとは流動的にボーカルを変えてやっていくというのがメインコンセプトであったので、そうしたバンドマン的な立ち位置というのが、自分の中で矛盾というか、無理が出てきたなと感じていたのが4枚目のアルバムの頃でした。

 その後4枚目のアルバムをリリースした後に、メジャーメーカーからリリースのお話をいただき、そのタイミングでは何も作りたいものが無い、という状態でしたので、「ああ、これは潮時だ」と判断し、お話をお断りして活動終了を決めた、というのが当時の経緯です。

――そして、音楽活動を再開されました。この5年間、どんなことを考えていたのか、再開に至るまでの心境の変化などを教えてください。

 この5年はシンプルに音楽にほとんど触れない生活でした。触れないというと語弊がありますけど、自分が今まで聴いてきたような音楽とか、それこそ友人たちが作っているものとか、聴きたくなくなっていた、というよりは純粋に興味が全くなくなっていた、というのが最初でした。

 とはいえ、お客さんと約束していたこと(そのうち戻ってくる)もありましたし、何かはしないとな、でもなんか「やらなきゃいけない」でやるのも違うよな…。とか考えていたら時間が結構経っていた。という感じで。加えて、再開するとしても名義をどうしようとかも悩んでいたところでした。

 その後、20年来の友人と飲んでいるときに、その相手は20年近く自分の事を知っていて、学生時代も、バンドマン時代も、ボカロP時代も、社会人時代も、古川本舗時代も、当時の時代も知っていてなおかつ全てフラットに「自分」として扱ってくれるということにふと気が付き、「名義なんてどうだっていいかな」となりまして、どうだっていいならもう一度本舗のお世話になろう。と決め、活動再開を決めた、という感じです。

――プライベートレーベル兼個人事務所「DONAI paris」(ドナイパリス)を設立されました。基本コンセプトは「Lifetime SoundTrack」とのことですが、このコンセプトにたどり着いた経緯、エピソードなどを教えてください。

 活動終了して以後ほとんど音楽を聞いていなかったのですが、一度町田のスティッキーフィンガーズというバーで飲んでいた時に、お店でLeyonaさんの「わすれちゃうよ」がかかってて、なんだかその瞬間めちゃくちゃお酒がうまい! みたいな感覚になったのと、今はもうなくなってしまったのですが、小石川のBlue barというところで飲んでいた時にEmi Meyerさんの「君に伝えたい」が流れていて、その時も同じような「普段よりもちょっとだけいい気分」みたいな感覚がありまして、そういう経験から、自分が音楽に求めている機能って「自分の人生のサウンドトラック」なのではと思いました。そしたらよくよく考えたら5年前に同タイトルの曲を自分で作っていたという…。それでレーベルコンセプトにしようと思いました。

――ご自身が活動されていた当時の音楽シーンと、現在ではどのようなシーンの変化を感じていますか。

 活動していた当時から、いわゆる「音楽シーン」というものに属しているという意識は無かったですし今も無いです。所謂音楽シーンってのがこう渋谷とか新宿のお店で、自分は「八王子の山奥で謎の自家発酵酵母のパン売ってます。店主の気分で店閉まってます。」みたいな意識でした。今も似たような感じです。「都会はスゲーなー」位に見てます。

――ご自身が音楽と向き合うきっかけになったアーティストや楽曲、もしくは音楽の力を感じた瞬間など、教えてください。

 自分で物を作るという点においてはかなり直接的に影響を受けたアーティスト、というと少ないかも知れないです。音楽性はもちろんありますけど、その精神性とか、立ち位置とかに影響を受けることが多いです。そういう意味で言うと高木正勝さんとかD.A.Nさんとかebisbeatsさんとか。一ファンとしては国内だとイースタンユースとThe Jerry lee phantomが昔から好きです。最近はkojikojiさんよく聴いてます。というか毎日聴いてます。国外だとDinasour Jrとかシガー・ロスとかが昔から好きで、最近だとGrace VanderWaalとかIngrid Michaelson ,Cher Lloydとか聴いてます。

――ご自身を形成する上で、大きかった経験や出会いはありましたか。

 考え方的な意味で行くと父親の影響が大きいです。父親はずっと貿易関連のサラリーマンで勤め上げて、20代で子供を持ち、30代で家建てて、農協関連の自分の店を持ち、今は趣味に生きているという、大人になってから考えると割と凄いちゃんとしてんな、この人みたいな生き方をしている人なので、常に父親と比べて自分はどうか、というところを考えることが多いです。今のところ全敗です。

――音楽活動の中で一番喜びを感じる瞬間は?

 新鮮にうれしいという意味で一番はデモが完成した瞬間ですかね。本番完成の際には往々にしてもう数百回くらい聴いているのでほぼ飽きてます。

程よく6年前と今とを繋ぐ楽曲になれば

――6年ぶりのシングルとして「知らない」がリリースされます。今作を再始動の一発目に選ばれた理由、制作するにあたって特にこだわったところはどこでしょうか。

 今回アルバムを目指して制作しているのですが、本来の古川本舗としては、エレクトロだろうがオルタナだろうがアコースティックだろうが何があっても良いはずなんですが、終盤バンドサウンド的なものに振りすぎてしまっていたので、今までの古川本舗的なものでは無いものを出してしまうと誤解されるかな? というところで、程よく6年前と今とを繋ぐ楽曲になればという立ち位置で選びました。

 こだわり、というか兎に角、誤解を与えないというのが大事でした。活動再開するに当たって絶対にやりたくなかったこととして「同窓会」みたいになることを避けたかったというのがありました。2015年の続きを単にやるだけなら、最初から辞めなきゃいいじゃんという話にしかならないので、そうではなく、新しく、新しい考え方の元でプロジェクトに取り組むべきだというのが一番大事でした。そこに関しては今後も変わらないです。

――若林希望さんをフィーチャリングされていますが、若林さんの歌声のどんなところに魅力を感じ、その魅力を活かすためにどのようなところを意識されて楽曲を制作されましたか。

 今回はアルバムに至るまでの楽曲に共通して「夜」というテーマがあります。自分がほぼ夜にしか起きてないからですが…。自分の中で夜のイメージは憂鬱、というよりは、思考停止、のイメージがあり、この曲もそんなイメージでした。したがって、なるだけ無機質で、ほんの少しだけウエットに感じられる声、みたいなところで若林希望を起用した、という感じです。本来の彼女のキー的にはもっと上なのですが、その辺の表現の為にほぼ無理やり下げて歌ってもらいました。ごめんね若様。楽曲的にはキーが低いものをいかに抒情的に盛り上げるか、みたいなところでアレンジャーの和音正人と喧々諤々やってました。

――歌詞を書く時に一番大事にしていることは? 「知らない」の歌詞でその部分が色濃く現れている箇所などあれば教えてください。

 譜割よりも文章としての美しさのほうがプライオリティが勝つようにというのは常に意識しています。後は絵が浮かぶかどうかとかですかね。今回で言うと、<タバコに火をつけて煙とともに吐きだした言葉たちは部屋を周り回って 無人棟の夜に消えていった!>の箇所とか。MVでタバコ表現はコンプラ的に難しいらしいので使えなかったのですが、なんとなくひとり暮らしの室内で仕事か恋かに疲れた女性がうっかりタバコ吸って、吸った後に慌てて窓開けて煙が夜の街に消えていく、みたいな絵が浮かべばいいなーとか思ってます。

自分が美しくないと思うものや人には近づかない

――古川本舗が作る楽曲は、幅広い音楽性、繊細で洗練された美しさを感じますが、このような楽曲を作る、センスを磨くためにこれまでどんなことを追求されてきたのでしょうか。

 ありがたいことにそういう事を言ってもらえることはあるのですが、特に今の表現の為に勉強をしたということはあまりないです。しいて言えば自分が美しくないと思うものや人には近づかないよう努力する。というのが一番かと思います。美しいものは近づきすぎても離れすぎても悪影響だと思っています。

――楽曲を制作する時に欠かせないものはありますか。

 タバコと珈琲です。

――今後どんなアーティストとコラボレーションしたいですか。

 ボーカルに関しては楽曲が必要とする声、が基準なので、コラボしたい、という意図がそもそも一番にあるわけではないです。曲に合う人であればプロアマ関係なく誰でも良いと思っていますし、実際若林も動画をあげてくれていたのをたまたま見つけて決めました、って位なので。ですのでそういう歌った動画をYouTubeとかにあげてくれてたら見に行って、ある日突然DM送ります(笑)ので動画には連絡先の記載をよろしくお願いします。

――最後にこれからどんな姿をファンの方へ見せていきたいと思っていますか。挑戦したいことや展望など教えてください。

 古川本舗としての活動は疲れない程度に頑張ろう的に考えています。古川本舗本体をゴリゴリ動かすよりもDONAI parisとしてのプロデュース業の方に興味が高いので、どなたか私をプロデュースしてという方はDONAI parisにメールください。

(おわり)

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