木下百花「ナチュラルに自分の人生を楽しみたい」アーティストとしての姿勢
INTERVIEW

木下百花

「ナチュラルに自分の人生を楽しみたい」アーティストとしての姿勢


記者:村上順一

撮影:村上順一

掲載:21年01月03日

読了時間:約11分

 シンガーソングライターの木下百花が16日、1stフルアルバム『家出』をリリースした。2017年にNMB48を卒業後、kinoshita名義で音楽活動を開始し、2019年7月ミニアルバム『わたしのはなし』でソロデビュー。木下百花に名義を戻し新たにスタート。アルバムタイトル『家出』は昔、「家出」常習犯だった木下自身が「何かから逃げ出したい」という衝動からの突発的な瞬間に生まれたフレーズ。全曲を木下自身が作詞作曲を行った全11曲を収録した。新録された9曲にギター:伊東真一(HINTO/SPARTA LOCALS)、ベース:岡部晴彦、ドラム:吉澤響(セカイイチ)の3人に加え盟友、爆弾ジョニーのりょーめー(Vo)もコーラス・ハーモニカで参加。インタビューでは2020年を振り返りながら、「音楽で誰かを救いたいとは全く思っていない」と話す、アーティストとしての木下百花のアティチュードに迫った。【取材・撮影=村上順一】

曲を作っていなかったらダメになっていた

村上順一

木下百花

――12月16日にアルバム『家出』がリリースされましたが反響は?

 反響は届いてますが、まだ自分自身では実感があまりないんです。もちろんリリース出来た喜びはあるんですけど、完成してから時間が経っているので、自分の中では消化しきった感じもあって。

――フルアルバムということで、これまでとは達成感も違うのでは?

 Kinoshita名義で活動していた時にミニアルバムは出しているんですけど、今回11曲、そのうちの9曲は自分とサポートメンバーで最初から最後まで作った曲なので、また思い入れが変わってきています。

――今の木下さんの意思が入っているアルバムですよね。この2020年を振り返るとどんな1年でした?

 鬱な1年でした。曲を作っていなかったらダメになっていたかもしれないです。音楽制作が気持ちの整理になったのかなと思います。

――音楽に救われていて。

 はい。私は音楽で誰かを救いたいとは思っていなくて、自分が一番救われています。アイドル時代は誰かのためにという感じで、誰かのせいにしていたんですよね。それをやめて、自分のためにとにかくやろうと思って。それが自分にとっての救いになったんじゃないかなと思います。誰かのためにやっている人を否定するわけではないですけど、私にそれは出来ない、嘘をついていることになってしまうので。アルバムの歌詞を見直していくと、手を差し伸べる感じでもなくて、救うわけでもない。でも突き放すわけでもない。世の中に疲れた人たちの隣にいる感じの曲になったかなと思います。

――アイドル時代は提供された曲を歌っていたわけですが、当時は葛藤なんかもありました?

 もう仕事として割り切っていたのでなかったです。ただ、今はアイドルという枠からは外れたので、人から提供してもらって歌うというのは、向いていないなと思いました。ミニアルバムはまだアイドル時代の自分も引きずっていて、でも次に向かいたいけど上手くいかない、その術を知らなくて...。その時は音楽家の方々と接して完璧な音源が出来たんですけど、自分が聴いてきたもの、出来たものとのギャップが凄すぎて。

――ギャップですか。

 はい。完成されたものを歌うというのは、ソロになってからわざわざやらなくてもよいかなと思いました。与えられたものをこなすだけでよいのかなって。でも、自分でやれることは頑張っても作詞と作曲ぐらいなんです。アレンジや演奏とかを大人に任せてしまうというのは、もはやアイドル時代と一緒だなって。ソロになってアイドルの延長線上にいるなと思って、違和感や疑問を感じたんです。そうするとまた誰かのせいにしてしまう部分も出てきてしまうので、ちゃんと自分の責任で作らないといけないと思いました。アイドル時代はそこに疑問は全く持たなかったんですけど。

――そこからアレンジまでやってみたり。そこまで携わってみて感じたことは?

 知識はいらないと思いました。ちゃんと自分のやりたい事、イメージがあればいらないなって。壁にぶち当たった時にそこで勉強すればよくて、無知を威張る事ではないけれど、特に恥ずかしことでもなくてそれを武器にしてしまえば良いのかなと。

届きたくない層にまで届いてしまうのが嫌

――弱点かもしれないけれど強みでもありますよね。さて、「5秒待ち」は良い意味でリードトラックぽくなくて良いですよね。

 売る気がないんじゃないですか(笑)。私は届きたくない層にまで届いてしまうのが嫌なんです。テレビにも何度か出させていただいたこともあるんですけど、その時に届きたくないところに届いてしまった経験があって。自分が好きな音を、ちゃんと自分の意思、筋が通ったもの、自分の原点というところで、この曲がリード曲として良いなと思いました。

――なぜ5秒なんですか。

 これは語感が良かったからですね。なんか言いやすいんです。

――以前、他のインタビューで半径5メートル以内のことを歌っている、といった記事を見たのですが、それとリンクしているのかなと思ったり。

 たぶん私の中で「5」という数字に何かあるのかも知れないです(笑)。半径5メートルというのも、爆発的に売れたいと思っていなくて、一部の人に届けば良い、それで食い繋いでいければ良いかなと思っているところからなんです。こじまんりするのとは違うと思うんですけど、生活出来る程度に売れたらそれで良いかなって。

――そういえば、叶えたい夢が2つあると仰っていて、一つはアルバムをリリースする事で今回叶ったわけですけど、もう一つはまだ言えない?

 もう一つは物理的な事ではないので言えないです…。私は言ってしまったら叶わないと思っているんです。それにだんだん欲もなくなって来ているし、もうあまり目立ちたくはなくて。ナチュラルに自分の人生を楽しみたいという意識が強いです。

――確かに今お話しをしていても、音楽シーンを変えたい! とかそういった欲みたいなもの感じないです。

 それは欲がすごくないと出来なくて、人間の欲求の具現化だと思っているんですけど、私はもうそれは出来ないなと思ってしまったんです。アイドルをやって色んな人の感情を見て来たんですけど、それがすごくしんどくて...。自分も干渉しないし、されたくもないと思っているので。そこが爆発的に売れたくないというところに繋がってきてるのかなと。もう肯定も否定もネットで書かなくて良くて、聴きたい人だけ聴いてくれれば良いかなって。自分でもややこしい人間だなとは思ってます(笑)。

自分の音を出すことが怖かった

村上順一

木下百花

――今作のタイトルが『家出』で、木下さんはよく家出をされていたとのことなのですが、その度に得たものはありますか。

 得たものですか? うーん、生傷かな...。いつも親や姉と殴り合いをして、家出していたので。でも、戻る時も殴り合いのケンカになってしまうので、帰る時もその覚悟で(笑)。今回色んな方から家出エピソードをいただいたんですけど、皆さんすごくほっこりするようなものだったので、「なんか良いなあ」と思って。

――木下さんの家出はもう戦いですからね...。

 なので得るものはないんじゃないかなって。だって自由にもなれないですから。失踪とかだったら自由はあるかもしれないですけど。あるとしたら家出癖くらいです(笑)。もう衝動的にやってしまっていることなので。戻る場所があるから家出というんだろうなと思ったり。

――深いですね。

 仕事とか今の活動から“家出”したらもう何もなくなるんじゃないかなと思っています。今の事務所はアイドル時代から数えると10年になるんですけど、2回逃げているんです。次逃げたら本当に失踪になってしまうと思っていて。もう3年から4年ぐらいは頑張って踏み止まっていますけど、曲を作って自分を表現することで、保っていられるのかなとすごく思っていて。

――音楽制作が心の拠り所になっているんですね。「5秒待ち」はMVも先日公開されましたが、なぜパジャマなんですか。

 楽だからです。

――ちょっと深読みしてしまったんですけど、パジャマ姿って普通は人にはあまり見せない姿じゃないですか。それもあって自分を曝け出すという意味もあるのかなと思ったんですけど。

 あっ、それもちょっとあります。これまでのライブではステージで自分がリラックス出来ない時期が続いていて、でもそれが最近納得のいくライブができるようになって。ずっとどうやったらステージを家に出来るかなとか考えていて、絨毯を敷いたり色々試していて。本当は裸がいいんですけど、それは社会的にダメなので、それならパジャマだったら何か変わるかもと思って。それでパジャマを着て色んなところに行ってみて、レコーディングもパジャマでやってみました。何かから解放されたいと思っていた中でのことでした。

――電車にもパジャマで?

 乗ります。その時すれ違う人たちなんて二度と会わないと思っているので、全然平気なんです。あっちは「変なのが来た」と思っているかもしれないですけど、私はその人たちにはどう思われても大丈夫なんです。パジャマもみんなのTシャツ短パンみたいな感覚なので。

――お話しを聞いて、自分は先入観、固定観念にとらわれていたんだなと思いました。

 それは人それぞれあると思うんです。私の場合は自分の音を出すことが怖かったりして。音楽活動をスタートさせた時に音楽家の方たちの音を聴いて、私の音はダメなんじゃないかと思って。みんな生きて来た場面が全然違うから、それぞれあると思うんですけど、それを表現する場では出したくないなと思って、なるべく裸の状態の自分を見せたいんです。

――一番は裸の自分で。

 なので、レコーディングも裸でやってみたいなと思っていて。

――それは難しいのでは?

 でも、みんな諦めているんです。私が何をやっても「あーっ」て感じで。この前も『栗フェス』というイベントに出演した時もレオタードにシースルーの衣装を着たいと話したら、みんなの反応はそんな感じでしたから(笑)。

アイドルをやっていたからこそわかる気持ち

村上順一

木下百花

――さて、楽曲も興味深いものが沢山あるのですが、タイトルもインパクトのある「卍J K卍」の生まれた背景が気になりました。

 私がJKが好きで、この曲はタイトルから出来た曲なんです。そこに中華風のフレーズを入れたいなと思って。JKは家出という言葉にもピッタリな人種みたいなところもあって。JKの持つ儚さ、危うさ、3年間しか使えないという期間の短さとか、子どもと大人の狭間みたいなもの含めてすごく好きなんです。その彼女たちが作り出した「卍」という流行語はお寺とJKというギャップもあって面白いなって。でも、変な意味で使っているのではなく、幸福とかそういったポジティブな意味も含まれているのがすごいなと思いました。

――JK愛から生まれた楽曲なんですね。そして「アイドルに殺される」は俯瞰して見ているような曲ですが、どのような視点で書かれたんですか。

 アイドルをやっていたからこそ、アイドル側の気持ち、推しの熱愛報道が出た時のファンの心境とかもわかるんです。ガチ恋というファンが本気で恋をしてしまうことがあるんですけど、私は女性側からはあったんですけど、男性から持たれたことは当時なかったんです。でもその光景は握手会とかで隣のレーンを俯瞰で見れていました。ファンの人は幸せそうな顔で並んでいるんですけど、私は切ないなあと思いながら見ていて。

――切ない?

 自分のグループでも他のグループでも熱愛というのがあったので、その度に「あの時のオタク元気かなあ」とか思い出しちゃったり。そういうのってアイドルが語るのは炎タブーだったりするんですけど、私はただ見ていただけなので、それを曲にしたらその時のオタクも笑ってくれるかなと思って(笑)。

――歌詞で<アイドルに殺されたい>と言っているのが、すごく真理を付いているなと思いました。好きなものや人がいるというのはすごく羨ましいなと思います。

 それは私も思います。昔はアイドルというものを軽視していた、ただ笑っていれば良い仕事だと思っていた節もあったんです。親に連れて行かれてアイドルになった時に「こんなに大変なんや」と気づいて、そこで見て来たものが学びになりました。昔はアイドルが好きな人も、私はどこか見下していたところはあったと思うんですけど、自分に会いに来てくれる人や他のメンバーに会いに来てる人たちを見て、こんなに没頭できるものがあるってすごいなと思いましたから。この曲も自分にしか書けないものになったんじゃないかなと思います。

――1曲目の「強さ」はメッセージ性が強い一曲になったと感じているのですが、どのような心境の時に書かれたのでしょうか。

 私は干渉したりされたりするのが嫌いなんです。なぜか私に病んでいる人が近寄ってくる事が多いんです。そういうのが続いた時になんかめんどくさくなってしまって出来た曲でした。そういう人たちに思ったことが、なぜこの人たちは人に対して幸せを求めてくるのか、という事でした。自分で見つけて楽しむではなくて、自分の幸せを委ねてくるのはなぜなんだろう、と思って。

 それで、自分が病んでしまうことからまずは逃げてしまえば良いのに、と思ったんです。そういう人たちをなだめるじゃないですけど、ある程度線引きをしたくて、必要以上に他人に求めないで欲しい、という気持ちを書きました。自分の中では強いメッセージを持った曲になったなと思っています。

――多くの人が1曲目から聴き始めると思うので、何か感じとってもらえるかも知れないですね。

 そこで弾かれるんですよね(笑)。今後、私を応援できるか出来ないか、というのもあなた自身で考えてくださいみたいな曲なので。

――選別される1曲なんですね。では、最後にファンの方へメッセージをお願いします。

 心の中で解放されたがっている人は沢山いると思うんです。そういう方は私と一緒に思いとどまりつつ、曲を聴いて心の中だけで家出が出来れば良いと思っているので、まずはアルバムを聴いてみてください。

(おわり)

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