シンガーソングライターのロザリーナが、アニメ映画『映画 えんとつ町のプペル』(12月25日公開)のエンディング主題歌「えんとつ町のプペル」を担当した。キングコング西野亮廣による絵本の映画化。主人公の少年ルビッチと同様、困難な事も信じ続けたことで開けた未来がロザリーナにもあった。【取材・撮影=木村武雄】
嫌いだった歌声、周囲の声で自信に
煙に覆われた“えんとつ町”を舞台に、少年ルビッチと、ゴミから生まれたゴミ人間のプペルの友情を描く。ルビッチは周囲に揶揄されようとも信じ続け、やがて希望の光を手に入れる。西野は、新しいことに挑戦すると批判の声が寄せられた自身の体験をこの作品に投影させたと話している。
その西野は、ロザリーナの歌声を「歌の上手なアーティストは知っているけど、ファンタジーみたいな声をしているのはいない。素晴らしいアーティスト」と称え、また、音楽プロデューサーの亀田誠治は「時に少年のように、時に少女のように響くロザリーナさんの声は魔法のよう」と絶賛した。
何層にも重ねたような歌声が特徴的で、聴く者を優しく包み込む。しかし、意外にもロザリーナ本人は自身の声は「嫌いだった」という。
「もともとは自分の声は好きじゃなくて。歌うことは好きですが、人に聴かせるような歌を歌えるとは思ってもいませんでした。でも、いろんな人が『声がいいね』と言ってくれるようになって『そうなのかな』と思えるようになって。毎回嬉しくて喜んでいました」
この作品のキャッチコピーに「信じれば世界が変わる」とある。ロザリーナ自身は、今でも思い出したくない辛い体験があり、まだ笑顔で振り返られるまで消化していない。しかし、そうした経験も、「オリジナル曲は100%実体験を書きたい」という“いま”のロザリーナを形成する一部分になっている。そして、周囲の声が自信に繋がり、信じ続けることで未来は開けた。
「信じぬくことって難しい。でも西野さんは信じ抜いてここまで来ました。それをそばでみる機会を頂いて、信じてみようと思えました」
その西野に多くを学んだ。その一つに「言葉にする」ことがある。「前よりも心の中でやりたいと思ったことは言うようになりました。些細な事でも身近なスタッフさんには伝えるようにしています」
寄り添い、包み込む
エンディング主題歌に起用された「えんとつ町のプペル」は、絵本のテーマソングになっている。ロザリーナが注目を集めた大事な曲でもあり、多くの人が歌ってきた。2016年から今まで何度も歌ってきたが、自身が作るオリジナル曲と比べ高いキーが続く。ブレスの位置も自分で決めた。自身が歌える範囲ではあるものの、自身にはない発想だ。歌詞も同様に比喩は使わずストレートに綴る。「その役になりやすい目線の歌詞でした」
不安だったのは、多くの人が歌っているこの曲を、この作品のエンディング主題歌として堂々と歌えるか。自身の気持ちの不安は拭えないままにレコーディングは終えた。しかし、スタッフに「良かった!」と言われ、初めて「歌えた」と思えた。そして、先日行われた舞台挨拶。「緊張しました」と語るが堂々と歌い上げた。多くの拍手が彼女を包んだ。受け入れられた瞬間だった。
人懐っこさもあり、素直さもある。インタビューで多く出てきた言葉は「不安」。そんなピュアなシンガーを強くするのは周囲の声であり、リスナーの声だ。人の痛みを理解し、寄り添い、そして、“ファンタジーな歌声”で優しく包み込む。それこそ唯一無二の個性だ。
コロナ禍も含め時代は変化を迎えている。この先に見える展望は? と聞けば「全く見えないです」と飾らずに答える。しかし、彼女にはもっと近いところで見えているものがある。
YouTubeで公開されている曲「何になりたくて」は、再生回数200万回に迫る。
「この曲のコメント欄は、悩みを打ち上げる場になっているんです。曲に対してこう思うという感想ではなくて、学校ではこういうことがあって辛いとか、悩みをそこに書く人が沢山いて。それを読んでいて、そのなかに『自分の心の中の気持ちを引き出してくれた』というコメントがあって。それこそ音楽を始める時に思っていたことで、私は本音を書かないと届かないと思っているんです。私が思っていることはこの世の中の誰かしらは思っている、だから本音は書き続けたい。気持ちを引き出したり、共感してもらえたり、そうした寄り添える曲を作り、そして歌い続けていきたい」
彼女のそうした思いは、どこか『えんとつ町のプペル』にもつながる。「音楽に対しても興味あることも雑食なんですよ」という彼女の曲は実に幅広い。しかし、そのなかで共通しているのは、そうした彼女の想いだ。きっと、12月23日に発売された、ミニアルバム『ロザリーナII』にも“本音”の曲たちが詰まっていることだろう。
(おわり)