2020年にデビュー35周年を迎えた中山美穂。11月20日にこれまでリリースしてきた、シングル40タイトル、アルバム31タイトルの計506曲を、主要定額制(サブスクリプション)音楽ストリーミング・サービスで配信解禁。12月23日にはベストアルバム『All Time Best』を発売と、節目を迎えたこのタイミングで、1985年~1999年までの15年間、休むことなく音楽活動を続けてきた中山美穂のヒット曲の数々が、手軽に聴くことができるようになった。

 今回、手軽に聴けるようになった楽曲を、さらに深く知ってもらうため、1980年代に発売したシングルの作曲を担当した3人をクローズアップし、彼女が歌手として成功し、大きく成長していくきっかけとなったエピソードとともに紹介。まずは一人目。

筒美京平サウンドで清楚から、バブル絶頂期を代表するアイドルへと成長

 筒美京平は作曲家として中山美穂に、デビュー曲の『「C」』から「生意気」、「BE-BOP-HIGHSCHOOL」の3枚目までと、1986年発売の「ツイてるねノッてるね」、「WAKU WAKUさせて」、87年の『「派手!!!」』の、6枚のシングルを楽曲提供している。

 デビュー曲「C」の作詞は、太田裕美の「木綿のハンカチーフ」でコンビを組んだ松本隆。松本隆は、中山美穂が出演していたドラマを観て、作詞をやらせてほしいと自ら志願し、筒美京平に作曲を依頼したそう。「思春期」の恋をテーマに、「ちょっとツッパリ、でも中身は繊細」なイメージを上品な言葉で綴る歌詞と、日差しがキラキラと映し出されるガラスのように美しいメロディのこの曲で、中山美穂は「清楚」な女の子というイメージがついてデビューした。

 その1年後の1986年、日本はバブル絶頂期で、第二次ディスコブームが到来。洋楽では、リック・アストリー、カイリー・ミノーグ、バナナラマといった、ユーロビートサウンドのストック・エイトキン・ウォーターマンによるプロデュース作品がヒットしていた時期。筒美京平は、編曲家の大村雅朗、船山基紀と、当時の洋楽の雰囲気を日本人好みの聴きやすいサウンドに落とし込んだ「ユーロビート歌謡」アレンジを制作し、「ツイてるねノッてるね」、「WAKU WAKUさせて」、「派手!!!」の3部作を中山美穂に提供。バブルの象徴となっていたサウンドを歌いこなした中山美穂は、時代にがっちりとハマり、「清楚」な女の子から、バブル絶頂期を代表するアイドルへと成長していった。

角松敏生との出会いで、大人の恋愛を歌うシンガーへ

 角松敏生は、1981年にシングル「YOKOHAMA Twilight Time」とアルバム『SEA BREEZE』でデビューした、海外のオールディーズポップスを基調とし、そこにブラックミュージックの要素を巧みに取り入れた、リゾートを連想させる心地よいサウンドが特徴的なシンガソングライター。1985年に、新しいサウンドを探求していた西城秀樹や中森明菜に楽曲を提供し、耳の良いリスナーから高い評価を得ていた。

 オファーを受けた角松は、まだ16歳だった中山美穂に対し、大人っぽくみせるためのサウンドづくりを心掛け、1987年発売のシングル「CATCH ME」を完成させた。「オシャレな美穂の、オシャレなビート」というキャッチコピーがついたダンスナンバーのこの曲で、中山美穂は初のオリコンシングルチャート1位を獲得。そして次に発売した、ファンの間で名曲と語り継がれている名バラード「You're My Only Shinin' Star」も連続で1位を獲得。

 中山美穂は、エッセー集『P.S. I LOVE YOU』の中で、「角松さんの持つ音楽の世界には、出逢いをきっかけに本気で恋してしまいました。だからもう『You’re My Only Shinin' Star』を歌った時は片想いが実ったような感じ」(※引用元=エッセー集「P.S. I LOVE YOU」)と、この曲がとても大好きで、大切な曲だということを、恋愛に例えて記している。「You’re My Only Shinin' Star」で中山美穂は、アイドルから大人の恋愛を歌うシンガーになった。

CINDYの楽曲で、シンガーからアーティストへ

 「人魚姫 mermaid」から「Witches ウィッチズ」、「ROSECOLOR」(Eはアキュート・アクセント付きが正式)と3作連続でシングルの作曲を担当したのは、1986年から1989年まで山下達郎のコンサートツアーにコーラスして参加していた女性シンガーソングライターのCINDY。

 CINDYは、当時、ブラック・コンテンポラリーと呼ばれていた、シンセサイザーやリズムマシンを多用した都会的でクールなサウンド作りに定評があり、中山美穂のシングルでその才能を発揮。『You're My Only Shinin' Star』で大人の恋愛を歌うシンガーとして成熟した彼女を、海外でも通用する洗練されたサウンドを歌いこなすことができるアーティストへと導いた。「人魚姫 mermaid」、「Witchesウィッチズ」、「ROSECOLOR」の3曲は、2020年に聴いても、懐かしさではなく、良質なシティポップを聴いたあとのような新鮮さと清々しさを感じることができる。

 今回、筒美京平、角松敏生、CINDYの3人をクローズアップしたが、80年代の中山美穂のシングルは、竹内まりや(「色・ホワイトブレンド」)、財津和夫(「クローズ・アップ」)、小室哲哉(「JINGI・愛してもらいます」、「50/50」)、杏里(「Virgin Eyes」)など、ヒットメーカーが作曲した楽曲がたくさん存在する。多くの素晴らしいミュージシャンから刺激を受け、歌手として成長していった80年代の中山美穂の楽曲を、この機会に、もう一度聴いてみるのはいかがだろうか。【藤田太郎】

▽藤田太郎プロフィール

イントロマエストロ。約3万曲のイントロを最短0.1秒聴いて曲名を正解する能力が話題になり、『マツコの知らない世界』『ヒルナンデス!』等多数のメディアに出演。クイズ大会などプロデュースも多数。ラジオBayFM『9の音粋』水曜日の担当DJと出演中。

この記事の写真

記事タグ 


コメントを書く(ユーザー登録不要)