シンガーソングライターのアマイワナが18日、2ndEP『恋せよ惑星』をデジタルリリースする。作詞、作曲、トラックメイク、アートワークを自身で手がけ、ニッチなファッションリーダーとしても注目を集めているアマイワナ。 趣味が昭和研究ということで、11月11日に放送された日本テレビ『今夜くらべてみました』の「80’s アイドルに憧れる女」に出演し反響集めた。
EPはレトロで可愛いものが好きだという彼女が作り上げた全7曲を収録。短編小説のような趣のあるコンセプトEPに仕上がった。インタビューでは、今年20歳になった彼女が音楽に興味を持ったきっかけ、昭和という時代に惹かれる理由、今作『恋せよ惑星』の制作背景など、多岐にわたり話を聞いた。【取材=村上順一】
好奇心旺盛な幼少時代
――2020年を振り返るとどんな1年でしたか。
私は2000年の1月1日生まれなので、今年の1月に20歳になりました。それで、元旦に「飲酒パーティー」というイベントをライブハウスでやりました。友達とか呼んで楽しんでいたんですけど、その二ヶ月後にはライブが出来ない状態になってしまって、生活がすごく変わりました。以前から思っていたんですけど、当たり前のことは当たり前じゃないよなって。私は常識的なことも本当にそうなのかなと思うことも多くて。
不便なことも沢山あったんですけど、離れた人から連絡が来たり、リモートで曲を作ってみたり、オンライン劇『泊まれる演劇In Your Room ANOTHER DOOR』に出演させていただいたりと、今までやったことなかったことをオンラインで出来て、可能性が広がったなという印象があった2020年でした。
――リモートでの音楽制作はいかがでした?
リモートはやりやすかったなと感じています。必要なことをZoomなどでやり取りして、あとは個々で制作を詰めていくというのは、効率は良かったと思います。移動時間もなかったので考える時間も沢山ありました。
――悪いことばかりではなかったんですね。さて、アマイワナさんは音楽の原体験はどんな感じだったんですか。
音楽を意識し始めたのは小学校6年生の時です。親にフェス『RADIO CRAZY』に連れていってもらって、爆音で生の音楽に触れて衝撃を受けました。それを機に中学ではライブハウスに通うようになりました。『RADIO CRAZY』にはフジファブリックを目的に観に行ったんですけど、他にもThe SALOVERSというバンドにも感動したのを覚えています。
――14歳から自身のライブ活動も始められていますね。
知り合いからギターをもらって、その時はまだミュージシャンになりたいという気持ちは芽生えなかったんです。弾けるようになったら楽しいかなくらいの気持ちで。小学校の時に電子ピアノを買ってもらってやっていたんですけど、あまり教わるのが好きではなくて。楽器は気分転換だったり上達していくが好きでした。
そこから、「ただギターを弾くだけでは面白くないな」と思い歌うようになったんです。それでライブに出てみようとなって、出るなら曲を作らなければと思って作り始めたんです。
――ソロではなくバンドという選択肢もあったんですか。
中学生だったので楽器をやっている人がいなかったので、メンバーを集めることができなくて。1人でやるしかなかったんです。高校の時に軽音部に入ったんですけど、先輩と合わなくてやめちゃったり、1人で活動することは自然な流れだったんです。
――ちなみに幼少期はどんな子どもでした?
すごく好奇心旺盛な子だったと思います。やってはいけないことをやりたくなったり。エレベーターの非常ボタンを押してしまったりして、親が謝っていたのを覚えています…。
――ボタンとかスイッチが好きなんですか。
好きかもしれないです(笑)。ラジオ体操で流すテープに自分の声を録音してしまったこともあります。親がラジカセを持っていく係だったので、家にあったんですよ。それがレトロな感じのラジカセで興味がめちゃくちゃあって、母が「Recボタンは押しちゃダメだよ」って言っていたんですけど、押したい気持ちが抑えきれなくて、押せる方法を考えました。そこで思いついたのが「ラジオ体操第一」という言葉を上から重ねればバレないんじゃないかなと思って(笑)。
――バレますよね(笑)。
それでやったんですけど、次の日のラジオ体操で公園中に私の声が響き渡って、めちゃくちゃ恥ずかしかったのを覚えています。両親が復元するためにあの手この手で頑張っていて。今もそういった好奇心はあるんですけど、押さえる力が身についたので大丈夫です(笑)。
――さて、アマイワナという名前にはどんな想いが入っているんですか。
可愛いアーティスト名にしたかったんです。それでアマイワナという言葉が降ってきてこれに決めました。そこまで深い意味とかはないんです。覚えやすくて可愛いというのが大前提にありました。昔は本名のファーストネームを使って活動していたんです。
――アーティスト名を変えたことで音楽性に変化も?
音楽性はいつも流動的なので、毎回変わったりします。最初はギターの弾き語りでやっていて、今のような音楽スタイルもやっていたので、名前が変わったことでの変化はないんです。
――今作は弾き語りっぽい「ELEPHANT IN THE ROOM」や、エレクトロな「上海惑星」、オルタナの雰囲気もある「夜の虹」など幅広いですよね。
前作は弾き語りのみでしたが、今作はアレンジしていろんな音が入っているのが大きな違いです。前作もPCを使って作っていたんですけど、あえて弾き語りにしたのですが、今作はいろんな音を入れてみました。
今、彼女が欲しいものとは?
――今作が完成して今どのような手応えを感じていますか。
すごく良いものができたなと思っています。というのも、収録する候補曲を聴いていて、選んだ曲が自然と一人の女の子が主人公になっていました。どの曲も尖った生きづらい女の子ばかりなんです。それは作っているのが自分なので私のことでもあるんですけど。そういう女の子に対して、頑張りすぎずにもう少し肩の力を抜いて生きたらどう? という気持ちが芽生えてきて『恋せよ惑星』というタイトルにしようと思いました。映画の『恋する惑星』が好きだというのもあるんですけど。
一見バラバラに感じるかもしれないんですけど、曲には共通項があって全体を通して短編小説みたいな感じなんです。女の子に感情移入したり、そういう気持ちで聴いてもらえるんじゃないかなと思って、完成した時すごく嬉しかったです。
――肩の力を抜いて生きたらどう? というのはご自身に向けて言っているところもありますか。
曲にした時に俯瞰できる部分があるので、その時に冷静に考えてもう少し力を抜きなよ、というのは自分でも思います。今はましになったかもしれないですけど、自分はけっこう尖っているところがあって、こうじゃなきゃダメみたいなのが時々あるんです。
――理想があるから尖ってしまうと思うんです。
自分がかっこいいなと思う人や、感動を受けたものや出来事に影響されやすいタイプだと思います。逆に一貫してこうじゃなきゃいけない、というのは人生を通してはないんです。いつもいろんなものに影響されつつ、今はこれがかっこいいと思っていても、明日には変わってるかもしれなくて。
――いろんなものを吸収したいのかもしれませんね。「欲望ちゃん」という曲はその表れでもあるのかなと。
この曲は歌をうまく歌いたいとか、才能が欲しいとかそれは自分でも強く思っていることの一つです。実は妹のことを歌っている曲でもあって、可愛いものが欲しい、とか雑誌が欲しいとか妹はよく言っているんですけど、「のんきだな」と感じたのでそれを曲にしようと思いました。曲ができるまでは妹のことは欲深い人間だなと思っていたんですけど、私みたいに才能が欲しいとか言っている方が実は欲深いんじゃないかと思って(笑)。曲にしてみて自分で気づけることがあるんです。
――この曲は17歳頃に書いたとのことなので、また欲望は変わってきていると思うのですが、今欲しいものは?
面白く喋れる技術です(笑)。トーク力が欲しいなとよく思います。
――さて、今作で注目してもらえたら嬉しいポイントはありますか。
アレンジです。新しいのか古いのか、懐かしいエレクトロというのを目指して作りました。意識して聴いてもらっても良いですし、無意識で聴いてもらっても面白いものになったんじゃないかなと思います。それぞれの曲の女の子に感情移入してもらっても面白いと思うので、皆さんの思い思いの聴き方で楽しんでもらえたら嬉しいです。
――その中でも「夜の虹」はオルタナ的なサウンドで、歌詞も興味深いのですが、どのような心境の時に書いたんですか。
女の子の友達がモデルになっているんです。その子は彼氏に依存してしまって、彼氏が全てというような感じでした。その時にちょうど映画『溺れるナイフ』を観て、最終的には自分の居場所を見つけて帰っていくみたいな、それに通じるところがあるなと感じて。その状況を実際に目の当たりにして書くことが出来た曲です。歌詞の<おかえり私>というのも、本当の自分が帰ってきたというイメージなんです。
――そして、EPタイトル『恋せよ惑星』と同じく“惑星”が入っている「上海惑星」ですが、どのようなイメージで作られたのでしょうか。
「上海惑星」はこのEPのために作った曲で、このEPをまとめるための1曲で、オムニバスのように他の曲をまとめている曲です。あと、上海の曲を作ってみたかったんです。
――上海が好きなんですね。
はい。コロナ禍でいまは海外、上海にはなかなか行けないじゃないですか。その思いを馳せながら作ったというのもあります。それで遊び心として中国語を入れてみようと思いました。
――中国語は喋れたりするんですか。
中国語は全然出来ないので、調べながら歌詞にしていきました。言葉の響きを優先して、その後に意味として成り立っているものを選んだんです。面白いものができたなと思っています。
生きてきていない時代がすごく面白い
――昭和にも造詣が深いアマイワナさんですが、興味を持ったきっかけは?
昭和のファッションが好きなんです。1960年代、70年代が特に好きで、そこから昭和の時代が舞台になっている小説や映画を観るようになりました。そして、音楽も聴くようになりました。80年代のアイドル、バブルのカルチャーも面白いと感じて今ハマって色々調べています。
――いつ頃からハマり始めたんですか。
もともとノスタルジックなものが好きでした。昭和が好きなんだと明確に認識したのは中学生ぐらいだったと思います。みんなもレトロなものを好きだと思うんですけど、私はもっと深く知りたいなと思ってしまって。自分が生きてきていない時代のことがすごく面白いんです。
――情報を集めるのはネットですか。
ネットでも調べますが、当時の雑誌とかも多いです。そちらの方が当時のものということもあり、すごくカルチャーを感じられるんです。
――昭和の映画だとどんなものが好きなんですか。
五社英雄監督の作品が特に好きです。音楽だと中森明菜さんや松田聖子さん、もう少し前だとユーミンさんや大瀧詠一さんもよく聴いています。あと、ニューウェイブも聴いていて、プラスチックスも好きです。
――今、気になっているものはありますか。
昭和の家電は、花柄のものとかすごく多かったと思うんですけど、今は全然そういったデザインのものは見なくなってしまいました。今でも需要があると私は思っているんですけど、なぜなくなったのか、調べたいなって。なくなっていってしまったものに興味があります。
――その好奇心が音楽にもすごく表れていますね。では、最後に来年の活動への意気込みをお願いします。
『恋せよ惑星』という良いEPが出来たので、皆さんにたくさん聴いていただきたいです。自分の音楽は何ていうジャンルなんだろうと思っていて、ジャンルレスと言いますか、新しいジャンルになっているんじゃないかなと感じています。でも特定のジャンルが好きな人には届きにくいのかなと思うところもあって…。聴いていただければ何か感じてもらえるものがあると思っているので、そういった方に聴いてもらえたら嬉しいです。
あと、テレビやラジオ、コンビニなど日常の中でこの楽曲たちが流れてくることを妄想して作ったんです。なので不意に流れてきた時によりよく聴こえる曲になっていると思うので、そういったところでも曲が流れるようにこれから頑張っていきたいです。
(おわり)