ゴールを決めない全ては通過点、徳永ゆうき歌い手としての目標とは
INTERVIEW

徳永ゆうき

ゴールを決めない全ては通過点、徳永ゆうき歌い手としての目標とは


記者:村上順一

撮影:

掲載:20年07月08日

読了時間:約8分

 歌手の徳永ゆうきが7月8日、ニューシングル「車輪の夢」をリリース。2013年11月、BEGIN・比嘉栄昇が手がける「さよならは涙に」で全国デビューし、2014年にTHE BOOM・宮沢和史作詞・作曲の2ndシングル「平成ドドンパ音頭」で『第56回日本レコード大賞新人賞受賞』など経歴を持つ。「車輪の夢」は耳馴染みの良いメロディとサウンド、歌詞には自身の体験が盛り込まれ、徳永の想いが反映されたリアリティのある歌詞に仕上がった。インタビューでは「車輪の夢」の制作背景から、「おうち時間」でやっていたこと、「ゴールは決めずに全ては通過点」だと語る徳永にその理由と、歌手としての過去、現在、未来について話しを聞いた。【取材・撮影=村上順一】

歌い手としての覚悟

徳永ゆうき

――徳永さんは、どんな「おうち時間」を過ごされていましたか。

 僕は撮り鉄(列車の写真撮影を趣味とする人の総称)なんですけど、休みの日は外に出かけるタイプだったんですけど、外出自粛となると家での過ごし方がわからなくて。なので、電車の写真を見返したり、料理を始めてみたりしました。

――料理はどんなものを?

 最初は親子丼とか簡単なものです。そこから麻婆豆腐を作ってみたり。

――徳永さん、最初はライトに入ってもこだわり始めますよね?

 だんだん熱が入ってきちゃうんです(笑)。麻婆豆腐も豆板醤とか、僕が普段使わない調味料とかあるので、購入したり。なんだかんだで楽しいところを見つけて、過ごしていました。

――その中で“歌手徳永ゆうき”として向き合う時間はありましたか。

 自分自身のことよりも、周りのことやこの先のことに対しての不安の方が大きかったんです。僕はこの先歌っていけるのか、新曲リリースの話もあったので延期になるのか、そんなことを考える時間が多くて…。

――ご自身の歌を聴き直したりされましたか。

 しました。聴いてみるとデビュー直後の歌と7年目に突入する今の歌とでは、感情の入れ方も変化してきていることがわかりました。色んな経験をさせていただいた事が歌に出たんじゃないかなと。4枚目のシングル「函館慕情」の時に、この曲を作曲していただいた水森英夫先生のところに、レッスンに行かせていただきました。作曲家の先生のところにレッスンに行ったのはこれが初めてで、僕の歌の良いところと悪いところを指摘していただきました。、歌への変化が出た大きな転換点でした。

――どんなアドバイスが当時あったんですか。

 先生からはコブシが多すぎると指摘されたのを覚えています。無駄なコブシ、回り切っていないコブシが多かったみたいで、演歌だから入れれば良いというわけではないと。料理と同じで、味が濃すぎても、薄すぎても美味しくないんです。程よい感じではないと聴いてくれる人が疲れてしまう。なので、ポイントで決めのコブシを入れていくことを教えていただきました。それも踏まえた上で過去の歌を聴いて、見つめ直した部分はありました。

――徳永さんのコブシは独特で耳が引きつけられます。島唄で聞かれるようなグィンのニュアンスも入っているような感じがしました。

 以前、TV番組で米津玄師さんの「Lemon」を歌わせていただいて、その時に番組から「極力コブシを抜いて欲しい」というリクエストがありました。その時はつい勢いで「わかりました! コブシ抜きます」とお返事したんですけど、よく考えたらコブシは自然と出ちゃうので、抜けないなって(笑)。

 その時は「Lemon」のミュージックビデオを再現した歌唱だったんですけど、もしかしたら米津さんのファンの方に怒られるかも...、と不安を抱きながら恐る恐るSNSをみたんですけど「サビのコブシが気持ち良かった」などと言ってもらえて。コブシは聴き所に入れるとポップスでも気持ちよく聞こえるんだなと、そのときに発見もありました。

――良い経験になったんですね。

 そうなんです。若い人にも僕を知ってもらえる機会にもなって良かったです。あの番組は僕にとっても大きな出来事の一つでした。

――さて、いま徳永さんは歌手としてどんな覚悟や使命感で活動されていますか。

 歌い手になったからには、一人でも多くの人に聴いていただきたい、という思いが強いです。演歌というジャンルは年配の方が聴くイメージがあると思うんです。スーツや着物を着て歌うその姿が僕は好きでハマったわけなんですけど、世間からは演歌は終わってしまうんじゃないか、とか耳にすることもあるのですが、終わらないですし、終わらせないぞ、という気持ちは常に持っています。

 そして、歌い手になったからには「死ぬまで歌い続けたい」と思っています。僕から歌を取ってしまったら何も残らないと思うんです。ずっとステージには立ち続けたいという想いはすごく強いです。

初めてのファルセット

徳永ゆうき

――さて、「車輪の夢」はすごくキャッチーで覚えやすい曲だなと感じたのですが、徳永さんはどのような印象をこの曲に持ちましたか。

「めちゃくちゃええやん!」と、すごく良い曲をいただいたと思いました。曲が出来る前に作詞・作曲をしてくださったyouth caseさんに、僕の子ども時代のことや、夢についてお話しさせていただきました。その時にお話しした事が歌詞にも出てきているんです。18歳で上京して、ひたむきに夢に向かって頑張るという姿を描いていただきました。それもあって歌っていて情景が浮かべやすかったです。

――上京時のエピソードをお聞きしたいです。

 まさに一番で出てくる<涙で滲む車窓から 高鳴りに合わせて>のところは上京時の心境で、新幹線に乗って新大阪駅を出発したところです。僕はよく家族でカラオケ喫茶に行っていたんですけど、そのお店のマスターとママさんも駅まで見送りに来てくれました。みんな来てくれたことが嬉しくて、その時は笑顔だったんですけど、発車してみんなの顔が見えなくなって不安も出てきました。「これから一人なんだ」と思うと悲しい気持ちになり、涙が出てきて。

――不安はありますよね。

 そうなんです。でも、次の京都駅で、ホームで待っているおばちゃんと僕の目があって…。「なんで泣いてるんだろう?」みたいな感じで見られて、恥ずかしかったです(笑)。でも、そこで気持ちを切り替えて、「大好きな歌手になるんだ!」と気持ちの高鳴りが強くなりました。

――京都駅のおばちゃんが切り替えのきっかけだったんですね。今作の歌のポイントは?

 テクニックではなく気持ちで歌うことです。具体的にお話しすると、一度はみなさん故郷を離れることがあると思うんですけど、僕の父が心配性で2日に一回は電話が来るんです(笑)。もう話すこともそんなになくて、「もうええやろ」と思っているんですけど、しばらく電話が来ないと「おとん、大丈夫かな…」となるんですけど。

――ルーティンが崩れると不安になりますよね(笑)。

 そうなんです(笑)。地元を離れてもやっぱり家族なんだなと思えて、それは地元の友達も同じで、葛藤しながら夢に向かっていく、それを両親が支えてくれていると感じている人は多いと思うんです。そういうのを思い浮かべて、歌っていただくと、きっと良い感じの歌になると思います。テクニックももちろん重要なんですけど、歌は気持ちだと僕は思っています。水森先生も仰っていたんですけど、多少下手でも気持ちを強く持って歌えば、伝わるんだと。

――ところで「車輪の夢」のレコーディングはいかがでしたか。

 今回、サビはすごく苦戦しました。というのも、初めてファルセットで歌ったんです。今まで裏声を出したことがなくて。カバー曲でも、自分のキーに合わせて歌っていたので、高い声を出す必要もなかったんです。それもあって、この曲を聴いてくれたファンの方からは、すごく新鮮だと言ってもらえています。

ゴールは決めない

徳永ゆうき

――今作は歌詞に春夏秋冬と四季が入っていますが、徳永さんがそれぞれの季節に訪れたい駅や場所はどこですか。

 春は会津鉄道の湯野上温泉です。桜がすごくキレイなので、春に訪れたい駅ですね。夏は愛媛県伊予市にある下灘駅です。予讃線なんですけど、目の前が海なんです。秋は秩父鉄道です。SLが走っていて、山々の紅葉がキレイです。そして、冬は僕が特別応援隊員も務めさせていただいている、北海道のいさりび鉄道です。いさりび鉄道の方に撮影スポットとして紹介していただきました。海が目の前に広がっていて、雪と海、その先に函館山が浮かび上がるポイントがあるんですけど、おすすめです。この中では下灘はまだ行ったことがないので、夢の一つです。

――電車といえば、ジャケットのイラストにも描かれていますが、何線の電車のイメージだと思いますか。

「車輪の夢」ジャケ写

 僕の中では阪神電車か小湊鉄道です。ただ小湊はディーゼルなのでパンタグラフは付いてないので、阪神電車が濃厚なんですけど、ライトの形がちょっと違うから難しいですね(笑)。イラストレーターさんのイメージなので定かではないんですけど。皆さんのお好きな電車を思い浮かべていただけたらと思います。

――ティザー映像では、徳永さんが撮った写真が使われていて、似た電車が写っていますが、これは?

 あれは小湊です。3万枚くらいあった写真の中でも季節を感じられる写真にしたいなとチョイスしました。

――撮り鉄としてのこだわり、好きな構図とかありますか。

 僕はそこまでこだわりというのはないんですけど、カーブしているところ、先頭がずしっと来て、その後に連なっている構図は好きです。でも、あくまでティザーは季節感重視だったので、その構図はティザー映像には使われていないんですけど(笑)。あと、流し撮りというシャッタースピードを連写みたいにして、疾走感が出ている写真も好きです。

――それらをインスタにもアップして。

 そうなんです。僕は歌手用と鉄道用の2つのアカウントを持っているんですけど、趣味でやっていた鉄道アカウントに公式マークがついちゃって、歌手アカウントにはまだ付いていないんです(笑)。なので、皆さん歌手アカウントも宜しくお願いします(笑)。

――さて、7年目に突入した徳永さんですが、ここからどんな歌手になっていきたいなど、活動への展望はありますか。

 若い方にも知っていただきたい、楽しんで頂きたいというのがあります。「歌手といえば徳永ゆうき」と答えていただけるような歌手になりたいです。その中で『NHK紅白歌合戦』も目標にあります。でも、それをゴールにはしたくなくて、あくまでも通過点です。死ぬまで歌い続ける、というのが最終目標です。

――目標がすごく大きいですね。

 実は僕、燃え尽き症候群なところがあって、目標を達成すると「もういいや」となってしまうところがあるんです。さっきの料理もそうですし、過去にダイエットに挑戦したんですけど、目標体重に達成したら、普通の生活に戻ってしまって...。なのでゴールを決めない、常に大きなところに目標を置いて、全ては通過点として頑張っていきたいです。

(おわり)

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