培った15年分の全てを「メリー・ポピンズ」に
――『メリー・ポピンズ リターンズ』の公開を迎えて、今の心境はいかがですか。
やっとですね。SNSを見ていたら評判が良くてホッとしています。
――先月、品川で開催されたジャパンプレミアにはエミリー・ブラントさんも出演されました。あのとき平原さんは「幸せのありか」を歌いながら登場しましたが、当時はどのような思いでしたか?
何だか不安でした。エミリーさんも来るのに私だけ歌っていいのかなと色々考えていました。でも彼女は凄く喜んでくださって。裏ではずっと動画を撮っていたらしいですよ。「素敵な歌を歌ってくれて本当にありがとう」とも言ってくださって。嬉しかったですね。気さくな方でとても良い人で、幸せなプレミアでした。
――エミリーさんが平原さんを凄く気遣っている印象もありました。
私が手袋をして帽子をかぶってブーツを履いているものだから、だんだん汗をかいてきて。何でこんなに汗をかくのかと思ったら、腰にカイロを付けたまま出ちゃったんです(笑)。
――そうだったんですね。エミリーさんはあのとき「もしこの曲を平原さんが先に歌っていたら、私は怖くて歌えなかった」とも話していましたね。
仰ってましたね。そんなことないと思って。楽屋で「今日は歌われないんですか? 生の歌声が聴きたいです」と言ったら「No、No、No、No!」と。エミリーさんの素晴らしい歌声がこの作品にはあって、私もそのイメージを壊したくなかったので、今まで培ってきた15年間の全てをこの作品に出したという感じがします。
エミリーさんと私は年齢が1歳違いなんです。彼女は娘さんがいるから母の愛に溢れていたんです。生きてきた時代も一緒で思いも共通するものがあったからすぐ仲良くなれました。
――作品そのものの話ですが、平原さんの声がとても素敵でした。声のトーンもそうですけど、こういう女性がいたらいいなと。
メリーって凄くいいですよね。魅力的です。男性も女性も好きになっちゃう人ですよね。
――そう思います。平原さんは過去に、声を演じるのが難しかったと話していました。エミリーさんはちょっと声が低いからそれに寄せるとドスが効いたようになってしまうと。
そうなんです。英語だから自然なんだけど、それを日本語でやると年齢が高く感じちゃって。だから家族会議をしました。PCで映像を出して台本を持って映像を撮りながら練習をしました。それを家族に見せたら「いいけどちょっとドスが効き過ぎているから、もうちょっと可憐さがあってもいいんじゃない?」と。
――あの声の表情は平原さんじゃないとできなかったのではとも思います。
どうなんでしょうね…私はミュージカルの『メリー・ポピンズ』をやっていたので、それはかなり強みだったとは思います。凄くたくさんメリーを研究してきたので。だからスタッフも任せてくれて、「ここはメリーっぽくないセリフ回しだからちょっと変えてみたいんですけど」と言ったら、翻訳担当の方も「じゃあ変えてみよう」と対応して下さって。
――逆にミュージカルの『メリー・ポピンズ』をやっていたからこその難しさはありましたか?
全てが難しかったです。自分の歌としてじゃなくて人に合わせて口を揃えなければいけないし、歌だけでも大変なのに人に合わせるのは難しくて。ただ、いつもは平原綾香として曲を作って歌詞を書いてそれをレコーディングして、どんなアレンジにするかと一から作り出さなければいけないものを、これは大本の素晴らしいものがあるから。それを日本語に変えていく作業だけと考えると、凄く楽な気持ちにもなって。
――オーディションで役を勝ち取ったとも聞きました。受かったときの心境は?
ホッとしましたね。『メリー・ポピンズ』をいっぱい知っているからこそ、させてほしかったから、できて良かったです。ミュージカルに来てくださった方々にも喜んでもらえるような映画の吹き替えにしてほしいと思っていて、期待に応えられるようなメリーにできるかどうかは演じる側次第のところもあって、それを自分ができるんだったらやりたいと思いましたし、自分なら何でも努力できますから。そういう意味でも受かって良かったと。
――歌のレコーディングでは、全世界の吹替版キャスティングを指揮するリック・デンプシー氏に「自由にやっていいんだよ」というお話を受けたとのことでしたが、具体的に曲毎にそういったやりとりはありましたか?
「本は表紙じゃわからない」という曲でリックさんが提案してくれたんです。声のグローというこぶしを入れてくれと。私は最初「大丈夫かな」と思って。やっぱりエミリーさんの歌い方と全然違うから。でもリックさんはそこに凄くこだわっていて。ほとんどの曲はリックさんが立ち会ってやったんですけど、リックさんが帰ったあとにレコーディングしたものも全部送ったら、リックさんの要望で録り直してOKになったのに、「もっと強くしてくれ」と言って。だから3回くらい録り直しました。それだけ強いこだわりがあったんでしょうね。





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