坂本冬美「歌は体の一部」生活の中から生まれる演歌の魅力
INTERVIEW

坂本冬美
『猪俣公章生誕80周年記念ENKAIII ~偲歌~』

「歌は体の一部」生活の中から生まれる演歌の魅力


記者:村上順一

撮影:

掲載:19年02月11日

読了時間:約14分

 昨年大みそかに放送された第69回NHK紅白歌合戦で、紅組のトップバッターを務めた坂本冬美。30回目の出場で7度目の歌唱曲となる「夜桜お七」を歌い繋いだ。その紅白では紅組のトリを務めたのが石川さゆり。最初と最後を演歌歌手が担うことに特別の嬉しさがあった反面、プレッシャーにも感じていたという。

 その坂本は12月5日に、演歌を現代のアレンジでリニューアルすることをコンセプトにした『ENKA』シリーズ第三弾となる『猪俣公章生誕80周年記念ENKAIII ~偲歌~』をリリースした。

 本作は、25年前に55歳という若さで他界し、森進一の「おふくろさん」の作曲家としても知られ、坂本冬美の歌の師匠でもある猪俣公章さんの代表曲をアレンジを変えカバーした作品。名曲が装いも新たに坂本冬美の艷やかで憂いのある歌声で蘇った。

 歌や音楽は「体の一部」と語る坂本。「生活の中から生まれているものが多い」という演歌の魅力、そして紅白の舞台裏を聞いた。【取材=村上順一/撮影=片山拓】

魔物が住んでいる? 紅白の凄さ

坂本冬美

――『第69回NHK紅白歌合戦』では紅組トップバッターでしたが、今までの紅白とは違った感覚もありましたか。

 トリを務めさせて頂いたのが29歳の時。当時は若かったので出番を待っている間もすごく緊張していたと思いますが、緊張という意味ではトップでもトリでも順番はどこでも同じです。ただトップバッターはわりと初々しい方がやるようなイメージが皆さんもあると思います。ですから、まさか私がなるとは思っていなく、発表されたときは驚きました。

――私もまさか冬美さんがトップバッターだとは思いもよりませんでした。

 演歌の私がトップバッターで、(石川)さゆりさんが紅組のトリを務められるということで、すごく嬉しかったです。なので、しっかりとトップバッターを務めなければいけないというプレッシャーはありました。普段「夜桜お七」を歌うときは、出だしでポーズを取って歌い始めるんですけど、今回は階段をおりながら歌うということで、そこが大変でした。ただでさえ歌詞を間違えないようにするということだけでも緊張しているのにね。

――その「歌詞を間違えない」という点ですが、ファンの方から歌詞カードをプレゼントされたとブログで書かれていましたね。

 そうなんです。私がいつも「歌詞、大丈夫かな…」と不安を綴っているものですから、ファンの皆さんが心配して下さって歌詞カードを作ってくれました。それを楽屋の鏡の前に置かせて頂いて、お守りのようにしてステージに上がらせていただきました。階段をおりながらの歌唱や歌詞など、いくつかの緊張が重なったんですけど、トップバッターの役割は果たせたかなと思っていて、今はホッとしています。

――今回は紅白で「夜桜お七」が7回目の歌唱で、しかも使用するマイクに7番と言う番号が貼られていたみたいで、ラッキー7で縁起が良かったみたいですね。

 そうなんです。渡されたマイクに「7」のシールが貼ってありまして、上手く歌えるとかそういうことではなくて、これで失敗せずに歌えるかなと思えましたから(笑)。

――失敗したことが過去にあったのでしょうか。

 それがあるんです(笑)。今年から数えたら7年前の紅白で「夜桜お七」を歌った時だったんですけど、1番を歌っている最中に途中で一瞬2番の歌詞を歌っていたことがありました。その時は自分のなかで何が起きているのかわからない状態で、過去にもそんな歌い方はしたことがなかったんですが…。何かが違うとは感じたんですけど、止まらずには歌えて、すぐに1番に戻れたんですけどね。

――魔物が棲んでいたわけですね。

 それよく言いますけどね。思いもよらぬことがおきますので、油断できないです。

――八代亜紀さんは慣れている曲だからと油断していたら、全然違う曲を歌っていたことがあると仰っていたのを思い出しました。

 確かに私も出だしの<置いてけ堀をけとばして>のところで“こぶし”を回すんですけど、そこがクリアできたあとの出来事だったんです。そこが上手くいったことでホッとしたんでしょうね。上手くいったと思った瞬間に2番にいってしまったので、ある意味油断なのかもしれないですね。

――でもそれ以降はハプニングもなく?

 それが、2年後も歌詞を間違えているんです(笑)。でも今回は、歌唱は完璧ではなかったんですけど、歌詞はノーミスで終えられました。低レベルな話ですみません(笑)。

――いえいえ、かなりの数を歌ってきている「夜桜お七」でもそうなってしまうというのは、ステージのプレッシャーが凄いということが伝わってきます。

 何万回も歌ってきている曲ですからね。それでも間違えてしまうことがあるというのは紅白の凄さなんでしょうね。やっぱり生放送ですし。

――今回の紅白での舞台裏のエピソードはありますか。たとえば石川さゆりさんとのやりとりなどあればお聞きしたいなと思いました。

 まず私は、楽屋が地下でさゆりさんは1階でした。階が違うので基本的にお会いすることはないんです。12月30日のリハーサルのときにお会いしたんですけど、人が多いので空気の環境が悪いじゃないですか? さゆりさんはそれもあってマスクをしていらしたんです。私はハンカチで口元を押さえていたんですけど、さゆりさんが「ここまで来て今日風邪をひいてしまったら話にならないから」と私と天童よしみさんにマスクを下さいました。その場で付けさせて頂いて、3人でマスクを付けてオープニングリハにのぞみました。

――そのマスクは今も保存してありますか?

 さゆりさんに頂いたものなので取って置きたかったんですけど、一度使ったものには自分の菌が付着しているので、そこは心を鬼にして捨てました。たまに一回使用したマスクをもう一回使っている人がいますけど、それは衛生的にダメですよ(笑)。

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