「君がいた夏は遠い夢の中 空に消えてった打ち上げ花火」

 当時平均年齢14歳のガールズバンドWhiteberryの大ヒット曲「夏祭り」の歌いだしはこう始まる。この「夏祭り」がヒットした2000年とは、どのような時代だったのか? 20世紀J-POP史に詳しい経済評論家の鈴木貴博氏と“イントロマエストロ”として活躍する音楽評論家の藤田太郎氏が紐解く。

2000年、Whiteberryがいた夏休み

 北海道北見市のライブハウスで活動していた5人組の小学生ガールズバンドが、テレビ出演をきっかけに注目され、メジャーデビューが決まり上京。そして2000年の夏、3枚目のシングル「夏祭り」が記憶に残るヒット作品となった。

 お祭りの夜、少年は胸が騒ぐ。少女といっしょに縁日に出かけ、金魚すくいに綿菓子を買って、神社の石段に座って線香花火で遊びながらいろんなことを話す。けれど好きだという事だけは言えなかった。そんな夏の夜が夢の中で遠い空の中に消えていったというのは、誰もが経験したことがあるあの夏の日の思い出ではないか。

 実はWhiteberryの「夏祭り」はカバー曲である。原曲はその10年前、1990年にイカ天キングのロックバンドJITTERIN’JINNが発表し、ヒット。この歌を作詞作曲した破矢ジンタは当時25歳、ボーカルの春川玲子は22歳。「夏祭り」の前に発表したヒット曲「プレゼント」でもやるせない恋を歌いJITTERIN'JINNは当時の若者たちのこころを掴んできた。

 少年の心を大人世代が歌ったJITTERIN'JINNの「夏祭り」もせつなかった記憶があるが、Whiteberryの「夏祭り」は14歳の少女たちが歌った等身大のラブソングだったからこそ、オリジナルとはまた違った印象を与え、2000年の少年少女の記憶に爪痕を残した。

 思えば西暦2000年というのは宙ぶらりんで曖昧な記憶の中の時代だった。年号が2000年に切り上がったけれどもまだ21世紀ではない。1999年にこの世界が滅ぶとか、2000年になった途端にコンピュータが誤作動を起こして大災害が起きるとか言われたけれども何も起こらずに年が変わった。

 「人類が滅亡しないって知ってたらもっと違った少女時代を送っていたのに」と言った友人がいた。数字の桁だけが繰り上がって、先がわからない道を走りはじめたような時代。そして西暦2000年は少年少女を主役としたジュブナイルドラマやジュブナイル音楽の当たり年でもあった。

ジュブナイルという遠くせつないジャンル

 2021年の夏、東京オリンピックで街が金メダルに沸く最中、NHKが深夜にドラマ『六番目の小夜子』の再放送を流した。ある中学校に伝わる不思議な言い伝え、サヨコ伝説をめぐる中学三年生の少年少女の冒険ドラマだ。

 これも2000年の放送作品で、主人公の幼馴染の凛々しい少年役がまだ16歳の山田孝之。そして主人公の親友役が、あざとさなどかけらもない15歳当時の松本まりか。脇を固める勝地涼や山崎育三郎などの少年たちはみなまだあどけない。ちなみに主人公は鈴木杏。今の彼らしか知らない人は「いったいどういう世界?」と思うかもしれないが、誰にだって少年少女時代はあるのだ。それがジュブナイルドラマという遠い遠いジャンルである。

 映画で言えば『時をかける少女』や『ねらわれた学園』、『スタンド・バイ・ミー』や『グーニーズ』がジュブナイルドラマの定番といっていい。誰もが一度は通る、十代前半のあの時代。不思議な出来事に出会い、冒険をして、そして夏が終わる頃には少年や少女は、ひとつ大人になっていく。決して定番とはいえないジャンルなのだが、映画やドラマの世界ではなぜか10年ぐらいのインターバルでこのジャンルが盛り返す印象がある。

 さきほど紹介した4つの映画はいずれも1980年代の作品だった。そして時代が流れ西暦2000年はひさしぶりにジュブナイルというジャンルの当たり年になった。

 NHKでは『六番目の小夜子』に続いて『浪花少年探偵団』や『幻のペンフレンド2001』が制作される。夏休みには後に『ALWAYS三丁目の夕日』シリーズを手掛ける山崎貴監督の第一作である映画『ジュブナイル』が劇場公開された。

 この『ジュブナイル』も不思議な商業作品である。原案となったのはネット上で流れていた『ドラえもん』ファンによる非公式の最終回のストーリー。ロボットが大好きな少年ユースケがテトラという小型のロボットと出会い一緒に宇宙人と戦う。「戦いの過程でテトラは機能を停止してしまい、誰にも直すことができなくなってしまうのだが」というところが映画の終盤でドラえもんの非公式最終回とつながっていく。

 後に山崎貴監督が映画『STAND BY MEドラえもん』シリーズを手掛けることになることを考えると山崎監督もジュブナイルジャンルの旗手のひとりだと言えるのかもしれない。

 そしてその西暦2000年の夏、毎日放送(TBS系列)では小中学校の夏休みにあわせてドラマ30『ふしぎな話』で4本のジュブナイルドラマを放送する。その主題歌に起用されたのがWhiteberryの「夏祭り」だったのだ。

どの年代にも、いつになっても「夏祭り」は遠い夢

 少年と少女が抱く、どう伝えていいかわからない恋心。伝わらないがゆえに楽曲として伝えきれない部分を歌っていくという流れがWhiteberryの「夏祭り」をきっかけに生まれたように私は思う。

 実際、2004年の大塚愛の「金魚花火」、2009年のsupercellの「君の知らない物語」、2012年のback numberの「わたがし」といった具合に、少年少女の夏の日の思い出を歌うJ-POPは数年おきに生まれ歌い継がれていった。それでも夏になるとカラオケで一番歌われるジュブナイルソングはいまでもWhiteberryの「夏祭り」であることは間違いない。

 さて、JITTERIN'JINNまで話を遡ると、イカ天バンドの中でもツービートのリズムが特徴的なバンドでもあった。「夏祭り」を歌う少女たちのMVで魅せるあの躍動感は、刻みやすくて心地よいビートのなせる技でもある。

 それが理由のひとつだと思うのだが「夏祭り」はゲームセンターで人気の『太鼓の達人』では第二作以降、すべての新作の台に登場して、今でも変わらず『太鼓の達人』のプレイヤーの間での人気曲になっている。

 さてこの記事の最後になるが、おおきなジュブナイル熱はだいたい10年ぐらいの周期で世の中によみがえるようだ。Whiteberryの「夏祭り」から10年がたち、映画『20世紀少年』シリーズが公開されヒットした翌年の2010年、JITTERIN'JINNは「夏祭り」のアンサーソングとして『なつやすみ』を配信限定で発表した。漫画家の松本大洋が手掛けたMVが郷愁とせつなさを誘うジュブナイル作品となっている。

 「少女の恋心をつづるもうひとつのなつまつり」

 「夏祭り」の相手の少女はそのときどんな気持ちだったのか。この夏、ビールでも飲みながら『なつまつり』であらためてその答を聴いてみるのも、この夏の夜のいい想い出になるかもしれない。【藤田太郎/鈴木貴博】

▽藤田太郎プロフィール

 イントロマエストロ。約3万曲のイントロを最短0.1秒聴いて曲名を正解する能力が話題になり、『マツコの知らない世界』『ヒルナンデス!』等多数のメディアに出演。クイズ大会などプロデュースも多数。ラジオBayFM『9の音粋』水曜日の担当DJと出演中。

▽鈴木貴博(すずきたかひろ)プロフィール

 経済評論家。主要オンライン経済メディアに連載を持ち経済の仕組みや問題をわかりやすく解説する論客。本業とは別にアングラ、サブカル方面にも詳しく、芸能や漫画などに知識も深い。

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