作曲家・大野雄二「『ルパン三世』は “アニメ”だとは思って観ていない」その言葉の真意とは
INTERVIEW

大野雄二

「『ルパン三世』は “アニメ”だとは思って観ていない」その言葉の真意とは


記者:村上順一

撮影:村上順一

掲載:21年12月01日

読了時間:約12分

 80歳を迎えた日本劇伴界の巨匠・大野雄二が11月3日、ルパン三世 PART6 オリジナル・サウンドトラック1『LUPIN THE THIRD PART6~LONDON』がリリースされた。同作品は『ルパン三世』アニメ化50周年を記念した、最新TVシリーズ 『ルパン三世 PART6』(日本テレビ系)のサウンドトラックで、ルパンの躍動感、魅力が伝わってくる1枚に仕上がっている。インタビューでは「ルパンは特別」だと語る制作へのこだわりや、「究極のマンネリ」だと話すその真意に迫った。

プロの音楽家になったらみんな怠け者


――大野さんは80歳になられましたが、現在も現役でライブを行っていますね。音楽が好き、好きなものがあることで活力が生まれる部分もあるのでしょうか。

 こんなこと話していいのかわからないけど、プロの音楽家になると多分みんな怠け者になるんだよ(笑)。僕の場合は仕事が来なかったら何もしないから。芸術家の人は仕事を頼まれなくても作品を作ると思う。でも、僕は頼まれないと作曲なんてしないから、依頼と締め切りが原動力。

――今回、『ルパン三世 PART6』のサントラがリリースされましたが、大野さんのコメントに「もうネタ切れです」と嘆きの言葉があって、興味深かったです。

 もう15年くらい前からこんな気持ちだね。だってもはややりようがないんだもん(笑)。プロとしてのプライドで乗り切ってるわけ。今は昔みたいに何でもかんでも仕事は引き受けていないけど、引き受けたあとにいざやり始めるとやっぱり今も何だかんだ面白くなってくるから不思議だね。

――大野さんが作曲家になって良かったと思われる瞬間は?

 お客さんが喜んでくれたとき、というのもあるけど、自分の中で良い曲、良いアレンジが出来た時かもしれない。

――昨年はコロナ禍でライブが出来なかったのですが、その事に関してはどう考えていらしたのでしょうか。

 もうしょうがないよね。だから、その時は家でじっとしてたよ。でも、この約2年間は気持ち的に辛かった。作曲もライブも、エンジンがかかるような出来事自体が少なかったから、自分がダメになったんじゃないか、才能がなくなってしまったのかなと思う時もあったよ。

――でも、最近はこれまでの日常に少しずつ戻れられて。ところで大野さんは作曲をする時どこからスタートされるんですか。

 依頼のされ方によるね。どうのように頼まれたか、というのを大事にしていて。

――今回だと『ルパン三世 PART6』の舞台がロンドンというのが大きいですよね?

 そう。そういったことをまずは箇条書きしていくわけ。僕はまず紙に書き出していくところがスタート。

――そこからピアノに向かうんですね。

 時間がある時は楽器は使わないよ。鼻歌で作って楽器は最後に使う。楽器に触るタイミングが遅れれば遅れるほどナチュラルな曲が生まれるんだよね。

 あとね、制作する中で一番大切なのは最初の4小節で、出だしでいいのが出来てしまえばそこからは割とサッと出来ちゃう。今の人はサビから作る人も多いでしょ? 僕から言わせればサビは何のためにあるのか、Aセクションがあって、A'セクションがあってB(サビ)があるんだから、サビから作れるわけがないんだよ。

――印象的な楽曲の流れになっているのは、その作り方が影響されているんですね。『ルパン三世』のメインテーマは「マカロニ・ウェスタン」の音楽からインスパイアされた部分もあるとお聞きしました。(マカロニ・ウェスタン は1960年代から1970年代前半に作られたイタリア製西部劇を表す和製英語)

 うん、マカロニ・ウェスタンやイタリアの作曲家がよく使っていたコード進行で、GmからCへ行ってE♭からFに行くというものだね。僕だけではなくて当時の日本人作曲家の人たちはその影響を受けている人も多かったし、すごく劇伴に合うんだよ。あと、アメリカの音楽よりイタリアの音楽の方が日本人の感性に合うんだよね。

――それはなぜですか。

 これはあくまで僕の考えなんだけど、昔から日本人はイタリアのカンツォーネ風の音楽が好きだったってことに加えて、イタリアに戦後アメリカンポップスが入ってきたことと相まって、イタリア風とアメリカンポップスが融合したようなものを日本人がより気に入ったのかもね。ボラーレとか、日本でも大ヒットだったでしょう? イタリア人の作るメロディラインはちょっと強いしシンプルなのかな。

 僕はジャズが好きだから基本アメリカの音楽が好きなんだけど、1977年当時、その音楽を日本の人に無理やりわからせようとしても難しいんだ。それを要約してわかりやすいように、という時に有効なのがイタリアやフランスのエッセンスを足すことだったんだよ。どうやってそれらをミックスしていったかというと、僕にとってはCM音楽をやったことが大きかった。ありとあらゆるものが要求される世界で、色々勉強したおかげで国籍不明の曲が出来るようになったってわけ。

――それがオリジナリティにも繋がって。

 そう。そこに和の要素、といっても和楽器とかではなくて、日本のお茶の間感を盛り込んで洋楽っぽくならないようにしているのさ。少し話は逸れるけど、筒美京平さんがヒットメーカーたる理由は、和を意識したところにあると思うんだ。筒美さんも僕と同じく元は洋楽畑の人なんだけど、そういった好みとは別で、日本人に受け入れらるためにはどうしたらいいか、と考えていたと思う。僕も筒美さんほどではないけど、そういう風に考えていて。例えば川があって向こう岸にお客さんがいるとしたら、僕は決していそいそとそっちには渡らないんだよ。もちろん対岸から常にお客さんの動向は把握しているけど。自分の作風を曲げてでも受けようとは思わないから。要は迎合するのが嫌いなんだ。

ビートルズもよく知らなかった

――最新メインテーマはギターがフィーチャーされていますが、ロックの要素が強くなったのはロンドンが舞台というのが大きいんですよね。

 そうだね。メロディは変えようがないから、最近のシリーズではどの楽器を中心に据えるかを考えていて。今回レコーディングでは、ギタリストの和泉くん(Yuji Ohno & Lupintic SixのGt担当)に3回ぐらいダビングで音を重ねて弾いてもらってギターのハーモニーをつけたんだけど、それは普段やっていなかったから、そこが今回のアレンジの特色でもあるかな。

――大野さんはロックもよく聴いていたのでしょうか。

 CM音楽をやるまでは、ロックなんて全く聴いていなかったよ。ビートルズすら知らなかったもん。常にジャズが最高だと思ってたからね。それがCM音楽をやることになってから全てがひっくり返ったんだよ。ジャズしかやりたくなかった自分がCM音楽の面白さにハマりロックも聴くようになり、そこでやっとビートルズのすごさにも気づかされた。そしてCMって超スリリングな仕事だなと改めて思ったよ。クライアントが王様で、そのリクエストに応えなければいけない。それがすごく面白かった。ジャズだけをやっていた時は自分が好きなものしかやってなかったけど、相手が求めてきたものを作って、それで感動してもらえたら、こんなに嬉しいことはないと思うようになったんだ。

――CM音楽はどんなところが難しいのでしょうか。

 30秒や15秒で作らなければいけないという時間の制約だけでもかなり難しいんだけど、実はその中にも7秒くらいで雰囲気を変えて欲しいとか、細かく注文があるの。テンポ感とか、どうすれば尺内に収められるか、という研究が一番難しい。だからよく聴くと僕のCM曲には変拍子が入ってたりするんだ。

――すごく細かいんですね。

 あと、どんなオファーが来ても、「それ知らない」とは言えないからレコード屋に通い詰めて、世界で流行っていると言われている音楽を買い漁って。どんなオファー来ても応えられるようにしたんだ。

――大野さんが思うヒットする音楽に必要なものは?

 イントロだね。もちろんテーマとなるメロディも大切なんだけど、掴みがすごく大事で、リスナーが最初に聴くのはやっぱりイントロだからね。

――『ルパン三世』もイントロ、すごく印象的ですよね。

 だって考え抜いて作ったからね。ちなみにルパンのテレビシリーズのメインテーマの長さは1977年当時から今でも変わってないんだよ。スペシャルだと尺が違う(長い)から、アレンジで変化をつけられるんだけどね。だからもうネタ切れって感じ(笑)。

――新しいテーマ曲を作りたい、という想いも?

 ルパンのテーマ曲に関して、今違う曲を作ろうとかは思わないよ。ただね、昔、「SUPER HERO」という曲を作った時は実は、ちょっとこっちに変えても良いかなぁと思ったことはある。

こんなに素晴らしいマンネリはない

大野雄二

――ところで、大野さんは普段アニメ作品は見られるんですか。

 あまり観ないね。『ルパン三世』はもちろん見るけど、ルパンに関して言えばある種ライフワークだから、 “アニメ”だとは思って観ていない。それに楽曲についてもアニメだからこういう音にしようとは思っていない。最初にこの仕事をオファーしてくれた当時のプロデューサーは僕のことをよく知っていて、ジャズ好きな人だったから、作った当初からアニメに寄せようとは全く考えていなかった。

――作る上でどんなこだわりがあるのでしょうか。

 『ルパン三世』の音楽はすごく有機的だと思っていて。今の流行り的にはシンセがたくさん入ったり無機質な方がカッコいいという風潮もあるんだろうけど、僕はそれをあまり面白いなとは思っていない。僕もシンセは使うけど、それをメインにはしたくないんだよね。

――今後メインテーマで取り入れてみたい楽器はあるのでしょうか。

 これが難しいところでもあるんだけど、単に特殊な楽器を使えばいいというわけでもないんだよ。ルパンはどこの国を飛び回ってもおかしくない人だし、どこの国の音楽が流れても不思議じゃない。でもその中で民族的な楽器がメインで流れてくるとダメなんだ。それをやるとしたら、その国に行った時にしか流れないものになると思う。だから、西洋のポピュラーな楽器じゃないと合わない。お客さんが聴いたことがない楽器だから新鮮と感じてもらうより、ルパンに合っている音色かというのが重要で。

――確かに、例えばシタールとかだとルパンのイメージではないです。

 例えば、メインキャラが大暴れするようなシーンでティンパニを使う人もいるんだけど、僕はルパンではほとんど使わない。ルパンはもっとスマートな暴れ方なんだよ。ティンパニだと煽り立てているだけになってしまう。それだったらドラムのハイハットで細かく刻んだり、スネアでやってみたり。マニアックな話だけど実はスネアやタムはこだわっていて、色んな音色でやってるよ。ルパンは今のアニメの中でも唯一と言ってもいいくらいアナログなんだよね。

 それにルパンは良い意味で、究極のマンネリなんだ。こんなに愛される素晴らしいマンネリはないと思うくらいにね。だからそこを理解していないとダメで、例えば海外で言ったら『トムとジェリー』、日本で言ったら『水戸黄門』。僕はその2つを掛け合わせてスリリングにしたのがある意味『ルパン三世』だと思っているよ。

――2022年1月27日、28日東京国際フォーラム ホールAで「~大野雄二 80歳記念 オフィシャル・プロジェクト~ 映画『ルパン三世 カリオストロの城』 と、シネマ・コンサート! and 大野雄二・ベスト・ヒット・ライブ!」が行われますが、大野さんがステージに臨む姿勢はどんなものですか。

原作:モンキー・パンチ (C)TMS

 こんな豪華なライブはそうそうやれるわけじゃないから、頑張るよ。でも背負いすぎてはダメ。自然体で臨みたいね。今回のコンサートでも演奏の中核を担っているYuji Ohno & Lupintic Sixは手練れ集団。みんな上手いからね。それとね、うちのバンドは全体練習をほぼしない、メジャーリーグ方式のバンドなの。

――練習されないんですか?

 メジャーリーグの人たちは個人で練習はするけど、集まって練習はほとんどしないみたいなんだよ。それは僕たちも一緒で、全員集まった時にちょっと練習をすれば出来るでしょ、というくらいまで個人で仕上げてくればいいわけ。

 僕は昔からそういう考えで、ここを合わせたいから練習して合わせましょうなんてバンドはやりたくないんだ。難しいけど、合わせるんじゃなくて「合っちゃう」のがベスト。特にジャズバンドは相手の音を聴いて瞬時に応えていくのが醍醐味。当日にやる曲はリハしないんだ。新鮮さがなくなるからね。ただこれはあくまでLupintic Sixでの話で、今回の50人もの大編成のオーケストラの時は例外。かなり練習するよ。それとね、もし本番で間違えちゃう人が出てきても、まぁしょうがないって考え方なんで…それは相田みつをじゃないけど、「にんげんだもの」っていうことなんだよ(笑)。

(おわり)

コンサート情報

●公演名

~大野雄二 80歳記念 オフィシャル・プロジェクト~ 映画『ルパン三世 カリオストロの城』 シネマ・コンサート! and 大野雄二・ベスト・ヒット・ライブ!

●日時

2022年1月27日(木)[開場]17:30 [開演]18:30
2022年1月28日(金)[開場]17:30 [開演]18:30

●会場

東京国際フォーラム ホールA (東京都千代田区丸の内3-5-1)

●公演内容:

<第1部>:映画『ルパン三世 カリオストロの城』シネマ・コンサート

◇上映作品:「ルパン三世 カリオストロの城」(1979)
◇監督:宮崎 駿 / 脚本:宮崎 駿、山崎晴哉 / 原作:モンキー・パンチ / 製作:藤岡 豊
◇音楽:大野雄二
◇出演:山田康雄 / 増山江威子 / 小林清志 / 井上真樹夫 / 納谷悟朗 / 島本須美 / 石田太郎 他

<第2部>:大野雄二・ベスト・ヒット・ライブ!

角川映画第1作目「犬神家の一族」をはじめ、「人間の証明」、「野性の証明」、代表作テレビアニメ「ルパン三世」第2シリーズ以降のサウンドトラックや、「大追跡」、「小さな旅」、「スペースコブラ」etc... 大野雄二が手掛けてきた膨大な楽曲の中から人気曲を厳選した「大野雄二・ベスト・ヒット・ライブ!」 
※各日の演奏曲目が多少異なります。

●出演

【演奏】YOU & EXPLOSION BAND

大野雄二(音楽監督・Piano,Keyboards) / 市原 康(Drums) / ミッチー長岡(Bass) / 松島啓之(Trumpet) / 鈴木央紹(Sax) / 和泉聡志(Guitar) / 宮川純(Organ) / Fujikochans=佐々木久美 / 稲泉りん / Tiger / 佐々木詩織 他

【スペシャル・ゲスト】松崎しげる and more…

【指揮】栗田博文

※都合により出演者が変更になる場合がございます。予め御了承下さい。

●チケット
全席指定 11,000円(税込)
※大野雄二80歳記念グッズ付き
※大野雄二80歳記念グッズは、各公演当日、会場にてお引渡しとなります。
※未就学児入場不可
●チケット先行販売
オフィシャル最速先行(抽選)
申し込みURL:チケットぴあ https://w.pia.jp/t/yujiohno80th-concert/
申し込み期間:2021年10月20日(水)5:30〜10月31日(日)23:59
●チケット一般発売日
2022年11月20日(土)10:00~
●お問合せ
ディスクガレージ 050-5533-0888 (平日12:00-15:00) https://www.diskgarage.com

公演オフィシャルサイト https://yujiohno80th-concert.com/

大野雄二オフィシャルサイト 
http://www.vap.co.jp/ohno/
大野雄二オフィシャルYouTube Channnel https://www.youtube.com/c/大野雄二YUJIOHNO
大野雄二オフィシャルTwitter
 https://twitter.com/lupinjazz(@lupinjazz)

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村上順一
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