上原ひろみ、気持ちの紆余曲折を表現 ピアノ+弦楽四重奏で描く希望
INTERVIEW

上原ひろみ

気持ちの紆余曲折を表現 ピアノ+弦楽四重奏で描く希望


記者:村上順一

撮影:

掲載:21年09月08日

読了時間:約8分

 ピアニストの上原ひろみが9月8日に、約2年ぶりとなるニューアルバム『シルヴァー・ライニング・スイート』をリリース。今夏開催された『東京2020オリンピック』開会式でのパフォーマンスも記憶に新しい上原ひろみ。ニューアルバムは新プロジェクト「上原ひろみ ザ・ピアノ・クインテット」名義での作品で、ピアノ+弦楽四重奏という編成。2020年のコロナ禍の自粛期間中に書き下ろした4パートから成る組曲「シルヴァー・ライニング・スイート」を筆頭に、自身のSNS 企画『One Minute Portrait』で発表した楽曲、そして過去のオリジナル曲をこのプロジェクトのために新たに編曲し収録。インタビューではコロナ禍で考えていたこと、そこからどのようにアルバムに落とし込んでいったのか、そして、今もなお彼女を支える恩師の言葉など多岐に渡り話を聞いた。【取材=村上順一】

自分の感情の紆余曲折を表した

上原ひろみ

――ライブをすることがライフワークともいえる上原さんですが、このコロナ禍でライブが出来なくなってしまった時はどのように感じましたか。

 どうなってしまうんだろうという不安が一番にありました。その時は短期的なものなのか、長期的なものなのかわからない。なので、ショックというよりは不安が大きかったです。2020年の8月、9月にブルーノート東京でライブができるようになって、仕事ができるということがすごくありがたいことだなと改めて実感しました。

――あのライブでは履いていたスニーカーにメッセージを入れたりしていましたね。

 あの『SAVE LIVE MUSIC』というライブでは配信も行ったので、会場に来れなかった人は配信で外から見ているという感じではなくて、配信を観てくれている人のことも考えているという意思表示の一つでした。右足の靴の内側はピアノを弾いていると普通は会場のお客さんには見えないじゃないですか。それを利用してカメラを設置してもらい、配信の方達にしか見えないメッセージを書きました。

――配信を見ていたお客さんの反応はいかがでした?

 すごく喜んで下さいました。私は『スター・ウォーズ』が好きで、そのパロディをメッセージとして入れていたので、お客さんの中には「次はエピソード◯に違いない」とか、次のメッセージが何なのか予想してくれたりして(笑)。

――意外なところで盛り上がっていたんですね。ところで、ライブが徐々に出来る様になって上原さんの中で何か変わった感覚が芽生えたりもしましたか?

 ライブが出来ないこともそうですが、業界自体がこんなにもストップすることはありえないことだったと思うんです。だから、まずみんなと一緒に動けたということが嬉しかったです。ステージに立つ人以外にも音楽に従事する方は沢山います。エンジニアさんやピアノの調律師さんなど、そういった方たちと一緒にお仕事が出来るというのがなによりも嬉しかった。コロナ禍で皆さん一気にお仕事がなくなってしまったので、そのための救済という意味も込めたライブでした。

――その想いが今作にも込められていて。

 はい。自己隔離して独りでいる時間も多かったですし、自分の感情の紆余曲折を表したアルバムになりました。

――これまではソロ、デュオ、トリオなど形態は様々でしたが、今回クインテットというスタイルになった経緯は?

 もともと『SAVE LIVE MUSIC』の第1弾は全てソロで行ったのですが、結構数多くの公演をソロでやったので、第二弾は違うフォーマットでやりたいと思いました。でも、いつも一緒にやっているメンバーはコロナ禍で来日することが出来ないですし、この状況下で私は誰と何をやりたいのか、というのをすごく考えました。その中で2015年に共演させていただいていた、新日本フィルハーモニー交響楽団でコンサートマスターをしている西江辰郎さんのことがポンっと頭に浮かびました。それで弦楽四重奏が良いなと思い、ブルーノートで演奏している画も浮かびました。それで西江さんに早速連絡して、「シルヴァー・ライニング・スイート」を書き始めました。

――組曲の4曲はこの曲順どおりに作り始めたのでしょうか。

 同時に作っていました。一つが停滞したら違う曲に移って作っていくという進め方でした。

――曲のタイトルはどのタイミングで考えていましたか。

 タイトルはだいたい楽曲を作るにあたってイメージしているワードを並べて、それらを総意する言葉を最終的に選びました。

――クインテットというところで挑戦もあったのでしょうか。

 弦楽四重奏の曲を書いたのは初めてだったので、それ自体が一つの挑戦でしたし、弦楽器の曲はオーケストラと共演した時に演奏したことはあったのですが、今回小編成ではあったのですがすごく楽しくて。

――今作はクラシックの要素もありますが、インプロビゼーションというジャズの醍醐味はどのように組み込んでいるのでしょうか。

 基本インプロヴァイズするのは私だけなのですが、その後ろで鳴っている伴奏はすべて楽譜にします。私のインプロヴァイズのフロウに合わせて、弦楽器の方達も同じ音であっても弾き方は変えて欲しいというリクエストはしました。フレーズではなく演奏をする上でのインプロヴァイズという感じです。メンバーのみなさんは柔軟に対応してくださいました。

――「シルヴァー・ライニング・スイート」を創るにあたり最も大切にしていたところは?

 流れです。一曲一曲を聴くという感覚ではなくて通して聴くことに意味があると思っているので。アルバム全体としてもそうなのですが、今は楽曲単体で気軽に聴けるようになって、私がCDやレコードを買っていた頃とは全然変わってしまったわけですよね。そういう時代にも関わらず、なぜ今アルバムを出すのかということが逆に問われると思っていて。

 1曲ずつ聴いてくださいという気持ちだったらアルバムを作る意味というのもあまりないと私は感じています。だから私の中ではアルバムで一つのストーリーを伝えたいといつも思っています。今作は1曲目からコロナ禍で感じた気持ちの紆余曲折を表現していて、心の不安定さだったり、でも明けない夜はないんだとか、コロナ禍が明けたらみんなと肩を組んで乾杯したいとか そこには流れるような物語があるので、アルバム1枚を通して聴いていただけると嬉しいです。

――上原さんが完成度が高いと思うアルバムをあげるとしたら?

 今パッと思いついたのはザ・フーの『Quadrophenia』です。聴き始めてしまうと途中で止めることができない感覚があって。私の中でそういった作品はけっこう沢山あって、私の作品もそういうふうになったらいいなと思っています。

未来を想定して創った「リベラ・デル・ドゥエロ」

――今作で難航した曲はありましたか。

 「ジャンプスタート」は苦労した記憶があります。この曲はすごくユニゾンが多いのでキチっと音が揃わないといけないのですが、逆に揃いすぎてしまうとドライブ感が出なくて。逆にドライブ感を重視して録音したものを聴いてみると、思っていた以上にずれていたり。ライブだったらこのくらいずれていてもいいのかもしれないけど、スタジオでレコーディングしたものとしてはちょっと違うと感じて。なので、ライブで最高という演奏とスタジオで最高といった演奏の妥協点を見つけるのが一番大変でした。

――ピアノの技術としては新しい試みはありましたか。

 技術的なところでいえば、ピアノソロ曲「アンサーテンティ」が一番難しかったです。左手がさざ波のように弾くイメージの曲なので、ずっと均等に弾き続けるというのがすごく難しくて。

――今作には『MOVE』に収録されていた「11:49PM」が新たに録音されて収録されていますが、この曲を選ばれた経緯は?

 アルバムの構成を考えていた時に明けない夜はないというメッセージを伝えたかったので、この曲がコンセプトにすごく合うなと思い、今回のピアノクインテットのために編曲をし直ししました。この曲には秒針を表現した音が出てきて、トリオの時はその音を私が弾いていたのですが、それを弦のピチカートで弾いたらもっと秒針ぽくなるなとずっと思っていました。それで実際やってみたらイメージした通りですごく“チクタク感”がでて。

――そして、最後を締め括る「リベラ・デル・ドゥエロ」はスペインの地名ですよね? 何かこの地に思い入れが?

 これは私が一番好きな赤ワインの産地なんです。コロナ禍が明けたらみんなでリベラ・デル・ドゥエロを飲みたい、という思いを込めて、そんな未来を想定して創った曲です。スペインというのはバルのイメージがあって、そのバルでみんなとワイワイやっている光景というのは、今の状況と一番かけ離れているものでもあるなと。

――そのワインが好きになったきっかけはあったんですか。

 スペインのサン・セバスティアンで演奏した時に、初めてリベラ・デル・ドゥエロを飲みました。そのワインがすごく美味しくて。それまで私の中でスペインのワインといえばリオハのイメージでしたが、現地の人が言うにはスペインのワインといえばリベラ・デル・ドゥエロだそうなんです。

心に持っている言葉

上原ひろみ

――ところで、上原さんが生きてきた中で、救われた言葉、印象に残っている言葉はありますか。

 ずっと心に持っている言葉があります。それは初めてピアノを習いに行った時の先生が贈ってくれた、「夢ある人生を」という言葉です。新しい楽譜を買う度にその言葉を思い出します。夢を持ち続けるというのは生きる希望にも繋がると思いますし、活力になるのでずっと胸の中に抱いている言葉です。

――ちなみにバークリー音楽大学の時に印象的だった言葉はありましたか。

 (ソング)ライティングを教えてくれていた先生の言葉なのですが、「プロジェクトを期日までにやってくるということは幼稚園レベルの事だと思う」と話していて。なぜそんな話をしていたかというと、期日に間に合わない人がけっこういるからなんです。先生はプロになりたいという気持ちでここにきているのであれば、最低限の事をやっているだけではプロにはなれない。全てのプロジェクトは外部に提出するポートフォリオだと思ってやりなさい、それを当たり前としてやって欲しいといつも言っていて。

 知らない人から送られてきた曲を聴きたいと思うか、自分はこのクラスにいる9割の人に仕事をあげたいと思わない、それが現実なんだと。その当たり前のことがどれだけの人が出来ていないかという話を、その先生の授業の一時限目にしていたのが印象に残っています。常に現実を突き付けてくる先生で、私は大好きでした。

――夢と現実、対極にあるようなお話ですね。

 現実を受け入れた者だけが夢を見る権利がある、ということなのかなと私は思いました。

――深いですね。最後に読者の方にメッセージをお願いします。

 いつもそうなのですが、何かを生み出すということの一つひとつが自分の活力になっています。でも、今作はこれまでとは意味合いが違う感覚がすごくあって。絶望的なニュースが多い中でみえる一筋の光、本当にそういう気持ちでアルバムを作れたことが何よりも嬉しくて。そして、こうやって作品を作ることで皆さんに音を聴いてもらえるという盤を作る喜びもあります。前作から新しい音を聴いていないという方達も沢山いると思うので、その方達に新しい音が届けられるということは本当に嬉しいです。

(おわり)

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