「自分を“もらっている”感覚がある」大森靖子が作曲をする意味
INTERVIEW

大森靖子

「自分を“もらっている”感覚がある」大森靖子が作曲をする意味


記者:村上順一

撮影:村上順一

掲載:21年07月17日

読了時間:約11分

 超歌手の大森靖子が7月7日、メジャーデビュー7周年を記念して初の提供曲セルフカバーアルバム『PERSONA #1』をリリース。自身の内面や提供アーティストが歌唱したことで大森靖子が得た新たな楽曲の側面を「人間の外的側面・自分の内面に潜む自分」という意味を持つ“PERSONA”というタイトルに込めた。道重さゆみに提供した「WHO IS BABY」や、神聖かまってちゃん・の子をゲストボーカルに向かえ、新たな楽曲として完成した「瞬間最大me」、さらにYoutubeチャンネル『街録ch-あなたの人生、教えてください-』の主題歌「Rude」などオリジナル曲3曲を含む全13曲を収録。インタビューでは、楽曲提供を行う時の大森の考え方、アルバムパッケージとしてのこだわりなど、多岐にわたり話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】

ロジックを持って感覚を強化していきたい

大森靖子

――前回のインタビューで「褒められたい」、とお話しされていましたが、褒めてもらえました?

 その事が事実として書かれるだけで、褒められることはなかったかなと。もう私の雰囲気だと何をやっても、出来ることが当たり前みたいな感じになってしまうんです。どうやったら褒められるんですかね(笑)。

――承認欲求にも繋がるところがあると思うのですが、大森さんはどう捉えていますか。

 自分が認めていたら、他人の評価は気にならないと思います。私は自分が認めた自分を他の人に認めてもらいたい、という自己承認欲求はすごくあります。自分が認めていない、嘘の自分を認めてもらうというのもあると思うけど、自分を認めたいが為の他人から認めてもらうというのはちょっと違うと思っています。

――自分なんかは年齢を重ねるたびに承認欲求が薄れてきてしまって、ちょっと寂しいなと感じています...。

 承認欲求が薄まるのは自分を認めている証拠だと思うので、それはそれで良いんじゃないかなと思います。

――なるほど、そういう風にも捉えられますね。さて、『PERSONA #1』を聴いてみるとアカデミックな部分と、直感的に作っているかのような部分のバランス感覚がすごいなと思いました。「stolen worID」のコードの転調の仕方も面白いです。

 転調は私が作った部分で、おしゃれなコードはsugarbeansさんです。曲は1番2番サビという流れがしっかりしていないと曲が破綻してしまうので、その構成で作るのが好きなんですけど、この曲は流れていく中でどんどん深みにハマっていく曲にしたくて。サビで転調するんですけど、次のAメロでそのまま転調しているという流れにしたかったんです。

――どんなイメージで楽曲全体を捉えているんですか。

 自分の中では絵を描くような感じで、全体の構図を決めています。「Rude」は流れとして<猛れ 猛れ 猛れ>のパートは3連符になっているんですけど、ここが一つの破壊的なアクセントになっています。3連符が入ってきたことによって流れを切ってしまう感じもあるけど、それが盛り上がりに一役買っていると思っています。

 それは『街録ch-あなたの人生、教えてください-』に登場する色んな人の人生にピッタリだなと考えていて。猛ったり、はみ出たりする気持ちがあるからこそ人生は面白くなるし、それで失敗してしまうことも社会的には大きいかもしれないですけど、だからこそ人間は面白いと思います。綺麗に曲を書くことができたらその人の人生が美しく見える、それは考えて書いていた部分です。

――今作はオリジナルの他にこれまで提供してきた楽曲で構成されていますが、大森さんの中で楽曲提供というのは、そのような意味を持っていますか。

 楽曲提供する時は、この人の良いところはここだけど、まだ表現しきれていないことなど、曲を歌うということはその人の人生を作っていくことだと。歌うことで自分のものになっていく、それはZOCをやってみて感じたことでもあって、自分の人生と錯覚してしまうくらいなんです。この人はこういうステージに行けば良いのに、と提案する気持ちで曲を書いています。

――ちなみに仮歌は大森さんが歌っているんですか。

 私が歌う時もありますし、私の癖が入らない方が良いアーティストさんもいるので、違う方に歌ってもらう時もあります。昔は作詞の依頼が多くて、曲を提供することは少なかったんです。でも、曲と歌詞はくっついているもので、言葉のイントネーションとメロディの関係性をすごく意識して作っていて、そこはすごく大事だなと思っているので、歌詞とメロディは一緒に作りたいという気持ちがありました。

 その中でYU-M エンターテインメントの山田(昌治)さんが、作詞/作曲の両方でお願いしたいとオファーしてくださって。吉川友さんに提供した「歯をくいしばれっっ!」という曲は私の仮歌を入れて送ったんですけど、それを聴いて練習してくださるので、私のニュアンスが出過ぎてしまって。それで、私が吉川さんのニュアンスを真似して仮歌をレコーディングするようにしました。

――曲は直感で作る方とロジカルに考えて作る方がいると思うんですけど、大森さんはどのように考えていますか。

 感覚で作ることとアカデミックというのはかけ離れていることではないかなと思います。それは感覚というものをしっかり説明できることが重要で、それができるようになれば感覚がより強固なものになると思います。その2種類しかいないとクリエイターは思われがちなんですけど、実はそんなことはなくて、私はそのロジックを持って感覚を強化していきたいと考えています。

――音楽理論は勉強されたんですか。

 仕事をしていくうちに自然と身について行きました。でも、一般的な知識というよりは私なりの理論がある感じで、哲学を論理で説明したいんです。天才肌の人で、なんでこんなこともわかってくれないんだ、と思う人もいるし、私も最初はそうだったんですけど、説明してわかってもらえるんだったら頑張って説明したいと思っています。

――説明するというのはすごく難しいですよね。

 私が音楽活動している根本は文化的な器を大きくしていきたい、という思いでやっているので、わかる人たちだけにやっていても意味がないなと思いました。もっとわかる人たちを増やしていかないと、今世の中は本当にヤバいレベルなんです。わかる人にはこの曲、わからない人にはこの曲と、手を変え品を変え色んな言葉で投げかけておかないと、いつまで経っても芸術のことをわかってもらえない。わからないからといってそこを切り捨ててしまうのは自分の主義ではないです。マナーの悪さだったり、コロナ禍で真っ先に切られるというのもそういったところに原因はあると思ったので、そこを育てていかないとどうしようもないなって。

音以外でのパッケージとしてのこだわり

大森靖子

――さて、今回の『PERSONA #1』は人格という意味を持つタイトルに込めた意図は?

 同じ人のどこかの表情を描いていて、角度によって本人ではあるけど顔も違って見えたり、この人に会っているときの自分はまだ会ったことのない自分だなと思ったりする経験は、曲を作ったりしない人でもあると思うんです。私はその可能性を潰したくないから曲を作っているんだと思いますし、自分でまだ書ききれていない感情があるけど、それが出来るのは誰かと出会うことだから、提供させて頂くことがすごくありがたいです。自分をもらっている感覚があるなと思ってつけたタイトルなんです。

――今回「#1」ということは「#2」もいずれリリースしてくれるんですね!

 そのつもりです。このナンバリングはレーベルの方へのプレッシャーなんです(笑)。今、CDをリリースすることはすごく大変じゃないですか? 私はアルバムという形態が大好きで、やっぱり10曲以上入ってないと違和感があって、1曲って作品なのかな?と思ってしまうので。ライブでは当日にセットリストを変えることもあるんですけど、隣り合わせになる曲によってその曲の意味合いが変化するので、アルバムも同じように曲順で演出できるところもあるので好きです。

――今回13曲というのも意味があって。

 シンプルに13という数字が好きなんです。他には11とか奇数が良くて、アルバムということもあり13曲入りがいいなって。

――ちょっとビックリしたのが13体のフィギュアも製作されて、フィギュアと一緒にジャケ写の撮影をされたんですよね。

 私を撮影していただいて、それを3Dプリンターで作って人形と一緒に撮影していただきました。フィギュアを作るための撮影と、そのフィギュアと一緒に撮影するので2日間かけて撮ったので大変でした。

――これは大森さんのアイデア?

 いつもジャケットを手がけてくれている、アートディレクターの石田(清志)さんのアイデアです。石田さんは一番やりたいアイデアを「これも良いと思うんだけど…」と申し訳なさそうにいつも最後に提案してくれるんです。それで、これ良いですね! と言うと少年のように喜んでくれて。そこからメイクのRYUJIさんと石田さんと私でアルバムのコンセプトなど打ち合わせをして、作り上げていくんですけど、今回は石田さんのアイデアで進んでいきました。とにかく石田さんは可愛くてすごいということをお伝えしたいです。

 私は外貼シールにもこだわりがあって、ただ普通に貼られているものって、スーパーの半額シールみたいで辛いなって。シールもデザインの一部で、それを剥がしてスマホとかに貼れるようにして欲しいということを石田さんにしたら、もう何も言わずとも可愛い外貼シールをデザインして下さって。今回のシールも本当に可愛いです。

――アクリルスタンドが付いたバージョンもあるんですね。アコースティックギターを持っているものが特に気に入りました!

アクリルスタンド

 ありがとうございます。今回、世界に1体しかないお人形をセットにしたCDもあるんですけど、それを購入できなかった人のためにアクリルスタンドをセットにしたものもあります。それがミニチュアのお家に入っていてめちゃくちゃ可愛いんです。これで“シルバニアファミリーごっこ”とか出来ますよ。あと、付属するBlu-rayには9時間分のライブが入っているんですけど…。

――すごいですね!

 私がライブを全部入れたいと話したら、流石にそれは無理だったのでBlu-rayに入る限界ギリギリまで収録するということになって。自分でも意味がわからないくらいのボリュームになりました(笑)。

どこに出てもおかしくない自分でいたい

大森靖子

――さて、1曲目に収録されている「PERSONA」はどんな思いで書かれた楽曲ですか。

 「PERSONA」は何かを伝えたいと言うよりも、自分が自分に楽曲提供して、自分を煽るような、歌うのが難しい曲を作ろうと思いました。ボカロみたいメロディを書いて、歌うことを楽しむみたいな感覚で作った曲です。それもあってこのアルバム制作がすごく楽しくて、一番大変だった時期にオアシスのような現場でした。アルバムはもう曲は出来ているので締め切りもないし歌うことに集中出来るので、それをしたいと思って書いた曲が「PERSONA」なんです。

――歌うのが難しいということは、レコーディングは時間がかかった部分も?

 1時間ぐらいで撮り終えたので、時間はそんなに掛かってないです。私、コーラス録るのもすごく早くて、主旋律を流してもらえばすぐにハモることが出来て。

――絶対音感があるんですか。

 絶対音感に近い相対音感だと思います。生活音が音階に聴こえるようなレベルではないんです。

――音感はどこで身につけたんですか。

 2歳から小学6年生までピアノをやっていたのでそこで身について。

――英才教育だったんですね。なぜピアノはやめてしまったのでしょうか。

 小学2〜3年生くらいの時に、すごくピアノが上手い人たちを見てしまって「もう日本一にはなれない...」と思ってしまい、それがショックで。努力もあるかもしれないですけど、あそこまでになるのは才能だと思いました。

――クラシックピアノの演奏者の方とかすごい人沢山いますよね。そういえば、今回「夢幻クライマックス feat. MIKEY(東京ゲゲゲイ)」ではバイオリニストの石川綾子さんが参加されていますよね。演奏を聴いていかがでした?

 ストラディバリウスの音を初めて生で聞かせていただいたんですけど、すごく感動しました。これまでテレビの番組でしか聴いたことがなかったので。あと演奏ももちろんなんですけど、石川さんの人としての大らかさ、差し入れでいただいたお菓子もすごく美味しくて。

――テレビというのは『芸能人格付けチェック』(テレビ朝日系)などですね。あれ聴いて当たります?

 バイオリンなどの弦楽器は難しくて、けっこうハズレます。やっぱりテレビから流れている音だから難しいです。演奏している人も安い楽器の方を良く聞かせようと、良い演奏をしているので、そっちを選ぶとハズレてしまって。でも、吹奏楽の演奏は100%当てられます。自分が吹奏楽部だったので、吹奏楽部の演奏の癖がわかるんです。

――そういうのがあるんですね。ちなみに石川さんはどなたからの紹介で?

 東京ゲゲゲイのMIKEYさんもそうなんですけど、編曲をして下さった大久保薫さんが今回一緒にやる人をブッキングして下さって。神聖かまってちゃんの「の子」君は前も「非国民的ヒーロー」という曲で一緒にやったことがあったので、またいつかやりたいと思っていました。今回やるなら「瞬間最大me」だなと感じたので、コラボ曲として選びました。

――良い出会いがあったんですね。

 私はまだ会ったことはないけれど、いずれこの人とは会うだろうなと感じている人がいて、MIKEYさんもその一人でした。そういう人のリストが私にはあるんです。『ジョジョの奇妙な冒険』の“スタンド使いはスタンド使いにひかれ合う”みたいな、そういう感覚があって。とは言いつつMIKEYさんとはまだ直接はお会いできてないんですけど。ラップの歌詞を書いて、仮で私がMIKEYさんのパートを歌って送ったら1時間ぐらいで、「こんな感じにしてみました」と戻ってきて。それが私がイメージしていた歌になっていて、よりMIKEYさんのことが好きになりました。

――さて、大森さんの2021年下半期の展望は?

 もう出来ることをやっていくしかないと思っています。ライブがだんだん出来るようになってきたので、スケジュールを詰め詰めにしてやって行きたいです。

――ちなみに大森さんの中で、例えば東京ドームや紅白歌合戦という場所は、あまり意識してはいない?

 もちろん出てみたいし、やってみたい場所ではありますけど、目標ではないです。私の目標というのは活動を続けていって良い曲を沢山作る事だと思っているので、東京ドームや紅白歌合戦はそういうタイミングが来たら、やってみたい、やれたらいいなという希望はあります。どこに出てもおかしくない自分でいたいなと思っているので、今は実力をつけ続けるしかないと思っています。

(おわり)

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村上順一
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