和楽器バンド「せめて歌だけは明るく終わりたい」音楽に込めた想い
INTERVIEW

和楽器バンド

「せめて歌だけは明るく終わりたい」音楽に込めた想い


記者:編集部

撮影:

掲載:21年06月25日

読了時間:約8分

 和楽器バンドが今月、『Starlight』E.P.をリリースした。表題曲はフジテレビ系月9ドラマ『イチケイのカラス』主題歌で、カップリングにはTVアニメ『MARS RED』のオープニングテーマ「生命のアリア」、TBS系テレビ『ひるおび!』6月度エンディングテーマ「雨上りのパレード」に未発表の新曲「ブルーデイジー」を収録。インタビューでは、バンド名を伏せて公開された「Starlight」の意図、音楽にこだわる月9ドラマ制作チームとのやりとりなど、収録楽曲の制作背景に迫った。【田中久勝】

先入観を持たないで音楽を聴いて欲しい

――フジテレビ系月9ドラマ『イチケイのカラス』の主題歌「Starlight」は最初、アーティスト名を伏せるという、月9主題歌で今までなかったパターンでした。

町屋 「和楽器バンド?、ああ『千本桜』の人ね」というところで先入観を持たれてしまうことが、マイナスに作用することもあると思っていて。良くも悪くも「千本桜」の印象はやっぱり強くて、それでWGBという表記にして、まず先入観を持たないで音楽を聴いて欲しいという思いからです。

鈴華 月9のタイアップが決まりましたと聞いた瞬間は、え? 私たちで大丈夫? と自分たちでも客観的に思いました。でもすぐにそんな思いはなくなって、自分たちはもともとジャンルにとらわれず作品を作ってきたつもりだし、食わず嫌いな方々にも聴いてもらえる音楽を作ることができると思いました。

――初めて和楽器バンドの音楽を聴いた人には新鮮に映ると思います。初期から聴いてくれていたファンは、YouTubeでのコメントを見ると賛否両論飛び交っていました。

鈴華 WGBという名前はデビュー当時から使っていたものなので、そういう意味では昔から聴いていただいているファンに対しては「気づいたでしょ? 一緒に楽しんでね」というメッセージとして受け止めていただければ思いました。新しいファンの方はよろしくお願いしますという感覚でした。

町屋 僕達は元々ボカロカバーというところから始まって、メタルベースなサウンドで2枚目(アルバム『八奏絵巻』)までは出して、3枚目(アルバム『四季彩-shikisai-』)からバラードが入ってきて少し軽めになってきて、4枚目のアルバム『オトノエ』では色々なジャンルが入り乱れてミクスチャーになってきました。そうやって変容してきている過程があるので、それもこのバンドのひとつの形です。ですので、コアファンの方にはわかっていただけると思います。でも賛否両論があるということは、それだけ注目されているということなのでいいと思います。同じことをやり続けるのも正義だし、色々なことをやってみるのも答えだと思うので。

――音楽にとことんこだわる月9ドラマ制作チームとのやりとりは、どうでしたか?

町屋 「千本ノック」という噂を聞いていたのですが(笑)、やはり大変でした。時間がかかりすぎてしまった感じはありますが、逆にここまで一曲に対して時間をかけて作る機会というのもこれまでなかったので、その点ではいい勉強になりました。大体いつもタイトなスケジュールで、どこかで妥協点を見つけて決着させるというパターンが多いのですが、今回はタイムリミットギリギリまでブラッシュアップさせて、レコーディングの直前にイントロだけ変わるという状況でした。元々この曲ってもっとテンポが早くて、もっと言葉数が多い、これだ!というものができて。でも言葉数が多いと劇中でこの曲が入ってきた時に、セリフとバッティングするとか、色々な問題が出てきました。それでテンポを落として、言葉を間引いたり、英詞バージョンにしてみたりとか、色々紆余曲折を経て、完成に至りました。

鈴華 たぶん10パターンくらい作って、その全てで仮歌を歌いましたが坂間千鶴(黒木華)と入間みちお(竹野内 豊)の二人の関係について、思いきり恋愛っぽくしてくださいという時や、もっとマイルドにとか、先方から様々なオーダーがあって、それを私は仮歌を通して感じていたので、ドラマでどう描かれるのか色々と想像しました。ここまで和楽器の音を全体になじませて、それを今回のE.P.のリード曲に持ってくるということは、結成から8年経った今だからできると思いました。歌についても、これまでは敢えて詩吟の<節調>を取り入れた歌い方を貫いてきて、でも今回はそういう歌い方ではなく、その楽曲のよさを引き出すための歌い方をしました。

いぶくろ 「Starlight」はポップス寄りの曲なので、三味線や箏、尺八に関しては楽曲のイメージを壊さずどう活かすかというアプローチが大切になります。奏法はそれぞれの楽器の特性を取り入れつつ考えて、“音色”で聴かせるのではなくて、音の“響き”を重視して、それを楽曲に“溶け込ませる”ことに注力しています。

蜷川 今回は完全にデジタルサウンドとバンドサウンドの融合という感じになっているので、いい意味で和楽器が違和感なく聴けるように作っています。ドラマの世界観を壊さないように、三味線も伝統的なフレーズは入れないで、敢えて和楽器らしい部分は消しながら演奏しました。

幸福度が高い作品だったなと思って欲しかった

『Starlight』E.P.ジャケ写

――「生命のアリア」(テレビアニメ「MARS RED」OPテーマ)は「Starlight」とは打って変わって、イントロから全面に和楽器を打ち出して、イントロから一気に景色が広がっていくような開放感を感じました。

町屋 『MARS RED』は物語の舞台が大正時代ということもあって、和楽器バンドらしさを全面に打ち出していこうと。歌詞もアニメの世界観に合わせて、あえて古めの言葉や言い回しを使っているのと、アコーディオンの音色で彩りを与えています。冒頭のサビに作品の世界観と伝えたいことはギュッと詰まっています。

鈴華 イントロからのAメロ、ここはすごく大事に歌おうって思いました。和楽器バンドらしい和楽器主体のサウンドで、いつものように気持ちが掻き立てられて歌っていますね。

いぶくろ この曲は転調だらけで和楽器にはかなり優しくない曲で(笑)。その転調もとても一台では表現できない優しくない転調です。いつもはライヴで再現できるものというのを基本に演奏を考えていますが、今回は苦戦しました(笑)。

蜷川 この曲の転調は三味線一台では対応できない厳しい転調で(笑)、ライヴではBメロで三味線をチェンジするという難しいことに挑戦しています。そこをカメラに抜かれないか、ひやひやしながら持ち替えています(笑)。

町屋 尺八ですら持ち替えてるし、お箏も大きいのを何台も並べてるし…。

――この曲も、和楽器バンドならではの長めの間奏で、熱を帯びていく感じがむちゃくちゃカッコいいです。

町屋 元々アニメのオープニングの90秒で、あのテンポ感は決まっていたので、でも僕の頭の中で鳴っていたのは2番以降の早いテンポでした。なのでそこにいかに繋げていくかを考えて、長い間奏をあえて作ってそれぞれのソロの見せ場を作りました。その中でストーリーを徐々に変化させていって、後は今までやったことがない試みとして、ギターと尺八でフーガをやって、そこからソロを回してみました。和楽器バンドって今までライヴありきで見せることを本当に大切にしてきて。8人それぞれが、しっかり自分の楽器で自分をきちんと表現している姿をライヴで楽しめるのが僕達です。8人でやっている意味と意義がある音楽を続けることが大切です。

――『MARS RED』はオープニングが和楽器バンド、エンディングがHYDEさんの「ON MY OWN」と、豪華な組み合わせになっています。

町屋 今回のHYDEさんの曲を聴いて、同じアニメと向き合ってもこういう切り口もあるんだってすごく勉強になりましたし、刺激を受けました。

鈴華 このお話が決まるちょっと前の2019年に、ニューヨークでHYDEさんと2マンライヴをやらせていただいたこともありご縁を感じていますし、憧れの方とひとつの作品でご一緒できるなんて、本当に光栄です。

――「ブルーデイジー」はキャッチーで、でも切なくて今回のE.P.の中では特にポップな楽曲になっています。

町屋 とりあえず切ない曲を書きたかったんです。元々僕は歌う予定はなかったのですが、低いところから高いところまで幅がある曲なので、サビが一番おいしく聴こえるところにフォーカスしようとすると、Aメロを僕が歌った方がいいということになりました。ゆう子が歌うとちょっと低くて、無理をしている感じになってしまう可能性があったので、最近やっていなかった歌い分けをやってみました。

いぶくろ 箏はハマりやすかったです。でもあまり出すぎるのもちょっと違うと思ったので、箏をハープに見立てたアプローチの音を乗せました。

町屋 実はこの曲は、このE.P.の中では個人的には本命といっても過言ではないくらいお気に入りの曲で、書いていて、きた!って思いました。

鈴華 できた時からすごく気に入ってたよね。

蜷川 いつもいいなと思う曲と、自分が弾くこととは全然違っていて。この曲はすごくいい曲で、でもそれに三味線を入れるとなると、また話が違ってきて(笑)。ここに個性の強い三味線の音を入れるのも違うし、この曲に限らず、最近ポップスの中でどう融合させるか、どう攻略していくかが自分の中では課題になっています。三味線のよさをどうしても聴かせたいとか、そういう考え方ではないし、与えられたスペースの中で、できる仕事をやる、いつもそう思っています。それは和楽器を演奏しているメンバーはみんなそうだと思います。和楽器の音色で押すのは簡単ですが、そうではなく、和楽器の弱いところを強みとしてどう使っていくか、です。でも存在感を消しすぎても意味がないので、その辺の葛藤はみんな常に抱えていると思います。

――だからこそ他にはない和楽器バンドの音、世界観ができあがるのだと思います。

町屋 今話を聞いていて、時代は全然違いますが、ジャズのジョン・コルトレーンとロバート・パーカー、キャノンボール・アダレとが一緒にバンドをやったときみたいな“避け方”に近いのかもと思いました。彼らはそれぞれの楽器のよさ、強さがぶつからないようにして、でもそこで自分の爪痕をしっかり残す演奏をしていて、それに似ています。

――4曲目の「雨上がりのパレード」は幸せな気持ちを運んで来てくれます。この曲もゆう子さんの歌と、変化していくリズムに心が躍り、明るい気持ちにしてくれます。

鈴華 この曲は「かわいく歌って、歌で聴いている人をときめかせよう」って言われました(笑)。

町屋 この歌声に恋をするというのが僕の中でのテーマだったんです。4曲聴いたあとに、何か異物感が残して終わりたくなかったというか、スッキリした晴れた気持ちで幸福度が高い作品だったなって思って欲しかったんです。

鈴華 まっちー(町屋)にしてはすごく明るい曲を作ってるなって思ったので、そこに更に明るさをプラスするのは私しかいない! と思って歌いました。

町屋 明るい曲にしようとするとどうしてもロックっぽくなってしまうので、今回はプラスを強めに入れたり、ギターの音も減らしました。コロナ禍という今の状況もあるので、やっぱり気持ちよく聴いて欲しいし、せめて歌だけは明るく終わりたいなと思いました。

(おわり)

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