楠木ともり「自分の領域を守るために」繋がりすぎる時代に思うこと
INTERVIEW

楠木ともり

「自分の領域を守るために」繋がりすぎる時代に思うこと


記者:榑林史章

撮影:

掲載:21年04月26日

読了時間:約9分

 声優で歌手の楠木ともりが28日、2nd EP『Forced Shutdown』をリリース。テレビアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』や『ワンダーエッグ・プライオリティ』など人気作に出演する一方、昨年8月に1st EP『ハミダシモノ』でメジャーデビュー。デビュー前から自ら作詞作曲を手がけた楽曲で、自己表現を追求し続けている彼女。今作は、コロナ禍に彼女がリアルに感じた気持ちと、20歳前後の女の子のリアリティーが詰め込まれた作品になった。彼女に制作エピソードを聞くとともに、その真意を語ってもらった。【取材=榑林史章】

自分を閉ざすこともポジティブな選択

『Forced Shutdown』通常盤ジャケ写

――前作「ハミダシモノ」は、楠木さんも出演したアニメ『魔王学院の不適合者 ~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~』のエンディングテーマでした。

 前作はアニメタイアップでもあったので、たくさんの方に聴いていただけたという印象でした。今回はノンタイアップというところで、どうしたらより広く皆さんに聴いていただけるものになるのかを、まずは考えました。それで、カップリングにどの曲を入れるかを決めた後に、全体のバランスを考えて表題曲を「Forced Shutdown」に決めました。表題曲以外は、明るいサウンドが1曲あって、あとの2曲はアンビエント系とR&B系と割と落ち着いた曲調なので、表題曲はエッジの効いた引っかかりのある曲にしたいなと思いました。いろいろな方向に振り切った曲で構成しているので、楠木ともりの新しい一面を知っていただけると思います。

――「Forced Shutdown」の歌詞で、軸にしたことは何ですか?

 コロナ禍で書き始めたというところが大きいです。直接人と会う機会が減って、リモートやSNSなど顔を合わさずつながることに対して、みんなすごく積極的でポジティブなイメージを持っていたと思います。実際に便利だし、いいことだと思いますが、同時に私は、人とつながり過ぎてしまうことの息苦しさや窮屈さみたいなものも感じました。顔が見えないからこそ伝わらないことがあったり、逆に伝わりすぎてしまうことがあったり。つながりすぎて、周りの情報が多すぎて、自分が分からなくなるという感覚が、私はすごく怖いと感じたんです。それで周りと少し距離を置いて、自分を見つめ直す時間も欲しいと感じていた時期に書きました。

――リモートやSNSだと伝わりづらいという話は聞きますが、逆に伝わり過ぎてしまうというのはどういうことでしょうか。

 リモートで人と話す時は、表情や言い方をよく考えたり、相手に伝わりやすいようにと意識して話をしていると思うんですが、それが度を超えてしまうと言うか…。それにSNSは文字だけで感情が伝わらない分、内容だけがすごく直接的に伝わってしまうと思うんです。私自身SNSで、お仕事の告知や自分の思ったことを書いた時に、「そう伝えたかったわけじゃないのにな」と思うように伝わっていないと感じたことも多かったんです。そういう経験が重なっていくうちに「Forced Shutdown」という曲が生まれました。

――変に深読みされたり、感じなくていいところまで感じ取られたりといったことがあるということですね。「Forced Shutdown」は強制終了といった意味で、耳に入れたくない言葉を強制的にシャットするみたいなことでしょうか。

 はい。外界から自分を閉ざすと言うか。閉ざすという言葉はすごくネガティブなイメージを持たれると思いますが、自分の領域を守るために閉ざすのは、ポジティブな選択なんじゃないかと思います。

――ボーカルは淡々としながら、細かい感情の機微を歌っているという印象でしたが、レコーディングでは何か意識されたのですか?

 「ハミダシモノ」の時は、初めて私の歌を聴く方も多いと思ったので、自分の歌声をよりしっかり聴かせるということを重視しました。それに対して「Forced Shutdown」は、楽曲に合わせたアプローチを意識しています。声の質感や微妙なニュアンスなど、細かな部分に注力して歌いました。ですので「ハミダシモノ」のような楽曲としての激しさはありませんが、その分感情的な細かい部分を聴いて、楽しんでいただけたら嬉しいです。

仕事に対する気持ちをアップデート

楠木ともり

――カップリングに収録の「sketchbook」と「アカトキ」は、2019年にインディーズでリリースした『■STROKE■』に収録されていた楽曲です。4曲目の「バニラ」は、2019年末のライブ「Kusunoki Tomori coming-of-age『WRAPPED///LIVE廿』」で初披露されました。カップリング曲から選んだとのことでしたが、この3曲を選んだのには、どういった理由があったのですか?

 全体のバランスはもちろんのこと、今までライブを重ねてきて、皆さんの中にもある程度浸透してきている曲なので、それをなるべく早いうちに、皆さんにお聴かせしたいと思って選びました。

――「sketchbook」は、ピアノがメインのエレクトリックなバラードです。

 私が大好きなアーティストChouchou(シュシュ)のarabesque Choche(アラベスク・ショシェ)さんにお願いをしました。原曲の「スケッチブック」のメロディーが好きで、自分の曲の中でも1位2位を争うくらいの美しさだと思っています。そのメロディーラインを最大限に活かしたアレンジを作れるのは、アラベスクさんしかいないと思ってお願いをしました。アラベスクさんはとても優しい方で、私が声優だから「声が引き立つアレンジがいいんじゃないか」と提案してくださったんですが、私のほうから「もっとミニマムに、部屋に一人でいる感じで、時間がゆっくり進んでいて、孤独感があって」と、私が思い浮かべている情景をお伝えして、それを一個一個すり合わせしていくような感じで編曲を進めてくださいました。ですので、より空気感が伝わるアレンジになったと思います。

――リリックビデオも公開されていて。夜部屋で絵を描きながら月を眺めているイラストが、まさしくという感じですね。

 私が思い浮かべていた情景そのものです。リリックビデオは、orieさんという方にイラストを描いていただいたのですが、「こういった女の子で、こういった服を着ていて、こういった部屋で」と、細かく伝えて作っていただいたんです。アラベスクさんともorieさんとも、みんなで共通したものを思い浮かべながら、一つの作品を作ったという感覚が強い1曲になりました。

――「アカトキ」も『■STROKE■』に収録されていた曲です。

 これは鳴海夏音と一緒に作った曲です。インディーズの頃によく2人でライブに出演していて、そこで一緒に曲を作ってみようかということになって。彼女の話を聞いて一緒に作ったので、彼女の要素が強いです。でも共作自体が初めてだったので貴重な経験でしたし、彼女の要素が加わったことで、自分ひとりで書く曲よりも、前向きで明るいテイストになっていると思います。

――「アカトキ」というタイトルは?

 タイトルを付けてくれたのは夏音ちゃんなんですけど…。「アカトキ」は「暁」のことで、明け方などの意味なので、より前向きに明るいほうに進化していくという思いを込めて、付けてくれたんだと思います。歌詞は原曲のままで、1番を私が、2番とDメロを夏音ちゃんが書いています。

――サビでは<アップデートしていこうよ>と歌っていて。最初に書かれた時から2~3年経っていますが、どんな風にアップデートされましたか?

 「アカトキ」は、もともと夜に聴くのにぴったりの落ち着いた印象の曲だったんですけど、ライブでやっていくうちに、お客さんがクラップしてくださるようになって。楽しい雰囲気やみんなで頑張ろうみたいな空気感を、ステージの上からいつも感じていたんです。今回は、そういう部分も落とし込みたくて、ブラスを取り入れたリッチで明るいサウンドに生まれ変わりました。そういう意味では、大幅なアップデートがなされていると思います。

――個人的なところで、最近アップデートしたことはありますか?

 私は変化を嫌う保守的な人間なので(笑)、大きなアップデートはないのですが…。でもお仕事を始めてから4年くらい経って、仕事に対する考え方や、ファンの皆さんと築いていきたい関係値など、目指すものや考えていることは、どんどんアップデートされていると思います。働き始めの頃は、今思えば、夢だった声優業に就けてどこか浮き足立っていたところがあったと思います(笑)。

1曲でも誰かに刺さってくれたら

『Forced Shutdown』初回盤Aジャケ写

――そして4曲目の「バニラ」ですが、そもそもどうしてバニラというタイトルに?

 植物のバニラをイメージして、バニラの花言葉などいろいろな意味を込めました。歌詞に<馨る>と出てくるんですが、<馨る>という字には、いい評判が遠くまで届くという意味もあって。そういう意味も含めて、甘くて香りが強くて印象的で、純粋な感じがするお花は何か考えたら、バニラでした。

――しっとりとしたバラードですけど、歌はすごく情感たっぷりですね。今風に言うとエモいというか。

 あまり綺麗すぎるバラードにはしたくなかったんです。歌詞に込めた思いが強すぎて、これこそ自分の気持ち100%で書いているので、綺麗に聴かせるバラードよりも、気持ちを届けるバラードにしたいと思いました。編曲は、私から野村陽一郎さんにお願いをしたいと申し出ました。野村さんが編曲されたバラードは綺麗なだけではなく、ロックテイストで感情にガッと届けてくれる印象が強いんです。ずっと静かで楽器数が少ないところから入って、サビでバッと広がって音がしっかり届いてくる、情感たっぷりなバラードに仕上げてくださいました。まさに私が思っていたものを形にしてくださって、感謝の気持ちでいっぱいです。

――「バニラ」を初披露したライブのMCでは、1番の歌詞は家族や友達に宛てて感謝の気持ちを歌った。2番はファンのみんなに向けて書いたとおっしゃっていました。「バニラ」を初めて聴く人には、この曲からどういうものが伝わったらいいですか?

 私の仕事は、何かを届ける仕事だと思っていて、届けたものがずっと誰かの心に残り続けてくれたらいいなというのが、「バニラ」に込めた1つの大きなテーマです。なので、まずは私と出会ってくれてありがとうという気持ちもありますし、お互い未来のことは分からないけれど、私の声や作品など何かしらの形で、その人の心にずっと残り続けてくれたらいいなと思っていて。そういった私の思いを、感じてもらえたら嬉しいです。

――初回生産限定盤には、昨年末にオンラインで配信したバースデーライブ「Kusunoki Tomori Birthday Candle Live『MELTWIST』」の模様を収録しています。振り返って、どんなライブでしたか?

 オンラインライブという形では理想的なものができて、私としては大成功だったと思っています。ライブハウスから配信したんですが、キャンドルをたくさん使ったセットを客席に組んで、ライブだけど映像作品のようで、映像作品だけどライブのようでといった、ほどよく心地のいいところでバランスが取れたと思っています。自分としてもソロメジャーデビュー後初めてのワンマンライブとして、とても思い出深いライブになりました。

 サブスクが主流の時代で、一人のアーティストを完全に掘り下げて聴く方も減ってきて、この人のこの曲は好きだけどほかの曲は知らないという方も多いと思います。どれか1曲でも誰かに刺さってくれたら嬉しいですし、あわよくばそれをきっかけに、楠木ともりという存在と音楽を好きになってくださったらいいなと思っています。ぜひたくさんの方に見て、聴いていただきたいです!

(おわり)

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