Yaffle、iriら手がける人気音楽プロデューサーが探求したいこととは
INTERVIEW

Yaffle


記者:小池直也

撮影:

掲載:20年08月03日

読了時間:約7分

 プロデューサーのYaffleが7月31日、配信シングル「A l’envers feat. Elia」(頭文字のAは正式にはグレイヴ・アクセント付)をリリース。Tokyo Recoadingsの設立メンバーでもあり、柴咲コウやiriらの楽曲も手がけてきた、約2カ月ぶりの作品。「A l’envers feat. Elia」はパリで出会ったシンガー・Eliaのフランス語による歌唱、残響を残す音色を使った派手すぎないビートがブレンドする作品に仕上がった。言語の壁を超えたコラボレーションはどの様に生み出されたのか、楽曲のコンセプトやソロプロジェクトの立ち位置なども含め、Yaffleに話を聞いた。【取材=小池直也】

これまでの活動のまとめをしたかった

「A l’envers feat. Elia」ジャケ写

――藤井風『HELP EVER HURT NEVER』、iri『Sparkle』など話題作にも参加されていましたが、コロナ禍でも活動は変わっていないですか。

 進行中だったプロジェクトが後ろにズレたりはありましたが、音楽配信についてはスケジュールはあまり変わらなかったです。むしろ繁忙期で緊急事態宣言が出たくらいの時がピークでした。僕のポジションは、もしかしたら余波が後から来るのかもしれません。

 よく一緒に演奏するミュージシャンは「すごい暇だ」と話していて、レコーディングをお願いするとデータが返ってくるのが速いですね。コロナをきっかけに作った曲はないですが、仙人みたいな生活をしてるわけでもないので、何かしらの影響は受けていると思います。

――新作「A l’envers feat. Elia」は、去年の10月にヨーロッパでおこなったコライトの旅で生まれたそうですが、なぜ国外で制作を?

 今のマインドが変わる前に、これまでの活動のまとめをしたかった。ヨーロッパは個人的に居心地の良い場所なんです。いつも1年に数カ月は滞在しているので「コライトのキャンプだ!」と大志を持っていたわけではありません(笑)。コライト相手は日本を出る前にやりたいと思っていた人もいますし、現地で出会った人もいます。向こうのコミュニティのなかで紹介してもらうことが多いので、滞在の後半に立て続けに出会いが増えますね。

 特にダブリンのラッパー2人組とのコラボレーションは良い経験になりました。スタジオに1時間くらい遅れて現れて「ラップするから、ずっとビートを回してろ」と言うんです。でも僕の使っているソフトだとループし続けることがうまくできず、追い立てられましたね(笑)。おかげで怖い人への耐性が付いて日本語ラップの現場でビビらなくなりました。

――言語の壁などは感じませんでした?

 基本はひとりグーグルマップで集合場所に行き、日本語の次にマシな英語でコミュニケーションします。フランスは少し大変でしたが、ミュージシャンは英語が話せる人が多いので困りませんでした。それにイメージしている音を表現するのは日本語でも難しいじゃないですか。僕が詩的表現をしたり、プロデュースしてもらう側だったら別ですが、音響的なもので言いたいことを伝える作風なので、コミュニケーション上の苦労はあまり無かったです。

――Eliaさんは「Yaffleと会った時、私は彼が勝者に見えた」とコメントされていました。Yaffleさんのインパクトを少なからず受けたと予想されますが。

 そんなこと言ってくれていたんですね(笑)。彼女の印象は当初「イケてる若い女の子だな」という感じで、話してみるとスマートで色気もありました。「どういう人生だったの?」みたいな話をして、用意していた2、3曲を聴いてもらうと「オリジナルな何かを感じる」と僕の推しだった、この「A l’envers」を選んでくれたんです。さらに軽くコンセプトを説明した後に歌詞を書いてもらって、制作は4、5時間で終わりました。

グルーヴは音符よりも音色

Elia

――コンセプトはどう説明を?

 フルアルバムは、前作シングル「Lost, Never Gone feat. Linnea Lundgren」と同名のものになる予定です。物を失ったり、友人と疎遠になったり、失恋などで喪失を体験しても、それまでの自分は変わらない。だから喪失したものは自分の内面で影響を持ち続ける、生き続けるという想いがありました。人は自分の人生を美化したり、忘れたりして修正していきます。それは生きるために必要なことですが、僕は失くしたものが心に語りかけてくる気がするんですよ。

 これは普段から考えていることです。言語化するのが得意ではないので、浮かんでは消えていきますが、それを前作でLinneaがぴたりと「Lost, Never Gone」という英詞にしてくれました。ネガティブな意味ではなく「喪失したことを悲しむ必要はない」という話で、それを毎回コライト相手に説明しました。

――今回はフォーキーな質感の前作とは、また違うサウンドですね。

 曲はパリのストラスブール=サン=ドニのAir B&Bのキッチンバーで、朝から遊びの延長で作ったものです。USっぽい音まではいかないですが、前作よりもアグレッシブな音像にしたいとは思ってました。音色は僕が行った場所は響く建物が多かったので、それに引っ張られた気もしています。泊まった所も古くて天井が高かったし、録ったスタジオも響く空間でしたから。

 今時のプロデュース作業は5割くらいが音色選びです。ロックバンドなら何とかなると思いますが、エレクトロみたいな今のポップスは譜面にしても単純なループであまり意味がない。グルーヴを左右するのは音符よりも音色なんです。「A l’envers feat. Elia」のピアノは音のイメージが先にあって、それに近い楽器を探していきました。ゼロから1にしていく時は「この音かっこいい!」と直感で選ぶこともありますが、1から10にしていく作業の時はイメージに当てはめていくことが多いです。

 このイメージには普段から聴いている音楽や、これまで一緒にやったミュージシャンからの影響があると思います。例えば以前、韓国の方と仕事をして「こんなキツい音を使うのか」と思いましたが、全体で聴くと意外に収まりよくてパンチもあるなと。個人的に強めの音を使う人生じゃなかったので勉強になりました。

知らないローカルへの憧れ

――できあがった歌詞についての印象は?

 以前に制作した「La Nuit feat. Fabienne Debarre」のフランス語の詞はぶっ飛んだ内容でした(笑)。でも今回は艶っぽくて、且つ品がある内容で、その様な単語がEliaから出てくることに感動しました。日本語でも英語でも出会わない質感で良かったです。

――ドロップ前の「エイ」もフランス語の中で出てくると新鮮でした。

 そこは何度か曲を流すなかで自然と決まりました。ドロップのなかに歌詞を入れるかどうかも話し合ったのですが、最終的に当初イメージしていた音だけの形になってます。例えばEDMとかだとドロップというのは、手前にある言いたいことに続くインストルメンタルだと思ってて、プロデューサーとしてはドロップ部分が試されますね。「バースがいいけどドロップがダメ」ってEDMとしては失格ですから(笑)。逆に「バースが適当だけど、ドロップが良い」ならいいんですけど。

 例えばEDMというのは、そもそもハウスなんですけど、裾野を広げるためにボーカリストや歌詞にポップ性を依存しているんです。そう考えると基本は歌手が前になるので、ビートメイカーの立ち位置は難しい。「全部を喋ってもらったけど、自分は何を言いたかったのだろう?」みたいな感じにもなる。なのでビートメイカーが自分名義で作品を出す意味は考え続けています。アーティストの声や歌、曲が映える様に考える時と主従が変わりますから。

――日本だと特にプロデューサーが注目されづらい気もします。

Yaffle

 どうでしょうね。YouTubeやサブスクで数が視覚化されてからは「こんなものか」と思うことが結構あります。最近はアメリカに3億人というシンプルにマーケットが大きいだけなのかも、とも感じていて。僕の周りで有名な米国のビートメイカーやDJよりもオリコン2、3位の曲の方が再生回数が多かったりするんですよ(笑)。何百万くらいの再生数だと日本なら、アップライジング・Jポップスターって感じじゃないですか(笑)。

 ただアメリカの方がコライト文化が強いので、プロデューサーの存在感があることは確かです。日本だとシンガーソングライターとアレンジャー、という関係性になることが多いですね。ただ海外に行けば行くほど「海外なんて無い」と思います。日本人vs海外みたいな構図になりがちですけど、そんなものは無くて。

――たしかに「海外」という言葉自体が海に島国的な発想ですね。大きな世界のなかにそれぞれの地域があるというイメージですか。

 当たり前ですが、各ローカルに僕も知らない有名な人がいるんです。パリに行った時、親戚の知人の誕生日パーティに参加したら、それが在仏コロンビア人コミュニティの集まりで。僕は「トーキョー」って呼ばれてましたが(笑)、そこでは僕が知らないけどフロアが大熱狂する曲が永遠に流れてて、それが面白かったんです。

 世界のビルボードHOT100以外のヒット曲と言語に興味があります。グローバルという、ふわっとした幻想ではなく「知らないローカル」とつながることは今後、探求したいテーマです。

(おわり)

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