INTERVIEW

窪田正孝

「リスタートの気持ち」結婚が転機に、役者としての変化 貴重な時間だった『決戦は日曜日』


記者:木村武雄

写真:冨田味我

掲載:22年01月08日

読了時間:約7分

 窪田正孝が、映画『決戦は日曜日』(2022年1月7日公開)で主演する。父が病に倒れ出馬することになった令嬢・川島有美を支える議員秘書の奮闘を描く。窪田はその私設秘書・谷村勉を演じる。川島を演じる宮沢りえとは今回が初共演。舞台挨拶では「太陽のような方」とも語っていたが、どう対峙したのか。結婚、朝ドラ主演などを経て今は「ゼロの状態」とも語る窪田がリスタートを切るなかで挑んだ最初の作品が本作。どのように向き合ったのか、その舞台裏を聞く。【取材=木村武雄/撮影=冨田味我】

孤高の監督

 坂下雄一郎氏が脚本・監督を務めた本作。表舞台に立つ政治家ではなく、陰で支える秘書にスポットを当てることで政界の裏側に切り込む。コメディタッチで描きつつ本質を浮き彫りにさせている。

 坂下監督作『ピンカートンに会いにいく』を観たことがあったという窪田。「面白い作品で、監督はどのような方なのか楽しみでした」。実際に対峙した印象は「無口で、意外に結構攻める監督だと思いました」

 「攻める」が指しているのは「演出」の部分。「他の方からは出てこないような、視点がちょっと斜めな感じです。すごく長いシーンでも淡々と『ワンカットで行きます』と。でも面白かったです(笑)」

 議員事務所の同僚には、谷村と同じく私設秘書の岩渕勇気(赤楚衛二)、同・田中菜々(内田慈)、公設第一秘書の向井大地(音尾琢真)、政策秘書の濱口祐介(小市慢太郎)がいる。そのうち内田は前出の作品に出演している。

 「監督は言葉数が少ないですから、コミュニケーションを取ろうと思っても『アレ?』っていう感じになるんです。僕はそれが好きなんですけどね(笑)。『○○が好きらしいよ』と慈さんに監督の事を教えてもらっていて(笑)。りえさんと慈さんがいると会話が弾むんですよ」

 周囲を明るくさせる内田、そして宮沢。

(C)2021「決戦は日曜日」製作委員会

「光」宮沢りえ

 宮沢演じる有美は、勉らが支える新人候補。突然、父の地盤を引き継ぎ仕方なく出馬することになった令嬢だ。政界には無知だが情熱だけはある。しかしそれが空回りして周囲を翻弄する。舞台挨拶で窪田は「りえさんは太陽のような存在。今まで見たことがないりえさんが見られます!」と期待を寄せていたが。

 「りえさんが魅力のある方というのは誰もが知っていると思いますが、現場に入られたことがすぐに分かるぐらい太陽みたいな方で、周囲を明るく照らしてくれます。それは有美にも通じるところがあって、汚れた真っ黒い世界にこれだけの光を持った人が現れて、事務所も光を帯びていく。あれは役ではできないと思うんです。ずっとまぶしいですし、キュートです」

 そんな宮沢とは、窪田の妻で女優の水川あさみと親交が深い。NHK大河ドラマ『江〜姫たちの戦国〜』(2011年)で浅井三姉妹を演じて以来の仲だ。

 「それまでは高嶺の花という印象でした。僕は初めすごく緊張していたんですが声をかけて下さって。共通の話題からいろんな話に膨らんで。すごく身近な話をりえさんとできるとは思ってもいなかったので、家庭的な印象へのギャップにハートを持っていかれました(笑)」

 そんな宮沢だからこそ生まれた愛嬌のある「川島有美」という人物。宮沢でなければこの作品は成立しなかったとも語る。

 「事務所に登場したその瞬間から、一人だけ空気が違っていました。でもそれは作ろうと思ってできるものじゃない。有美はこの世界にはふさわしくないけど、誰よりも正論を言っているから候補者としては誰よりもふさわしいんですよね。この国に光を当ててくれる人が候補者になるべきなんですけど、秘書側は『そんなに熱量いらないでしょう』と。でも結果、翻弄されていって、最終的にはこの人について行きたいと思わせるんです。実際に現場でそう感じましたし、りえさんじゃなかったらこの作品は成立しなかったと思います」

「陰」谷村勉

 そんな宮沢に対し、窪田はどう向き合ったのか。

 「その人としか出来ないものが必ずあると思っていて、とにかく有美を吸収していきたいと思いました。そう意識すると『こうやって演じるのか』とか『それ以上は踏み込まないんだ』とか色々発見があって。作品はみんなで作り上げていきますが、それでも役者は個の集まり。常に自分の軸がないといけないと思っています。なので、それぞれのスタイルを味わえたのはすごく楽しかったです」

 それは音楽でいうところのジャズセッションにも似ている。

 「まさにそうですね。例えば演劇をやられている方だと全然違って、後ろの引き出しがとんでもない量なんです。育ってきたものというか、培ってきたものは必ず出てくると思うので、一緒にやっているうちにそれを紐解いていきたいという欲はいつもあります」

 宮沢を「光」と形容した窪田だが、演じる勉は「陰」ともいえる。事なかれ主義の議員秘書で感情を表に出さず淡々とこなす。坂下監督は勉という人物を「働く人なら誰もが『わかるわかる』と共感できる人物でありながら、その忠実さに怖さも感じる難しい役」と解説している。全幅の信頼を受けた窪田はどう向き合ったのか。

 「彼は過去にやってきたものでしか先が見えないんです。彼の中には核はない。からっぽというか、自分が中心になって考える事がないから、自分の思考がないわけです。ずっと有美の父で衆議院議員の昌平に付いていって、言われた事をやっている。もともと器用な人ではないのに、でも自分では出来ると思っている。有美に言われ『やりますよ!』と言うんですけど、全然対応ができないという。有美もめちゃくちゃだけど、彼自身も全然ダメ。自分の気持ちを押し殺すことが仕事でもあるから、そうなったのかもしれないんですけど…。なので、そこを表現しようと意識はしていませんでした。本当に有美に振り回されればいいやと思って演じていました」

 そんな「不完全」な勉にも期待を寄せている。

 「彼はスイッチが入ったら早いんですよね。娘が私立に通っているとか色んなことがあっても、簡単に気持ちが切り替われる。それは良いところでもあるけどマイナスでもあって。でも人間として完成してないからこそ、やりがいは感じられるんです。見てみたいのはその先。この作品には描かれていないんですけど、勉がこの先どうなっていくのか。きっと彼は次のステージに行っていると思うんです。その“過程”がこの作品には描かれていて、殻が取れて、染みついていた汚れやアカみたいなものが取れたその先も想像してほしいですね」

(C)2021「決戦は日曜日」製作委員会

役者・窪田正孝が大事にしている「せめぎ合い」

 そんな窪田が演じる時に大切にしていることは何か。

 「今まですごく力が入っていたんだなと思うんです。グっと肩に力が入っていたんだなと。それを今すごく感じていて、リラックスすることが一番だなって思っています。体で体現しようとしても力が入っていると喉で止まってしまいますし、それは物理的なことかもしれないんですけど、そういう肩の力を抜いてもっと余裕を持って演じたいです。それと監督との距離感は意識しています。自分は『こう表現しようと思っています』ということと、監督の求めているところのすり合わせを大切にしています」

 それでは今回はどうだったのか。

 「監督は言葉数が少ない方でしたが、最初にもらう『OK』で『このラインまではやっていいんだ』という線引きが出来るんです。そこから『ちょっとこの線をまたいでみようかな』とかやって『そこまでやらないで下さい』と言われたら『やっぱりここまでなんだな』と再認識して。でも登場人物はラインの中だけで生きるわけではないですから、『ちょっと違う方向から超えてみよう』とやってみることもあるんです。その試み自体が役の幅を広げてくれると思っています」

 そうしたせめぎ合いのなかで生まれた勉。そして有美をはじめとする周囲との“セッション”は本作の見どころの一つとも言えそうだ。そして、「今まで力んでいた」とも語った窪田にとってこの3年はリスタートする意味でも大事な期間だった。大きく影響したのは「結婚」。

 「今はすごくゼロな状態で、やりたいことも色々と出てきていますし、これからどうしていこうかと。プライベートも大事にしていきたいです。これまでは仕事が入っていないと不安だったんですけど、今はプライベートでインプットする時間も大事にしないと出せるものも出てこないと思っています。なので、今が一つの原点なのかもしれないです」

 それは「役者・窪田正孝」にも大きな影響を与えている。

 「役者はプレイヤーで表に出る仕事だから、自分を着飾ったりする事もあるんです。特に20代の頃はかっこつけたり、良く映りたいとか、この作品で残したいという思いが強かったんですけど、今はそれよりも溶け込む方が楽しくなっています。今までは芝居を足し算していて『自分で役の強弱をつけないと』と勝手に思っていました。だけど最近は引き算する方が楽しい。何も飾らないというか、何も付けないというか。そういうことに気付けたのは結婚して間もなかった頃かな」

 結婚の翌年に、「恩返しができた」と語る三池崇史監督作『初恋』が公開され、更にNHK連続テレビ小説『エール』で主人公を演じた。そうした“過程”を経て迎えた『決戦は日曜日』。勉と同様にこの先に迎えるのは「新たなステージ」。

 「『決戦は日曜日』は僕にとって貴重な時間でした」

 役者として成熟してきた彼が見せる新たな一面。その一端がこの作品に表れている。

窪田正孝

(おわり)

ヘアメイク:糟谷美紀(かすや みき)
スタイリスト:菊池陽之介(きくち ようのすけ)

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冨田味我

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