INTERVIEW

園子温監督×藤丸千×黒河内りく

原動力は「映画の片思い」、『エッシャー通りの赤いポスト』撮影裏側


記者:木村武雄

写真:木村武雄

掲載:21年12月24日

読了時間:約10分

 園子温監督の最新作『エッシャー通りの赤いポスト』が25日に公開される。2019年に心筋梗塞に倒れ生死の境をさまよった園監督がハリウッド進出と同時に原点回帰した作品が本作。園監督と言えば『愛のむきだし』『冷たい熱帯魚』など怪作を生み出してきた名監督。その根底に描かれるのは人間の欲情だ。本作は自身のワークショップに参加した役者51人とともに作り上げた青春群像劇。俳優を志す若者たちの叫びをリアルに描くとともに映画制作の“今“に鋭く切り込む。もともとシンガーソングライターを目指していたとも語るその園監督が映画に込める思いとは何か。本作で園監督に見出された主要キャストのうち藤丸千、黒河内りくを迎え、鼎談で迫る。【取材・撮影=木村武雄】

(C)『エッシャー通りの赤いポスト』製作委員会

制作の経緯

――制作までの経緯を教えてください。

園子温 流れ的には内容が決まっていたというか。ワークショップの映画なので、ワークショップに来ている俳優の卵たちに出演してもらいました。俳優を目指して、これから頑張ろうとしている人たちがどういう生き方をし、どのようにオーディションに来たか、そういう一つのドキュメンタリータッチというか。もしかして本当の彼らの姿かもしれないくらいにしていきたいなと思い書いていったら自然とああいうストーリーになりました。

――ドキュメンタリータッチということですが、どのように演じられようと思いましたか。

藤丸千 私が演じた安子という役は、オーディションの台本の時から存在していた役で、その前日に追加でセリフが来て読んだらオーディションシーン丸々で焦りました。オーディション当日、すごく雨が降っていて、台本の中にあるような状況だったんです。それで何か掻き立てられるような感覚になって、台本の通りに安子がオーディションに来たつもりで受けてみようと思いました。その時から安子を演じたかったので、決まった時は嬉しかったし気合いが入りました。

――台本からキャラクターが出来上がっていくわけですけど、ああいう形になったのは。

園子温 結局オーディションで選んだ人が最初に書かれた台本より多くなったので、オーディションをやった数名の女性だけでは成立しなかったんです。選ばれたなかでちゃんと演技して欲しい人がいたので、その人たちの為に役が増えていきました。

点滴打っての撮影

――安子はなかなか強烈な個性を放っているので、普段のご自身とどのくらい乖離があるのかなと。

藤丸千 だいぶあります。彼女の言葉に共感するところはありますが、生い立ちはもちろん普段のテンションも乖離はあります(笑)

――オフィシャルコメントには「一発かましたるぞ」と書いてあるんですが、安子と重なるところがあるような気もします。

藤丸千 「絶対この役を取りに行ってやるぞ!」という意味での「よし一発かましてやるぞ!」でした。もちろん演じるのは私なので、私の面が出たり応用することはあります。ただ安子はオーディションに行って衝撃を与えて帰っていくので、その衝撃を与える意味でそういう言葉になったんだと思います(笑)

――黒河内さんはいかがですか。「自然体で演じた」と言っていましたが。

黒河内りく 監督から「もっとこうしたほうがいい」というアドバイスはあまり無かったので、自分の想像した切子を表現してみました。

――吹っ切れるシーンも印象的でしたが、その日は病院に行って点滴を打って臨んだと。

園子温 勢いあまって壁に激突しちゃったから。

黒河内りく 豊橋にインしたときから喉の調子が良くなかったです。

園子温 頭ゴッツンしたから行ったわけじゃないんだ。

黒河内りく それは後でした。喫茶店から飛び出すシーンで滑って転んでしまったんですよね。いい思い出です(笑)

園子温 その日が誕生日だったんだよね。その撮影の後は誕生日ケーキをみんなで囲んだっていう。

黒河内りく 楽しかったですし、嬉しかったです。

園子温 点滴ありの誕生日ありの(笑)

黒河内りく あれは撮影中の憩いでした(笑)

――「憩い」という事は、撮影は相当大変だったんですね。

藤丸千 11日間で撮っているので息を止めての全力疾走みたいな感じでした。宿泊の時はホテルに帰ってすぐに寝て、東京での撮影も夜遅くに寝て朝早く起きるという感じで。スタッフのみなさんの方が大変だったと思うんですけど、そういう意味でケーキを囲めた空間は憩いでした。

道路工事シーンの真意

――印象に残っているシーンはありますか。

黒河内りく ラストのシーンは一番印象が強くて、悔いはない感じで終われているので、またそこで思い返すことはないというか…。

藤丸千 私は最後の小林監督(山岡)が「俺帰る!」って言って、走り出す瞬間です。画的にもすごく面白くて、地元の子供がそのまま映りこんでいるんです。商店街のシーンからラストにかけてのカットは非常に魅力的です。

――園監督作と言えば走るシーンが定番にもなっていますね。

園子温 でも久しぶりなんですよ。最近は走るのを止めていたきらいがあるので、あんまり走ってないんだけど、久しぶりに疾走というのをやってみました。

――それとオーディション参加者がその道中でぶつかる「道路工事」のシーンが印象的でした。いろんな意味が込められているように思えます。

園子温 ちょうど香港で若者たちのストライキも始まっていたのと、社会的なものをあの工事現場に含めていて、なかなか思う通りにはいかない、融通が利かない日本のモラルとか、ありとあらゆるしがらみみたいなものがあの工事現場にはあって。すんなり通過しようと思えばできるよというメッセージも含んでいます。そういったものが最後の交差点にも大きく出ているんじゃないかな。

原点になる作品

――2人にとって、園監督の作品に携われた経験はどういう影響を与えそうですか。

藤丸千 一言でいえば、宝物です。まだまだ現場に出た数が少ないですし、大変学ぶことも多くて、役者は本来モニターを見るもんじゃないんだぞと言いながら、自分がいま出力した演技がどのように画面に映っているか見せて下さったりして、大変学びの多い現場でした。

――覚悟みたいなものが突き付けられたみたいな。

藤丸千 アパートの前でマスコミに向かって吠えるシーンで、監督が「そのまま自由にやりなさい」と言って下さったその言葉というのは、今も背中を押してもらえるような、勇気と覚悟をもらいました。そのシーンは台本が終わってもカットが掛からず、アドリブで回していたんですが、カットが掛かった瞬間、今ので良かったのかと思って。でもその時に「いいぞ、そのまま自由にやれ」って言ってもらえて。それが本編にもアドリブ部分が採用されていたので、予告編の「カメラはな、愛しているやつに向けんだよ」のところが、自分が信じられる表現をすれば、役もそうですし、監督も、作品自体が答えてくれるんだと実感を得ることができました。これからもブレずに役者としてまい進していければなと思います。

――黒河内さんはいかがですか。

黒河内りく 私は俳優として、黒河内りくとしても、原点になるかなと思っていまして、この作品が初めての役であり、セリフであり、初めて必要とされていると感じた現場なので、私の人生が決まったというか、どうしていくべきかというのが決まったきっかけになった作品じゃないかなと思っています。

――オフィシャルでは「いばらの道を歩んでいく大きな決断にも」と言っていますね。

黒河内りく 役者って、人の心でお仕事するというか、それってすごくきつい事だなと思っているので、個人的にはそういう事をいばらの道だと。

――人と対峙するのが大変ということですね。

黒河内りく そうです。

――監督は過去に、俳優をキャスティングする際に良いと思ったら会わなくても使うというようなお話をされていましたが。

園子温 自分の趣味ではなくてね。そういうのはたくさんあると思いますけど、面白いとか関係ないですよね。

――逆に監督が面白いと思う人はどんな人ですか。

園子温 黒河内さんは、安定したオールマイティーさがある。千ちゃん(藤丸)の面白さは人によるかもしれない。僕は安定した着実な人より、逸脱していても何か光るものがある人の方が好きかも。落ち着いた安心できる演技みたいなのをあまり求めていないのかもしれない。

――どれだけ強い個性を放っているかということですか?

園子温 そうですね。でも、そういう人達とはさんざん仕事してきて僕自身が疲れ果てているというか(笑)。安定した芝居みると、やっぱりこっちで良かったなと思うこともたまにあって。撮影した後、絶対疲れないだろうなって(笑)。

叫びを歌に

――本作では「誰もがヒーローになれるんだよ」というメッセージも込められているような気もします。監督は病気をされて「生まれ変わった新人になったつもりで」とも語っていますが、今の若い人に伝えるとしたらどんなメッセージですか。

園子温 安易に生きていると、人生、この日本という物語の中でエキストラとして流されていってしまうから、どこかで自分をメインキャストにした自分の人生を組み立てていかないと、ぼんやり地球のお客さんとして過ごして、いつの間にか死んでしまうよって。だから、もっと危機感を持って生きて欲しいなって。そういう気持ちは常にあるし、この映画のメッセージでもあります。

――俳優さんにインタビューすると監督の作品に影響を受けている人が多いです。例えば『ヒミズ』を見てすべての感情があそこに詰まっているから、私はああいうふうに感情を吐き出したいと役者になった人もいて。監督の作品には熱量を感じますが、青春のような尊いものとその熱量を、歳を重ねてもあそこまで出せる理由はなんですか。

園子温 映画監督になる前は、シンガーソングライターになりたかったんですよ。自分で作曲した歌を歌って。でもそれを叫ぶことをやらなかった分、映画の中で俳優たちにひとつのシンガーのようにシャウトして欲しいなと。それで僕のやれなかったことを肩代わりしてやってほしいというのが大きくあるのかもしれないですね。

――シンガーソングライターって色んな方がいると思いますが、自分のなかで沸々と煮えたぎる不満や問題、怒りなどそうした思いがないと歌には出てこないと思います。恋愛ソングもありますが。普段から溜め込んでいるものはあるんですか。

園子温 めちゃくちゃあると思います。そもそも10代の頃は詩人でデビューするんだろうなと自分では思っていて。シンガーソングライターもそうですが、僕は個人的な表現で攻めていく人生だと思っていたら、総合的に監督をするという立場になっちゃったんだけど。それなら少なくとも、俳優に力を借りて、自分ができなかった叫びとか主張をセリフにのせて、さも自分がステージで歌っているかのごとくに演じて欲しいなっていうのがあります。たまに俳優たちに歌わせたりするんだけど、どこかそういうのが大きいのかなと思います。

藤丸千 歌で思い出したんですけど、雨のシーンで台本に音符がついていて、私、園監督のショートソングシリーズが好きで、いつも現場で、即興で作られるってメイキングで見たことがあったので、きっとここにも園監督のオリジナルソングが付くに違いないって思っていたら、はい、回すよって言われて。あっ歌ないんだって(笑)。苦し紛れに「雨に唄えば」で。でも、あそこの音程から先覚えていなくて。

園子温 今回も曲は作って現場でエキストラの歌を入れたいなと思っていて、撮影の15分くらい前にちょっとギターで作曲してみたんですよ。

――監督いつも現場にはギターを持って来られているんですか。

園子温 いや、そんなことないんだけど。『(プリズナーズ・オブ・)ゴーストランド』の時もやったよね。撮影のギリギリまでここに歌を入れたいなと思って、思いついたものを撮影のギリギリに伝えるんです。作ったのがギリギリだから、ギリギリにしか伝えられないんだけど。エキストラのテーマ曲も現場でここで歌っていこうと思って作ったんですけど、なかなか良い曲になったので、今度ニコラス・ケイジに歌ってもらいたいな(笑)

――豪華ですね(笑)。商店街のシーンもミュージカル調ですごく良いなって。ああいう華やかさも良いですね。ふと作曲が湧くんですね。

園子温 そうなんです。現場でムードが作られれば作られるほど曲が湧くので。だから用意しない方がいいですね。用意しないで現場のムードの中でやった方が面白い曲が作れるので。シンガーソングライターのなごりですよね。

――逆にそこでシンガーソングライターが出来ているというのはいいですね。

園子温 友達にミュージシャンが多いので。オカモトレイジくんとかとよく飲むので、今年は絶対デビューアルバム作るよ!分かりました!って毎年言っているんだけど、どうしてもまだ作れていないんだよね。

映画愛

――監督から、いばらの道に進むと決めたお二人にシャウトするとしたら。

園子温 映画監督もいばらの道ですけど、そう思ったことはないというか、思えば思うほど、つらくなっちゃうので。なにが僕を支えてくれているかというと、映画愛なんですよ。劇中でも出てくるけど、邪悪なプロデューサーたちに翻弄されたり、実際にそういう経験はあるわけです。そうしたことにめげずにやってこれた理由というか、これからもやっていく理由は、映画への片想いです。映画に愛されているかどうかは疑問が多いんですけど、愛することをやめない。片想いとして。その片想いの気持ちを維持すれば俳優も苦じゃないというか。愛されないんだったら、愛すのをやめたじゃなくて、一方的に片想いして愛し続けること。これが一番の苦楽を共にできる、俳優をやることが苦じゃないということが可能な唯一の道であると思います。

――お二人はそういう言葉を頂いて、ここで監督と約束みたいなものを交わすというのはどうですか。5年後、10年後の。また何年か後に監督の作品に出たいとか。

黒河内りく 撮影中に監督から「今後どんな作品に出たいですか」と聞かれて、撮影終了後に「また園子温監督の作品に出たいです」ってすでに宣言しているんです。次は切子を超えたレベルの高いところで自分を磨きながら挑みたいというのが目標です。

藤丸千 安子という役で出した面とは違う役で、また園組に戻って来られたら、そんな幸せな事はないと思います。

(おわり)

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木村武雄

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