INTERVIEW

稲葉 友

「重力ある役者」、『ずっと独身でいるつもり?』で見せたバランス感覚


記者:木村武雄

写真:木村武雄

掲載:21年11月22日

読了時間:約8分

 俳優の稲葉友が、映画『ずっと独身でいるつもり?』(ふくだももこ監督)で、田中みな実が演じる主人公・本田まみの年下彼氏・橋田公平を演じる。現代を生き抜く女性の不安や寂しさ、希望を描いた作品。公平は一見申し分ないイイ男のように見えるが、物語が進むにつれダメ男っぷりが出てくる役どころだ。「男のそういう所をあるぞというのを6、7人分まとめたような役」と振り返る稲葉はどう向き合ったのか。【取材・撮影=木村武雄】

自ら演出、発見も

 稲葉は10月・11月と舞台『ともだちが来た』に挑んだ。自身が企画し、演出をキャストの稲葉、大鶴佐助、泉澤祐希自らが行った。『ずっと独身でいるつもり?』取材時はまだその稽古期間だったこともあり、どのように向き合っているかをまずは聞いた。

――演出家を設けない舞台に挑戦されますが、稽古はいかがですか。

 楽しくやりながらも、大変さや難しいと思うことに直面しています。演出家という船頭がいないなかで組み立てていくのが難しくて。やりながら、見ながら、考えながら、作りながら僕らは進めていて、一人一人が色んなことを考えなくてはいけなくて、他人の脳みそに依存していた部分を自分達で考えたり発想したりしなくてはいけないという所がなかなか大変です。いつもお芝居に集中させてもらって作品に参加させてもらっているんだなとつくづく思います。

――客観的に見ないといけないですね。

 演出を自分達だけでやっているので、平坦になってしまう恐れもあって。むしろ色んな所がどんどんチグハグになったり、減ったりして、またそこから上げたり、下げたりして。今回じゃないと出来ない経験だなと思いつつ、改めてすごく大変だなと思います。俳優だけじゃ何も出来ないっていうのはコロナ禍で思い知りましたが、スタッフさん達がいないと大変だなって改めて思いました。

――これを通じて、芝居に集中できることのありがたさを改めて感じたんですね。

 根源的な所に立ち返るというか、セリフを言うというのは、相手が居て初めて言えて、一人のセリフでもプロットを見せるだけじゃしょうがないというか、人間関係が立ち上がっていかないと目の前で観ているお客さんは何も楽しくないんだなと今ひしひしと考える日々です。

稲葉友

公平が歩んだ人生に向き合った

――本作でいうと田中みな実さんと作り上げていく感じですね。どんな印象を受けましたか。また現場で対峙した時の印象は。

 あまり先入観は持っていなかったのですが、ご一緒するとなってテレビやラジオなどを聞いて調べていくなかで、本当に頭もいいし、色んな事を考えて配慮されて心配りが出来る方だなという印象がなんとなくできていきました。でも実際に現場でもそうで、心配りも堅苦しいものじゃなくて、とても柔らかい場の空気を良くする、いるだけでパッと明るくなる、花のある人だなと感じました。あと、かっこいい人ですね。色んなお仕事をされているので、プロという事に対する基準やハードルが高めに設定されていて、自分に厳しく、日々戦っている方なんだなと。

――田中さんが作った雰囲気があったからこそ、公平というのも自然と出てきた感じですか。

 その空気に助けていただきましたが、でもそこに飲み込まれると「いいヤツ」というだけになってしまうので、役としてはむしろこちらから持ち込まなきゃいけないものの方が多いので、安心して色々ぶつけられた感じです。

――公平は女性にモテるんだろうなって。

 男女問わず人にモテるかもしれないですね。

――でも、イラっとするところもありますね(笑)

 あれは難しい所で、本を読んでもすごく象徴的というか。男の良くない所を6、7人分くらいぎゅっとしたような人です。無神経だったり、前時代的な言葉を悪意なく吐いてしまう所は、まみの視点で切り取ると人がイライラするというのが、本にも書かれていたので、その感想を抱いていただけてとても嬉しいです。ただ演じる上では、イヤなヤツと思ってはいけなくて、むしろ彼の良い所をたくさん探しました。彼の人生を考えて進んでいくと、ああいう言葉を悪意なく言えてしまう理屈が分かるというか。尚且つ観ていて「ああいう言葉は自分は言わないよ」と男として思うところを、実は言っているんだよと気づかせるというか。どこかでたぶん言っているんですよね。無自覚で悪意のない、相手の為を思ってくらいの感じで。公平を通じて、自分を振り返って反省するみたいなところもあったので、すごく良い役をいただいた気分でした。

――稲葉さんがおっしゃったように、初めは公平に対してイラっとするんですよ。でも振り返った時に「それ、俺もやってるわ」ってなる。

 直接あの言葉じゃなくても、そういう節あったなと思うことはありますよね。だから男性側として「一緒に気を付けましょうね!」って感じです。同志ですね(笑)。

――その一方で女性は公平のようなタイプに母性をくすぐられると思うんです。でも男性から見たらそうではない。それを演じるのが相当難しかったのではないかと。

 ちょっと前の作品だったら、男がいっぱいいて、こういう女いるよねっていう役が多かったと思うんですけど、それがひっくり返って、女性たちのなかに男がいる。この物語では男が象徴的な立場でもあったので、イヤなセリフをイヤな風に言ってその役割を果たす。そんな立場でもあったんですけど、でも演じる身としては公平には公平の人生があるんだと思ってもらえる質感が出たらいいなと思っていました。だから、女性にはモテるんだろうなと思われたのはすごく嬉しいです。公平は悪くない良いヤツと思って作って行くことを注視していましたので。みんなに最低だと言われても「そんな事ない、公平としては何も悪い事言っていない」と信じて演じていました。でも、出来上がりを見たらひどい事言っているなと思いましたけど(笑)。

――それと、ふくだ監督から言われたことは?

 公平が象徴的な役だったので、あからさまにそういうふうにすることも可能ではあるんですけど、そうではなく、公平を地に足の着く感じに一緒に導いて下さったというか、ちゃんと公平の人生を尊重してそこに居させてくれた感じがありました。すごく良いバランスをとって下さった感じはありました。試写観終わった後に会って「重力ある役者さんで良かった」と言って下さって、僕はそれを地に足付けてというニュアンスで受け取りましたが、それがすごく嬉しかったです。

稲葉友

役者としての幸せは身近に

――ところで普段作品に向かう中で大切にされていることは何ですか。

 そこで生まれる物みたいな事ですかね。もちろん読んで準備していくのは当然各セクションあると思うんですけど、それが寄り集まって、実際に現場でお芝居が行われた時に生まれた事を否定しないでいられる、キャラクターの心でいられることが必要だと思っています。ガチガチに作り込むのはいいんですけど、それで身動き取れなくなったら元も子もないし、準備不足で来られても困るし。その自由を利かすための積み重ねというか、何もしないで急にはフリーに動けないし、当然セリフは入っていて、本の流れが把握出来ている上で、この後に繋がる事が自然と相手の役から引き出されたりするので。それが生まれるような状態で臨むということですかね。

――舞台とドラマは別物だと思っているんですけど、稲葉さんは一緒に捉えているような気がします。

 もちろん違うけど、あまり分けていないです。舞台の場合は目の前のお客さんをより物語に集中させやすいというか。なによりすぐリアクションがあったり、空気を共有出来る所が舞台の素晴らしい所。対して映像の撮影現場は、その場でどんどん組み上がって行く。どちらもテクニカルだったり、違いはありますけど、必要な事や、やらなきゃいけない事とか、大事な所は同じだろうなと思います。

――ご自身が活動する上で原動力になっているものは何ですか。

 そんな尊くなくて良いかなと思うんです。お客さんが応援してくれて力になるとか、現場で幸せな体験が出来るとか、こうして公開に辿り着いたりすると、また頑張ろうと思えたりしますし。仕事していて、よく「早く帰りたい」と言う方もいらっしゃるじゃないですか。最近は僕もそう思うようになって、早く帰ってゲームしたいとか、お風呂に入りたいとか、人間的で良いよなって思うようになってきて。

 その瞬間の為って言ったら格好つけすぎですけど、幸せの瞬間って毎回あるわけじゃないけど、色々とお仕事をさせて頂く中で、「うわー、やっていて良かった」って思う瞬間ってどこかに転がっていたりして。それはお芝居している最中に生まれたり、カーテンコールの時に込み上げてきたりとか、このご時世、集まって映画館で公開出来るというのは、すごく有難い事だし。そう考える時間があったからこそ、今跳ね返りの感動も大きくなっているというか。始まれる事とか終われる事とか、元々当たり前にやれていた事が尊くなっています。みんな(CPR検査で)陰性だったからまた公演が始まれるとか、そういう何気ない事ですかね。そういう感動で生きていけているなと思います。

――役者さんもコロナのダメージが大きかったですね。

 顕著だったんじゃないですか。多分一番動けなかったですよ。再開してもどの業界もですが大変な事が多いし、それでもやるんだから、やる意味ってあるんだろうなって。辞めたら分からないですから。続けていたら何かあるんじゃないかなとどこかで思っている自分がいます。

――稲葉さんは、すごく自問自答される方だと思うんですけど、その答えを求めていないですよね。

 たまにこういう事にしようとパッケージはするんですけど、それがどんどん変わっていったり、増えていったりする感じです。

――考えている時が一番好きだったりしますか。

 いや、きついですよ。これだってやっていたいんですけど、「これだ!」もそんなにもたないじゃないですか。これだと思って突き進んでも、その正解自体も疑い出したりして、それが邪魔になったりして。考え続けるという意味ではそんなに間違っていなくて、その時その時でちゃんと自分の中でこうすると決まれば、あんまり悪い事ではないと思うんですけど。こういう仕事ですから。極端に言うと、完結しちゃうと辞められちゃうので、暫くこんな感じで続けると思います。

――改めて今回の女性にフォーカスしたものですけど、自分としての見どころは。

 人生様々なステージの段階があると思うんですけど、どの段階で見ても、どこかクッと胸に刺さるシーンがあるような作りになっているので、広く見て頂きたいですし、すごく息がつまるこの時代に、背中を押すとか、手を引いてくれるとか、劇的、爽快とかではないですけど、映画を観終わった後、観る前よりも上を向けて、ちょっと息が深く吸えるようになっている、そんな映画だと思うので、是非見て欲しいです。

稲葉友

(おわり)

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