INTERVIEW

井口裕香

『劇場版オトッペ』歌に溢れた涙のワケ。原動力は「好き」と「笑顔」


記者:木村武雄

写真:木村武雄

掲載:21年10月16日

読了時間:約6分

 2017年からNHK Eテレで放送中の大人気子ども番組「オトッペ」で“風のオトッペ”・ウィンディの声を演じる井口裕香。そのウィンディが主人公となる初の映画化作品『劇場版オトッペ パパ・ドント・クライ』が現在公開中だ。町一番のグータラで気まぐれな性格のウィンディが、突然現れた自分そっくりな赤ちゃんオトッペ・リル(稲垣来泉)の子育てに奮闘しながらも大切なものに気づいていく物語。音を題材にした作品ともあって劇場版はミュージカル。そのなかで井口は、感情が溢れ涙が抑えきれなくなった曲があるという。それはなぜか。これまでに数多くのアニメ作品に出演し、更に歌手としても活動する彼女の原動力は何か。【取材・撮影=木村武雄】

井口裕香

5年で培われたもの

――テレビ版は放送開始から約5年ですが、番組がスタートした当時はどのような思いで臨まれていましたか。

 放送時間約5分のアニメでテンポもいいので、収録も駆け抜けるようにあっという間です。しっかり時間を取って作ってはいますがあっという間に終わってしまう感覚ですので、もっともっとやりたいと思っていました。そんなときにどんどん続編が続いて、そして今回劇場版になってすごく驚いています。

――5分尺だとキャラクターの内面を描き切れないこともあると思いますが、劇場版を試写してこんなキャラクターだったんだと驚くことが多かったです。

 新しい表情も見せてくれました。好きな事には一直線のシーナや、しっかり者のメタルクといったいろんなキャラクターがオトッペの世界にはいますが、その中でもウィンディはダラダラ・ぐうたら担当で、楽しい事や自分の興味のある事に向かって行動する自由気ままなキャラクターです。今回の劇場版で突然パパになり、守るべき存在が出来て、今までも彼の中にはあったんだろうけれど描かれていなかった優しい部分や、頼りになる部分、誰かの為に頑張る部分など新しい一面が見られました。

――演じるにあたってはどのようなことを意識されましたか。

 劇場版だからといって大きく変化させる意識は特にありませんでした。今回はミュージカル映画という事で、歌だったり、お芝居だったり、色んな感情の表現の仕方がたくさんありました。歌に乗せて彼の気持ちを表現するのも、ただ歌うだけではなくて、力を抜いてみたり。テレビシリーズではない表現の仕方がありましたので新しい挑戦でもありました。でもこの5年の間に自然と培われていったものがベースにはあって、意識して「これを引き出そう」というのはありませんでした。

――声優として、一つのキャラクターを長く演じるというのはどういう思いですか。

 本当に嬉しいです。昨今、長く続く作品はなかなか無いですし、より作品やキャラクターに愛着が湧きます。長くやらせて頂く中で今まで見た事のない表情を演じる事が出来る楽しさもありますし、観ているお子さんも成長していきますので、出会いも大きく広がるといいますか、今まで接点の無かった視聴者の方とコミュニケーションが取れています。そういう意味でも約5年続く長い作品で、お子様向けというのは私の中では大きいです。

井口裕香

号泣「だっこひもセレナーデ」

――キャラクターとして歌う難しさはありますか。

 やりがいがあってすごく楽しいです。難しい点で言うと、劇場版では画が出来上がっていますので、その表情の流れに合わせて感情を乗せながら歌う点です。でもそれもたまに思うぐらいでした。私自身が、自分で歌うよりもキャラクターとして歌う方が楽しく出来るタイプですのですごく楽しかったです。

――今回はミュージカルということもあって表情に合わせた歌い方が難しかったんですね。

 そうです。ただ上手に歌うのではなくてウィンディの感情や表情を意識しました。ミュージカルは、感情が溢れて歌になると思っていて、楽しさ、しんどさ、子育ての時の大変さを彼の表情に合わせて表現出来たらいいなと思っていました。

――印象的な曲に「よりみちデュエット」、「だっこひもセレナーデ」、「ベイビー・ドント・クライ」があります。なかでも「よりみちデュエット」の<いつかは大人に>というフレーズの歌声は美しいと思いました。あれはデュエットですか。

 そうです! 先にリル役の稲垣さんが収録をしていたので、それを聞きながら歌わせて頂きました。稲垣さんが可愛く歌ってくれていたので、私はリルに寄り添う形で歌いました。

――声の重なりが美しくてすごく良かったです。

 このシーンのウィンディは、シーナ達と一緒にいる時とは違う、リルに出会ったからこその表情で、頼りになるお兄ちゃんの様なお父さんの様な、自分自身もまだドキドキしているすごく可愛い顔や動きをしているので、私も好きです。

――後半になるに連れて、声の変化にも表れているなと。

 そうであると嬉しいです。

――「だっこひもセレナーデ」はグッときます。悲しみと温かさが入り混じった歌声で。

 この曲はテスト収録の時にすごく泣きました。収録スタジオには窓がありましたが、顔を乗り出さないと見えない状況でしたのでスタッフさんは誰も気付いていなかったと思います(笑)。ただ号泣しながらの収録でしたので「これじゃだめだ」と思って一旦気持ちを整理してやって、結果良い所に落ち着いたんですけど、感動しすぎて自分の感情になりすぎてしまうのは良くないと。あくまでもウィンディの気持ちですので、ここの音はもうちょっと上げた方がいいとか…。

――それは気持ちだけでなくて、歌い方、例えば抑揚や声質も意識された?

 例えば<僕は見守っているよ>という終わり方も、ただただ自分の感情で泣いた歌声と、ウィンディが我慢して堪えながら表現する歌い方とでは違うといいますか。言葉でうまく表現しづらいんですが、そんな感じです。

――感情をダイレクトに歌声に乗せる感じではなくて、それが溢れすぎないように抑えながら歌ったということですね。

 もちろん気持ちを込めて。結果、何回かやらせて頂きました。

――そうした繊細な表現があって結果「悲しみと温かみ」が同居した歌声になったんですね。

 そうなっていたら嬉しいです。ただ悲しいわけではなく、「見守っているよ」という言葉ですので優しさもほしいですし、決して後ろ向きではなく前向きな涙なのでそういう温かさみたいな、懐の深さみたいなものを表現したいと思っていました。感情の波に溺れてしまうとそれが表現できないと思い一旦冷静になりました。

――それはミュージカルだからこその葛藤であり、表現できたものですね。

 そうですし、5分アニメの中では表現出来ない心の動きでした。

井口裕香

原動力は「笑顔」

――劇中ではウィンディはリルの存在が原動力でもありますが、ご自身の活動の原動力になっているものは何ですか。

 私は上手く言葉で説明できるタイプではないので難しいんですけど、好きことを仕事にさせていただいていることが大きいですかね。

 キャラクターや作品を通じて、色んな表現が出来て、そこで終わりではなくて、それを観て下さる視聴者がいて。私自身もアニメが好きで育ってきていますし、小さい時からそういう作品に触れて、夢や希望ももらってきました。私と同じように、観て下さる方が日々生きる上での栄養素、活力になれているのかなと思うと、それがやりがいにもなりますし、観て下さる方の笑顔が原動力になっているとは思います。でも、誰かの為ばかりではなく、自分の為でもある気もします。

――自分の事を考えないと行き詰まっちゃいますから、良いバランスですね。

 自分の好きな事を、誰かと一緒に楽しい事を作っていって、好きな人たちが笑ってくれるのが一番嬉しいです。

――歌われている曲「おなじ空の下で」について語った過去のインタビューで、現状維持はしないという話がありました。それも重なりますか。自分が高見を目指していけば、その分、喜んでくれる人が増えていきますし。

 ウィンディがリルの為に頑張るように、身近な人の笑顔を見るのが嬉しいので、視聴者の方もそうですけど、監督が笑ってくれたり、マネージャーやスタッフが良い物が出来たなと嬉しそうにしてくれていると、もっと頑張ろうと思います。

井口裕香

(おわり)

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