INTERVIEW

中山咲月

向き合ったから強くなれた。悩んだトランスジェンダー公表までの葛藤。
フォトエッセイ『無性愛』に込めた思い


記者:木村武雄

写真:木村武雄

掲載:21年10月02日

読了時間:約7分

 トランスジェンダーであることを告白した俳優・中山咲月が、「同じ悩みを抱えている人が少しでも前向きになれたら」との思いを込めたのがフォトエッセイ『無性愛』(発売中、ワニブックス)だ。悩みを打ち明けることができなかった時期にしたためていた気持ちをエッセイにし、「生まれ変わる」をテーマにしたフォトページでは、短編映画のようなシチュエーションで様々なキャラクターを演じた。「逃げ出したくても向き合ったから強くなれた」と明るい表情で語る中山が、本作で表現したかった真の思いとは何か。【取材・撮影=木村武雄】

中山咲月『無性愛』(ワニブックス)

文字は思いを伝える一番の手段だった

 ビシッと決めたタキシード。規則的に鳴る紳士靴の音。どこか優雅だ。ステージ中央に立つと会場を見渡し軽く笑んだ。

 「公表してから生きやすくなりました。言って良かったです。この本は、自分を知ってもらう第一歩になると思います」

 その表情は晴れやかだった。

 今年2月にトランスジェンダーであることを告白した。中学生時代に芽生えた性別への違和感。しかし当時は「思春期特有のものだろう」と流した。だが、年齢を重ねてもそれは消えない。

 自身と向き合う機会となったコロナ禍。空いた時間を利用して映画をたくさん観た。その中の一つに『彼らが本気で編むときは、』がある。その作品で違和感が何であるかが明確になった気がした。それからの1カ月あまり、公表すべきか悩んだ。

 「人生で一番悩んだ時期だった」。彼が選んだのは自身を開放することだった。「明らかにした方が楽になれると思った」。公表後、今回のエッセイ企画が舞い込んだ。

 「出版させて頂くならパーソナルな部分も出したい」

 144ページには、様々なシチュエーションで撮った写真に、自身の葛藤を綴ったエッセイなどを収められている。記者会見では一点の曇りなしといった表情だったが、そこに載る文字は、陽を遮られた深い森のように暗く霞む。

 「エッセイは、今の自分の感情ではないんです。1カ月間悩んだ時期に心にあったモヤモヤをメモに残していました。この本を作るにあたり、エッセイにするならこの時のメモを使いたいと抜き出していきました。自分と同じように悩んでいる人にも届けたくて。でもこうして改めて読むと全く別人のような感じがします」

 取材では明るく饒舌に答えているが、もともと話すのは得意な方ではないという。

 「お店に行っても店員さんに目が合わせられないタイプでした。でもいまは自分から話しかけるぐらい。自分でも変わったなと思うぐらい明るくなりました」

 そう語る彼の目は輝いている。

 フォトページには、和服姿で執筆するカットがある。田山花袋氏の小説『蒲団』の世界観をモチーフにしたものだが、特別な意味があるように思える。

 「文字を書くことは楽しくて、そういうキャラクターを演じたいと思いました」

 中山にとって文字は特別な存在だ。

 「口にして伝えることがずっと苦手で、悩んでいた時期も口にできず、メモにすることしかできませんでした。人に悩みを伝える勇気はなく、文字に助けられてきた部分もあります。特に悩んでいた時期は、文字は自分にとっては伝える一番の手段でした」

 ここに載るエッセイは、当時の中山の心の叫びでもある。

中山咲月

 ここから一問一答。

向き合ってきたからこそ得られた「真の強さ」

――撮影は4月とのことですが、その時の心境はいかがでしたか。

 かなりすっきりした状態で撮影に臨めました。

――フォトページは、様々なシチュエーションでキャラクターを演じるように撮ったとのことですが、学生服で海に入っているカットが意味するものは?

 それぞれのキャラクターに「死」という裏テーマを設けていました。生命が途絶えるという意味ではなく「生まれ変わる」「殻を破る」という意味合いですが、学生服はわりと自分の経験に近いと言いますか、学生時代、辛くて海に入りたいと思ったことを、そのまま表現した感じです。そういうストーリーをそれぞれで考えました。少年っぽいキャラクターのカットは、車いすに乗っている時とそうでないと時もあって。

――不自由さを表現された?

 気持ちの部分での不自由さ、悩んでいた時の悲しみや苦しみを表現しました。これに限らず全てのキャラクターに、自分の生まれ変わりをイメージしています。今の中山咲月になる前はどういう人物だったのか、自分は公表して生まれ変わったのでそれを想像しながらいろんなキャラクターを作っていきました。

――写真には印象的な言葉が並んでいます。例えば「この葛藤の1つ1つが免疫となって――」。これは本当にそう思っているのか、それともそう思おうとしているのか。

 これは本当にそう思っています。辛いこともたくさんあって何度も逃げ出したいと思いました。それでも自分と向き合い戦ってきたからこそ、それが自分の強さになっていて。身に染みて感じていますので、その思いをそういう言葉で表現しました。

――「自分で守るしかない。」、「知ってもらうための行動力。」、この言葉はどんな方にも当てはまるものだと思います。

 ジェンダーの悩みではない方、例えば本当に生きていて辛いなと思うことは、性別、年齢に問わずみんな持っていると思っていて、「こういう人間でも悩みを抱えているんだ。頑張ろう」と思ってもらえたらいいなと思います。

――俳優を続ける意義にも繋がりますね。

 そうです。

――生きていてそれぞれに役割があると思いますが、ご自身はどう思いますか。

 自分自身が大きなものを背負っているとは思ってはいませんが、お仕事を通じてよく「個性的だよね」と言われることが多いんです。ファンの方から「個性って何ですか」「自分の個性が分からない」という相談を受けますが、みんなそれぞれに個性があると思います。誰一人として同じ人間がいないのと同じで、何か突出していないといけないというわけでもなく、その人が自分らしくありのままの姿で生きている、その姿こそが個性だと思います。

――無理に作る必要はないと、その人に合った生き方が個性ということですね。

 苦しいや辛いと思うということは、どこかで無理をしている証でもあると思っていて、自分はそのままにして辛かったという経験がありますので、解決できるところは解決して、一番居心地がいい自分を探せたらいいと思いますし、それが自分らしさに繋がっていくと思います。

――中山さんは、向き合うことで自分の核みたいなものを見つけられました。以降、お芝居などへの向き合い方は変わりましたか。

 変わりました。楽しくなったというのが一番にあります。それと昔から客観的に見ることは大切にしていますが、自分にしか見えない世界はあると思います。それこそが他とは違う自分だけの魅力ではないかなと思います。

中山咲月

美しくいたい

――この作品は全体的に「美」を感じます。「美」への意識は?

 何かを追及するなかで、自分のなかで最終的に「美しくありたい」というのがあります。それは性別とは関係ないと思っていて、何かを見た時に素敵だと思える自分になっていたい。そう思って行動していますので、美への追及は一生していくと思います。

――それは見た目だけでなく中身も。

 そうです。「ありがとう」「ごめんなさい」という当たり前のことですが、素直に言える、行動できる人がかっこいいと思いますし、美しいと思います。

――この作品の最後は絵画展のような作りになっていますね。

 まさしくそういう風に見えたらいいなと思って作っていました。映画のワンシーンを観ているような思いになってくれたら嬉しいですし、一冊で美術館のような、一枚一枚が額縁で飾っても美しいような写真になったらいいなと思って作りました。

――セルフプロデュースですが、編集担当も結構受け入れてくれたんですね。

 わがままをたくさん言いましたが、「すごいいいね」と言って下さって、プラスして「こうしたほうがいいんじゃないか」というアドバイスも頂けて、自分ひとりではできなかったと思います。いろんな人が携わって下さったからこそここまでできたと思います。

――カメラマンやスタイリストも含めて今回のチームは相当良かったんですね。

 一体感というかファミリー感がすごかったです。初めてこのメンバーでやったのかと思うぐらいの団結力があって。自分が言ったことをどんどん膨らませて、一を百にしてそれで形になった本。クリエイティブな面でもやりがいのあった作品だったと思います。

――作っている時に感じたことは?

 カメラは撮られていくとどんどんいろんな表情が出てきます。普段から自分でメイクをしていますが、自分のモチベーションを上げるためにメイクをしているんです。それと同じように、楽しいチームで臨めたからこそ素の表情を出たと思います。内面的な表情が出せたのもこのチームだったからだと思います。

――何かを演じているということをテーマにしながらも素の表情が出ていると。

 そうです。エッセイに限らず写真にもそういう素のところが出ていると思います。この本を出せて本当に良かったと思っています。

中山咲月

(おわり)

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木村武雄

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