INTERVIEW

入江泰浩監督

こうしてサラは作られた。鍵は「感情表現」
アニメ『エデン』制作舞台裏


記者:木村武雄

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掲載:21年05月26日

読了時間:約8分

 『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』などの入江泰浩監督が手掛ける、Netflixオリジナルアニメシリーズ『エデン』(5月27日・全世界独占配信)。人類が消えたロボットだけが暮らす自然豊かな世界「エデン3」を舞台に、ロボットの両親のもとで育った、たった一人の人間である少女の冒険と家族の絆を描く。主人公サラ・グレースの声を演じるのは高野麻里佳。原案はプロデューサーを務めるジャスティン・リーチ氏。キャラクターデザインは『カウボーイビバップ』の川元利浩氏。そして、アニメーション制作は『スター・ウォーズ:クローン・ウォーズ』や『ヒックとドラゴン』シリーズを制作する台湾の制作会社CGCGが手がけた。国際色豊かなスタッフ陣のもとで制作された本作。その制作背景や舞台裏を入江監督に聞いた。鍵を握るのは入江監督の原動力でもある「感情を表現する」こと。【取材=木村武雄】

「エデン」

憧れるような気持ち

――人間とロボット、時間を超えた絆が描かれています。このストーリーをどう感じましたか。

 ジャスティンから企画を頂いた時は、ロボットと人類の中の歴史の部分が大きく取り上げられていました。それをアニメで4本作るにあたって、サラとロボットのコミュニケーションや、人間側に大きく寄ったストーリーで舵を切らせて頂きました。全体の中ではサラがどういう感情の流れを抱くのかというのを大きく膨らませました。

――原案を読んだときの印象はいかがですか。

 世界観やエデンという世界の中でどういう物語が展開されるのかをテキストで読み、新しいことと、これまで培ってきたことを発揮する2つのことが出来る内容だと感じました。これまで扱ってきたことのある部分とそうでない部分が混在していて、ここはこうすればいいという部分と、これはどうしたらいいのかということへの興味がありました。

――そのなかの新しいチャレンジとは何でしょうか。

 3DCGでアニメーションを作るということと、海外のスタッフと一緒に作るということが一番大きなところです。

――海外のスタッフとやってみて、日本との違いを肌で感じたところはありますか。

 スタッフはすごく熱意のある人たちという印象でした。日本国内でも熱意のある優秀なスタッフが多くいます。同じように海外にもこれだけの技術をもっている人がいるんだと強く感じました。違う点は、スタッフというよりも、スタジオワークがシステムとして徹底されているところです。

――海外のスタジオだと1日の制作時間が決められていたり、労働環境がしっかりしている印象もありますね。

 台湾のCGCGという会社もきっちり時間が決められていて、時間になるとサイレンが鳴るんです。その時、会議中だったんですけど、このチャイムでスタッフは帰るんですという事を教えて頂きました。就労時間はかなり厳密に決められていて、私たちが会議を終えて外に出ると、もうスタジオの明かりが消えていてスタッフが帰った後でした。

――その点、日本はいかがでしょうか。

 CGCGはスタッフがみんな社員ということもあって、就労時間を守るということは社員の義務にもなっています。日本では、フリーランスでその作品やパートだけに携わるという形で仕事をしているアニメーターが多いので、作業時間は各スタッフに任せられています。フレックスも許容されていますから、やりやすい時間帯で仕事をしていいという日本の良い点でもありますが、ズルズルやってしまう悪い点でもあると思います。

――それを全て日本に取り入れていこうというのではなく、適したものを取り入れていく方が良さそうですね。

 制作会社としても、稼働時間が分かれば工程時間が把握しやすいと思いました。稼働時間内で、抱えているスタッフがどれぐらいのパフォーマンスを持っているから、どのくらいで上がるか、というのは就労時間を決めた方が読みやすくなるだろうなとは感じます。でもそれを、そういう環境にない日本でいきなり採用しても難しいところはあると思います。出来るところから変えていって、そこでの蓄積やメリットが共有され、利点があるようなら社員化したり就労時間を決めた方がやり易いとなり、それが広まって初めて出来るものだと思います。

主人公のサラ。『エデン』より

サラというキャラクターが出来るまで

――本作はロボットに育てられた少女サラの成長などが描かれています。サラというキャラクターを構築していく中で一番大事にされたことは何でしょうか。

 人間として、ロボットたちとどうコミュニケーションをとらせていくかというのは意識しました。表情や感情面の芝居を一手に担うキャラクターです。ロボットたちで顔の表情や感情を描写が出来ない分、そういった役割をサラが一人で担っていますので、画面内がすごく寂しくならないようにバラエティーに富んだものになるようにしないといけないと感じました。

 サラが寡黙で表情の変化に乏しいと全体がおとなしすぎてしまいますので、サラは自分から前に出る積極的なキャラクターの方がいいだろうと思い、その積極性をどのようにするかというのは考えました。押しつけがましくなく、観ていて楽しくなり共感が持てる形に持っていかなければならない。そういうことを最初の段階で感じていました。

――サラは危機的な状況でもそう思っていない無邪気なところもあります。声を演じられた高野さんに取材した際、それは人間から学ぶべきものを学んでいないからという話でもありました。先ほど感情面でのロボットとの対比という話もありましたが、そのあたりはどう捉えていますか。

 周りに人間がいないので、どういうことをしたら危ないとか分からないまま育ったというのはあります。高い所から飛び降りたり、無茶な事をします。そういうことから、危険を危険として捉えていない、そういう姿から、そう感じられたんだと思います。サラは、無鉄砲さが小さい時からあって、まず考えるより先にやってしまおう、前に一歩踏み出しちゃおうというキャラクターです。物語が進む中で、危ない事やピンチに遭遇した時も、その無鉄砲さで一歩踏み出しちゃうというところを行動的に作っていけば、キャラクターが育つんじゃないかと思いました。

――キャラクターのデザインではいかがですか。

 川元さんの方から色々アイデアを出して頂きました。AからJまで案があったのかな。ものすごくたくさんのバリエーションを出して頂いて、その中からどの方向かということになり、キャラクターの外見、例えば髪、服装などをどんどんと絞り込んでいきました。サラの活発的な部分、行動的な部分から、服装はこういうのが気に入っているだろうなと感じさせるようなデザインはいろいろと考えながらチョイスしていきました。

――デザインについてサラ自身のこだわりとか色々あったと思いますが最終的な決め手は何でしょうか。

 人と遭遇したことがないサラが選んだ髪型、服装はどういうのがあり得るのか、というところから選んでいったところはあります。髪型もロングヘアなのかすごくセットしているのか。それを選択するときに、サラの性格だったらきっと前髪が目にかかるのが嫌だと思うから短くするだろうなと。腕や足が出ているのも活動しやすく、服が引っ掛かったりしないというようなことを汲んでシンプルな服装を選ぶだろうなと。サラの性格から選んだ結果あのようになりました。

入江泰浩監督

サラを背負った高野麻里佳

――そのサラのボイスキャストに高野さんを起用した理由はなんでしょうか。

 『灼熱の卓球娘』という作品でハナビというキャラクターを演じていただきました。その時の声の感じ、本人のテンション、芝居の印象がサラにぴったりだと感じたのでオファーをして、受けて頂きました。期待通り、意図通りの声と芝居をやって頂き、“卓球娘”の時になかった感情を織り込んで必要に応じて描写してくれたと感じます。

――本人は子供の喋り方など研究されたと言っていますが、その筆跡は見られましたか。

 赤ちゃんの頃や10歳の頃というのは“卓球娘”の時にはありませんでしたので、私も初めて聴く領域でした。その部分では高野さんなりの工夫や試行錯誤があったんだろうと感じます。“卓球娘”は現代が舞台であり、部活動の話ですので、何か大きなものを抱えていたり人の命に関わるような大きなものを抱えているものではなく、キャラクター同士の個人の想いが重要になっていました。

 『エデン』のように、もっと大きなものを背負わされた時にどういうプレッシャーがキャラクターにのしかかるのか、それをどう演じるのかという部分は、話数が増えるごとにサラというキャラクターにのしかかってきます。それを高野さんが、サラが思い込める、思い詰める部分も含めて演じてくれました。物語の展開やサラの感情の流れに沿って、高野さんも芝居というのを積み重ねて膨らませてくれたという部分での変化を感じました。

感情を描写する、原動力

――入江監督がアニメを作る上で一番意識していることは何でしょうか。

 キャラクターが何を考えているのか、どういう気持ちなのかセリフも含めアニメーション自体でも伝わるように出来ればと強く感じています。キャラクターが何かアクションを起こす時、あるいは相手と戦う時、喧嘩する時の気持ちに関しても、怒りを持って戦っているのか、悲しみを持って戦っているのか、それとも戦うことが嬉しくなっているのか。同じ戦うという行為に関しても色んな解釈が出来ると思います。それが伝わるようなカット割りやアクション、アニメーションはどういうことかなと気にしながら作っています。

――監督は、中学1年生の時に『風の谷のナウシカ』を見てアニメの仕事をしたいと思われたそうですね。いま原動力になっているものは何でしょうか。

 自分がアニメーションを作る、自分がこういうふうにアニメーションとして絵が動けばいいなというのが達成されたときが嬉しいと感じます。頭の中に思い描いた映像やアクション、感情の流れというのが伝わるような映像になった時が嬉しいので、それを目指すというのが原動力です。

――『エデン』のサラもそうですが、入江監督は感情と向き合い、その感情をどう絵として表に出していくかという事に向き合われているんですね。

 そうですね。そこが色んな作品の中でも好きな部分ですし、それを表現することによって、一番観ている人にも伝わる部分じゃないかなと感じています。

――今回はそれがよりいっそう出ていますか。

 CGCGの優秀なアニメーターの手によって、それが達成されたと感じています。もちろん声優のみなさんの感情をさらに上乗せしている芝居によってより増幅されたとも感じています。

入江泰浩監督

(おわり)

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