INTERVIEW

竹野内豊×石田ゆり子

相当に苦しかった。
過酷『さまよう刃』撮影秘話


記者:木村武雄

写真:中村 功

掲載:21年05月19日

読了時間:約8分

 竹野内豊がWOWOW 連続ドラマW 東野圭吾『さまよう刃』(全6話、放送中、片山慎三監督)で主演を務めている。犯罪小説史に残る問題作を連続ドラマ化。娘を突如奪われ復讐に突き進む主人公は、演じる竹野内も「二つ返事で受けられる役ではなかった」と回顧する。「転機と言える作品になれば」とも語る、難役とどう向き合ったのか。15年ぶりに共演した石田ゆり子との対談で振り返る。【取材=木村武雄】

そう簡単に受けられる役ではなかった

長峰を演じた竹野内豊。和佳子を演じる石田ゆり子。15年ぶりの共演となった

 人を裁くのは人か、法律か、それとも社会か。この永遠のテーマに果敢に挑み、多くの人々の共感と涙を誘い、発行部数170万部を超えた、人気作家・東野圭吾氏による『さまよう刃』の連続ドラマ化。愛娘の復讐に突き進む主人公・長峰重樹役を演じる竹野内は、2009年に本作が映画化された際には、長峰を追う刑事・織部役を演じた。追う者から追われる者へ。約12年の時を経て同じ原作の映像作品に出演する、このめぐり合わせをどう捉えたのか。

竹野内豊「自分が歳を重ねたことで、長峰という役が来たとは思いたくなかったですし、寺尾聡さんが演じた長峰を間近で見ていたわけですからプレッシャーは感じていました。でも、時を経て再び映像化することになった背景を考えると特別な意義があるような気がして。原作の東野圭吾さんが心の内に訴えたかったものが、10数年経っても映像化され世に送り出されることは大きな意味を持っていると思います。決してむごい復讐劇というものだけではない、その奥に秘められたものが伝わる作品になることを願いつつ、責任を感じながら挑みました。原作は一緒ですが、連続ドラマによって、映画の長さでは描き切れない深いものを描き切れたと思います」

 竹野内は過去に「常に新たな自分を発見したい」とも語っていた。まさに本作の役どころは役者としての新境地となりそうだが、「そう簡単に二つ返事で受けられる役ではなかった」と回顧する。

竹野内豊「新しい自分が発見できるような役が常に出来たら嬉しいですが、長峰という役は、そういう新しいとかを考える余裕もないほど二つ返事でやりたいですと簡単に言えないくらい重たい題材でした。正直最初はこの役を引き受けるかどうか躊躇しました」

 未成年の男たちに、男手ひとつで育ててきた娘を、残虐な手段によって奪われた悲しみと怒りから、復讐に走る長峰は良心と罪の意識、法律の壁でもがき苦しむ。台本を読んだだけでも胸をえぐられる思いになる。共演した石田ゆり子は、自身も命に関わる役を背負う時はいつも「きつい」と明かすが、長峰を演じた竹野内の心情を「相当きつかったと思う」と慮る。

 竹野内自身も相当に苦しかったと振り返る。

竹野内豊「若い頃は役に近づきたいという思いから、役を家に持ち帰ることはありましたが、年齢と共にオンとオフの切り替えが出来るようになって。でも、長峰に関してはずっと引きずっているなと思うことがあって、辛い、苦しいと感じることはすごくありました」

 そのなかで希望になったのは本作に込められた意味を世に届けたいという責任感と、撮影チームの気概だった。15年ぶりの共演となった石田ゆり子の存在も大きい。

竹野内豊

15年ぶりの共演「竹野内君はオアシス」

 石田ゆり子とは、2001年放送のフジテレビ系『できちゃった結婚』、そして、2006年放送のテレビ朝日系『家族〜妻の不在・夫の存在〜』で共演。以来15年ぶりだ。石田が演じるのは、一人息子を不本意な形で失ったことがきっかけで夫と離婚し、父親が経営するペンションで手伝いをしている木島和佳子役。

竹野内豊「台本を読んだときに、和佳子役がどなたになるのかが気になっていました。ゆり子さんと聞いた時は素直に嬉しかったです。女優さんに感じる壁みたいなものがなくて、15年の月日が経っても時間のブランクを感じさせず、自然とお話ができました」

石田ゆり子「私の方が学年は1個上ですが、同じ世代なんです。誰に対しても変わらずに接してくれているだけで心地よい風が吹いてくるような存在。芸能界のなかのオアシスです!」

 互いの印象をそう明かすと、当時の思い出話に花を咲かせた。取材はアクリル板越しで行われたが笑顔で語り合うその空間はゆったりとした時間が流れ、そして温かく微笑ましい。劇中とは全く異なる柔らかさがある。

 石田が演じる和佳子は、偽名を使ってペンションに宿泊する長峰のことを警察に追われている男だと知るが、ただひたすらに家族を思う彼の姿に心を揺さぶられ、思わず手を差し伸べてしまう役どころだ。

石田ゆり子「和佳子は暗い過去を背負っていて、頭で考えても想像し切れないところがありました。ですので、余計なことは考えずに現場に行って感じたことを素直に反応しようと思いました。現場に行けば長峰そのものの竹野内君がいて、ペンションがあって、そこに行くだけでその世界にスッと入れる状況がありました」

 石田と言えば、『MOZU』(14年)、『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』(17年)、そして昨年公開の映画『サイレント・トーキョー』など社会問題に焦点を当てた作品への出演が続く。シリアスなシーンに普段どう臨んでいるのか。

石田ゆり子「シリアスでもコメディでも同じですが、作品の世界にあまりあれこれ余計な事を考えずに素直に入っていくことが大事だと思っています。確かに社会問題をはらんだドラマに参加することが多いのは幸せな事だと思っています」

 そしてこう続ける。

石田ゆり子「社会に何かを問いかけることが出来るからこそのドラマであり、映画だと思っています。例えば犯罪者の話はドラマでしか描けない。それは映像がもっているフィクションの力だと思っていて、そうした作品に呼ばれるというのは、演じていてきつい時もありますけど、ありがたい事だなと思います」

石田ゆり子

換気が解放される時間に

 昨年春にクランクインするはずだったが、コロナ禍で3カ月遅れて真夏になった。猛暑、そしてコロナ対策をしての撮影は過酷なものがあったが、得る物も大きかった。

竹野内豊「コロナ禍で撮影スタイルが見直された部分もあって、若干スケジュールにゆとりもありました。コロナという得体の知れないウイルスに誰もが不安を抱えながら、猛暑の中、古民家での撮影でしたので緊張感がありました。でもそのリスクを背負ってまでこの作品を成功させたい、良い作品を作りたいという団結があって素晴らしかったです。感染対策でまめに取っていた休憩や換気による空気の循環で、これだけ重いシーンが続いて煮詰まっている自分をクールダウンさせることも出来て。普段は続行して忍耐勝負、体力勝負でやっていくので、新鮮でした。連続ドラマの撮影はだんだんと、スケジュールとかいろんなことが後半にしわ寄せがきて追い詰められ、スタッフもキャストもヘトヘトのなかでやっているイメージがあるんですけど、(今回は)ゆり子さんと現場にいる時は時間を忘れてしまうような、和気あいあいとした感じで楽しい印象がすごくありました」

 一方、片山慎三監督を長とする片山組の気概にも助けられた。

竹野内豊「10年に1度、いや10年どころではないかもしれない。なかなか出会えないチームでした。撮影をしていてもいろんなところでそう思う事があって、とにかく楽しかったですね。楽しいだけではなくて、片山監督はとにかく想像もつかない事をその場で思いつくんです。すごくライブ感があって新鮮でした。やっている最中は苦しかったですけど、スタッフのみなさんが素晴らしい方々だったので楽しかったです」

石田ゆり子「監督のためになんでもやりますという片山組が持っている空気感は実はそうなかなかあるものではなくて。とても気持ちのいい一体感があって、そこに存在できたことが幸せでした。カメラの池田さんが素晴らしくて、雨を降れば雨を撮り、虫がいれば虫を撮る。全てを無駄にしないというか。今起こっていることをちゃんと見て『あの雲、素敵』と言えばすぐに撮って、それがエンディングのタイトルバックにも使われて。虫も出てきますが、あれは竹野内君が捕まえた虫なんですよ。それととても暑くて空調を切って5秒経ったら汗が噴き出るぐらい。でもそれが追い詰められている感が出ていて。そうした自然からの恩恵もありましたし、コロナ禍など逆境も全て味方につけていました」

 竹野内には、撮影中に石田が言ったある言葉が印象に残っているという。石田が明かす。

石田ゆり子「私の経験上ですが、素晴らしい監督やカメラマンは役者と一緒に演じてくれると。カメラが一緒に演じてくれるんですよね。ほぼ手持ちで、三脚を立て同じ位置から撮るというのはあまりしていなかったと思います。カメラマンがもう一人の役者。それにとても助けられましたし、私ですらそう感じるので、もっと激しいシーンがあった竹野内君はもっと感じていると思う。一緒に世界を作るというのがみんなにあって、そういう現場はなかなかないので本当に良かったです」

竹野内豊

石田ゆり子

転機と言える作品に

 12年の時を経て再び映像化。東野圭吾氏のメッセージをこの時代に伝える意味を考え、その役目を全うしようと演じ切った竹野内。完成したいま「役者・竹野内豊」としてどう感じているのか。

竹野内豊「この歳になって思うのは経験一つ一つに意味があって、人生はやりたいものだけやっていればいいという事ではないと思いますし、やりたくないものもやった時間も駆け抜けてきたからこそ、今回のようなスタッフやメンバーと出会えて、一つの作品を作ることが出来る。それにすごく感謝と喜びを感じています。どの作品が良かったとか順位付けすることはできないんですけど、撮影時は49歳で50歳になる節目に片山組と『さまよう刃』という作品に参加できたというのは間違いなく良かったと思います。これが自分の転機となる作品になったらいいなと思います」

(おわり)

石田ゆり子、竹野内豊

撮影:中村功

衣装ほか協力

竹野内豊
ヘアメイク:miho araki
スタイリスト:檜垣健太郎(辻事務所)
シャツ(ジョン スメドレー)32000円
パンツ(ジョン スメドレー)28000円
※いずれも税抜き
問い合わせ先 リーミルズ エージェンシー

石田ゆり子
ヘアメイク:岡野瑞恵
スタイリスト:長瀬哲朗 (UM)
トップス mizuiro ind
ボトムス human woman
靴 スタイリスト私物

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中村 功

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