INTERVIEW

大和田美帆

目の前に広がるのは「無限」
自身に重ねる松井須磨子役


記者:木村武雄

写真:

掲載:21年04月23日

読了時間:約7分

 宮本亞門・総合演出、大和田美帆・主演で、『日本一わきまえない女優「スマコ」~それでも彼女は舞台に立つ~』が27日からYouTubeで無料公開される。コロナ禍で「演劇の灯を消すわけにはいかない」と企画。日本の女優第1号ともいわれた松井須磨子をモデルに、当時流行したスペイン風邪にも屈せず舞台に立ち続けた姿を描く。須磨子の境遇を自身に重ねる大和田はどのような思いでこの1年を過ごしたのか、そして、どう向き合っているのか。【取材=木村武雄】

転機と言える作品、期待感に溢れる

 「いま、目の前に広がっているのは…『無限』です。色で例えたら…? 一色ではなくてカラフルかな。まだ自信はないけど、この先に転機と言えるような作品になっていると思います」

 そう語る表情は晴れやかであり力強くもある。

 宮本亞門から話が来たのは今年1月。まだ脚本を池谷雅夫氏に依頼している段階で、「松井須磨子を題材にした演劇を企画していて、当時のスペイン風邪と今のコロナが重なるから大変なところもあると思うけど、どうか」と聞かれ、「私以外に誰ができるんですか」と二つ返事で引き受けた。

 カンパニーの一人としてゼロから企画に携わっている。

 「有料か、舞台か、これじゃできない色々と模索するなかで最終的にリーディング演劇に行き着いて。コロナの前だったらこの企画自体を疑っていたかもしれない。でもコロナ禍で、何事にも挑戦しよう、失敗を恐れない、そんな自分になっていましたのでタイミングが良かったです」

 この1年さまざまなことがあった。この企画自体も実現に向けて模索を重ねた。そうした紆余曲折を経ていま、稽古場に立っている。

 「自分たちが考えて行動していることが、生きているなという実感に繋がっています。役者はよく待つ仕事だと言われていて、特にコロナ禍では皆それぞれ何ができるのかと待ち続けていたと思います。この1年のなかで亞門さんが思い描いたことや私がやってみたいと思っていたことを形にしようと一歩踏み出したことで自信がつきそうな予感があって。これをやってのけた後には『この作品が転機でした』と言えるぐらいのものになると感じています」

 もともと演劇が好きだ。「お客さんの前で芝居をしたい」その思いはコロナ禍で一層強くなった。

 「舞台に出られないことが辛いのではなくて、観客の皆さんに見てもらえないことが辛くて。以前、ある作品で無観客のなかゲネプロをしましたが、観客がいないのがこんなにもむなしいのかと思って」

 観客の前で芝居をする喜び。愛する人を失っても舞台に立った松井須磨子の姿に重ねている。

大和田美帆

稽古の模様

存在価値を知る逃避行

 演じる松井須磨子は明治から大正にかけて活躍した新劇女優で、日本の第一号女優とも言われている。その人生は壮絶で、2度の離婚と不倫、更に女優への執着から整形するものちにその後遺症に苦しんだ。

 「心のままに生きた人で、屈しなかったですし強かった。己を貫いた人。だけど、その奥にどれだけの孤独があったんだろうなと思えてきて、ただただ強いだけの女性にはしたくないと思っています。人の感情は一つではないと感じる日々で、人前で笑っていても本当は笑っていなかったり、須磨子を調べていくうちに、揺るがない真っすぐさがどれだけ人に理解されていたんだろうかと。変わっている人に見られ、家族にも反対されていて。その中で唯一の良き理解者であった島村抱月を失った時の喪失感、虚無感は相当なものだったと思います。その心情を丁寧に演じたいと思います」

 当時スペイン風邪が大流行した。人気女優だった須磨子も感染し、罹患。しかし看病に当たった恋仲の劇作家・島村抱月が感染し、病死する。それでも須磨子は舞台に立った。

 「私も昨年4月に母(岡江久美子さん)が亡くなって5月には舞台に立ちたいと思っていました。やっぱり女優としての性(さが)だと思います。それなしには生きられない人の運命というか。何があろうとも自分の感情を表現する場がそこしかなかったんだろうと思うんです」

 だが、それは観客があってのものだ。一人で芝居をするのでははく、観客に見てもらうことが前提にある。決して独りよがりの自己表現ではない。

 「私は自分以外の人生を演じたくて、逃避の意味でも芝居が好きです。幼少期、お留守番している時はさびしいから鏡の中に映る自分を相手に芝居して。さびしさを紛らわす逃避が芝居でした。須磨子は、自分の人生に満足していなかったと(文献に)書かれてあって、田舎生まれで楽しめるものがなくて、(1回目の)結婚相手に演劇を教えてもらい『これだ!』と。須磨子にとっても日常から脱却するものだったのかなと思います」

 逃避行の行き先は舞台。立った時に浴びる歓声に自身の存在価値を改めて知る。

 「本当にそうで、お芝居をしている時の方が生きているなと実感することが多くて、20代の頃に演劇に挑んで『こんな世界があったんだ!』と感動して、そんな私の逃避を素晴らしいと褒めてくれる人がいて、きっと観客の皆さんも、私たちの“逃避”を見て自分たちの人生から少し飛んで、明日から新たな道に進む、あるいは気持ちを切り替えているんだと思うんです」

 須磨子は1回目の離婚後、平凡な日常から脱却したいと女優を志す。デビュー後はあれよあれよと人気女優となるが、須磨子にとっても舞台は逃避行だったのかもしれない。

大和田美帆

稽古の模様

今の自分だからこそ演じたい

 そんな須磨子が光を照らしてくれるだろうと期待を寄せる。

 「演劇はいつも違う自分、違う可能性を気づかせてくれます。こういう人生やこう思っているのは私だけじゃなかったんだと勇気も湧いてくる。須磨子という役と出会えたことで(苦しんでいるのは)私だけじゃないんだと思えて。須磨子は最後自死しますが、私はどう生きたかが大切だと思うので、須磨子の生き様は、いまのコロナ禍で混乱している人たちに何か光を与えられると思います」

 そんな須磨子を「今の自分だからこそ演じたい」と使命感のような思いにかられている。

 「この1年間は、今の自分に何ができるかをずっと探していました。父(大和田獏)と一緒に小児がんの子供たちにオンラインコンサートを届けたり、私が経験してきたことが活かせるものはないかと。それを模索しているなかでの今回のお話しでした。須磨子の強さには及びませんが、愛する人を亡くしたことも含めて重ねているところもありますし、観て下さる方もきっと重ねると思います。私だからこそ表現できる松井須磨子があると思います」

 そして、須磨子と向き合うことで自分自身が強くなっている感覚があるという。

 「私を強くさせるためにこの企画をやっているのかと思うぐらい、脚本のなかにあるセリフが私を新しく作ってくれています。誰が何と言おうと私は私の道を行く―。須磨子が演じて有名だった『人形の家』のノラという役もそうですが、私はやっぱり弱いから揺らいでしまう。批判も怖いですし。揺らいでばかりの1年。もっと強くなりたい、自分の意見をちゃんと持っている人になりたいと思っていたところでの松井須磨子の役。彼女はそれをやってきた人なのでそこに憧れています。近くに彼女を感じていて支えられている気分です」

 そんな大和田。いま目の前に広がっている景色は何か。

 「『無限』です!私は何にも囚われないで自分の足で歩いていきたいという意味も含めて独立しましたが、一人になったからこそ無限で、失敗を恐れずに行きたいなと思っています。蓄積されてきたものは体には刻まれていますし、どこかリセットされた気持ちもあります。独立したことも、須磨子に出会えたことも、新しい自分に出会えるきっかけになると思います。私は出会った役にも人生が影響されて変わっていくタイプなので、役を選ぶことはこれからもしないですし、出会うのが楽しみ。それによってどんどん変わっていていきたい。5年前に想像していたものと違う自分になっているので、この先も分からない。流れに身を任せる、それは強さなのかもしれないですね」

 視界は開けている。それならば色で例えたら爽快な「青」か。

 「いや、一色ではなくてカラフルです。感情としてもカラフルで、どこか自分を鼓舞しているところもあるし、簡単に崩れてしまうところもあるなかで、いやいや違うよ外に出るときはしっかりしてと。松井須磨子も抱月にスペイン風邪を移したことで非難されるかもしれないなかでも舞台に立ちますと。でも強い女性ほど揺らぎはあると思う。その裏の心情も脚本には描かれていますが、そうした様々な感情という色も表現していきたいです。私にしかできないと信じて、頑張ります」

大和田美帆

(おわり)

【公演情報】
日本一 わきまえない女優 「スマコ」 〜それでも彼女は舞台に立つ〜〜
出演者:
大和田美帆、福士誠治、波岡一喜、堀井新太、まりゑ、水谷あつし、西岡徳馬(「徳」は旧字体) / 津田寛治(ナレーター)
総合演出:宮本亞門
公開期間:2021年4月27日(火)20:00〜2021年12月31日(金)
視聴方法:YouTubeにて(公開期間は無料視聴が可能)

この記事の写真
大和田美帆
大和田美帆

記事タグ

コメントを書く(ユーザー登録不要)

関連する記事