シンガーソングライターの植田真梨恵が7月25日、8thシングル「勿忘にくちづけ」をリリース。2008年にアルバム『退屈なコッペリア』でインディーズデビューしてから10年。等身大のリアルな言葉と洗練されたセンスを武器に活動してきた彼女。今作「勿忘にくちづけ」は、チョーヤ「夏梅」CMソングとしても注目の表題曲を中心に、聴く人の心の奥に触れるような楽曲が揃った。地元愛、憂鬱さ、やさしさ。10周年に際して「美しいことを積み重ねていきたい」と話す彼女は、今作ではどんな美しさを表現したのか?【取材=榑林史章】

久留米絣がテーマ

「勿忘にくちづけ」通常盤

――今回のシングルは、しっとりと歌い上げた3曲が揃いましたね。

 10周年だからというわけではないんですが、植田真梨恵にとって何が大切なのかということを考えるようになった時期でもあって、私は何よりも歌が大好きで歌を届けたいんだという原点を改めて見つめ直して制作しました。もちろん叫ぶように歌う曲やテンポの速い曲も私の一面ですが、それだけではなくて美しいものを大切にして曲を作って、よりいろんな人に届く楽曲にしたいとも思いながら制作しましたね。

――表題曲の「勿忘にくちづけ」は、田舎の風景を思い出すような雰囲気で、心がじわっと温かくなる曲だと思いました。

 私は福岡・久留米市の出身で、“くるめふるさと大使”を務めさせていただいているのですが、その関係で久留米の伝統的な織物である「久留米絣」のPR動画の主題歌を作ってほしいとご依頼をいただいて生まれた楽曲なんです。なので、地元久留米の風景や日々の営みの情景を感じていただけたのならうれしいです。

――久留米絣は藍染めで、曲名の由来にもなっている勿忘草は、別名「藍微塵」と呼ばれるそうで、藍色で繋がっていますね。

 そうなんです。久留米絣は、藍色に染めた糸を紡ぐ織物なので、藍染めをイメージした部分は歌詞に入れたいと思っていて、<空を染める藍は>というフレーズを書いたんです。でも、そもそも勿忘草はイメージの中にはなくて、メロディと一緒に歌詞を書いているときに、ふと<勿忘にくちづけ>というフレーズが出てきたんですよ。印象的な言葉だったし、「忘れないでほしい」という思いも込めていたのでこの曲名にしました。だから、勿忘草の別名が藍微塵であることはあとで知って「はっ」としました。織物の縦糸と横糸のように細かく花が並んでいることから、藍微塵とも呼ばれるようになったそうです。そういう偶然の一致に驚きつつも、きっと導かれたのかなと思います。

――サウンドは、とてもシンプルですね。

 ピアノとアコギが2本、パーカッションのみの構成です。シンプルにしようと意識したわけではなく、この曲になくてはならない音だけで作りました。だからいつもはアコギ1本で録るデモも、この曲はアルペジオと裏打ちのバッキングと、2本重ねてデモを録っていて。それをピアノの西村広文さんにお送りして、スタジオ・ジブリや新海誠さんが作るような、美しい風景が描かれた、日本のアニメーションのイメージでピアノを弾いてほしいとお願いをしました。その上で、民族的な楽器を入れるイメージも持っていたので、車谷啓介さんにコンガとシェイカーを入れていただいて。そうそう、木の実でできた楽器も使っています。

――木の実というのは、どんな楽器なんですか?

 ぱっと見はあさりの貝殻みたいですけど、それをこすり合わせて音が鳴るんです。森の中のこだまのような音とかも、すべてシンセではなく生で鳴らしています。車谷さんはそういう珍しい楽器を収集していらして、他には中国にありそうな形のリーンと鳴る楽器も使っています。実際に音を鳴らして試しながら、この曲に必要な音を探していきました。

――久留米絣など“伝統が受け継がれていくこと”も、歌詞のテーマの一つになっていますね。

 伝統文化というのは、どこかの誰かが閃いて、その人がいなくなっても、ずっと残って受け継がれているものだと思うんです。これは私たちのこととも重ねられると思ったんです。もともと誰かから移った癖だったけどその人はもういないとか。もともと誰かがきっかけで始まって、その人がいなくなってもずっと私の中に残っていることと、伝統文化が現代に残っていることのすごさを重ねて曲にしたいと思いました。人から人へと受け継がれ、それがやがて習慣となることの素晴らしさに、今一度目を向けてもらえたらうれしいです。

――植田家に代々伝わっていることは、何かありますか?

 植田家は、家族でカラオケに行ったときでも手を抜かないのが伝統です(笑)。気を抜いて歌うと、問答無用で怒られますね。父と久しぶりにカラオケに行ったときに、父が私の「スペクタクル」を歌ってくれたんですけど、まるで持ち歌のように歌い上げていました。きっと練習してくれてたんだと思います。母は、「魔女っ子メグちゃん」が十八番ですけど、「夢のパレード」とかも歌ってくれますよ。毎回録音して「ここがまだまだやった」と反省会を開いています。カラオケが本気すぎて疲れるけど、すごく楽しいです。こういう家族のコミュニケーションは、しっかり受け継いでいきたいですね。あとパッと浮かぶものとしては、うちのカレーには必ず“かまぼこ”が入っていたこと。よその家でもそうなんだと思っていたら、うちだけでした(笑)。

――久留米はどんな街ですか?

 藤井フミヤさん、松田聖子さん、向井秀徳さん、家入レオさんなどいろいろなアーティストの方を生んだ、こだわりの強い方が多い街です。離れて暮らすと特にそう感じますね。私が住んでいたのは、久留米でもとても田舎のほうで、日本三大火祭りのひとつ「鬼夜」という祭りが有名です。

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