清春が3日、東京・EX THEATER ROPPONGIで、全国ツアー『KIYOHARU TOUR 天使の詩 2018「LYRIC IN SCARLET」』の最終公演をおこなった。アルバム『夜、カルメンの詩集』を引っ提げてのツアーで、本編は同アルバムの収録曲を中心に届けられた。この日はダブルアンコールにも応え、名曲「貴方になって」や「少年」や「忘却の空」などまさしく日本のロックのヒット曲と呼べる曲をも披露。充実したツアーを経て清春は「まだやろうと思います。応援してください」と力強く宣言した。また、50歳を迎える10月30日にはバースデーライブを開催することも報告した。【取材=木村陽仁/撮影=尾形隆夫】

完成をみたカルメンの詩集

清春

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 約2年にわたり温められてきた楽曲たちが、アルバム『夜、カルメンの詩集』となり、そして、全国ツアーを経て、この日、ようやく完成をみた気がした。その作品は、スパニッシュ要素を全面に押し出したもので、清春のエモーショナルな歌声とフラメンコギターの熱量が相性良く絡み合い、しかしそれを勢いで押し切るのではなく、繊細な音一つひとつによって成り立たせる、いわば静かに燃えるアダルティな世界観だ。その満を持して“上梓”された意欲作をツアーでどのような形で広げるかが期待されていた。

 5月の荒天、風が強く吹き荒れたこの日、場内には所狭しと陣取るファンの姿があった。期待感を象徴するように談笑の声があちらこちらで響く。ステージには主のいない絨毯とマイクスタンドが静かに佇んでいた。しばらく時を刻んだところで、明かりが落とされる。『夜、カルメンの詩集』の世界観をそのまま広げるようにSEが流れる。フラメンコの定番、カスタネットの音に合わせて白のライトが激しく点滅する。程なくしてメンバーが現れる。それに次ぐのは清春。凱旋の如く、両腕を広げ大歓声を浴び優雅に歩く。所定に着くとパーカッションとアコギが奏でられる。ツアーファイナルはアルバムの収録曲と同じく「悲歌」で始まった。

 至極のサウンド。香が漂ってきそうな立体的な音だ。出だしこそ静かな始まりだったが次第に熱を帯びていく。パーカッションからドラムに音が替わる頃、清春の歌声にも力が入っていた。それに呼応するように重厚なベースが前面に出てくる。情熱的なサウンドに絡む清春の歌声。更に加速させるように「赤の永遠」では疾走感溢れるアコギが誘い、より華やかにさせていく。その音像からは、スカートの裾が揺らしながらフラメンコダンスを踊る女性の姿が浮かぶようだった。

 アルバムではアートワークでもその世界観を表現していたが、この日はラインティングがその役割を担った。ステージバックには30はあろうライトが上中下横一列に設置されていた。それらが替わり替わりに色を変えて照らす。例えば「赤の永遠」ではその名の通り、赤と白でステージを染めていた。

 再び明かりが落とされる。広場に設置された時計台のように、重い針が時を刻むような音が鳴る。一定の時が進んだあとアコギが鳴り出す。青のライトが薄く照らすなか披露されたのは「アモーレ」。何かがうごめくようなベースの重い音が象徴するように、先ほどまでの陽気さはない。靴を脱ぎ裸足になる清春。間奏では煙草を吹かす。両手を広げながら絨毯の上を歩く。時折、清春は両肩を狭め内に力を入れるように歌う。

清春

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 音が消えると清春は静かに「Thank you」。無音のなかで清春は「ファイナルも(開演が)遅れちゃったね。ゆっくり楽しんでください」と語り、たばこをふかし始め「罪滅ぼし野ばら」を届ける。ゆったりと流れるメロディ。音の主役はアコギからエレキに代わる。音が無くなり清春の<罪滅ぼしの…>が響く。しばらくの無音が続く。緊張感が漂い、ドラムカウントがそれを解く。こうした無音の緊張感はこの日のライブ本編では幾度かみられた。

 そして、「シャレード」。緑に染まる。上着のジャケットを脱ぎ、体を揺らす清春。音が少なく不穏な空気感はまるで森に彷徨っているように感じられた。緑のライトをステージの床が反射、それは周りを生い茂る緑で囲まれた湖の水面のようでもあった。轟き聴かせるように「シャレード」と歌い反転する清春。台に倒れ込むように身を置くと左手で持っていたマイクスタンドを寝かせる。ちょうど台の中央にマイクが伸びる。それを覆いかぶさるように歌う。一度上体を起こすと今度は覗き込むように歌い、マイクスタンドからマイクを外し、煙草を吹かせながら歌う。曲中だがマイクを置き、サウンドを残したままステージを後にする。再び主を失った絨毯。その上を後ろからまばゆい光が照らす。しばらくバンドメンバーによる演奏が届けられる。薄暗いなかで8つのストロボが演奏に合わせて交互に焚かれる。それは夜更けに光らせる野獣の目のように不気味さがあった。しかし、その演奏も次第に熱を帯びていく。グルーヴィーな音のなかで赤のロングシャツを羽織った清春が再び戻り、その歌を締めくくった。

 ここでMC。メンバー紹介をしながら、ツアーでの様子をユーモアに話す。歌とは対比する穏やかな雰囲気。そのトークに会場からは笑いも起きる。この日のメンバーは中村佳嗣(Gt)、大橋英之(Gt)、高井淳(B)、楠瀬拓哉(Dr)。今ツアーから参加した高井を除き、ファンにはお馴染みの顔ぶれだ。そして、この日の夜も彼らは美しいサウンドを奏でていた。

 「瑠璃色」からは華やかで軽快な楽曲が届けられた。「ever」そして「TWILIGHT」「三日月」。そして清春は「僕ら的にはすごくうまくやれたツアーです。もうすぐサッズのツアーになるから、一生懸命に清春で綺麗に歌ってきたのが粉々になる」とユーモラスに語った。清春のここ数年の活動は歌にフォーカスしたものだった。それがいま『エレジー』『夜、カルメンの詩集』という作品、そして今回のツアーで完成を見て、その手応えというものがその言葉からもひしひしと伝わってきた。

 その充実感に満たされた本ツアーの本編も佳境を迎える。激しさを伴う「ベロニカ」で先ほどの穏やかムードを遮断させ、一気に加速する。清春の投げキッスに歓声も沸く。そしてファンキーな「眠れる天使」。そして最後は「美学」。加速したスピードを少し緩め、言葉と向き合う。左手の小指を突き立て歌う清春。手のひらを観客に広げ歌った<ただ、僕らは弱き美学>という歌詞が印象強く残る。台に立ち、マイクを力強く握る。歌を終わると同時にステージバックからめいっぱいの白光を浴びる清春。神々しいその姿は彼らがステージを去った後も目に残像として焼き付いていた。

忘却の空、少年、光のその先

清春

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 アンコールはこの日、大盤振る舞いの三度続いた。最初のアンコールでは今年迎える50歳への思い、そしてその50歳を迎える10月30日にマイナビBLITZ赤坂でバースデーライブを開くことを報告した。そのなかで届けたのは「MOMENT」と「星座の夜」。「星座の夜」ではエレキを持った清春は弾きじゃくる。その音に触発されるようにドラム、ベースも弾ませた。

 ダブルアンコールではアコギを肩から下げ登場した清春。まずは「貴方になって」。アコギの感触を確かめるように弦を弾きながら絨毯の周りをウロウロする。そこで大橋がギターのボディでカウントを始め、歌い出す。情感を震わす切ない歌の世界観。これまで幾度となく披露されてきた名曲を観客はただただ静かに聴き入っていた。そして黒夢、サッズ時代の名曲が届けられていく。「忘却の空」。本編とは全く異なる熱狂の世界が広がっていた。熱を帯びたままMCで今の思いが語られた。

 「このツアーは大変良くて(自分が理想とする)音楽に一歩近づいて、もっと探求したいなって。歌と曲とムードと、全部誇らしげになればいいなと。あと何年ぐらいだろう。どういう状況でもちゃんとできるようにという思いがあって。当たり外れがないようにしたい」

 最後は黒夢時代の「少年」。激しいロックサウンドという意味ではこの日のピーク。一気にスパークする。清春も感情の高まりをシャウトで表現する。台に仁王立ちになりあたりを見渡す。「六本木!」と煽る。

 そして、トリプルアンコール。「(アルバムの世界観を)ちゃんと輪郭をはっきり表現させたいと思って、スパニッシュをどやってライブで表現するかがテーマだった」と語り、それが表現できたのはこのバンドメンバーのお陰であると感謝の言葉を口にし、「ツアーも、25年やれていることも幸せだと思います。良いと思える瞬間が今までよりも多かった気がします。目指す先輩もいます、僕らがいて皆がいるという繋がりを実感してまだまだやろうと思います。応援してください」と語り、最後は「SANDY」と「HAPPY」。この瞬間を表現するように<I‘m Haapy!>と力強く歌う。感動的なフィナーレだった。

 清春は最後、ピースサインを送る。そして、メンバーと抱き合い、称える。名残惜しそうに終演後、ステージに残り、コールアンドレスポンスを繰り返す。その姿からも充実したツアーだったことがうかがえる。体調に悩まされ「いつまでできるか」と吐露した時期もあった。しかし、このステージに立つ清春にはそうした胸中は一切感じられず、はっきりと映る理想とする音楽へと邁進する力が漲っていた。ここ2年、断片的に歌い続けてきた新曲の数々が『夜、カルメンの詩集』に組み込まれ、その過程で示してきた『美学』はここにはっきりと立体的に表れていた。