シンガーソングライターの片平里菜が10日、東京・六本木のEX THEATER ROPPONGIで。ワンマンライブ『片平里菜 デビュー5周年企画 ‐2部構成‐「愛のせい」アルバム全曲再現ライブ&シングル全曲ライブ』を行った。【取材=桂 伸也】

 「自分の内側をぎゅっと濃くした作品になったと思うし、結果的にたくさんの人に刺さるものになったんじゃないかと思っています」、昨年末にリリースされた3rdアルバム『愛のせい』について、こう語る片平。今回の作品は、これまで楽曲は自分自身で作り上げてきたことに対し、敢えてサポートギタリスト、音楽プロデュースなどの活動で知られる石崎光をプロデューサーに迎え、苦難の末に会心の作になったという。その意味では片平自身にとっても、今年でデビュー5周年という区切りの時を迎えることも合わせて、大きな転機となるアルバム作りであったと捕らえていることは、想像に難くない。

 今回のイベントは石崎らを演奏のバックアップに迎え、名古屋、大阪と、三都をめぐるツアー。ファンが見慣れていた長い髪を切り、さっぱりとしたショートヘアー姿の印象もあってか、初日より片平自身の音楽人生に向けての並々ならぬ決意が表れたようにも見える、思いのあふれたステージとなった。

真っ白な姿の奥に見えた、片平の芯の部分

片平里菜

片平里菜(撮影=山川哲矢)

 ラジオのエアチェック音をあしらったスタート前のSE。開演時間が過ぎしばらくすると薄暗いステージには、ようやく片平たちが観衆のかすかな拍手に迎えられ登場した。SEの音は徐々にノイズ音を大きく、さらに大きくしていったが、これ以上ないというボリュームになった次の瞬間にパッと消え、そのタイミングでステージ中央に立つ片平に向けて、上からピンスポットが当てられ、いよいよ第1部、アルバム『愛のせい』再現ライブの始まりを迎えた。

 石崎らのサポートも合わせて、ステージにいるものは皆白を基調としたスタイル。片平自身の姿も、真っ白の半そでのブラウスに、薄いベージュ系のスカートと、特に目立って華やかな印象を与えるものではなかった。だがオープニングナンバー「愛のせい」で語られる物語の序章のような詞と、その言葉を淡々と、しかし信念を感じさせるメロディに歌い上げる片平の声が、その白い衣装に特別なイメージを被せているようにも感じられた。

 これまで自身の全ての楽曲を作り上げてきた片平が、初めて他人と共作という形をとったという「愛のせい」。片平の思いを増幅させるように、“かき鳴らされている”という言葉がピッタリな片平のギター。そのギターのストロークに、絶妙に追従する石崎のギターもまた印象的だ。その様は、様々な壁にぶち当たりながら、見事にアルバムの核となるこの曲を作り上げた二人の、ここまでの道のりを表しているようでもあった。

片平里菜

片平里菜(撮影=山川哲矢)

 その楽曲の流れには、改めて片平自身の様々な思いが見えてくる。思い切りレイドバックしたような「子供時代」「デイジー」から、リズミカルでポップな楽曲に、ようやく片平も歌いながら笑顔を見せた「lucy」。片平独自の詞の世界観が隅々にまで表現された「異例のひと」「山手通り」。アルバムの楽曲の中でもアクセント的な、ダークな雰囲気のある「wash brain」と、一つにとどまらない片平の様々な表情があふれる。

 そして、シングルで先行発表された「なまえ -naked-」は、片平が一人で、ギターの弾き語りによって披露された。途中、自身の口笛によるソロを挟みながら、曲の後半には弱弱しくかすれたような歌声に。そのまま放っていれば消えてしまいそうな歌声だったが、敢えてそうした意図も感じられた。綺麗にメロディを歌うことも出来たかもしれない。しかしそうしてしまうと、この楽曲の中にある自分の中の思いが、壊れてしまうかもしれない…そんな片平自身の思いを感じずにはいられない表情が、この時の片平の顔には見えていた。

片平の「才能」を感じさせたひと時

 続いてエレキギターに持ち替え、全てを吹っ切るようなロックナンバー「Howling Wolf」から「結露」へ。そして第1部のラストナンバー「からっぽ」へ。しかし、しんと静まり返った会場の中で<東京 甘えてんな もっとちゃんとやれよ>という詞の後が続かない。何度試みても続かないその現状に、片平は言葉が出てこないと申し訳なさそうに観衆に告げる。しかしその言葉にフロアからは、続きをサポートする声と共に「里菜ちゃん、がんばれ!」と励ましの声が上がる。

片平里菜

片平里菜(撮影=山川哲矢)

 片平は、意を決したように言葉を口にする。「ちゃんと言葉を届けたいので、最後…しっかり歌わせてください!」そして少しの時間を置いて、再び片平は歌い始めた。震えるような声で、それでも歌い続ける片平。やがてそっと合いの手を入れる石崎のギターの音が力強い支えを与え、片平は「からっぽ」な思いを綴ったこの歌をしっかりと歌い切り、第1部のステージに幕を下ろした。

 第2部は、海辺のさざ波の音と、アコースティックギターの音が被さったハーモニーのSEで幕を開けた。そしてオープニングナンバーの「この涙を知らない」から、ウキウキしてくるような8ビートに、観衆も思わず手拍子を加える「誰にだってシンデレラストーリー」へ。その姿は、前半とは変わりデビューシングル「夏の夜」のジャケットで着用しているオレンジ色のワンピース姿で、華やかな印象を演出していた。

 そしてこの日のステージで初のMCで片平は「やっと会話できる…」とホッとした表情を見せ、先程の緊張したステージの雰囲気を、アルバム『愛のせい』に込めた思いとともに振り返る。片平自身の現在の心境、そしてこれから自分が歩いていく道のりに向けての決意を表したような第1部。第2部はアットホームな雰囲気の中で、口にすることはできなかった自分の思いを客観的にたどると共に、この大きな転機を迎えることが出来たことに対して、周囲の人への感謝を語るひと時、そして改めて自身の決意を言葉にしたひと時となった。

 変則的なリズムから始まる「煙たい」から「誰もが」「あなた」と曲が続くとともに、MCでは改めて自身が音楽に込めた思い「雨に打たれてしょぼんとしたり、怒ったり、感情の起伏の激しい女の子を歌っている」という、音楽に描く自身のテーマなどを振り返ったり、この日サポートしてくれた石崎をはじめとするメンバー、その他周囲の者やファンへの思いを告げる片平。そして「Oh JANE」「女の子は泣かない」とシングル楽曲を続け、ラストは「夏の夜」でしっとりとステージを締めくくった。

片平里菜

片平里菜(撮影=山川哲矢)

 片平が石崎に向けて、様々なサポートを受けたことに対する感謝の気持ちを表した際に、石崎は「才能があるからですよ」と返した。その言葉は冗談っぽい語り口だったが、真意は全く冗談ではないことは、この日のステージではしっかりと見えていた。曲によって様々な表情を見せ、「なまえ -naked-」では、感極まるような様子も。そして1曲目の「愛のせい」のサビ後に続く、あふれてくるような思いを言葉にして叫び続けた。そして第1部最後に、片平が言葉を詰まらせながらも最後まで歌い切った「からっぽ」。

 その姿には、片平自身の芯の部分をさらけ出しているような生々しさすら感じられた。アーティストは自身の様々な思いを込めて、楽曲を作るが、この日片平がステージで見せたように、その思いがリアルな演奏の中で滲み出るのを認識できることは、そうはあるまい。ステージ後に片平はツイッターで「私、今この瞬間も皆に甘えてるな、何をやってんだろう。って、その言葉から出てこられなくなった」と、自身が言葉を詰まらせた理由を綴っている。そしてそのツイートには、ステージを見ていたこの時に、共に泣いていたという声もリプライとして多く上がっていたことからも、その思いは聴く側にしっかりと伝わっていたことが分かる。

 このステージは「アルバムの再現ライブ」というより「片平自身の、思いの再現ライブ」といった様相でもあった。それは片平だから出来たものでもあると見える。言葉だけでは出来ないもの、まさしく「才能」とでも表現したくなるものである。以降もこの日のステージ、いやそれ以上の思いが、聴くものに伝わるライブが見られることを、是非期待していきたい。

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