温もりのある写実絵画が話題だ。手掛けるのは新進気鋭の画家・中島健太さん。女性をモデルにした作品が多く、そのタッチは写真のように忠実だが、そのモデルの人柄まで溢れ出ている。その中島さんは現在放送中のフジテレビ“月9”ドラマ『コンフィデンスマンJP』(毎週月曜よる9・00)に美術協力している。長澤まさみ演じる「ダー子」が偉人の名言を読み上げるオープニングシーン、その偉人の肖像画を描いた。更に、第三話では物語の鍵を握る絵画も手掛けた。今回はその若き天才画家に取材した。【取材・撮影=木村陽仁】

美意識を、モデルが持っている美しさを借りて表現

技法=油彩/タイトル=New York Times(中島健太さん提供)

 中島さんは大学在学中にプロのキャリアをスタートさせた。2009年には日本最大の公募展『日展』で初出品ながら初入選を果たし、グランプリに相当する特選を受賞。この『日展』では20代で2度特選を受賞している。現在33歳の若さだが12年のキャリアを持ち、天才画家とも称されている。そんな中島さんが手掛けるのは写実絵画だ。写真と見分けが付かないほど忠実に模写しているが、優しいタッチは女性の美しさ、優しさを内面から映し出している。

 「偉人でも俳優でも、一般人でもモデルがどのような人であっても“一人の人間”としての姿を描くことを心掛けています。人間的な温度があるように、油絵の具にも温度があります。一見、ただの物質ですが、その物質が持っている温度感、ただのインクじゃなくて顔料があって油でコーティングされている物質。その物質の温かみとその人の人間としての温かみが相乗効果で出せたらいいなと思って描いています」

 中島さんの画法は、撮った写真等から描き起こしていく表現で、西洋絵画史では珍しくない画法だという。その画力を支えるのは取材力だ。モデルと密にコミュニケーションをとり、信頼関係を築いていき、その人の“良さ”を探っていく。

 「取材の段階で一番大事なのはコミュニケーションだと思っています。人間の可動域は限られていて、ひねるにしてもどこに手を添えるかにしても限界がありますので、ある程度構図がパターン化してしまう。全てがパターン化で終わってしまったら、ある意味絵画である必要はなく、それこそ写真で良いという話になってきます。絵画である必要性は生身の人間が描いている、非合理的な部分。そのモデルから滲み出る部分は写真を撮るまでの段階、あるいは写真を撮っている最中にどういうコミュニケ―ションをとっているかに左右されると思います。表面的には出てこない、意味のないことを積み重ねることが絵画においては重要だと思います」

 その過程は、所作が大事とされている茶道にも似ているという。実際、中島さんは茶を嗜んでいる。そして、写真のようで写真ではない「写実絵画の魅力」は人が描くところでもあり、コミュニケーションを通じて感じたそのモデルの魅力や雰囲気を潜在的に絵に落とし込むことだが大事であり、自身の主観が“味”になる。

 「僕のフィルターを通して『こうあってほしい』という表現になっていると思います。モデル本人が出来上がった作品を見て『こういう風に見られていたんだ』と驚かれる方も多いですし、逆にお客様からすると僕の手癖みたいなものがあるようで、違うモデルなのに『同じモデルさんなの?』と言われることも多いです。僕の美意識というものを、モデルさんが本来持っている美しさをお借りして表現している、それが僕の絵画作品なんです」

 そんな中島さんの作品には女性モデルが多い。それはなぜなのか。そこには女性の強さに惹かれているからだという。

 「女性を描き始めた理由は、ギターを持ち始めた少年と同じようにモテたいと思ったからなんです(笑)。でも10年続けると何かと思うものが蓄積されていって、女性というのは凄く強い存在なんだと感じるようになりました。この国は男女平等の観点から言えば世界標準から低いところにある。昔と比べたら良くはなってきていると思いますが、それでもまだまだ。そんな状況下にも関わらず女性が耐えられているのは根本的に女性が強いからなんだろうなと思えて。悔しい思いもされていると思います。女性が置かれている環境に自分が置かれたらとても耐えられないと思うんです。やっぱりいろんな経験を通して感じるのは、女性は物凄く強い存在。その強い存在というのを社会がおざなりにしているのは残念なことです。だから日本は衰退しているんだと思っているくらいです」

 彼が描く女性はどこか温かさや包容力が感じられる。それは母性なのかもしれない。彼も「それはあるかもしれないですね」と認めている。一方、男性については描こうと思ったことはないという。それでも描くなら「生き様」にフォーカスしたいとも。

 「スポーツ選手であればイチロー選手、ミュージシャンであれば福山雅治さん。ただカッコいいだけじゃなくて、その様(さま)が美しい。そのクラスになるとたぶんいろんなものを犠牲にしてスターになっていると思うんです。その生き様が美しい人を描きたいですね」

身をもって体感した“天才”ピカソの技量

 さて、現在放送中のフジテレビ“月9”ドラマ『コンフィデンスマンJP』ではオープニングと第三話で美術協力をしている。オープニングで長澤まさみ演じる「ダー子」が椅子に座り、分厚い本を開いて偉人の名言を読み上げるシーン。その本に描かれている偉人の肖像画を中島さんが描いている。慣れない鉛筆によるデッサン。「鉛筆ではあまり書かないので『下手だな』って(笑)素材によって修練度が違うので、油絵に関して自信は持てるけど、鉛筆に関しては…。久々にやったら結構難しいですね」と謙遜している。

 そして、4月23日放送予定の第三話の劇中で、中島さんはモネやシャガール、ピカソの“贋作”(がんさく)を描いた。この体験によって新たな発見もあったという。

 「気付いたのは彼には画風がないことでした。僕にとっては驚きでした。それこそモネ風やシャガール風はあるんです。シャガールはこういうタッチでこういう雰囲気で、こういうモチーフでというのがある。モネは皆さんご存知の通り『睡蓮』。ピカソは描き方の癖がコロコロ変わるので誰が誰だか分からない。画風という意味では分からないけど、何か根底にピカソらしさがある。あれはなかなか真似ができないというか。ピカソ感を出すのが一番難しかったです。僕にとっては驚きでした。それはたぶん、ピカソはその時の感情によってタッチが変わっていたと思うんです。その一方で、感情によってそんなに変えられるのかと…。例えば字。汚くなろうが、綺麗だろうが誰々の字だとは分かる。だけど、ピカソに関してはそれぞれ1枚単体で見せられると『こっちとこっち全然違うじゃん』となる。全然違う字なんです。だけどどこかピカソっぽい。模写した時にやっぱり天才なんだなと身をもって理解しました」

 その“難産”だったというピカソ絵画。どのように挑んだのだろうか。

 「ある意味モチーフに甘えたというか、番組側からはバラ色の時代のピカソを描いてくれと言われまして、バラの時代は、サーカスをモチーフにしていることが多くて、そのモチーフに甘えていろんなところから抽出してなんとか形を作っていきました」

 そんな中島さんは、西洋アートをもっと身近に感じて欲しいという思いがあるという。

 「面白さを分かるためには一定の勉強が必要。西洋アートも文脈が面白い。でもいきなり日本に持ってきて『西洋アートって面白いでしょ』と言われても文脈が分からないと理解できない。その文脈を理解するには一定の時間が必要で、日常の延長にあれば最初は分からなくてもそのうち分かってくる。しかし日本はそれが根付いてなく、アートと距離感はある。見ている人は意識高い系とも思われている。でもそんなことはなくて日常の延長上にあるべきものが芸術。最初は分かりやすいアカデミックなものから始まって、それがだんだんと色んな幅に広がっていく流れを作れたらいいなと思います」

 絵画を身近に感じてほしい――。中島さんが描いた絵画は4月5日から25日までの間、中目黒蔦屋書店で、一枚の絵画展『呼吸』として展示されている。あまりのリアルさに驚くことだろう。