英・マンチェスターのバンドのゴーゴー・ペンギンが去る2月9日に、最新アルバム『A Humdrum Star』をリリース。同作を引っ提げた世界ツアーの中で、2月19日から来日し、ブルーノート東京と名古屋ブルーノートで計4日間の公演をおこなった。彼らはクリス・アイリングワース(Piano)、ニック・ブラッカ(Ba)、ロブ・ターナー(Dr)から成る、ジャズにおいて伝統的なピアノトリオという楽器編成。アコースティック楽器でエレクトロニカやダブステップなど、クラブミュージックの様な独自のサウンドを展開する。2012年にアルバム『V2.0』が『マーキュリー・プライズ』(英国、アイルランドで最も優れたアルバムに贈られる賞)にノミネートされ、世界中から注目される存在となった。クラシックの音楽学校で学び、様々な活動を経験してきたという3人。今回は4度目の来日となる彼らにインタビューをおこなった。「今が自分達の到達点だとは思っていない」と語る彼ら。独自のサウンドを形成してきたこれまでの活動と、音楽のジャンルや世界ツアーを通して彼らが考える音楽の魅力について語ってもらった。【取材=小池直也/撮影=大西 基】

アイデンティティを取り外すのが音楽

――みなさんのお名前は日本のジャズリスナーにも知れ渡っていますよ。

 

インタビューに応じるゴーゴー・ペンギン

一同 おお、良いですね(笑)。

――4度目の来日となる今回の公演はいかがでしたか?

クリス・アイリングワース とても良かったです。4日間2セットずつのショウをやっていましたので、結構疲れましたね。でも日本の皆さんのエネルギーのおかげでいいライブが出来たと思いますよ。前回来日した時は1日くらい東京を巡る機会があったのですが、それが今回なかったのが少し残念でした。

――日本に対する印象はいかがでしょう。

クリス・アイリングワース いつも皆さん良くしてくださるし、ライブは盛り上がるし、食べ物はおいしい。とても良いですね。日本の後も色々な所をツアーする予定です。アメリカ、ブリュッセル、フランス、ドイツ、イスタンブール、その先は怖くてスケジュールを見ていませんが…(笑)。

――ゴーゴー・ペンギンは日本でジャズのカテゴリで紹介される事が多いですが、皆さんはどう思われますか?

クリス・アイリングワース

ロブ・ターナー 特にジャズと呼ばれる事にこだわりはないです。例えば、最初にウォークマンがあって4つのボタンで選曲ができるとしましょう。『ジャズ』、『ロック』、『クラシック』、『ポップス』。そこから段々ジャズでもビバップ(40年代後半から50年代のスタイル)や色々に派生し、クラシックはバロック(バッハなど)やロマン派(べートーヴェンなど)と細分化していきます。だから、そのリスナーが見つけたい音楽にたどり着くために言葉があると思うんです。それはそれで良いんじゃないかなと。

――なるほど。皆さんはエレクトロミュージックの質感をジャズの伝統的なピアノトリオ(ピアノ、ウッドベース、ドラムスの編成)で再現しようとされている様に思われますが、なぜこの様な音楽性に辿りついたのでしょう。

クリス・アイリングワース このバンドを始めて数年が立ちましたが、今が自分達の到達点だとは思っていません。まだこれからミュージシャンとして、これまでもそうだった様に実験を重ねて変化し続けていくと思うので。3人の人間が集まって、それぞれの考えがあり、個性があり、人生がある。小さな事が積み重なって、年月を経て何かになっていくので、どうやってここまで来たかという事を説明するのも難しい。それと同じ様にこの先どうなっていくのかもわかりません。

ターニングポイントはありましたよ。2012年にアルバム『V2.0』が『マーキュリー・プライズ』(英国、アイルランドで最も優れたアルバムに贈られる賞)にノミネートされた事もそうですね。そういう事が自分達の背中を押してくれましたが、それもあくまで通過点。だから、どこから来たのかも、どこに向かうのかもわからないんですよ。

――敢えて伝統的なフォーマット(ピアノトリオ)を使っているわけではない?

ニック・ブラッカ たまたま、この3人が1番得意だったのがこの楽器なだけです。僕もギターがちょっと弾けたり、ロブも少しピアノが弾けるので、それを使うという事も出来なくはないですが。でもアコースティックな楽器でエレクトリックな事を再現するという事に面白さを感じます。シンセサイザーやパッドなどの機材を使えばそれは簡単ですけど、敢えてそれを人力でやるところがチャレンジングなんですよね。

――イギリスの音楽シーンについてはどのように感じていますか。

クリス・アイリングワース 僕達はあまり周りの事を考えていないんです。気にしていないという訳ではないんですけどね。常に「自分達の音楽」を考えているので。実際にUKでも「ジャズが復活した」という様な事が言われていて、シーンは盛り上がっていると思います。でもそういうバンドがいたとしても、自分たちがそれによって何かを変えるという事はありません。

ニック・ブラッカ アメリカに行った時はジャズの本家というか、ジャズが生まれた場所だから「もしかしたら自分達の音楽が受け入れてもらえないのではないか」という気持ちもありました。でも実際に行ってみたら全く正反対でした。なぜかと言えば、自分達がやっている事はジャズだとは思って聴かないんですよ。「ジャズではないけど、この3人組面白い」という風に受け止めて貰えた事は良かったです。

クリス・アイリングワース アメリカは凄く広い。国によってだけでなく、州ごとでも凄く反応が変わるんです。例えばアリゾナ州のフェニックスでやった時の雰囲気と、オレゴン州のポートランドだとマンチェスターに近いと感じたり。会場によってその土地の個性が違うのが面白かったですね。

――とすると、皆さんの音楽もイギリスだったから生まれたという風に思うのですが…。

クリス・アイリングワース 音楽と自分達の国籍的なアイデンティティを一緒に捉えた事はないですね。

ロブ・ターナー 歴史的にもクラシックのオリヴィエ・メシアン(作曲家)もインドの音楽が好きだったりします。今で言えば、ジャズの人もヒップホップの人もスマホなどで国に関係なく色々な音楽が聴けますよね。だから国籍というアイデンティティを外してくれるのが、音楽なんじゃないかなと思います。

境界線がない中に自分達はいる

――皆さんの楽曲が持つリズムからロックやドラムンベース、ダブステップなど“イギリスらしさ”を感じます。アメリカのジャズメンが奏でる新しい音楽の多くとは、ビートに対する感覚が違うように思えました。

ゴーゴー・ペンギン

クリス・アイリングワース 当然、僕達はそれらの音楽から影響を受けています。ジャズとかクラシックを知る前、僕はロックが大好きでした。そうすると自分のピアノの弾き方などにその影響があるのは間違いない。

ニック・ブラッカ 僕がダブルベース(ウッドベース)を習っていたベーシストはラム(Lamb)というユニットで弾いていました。彼はある時は『グラストンベリー・フェスティバル』のメインステージでロックを演奏して、でも次の日は田舎のクリケットクラブみたいなところでストレイト・アヘッドなジャズをやっていたりしていました。そういう事をしても大丈夫だという現場を若い頃から僕は見ていて、それが当たり前だと思っていたんです。だからやりたい様に出来るんです。

(*編注:クリケットクラブ=英国生まれのスポーツ「クリケット」の練習場兼競技場。会員制で高級な場所であることが多い)

――このまま行くとジャズという言葉の定義はわからなくなるでしょうね。

ロブ・ターナー

ロブ・ターナー 昔はレコードが作られたら、まずアメリカで発表されました。でも今は作ったらどこにでも発信できる訳じゃないですか、世界中に。物理的に今までは手元に届くまで時間がかかりましたが、今は同時ですし。

クリス・アイリングワース 音楽の境界線という物は今もあると思います。実際それを必要としている人もいると思うんですよ。「シーンの中にいることが大事」と思う人もいるかもしれない。そして「自分よりも大きいシーンにいる事によって、自分も大きくなれる(様に見える)」という事もあるかもしれませんね。

でも同時に「シーンがないシーン」というのも出来てきています。それはSpotifyやアップルミュージックが登場して、アクセスするのが楽になったから。皆好きな音楽を探す事が出来るんですよね。だから境界線がない中に自分達はいると思います。

その境界線を除きたいという気持ちは、何百年も前からあったんじゃないですか。クラシックの作曲家たちもウィーンやオーストリアで音楽を作っている時、もしかしたら考えていたかもしれない。でも、それを実現できる環境がなかった。今はそれがあるわけです。「ミックスしたい」という想いは音楽に関して昔からある様に思います。

――皆さんは新しい何かを作る時に常に「ミックスしたい」と考えているのですか?

ニック・ブラッカ そうですね。音楽やアートを志す理由は色々あると思います。個人的には自分が「聴きたい」と思うものを創りたい、ただそれだけなんですよ。

先ほどの「イギリス的な事」という話に戻ってしまいますが、自分達以上に日本の方がそれを感じ取ってくれているのだと思いました。僕たちもそれが身近なこと過ぎて良くわかっていない様な気がします。そういう風に感じたという意見はとても興味深いです。

 

ニック・ブラッカ

――ところで、最新アルバム『A Humdrum Star』に収録されている「Transient State」は、東京を観光した時に浮かんだそうですね。

クリス・アイリングワース いつもは来日しても、時差ボケがつらくて「休みがあったら寝ていたい」と思ってしまうんです。その日は頑張って外に出て、代々木公園に行ったら明治神宮があって。それから猫カフェに行って、結婚式も見れたし、原宿を歩いたり、1日で出来る事を全てやった様な感じでした。

そういう経験は、ツアーをしていると東京だけではなくて他の街でもあったりします。その1日で出来る限りその国の文化を取り入れようと思っていて。そういうバンドとしてのライフスタイルを曲にしたんです。凄く忙しい日もあるけど、そんな素晴らしい日もある。マンチェスターで活動していた頃から考えると、自分達が今こういう生活を送っている事が信じられないです。

でも大きく考えると、全てが幸運だなと思えます。「Transient State」は「物事が移りゆく状態」という意味なんですけど、それは自分が今生きている毎日の中から見いだしたことなんです。

――イギリスやヨーロッパでは近年、テロなどの痛ましい事件も多いと思います。「平和」という事を考えた時に音楽は何が出来るとお考えですか?

ニック・ブラッカ 偶然なんですけど、僕達がツアーで行く先でテロが起きた数日後に演奏しなければならないという事が続いたんです。パリもそうだったし、ブリュッセルは2日後、イスタンブールも。まだ国中が喪に服している状態で。そこに行けば嫌でもそういう事は考えます。

でも自分達に出来る事は音楽を演奏する事しかないんです。ブリュッセルの時は現場に多くの献花があって、そこを抜けて会場に行かなければならなくて。発生してまだ2日ですから、ライブもキャンセルするかもしれない状況の中、お客さんも来て喜んでくれました。どんな時も人生は続いていくものですから、生きていくしかない。やっぱり演奏して、励ます事しか出来ないですね。

ロブ・ターナー 最後に一言伝えたいのは、日本の平和憲法が世界で最も素晴らしいということです。大切にして欲しいと思います。