andropが3月7日に、オリジナルアルバムとしては約3年ぶりとなるニューアルバム『cocoon』をリリースする。ボーカル&ギターの内澤崇仁が織りなす楽曲は近年、提供曲の「カタオモイ」(Aimer)、「ストーリーボード」(上白石萌音)などに見られるように、メロディと歌詞で描く独特の世界観が高い評価を得ている。そうした中でリリースされる今作。Aimerが参加した約8分にもおよぶ大作「Memento mori with Aimer」が注目されるが、収録される1曲1曲に力が溢れ、曲という描写が一つ抜けても成り立たない、まるで映画のような作品といえる。今回はその魅力を紐解いていきたい。【木村陽仁】

音楽という時針

 収録曲のなかには、映画のために書き下ろした楽曲などもあるが、このアルバムのために生まれたかのようにぴったりとはまっている。大きな空間の中で行き来するような、聴く人の記憶の中で浮かぶような、そんな作品と言える。

 収録曲のなかでも特筆すべきは「L」「R」それぞれ異なるトラックを用意することで世界観を立体的に表現させることに成功した8分44秒という長尺の大作「Memento mori with Aimer」と言えるが、アルバム全体を通して聴いた時に感じるのは、その楽曲がすっかり溶け込んでいることだ。普通なら際立ってしまうほどのインパクトだが、それを感じさせない。それだけ、個々の楽曲に力があり、想い出の積み重ねが「今の自分」を形成させているように、楽曲そのものがその時々に刻まれている想い出なのだろう。

 作品を最初に聴いた時に感じたのは「時の流れ」だ。季節云々ではなく、時が流れていくような感覚。時計の針が進む速さは統一されている。しかし、速さの体感、感覚は人によって様々だ。1分という単位でも速く感じる人もいれば、長く感じる人もいる。その感覚がこの作品にもあった。8分44秒という長尺の「Memento mori with Aimer」が短く感じる一方で、3分38秒の「Catch Me」は長く感じられる。それがこの作品の特長ともいえる。時間軸のなかで行き来している感覚だ。

 それは、別世界にも似た大きな空間が表れるような感じだった。それこそ、映画のように、流れる音楽が作品毎の物語を映像化し、時には聴く人の想い出にも繋がって心を開けさせるような。その時の匂いまでもが伝わってきそうな感じである。音像が立体的で、もっと言えばそれを超越したものがある。

 例えば、想い出深い出来事を想い出してほしい。それらの記憶は、色が付いていて、なんだか匂いも感じられないだろうか。そこには声や音もある。もしかしたらモノクロで無音というのもあるかもしれない。今作品は、そうした記憶を音楽で表現しているような感じだ。小説を読んだ時に自然と物語の絵が浮かぶように、音楽でそれを実現させている。しかもぼんやりではなく鮮明に。

 そうした時間軸の旅は「Prism」で幕を開ける。軽快なギターのアルペジオが歌声を誘う。希望の光が差し込むような展開だ。この楽曲は自主レーベル立ち上げ後初のシングル。バンド自身の心境を投影させるように、新たな一歩を踏み出す前向きな言葉、音が並ぶ。音色が艶やかだ。こうして始まったアルバムの世界は、2曲目「Arigato」も彩を加えていく。エレクトロな要素が入った「Joker」、時を刻むような始まりを見せる「Sorry」、アイリッシュな「Kitakaze san」など様々な音色で情景を描いていく。

対局のHanabiとCatch Me

 どれも欠かせない曲であり、収まるところに収まっている。なかでも「Hanabi」「Catch Me」そして「Memento mori with Aimer」はこの作品の鍵を握っているように思える。

androp「cocoon」初回盤

 例えば「Hanabi」。曲名が日本語でも漢字表記を使わないのが特徴だが、「Hanabi」はとりわけその意味が大きい。「花火=夏夜の花火」を連想されるが、花火にも様々ある。恋人ならば心を通わせて時めく「心の花火」かもしれないし、それこそ歌詞に出てくる<花火みたいに綺麗な君>という「恋人」の事を指すのかもしれない。そこに含みを持たせることで様々な広がりを見せている。

 そして、歌詞だ。

<花火が照らした君は眩しかった>
<バレないように バレないように>
<胸に 焼き付けた>

 これらが象徴するように、言葉が物語を初々しく、そして美しくさせている。それは、歌詞の節々に使われる「ですます調」も大きな役割を果たしている。それらを音で表現するように、ボーカル内澤は優しく歌い、それに沿うように優しいメロディがゆっくりと時を刻んでいく。様々な花が重なるように、ピアノ伴奏で始まり、やがてギター、ドラム、ベースが重なっていく。大輪を咲かせる序章のようだ。歌詞、メロディ、サウンド、ボーカル、全てを使い、“想い 出”あるいは“情景”をピュアにさせている。

 「Hanabi」と同じ時間の流れを感じるのに、相反する物語を見せているのが「Catch Me」だ。アコースティックギターから始まるそれは、人の内面をエグルような描写が広がる。『b lue』にもリンクするようなダウナーな曲で、どうにもならない不条理さのなかでもがき精気を失う心情を、ストレートな歌詞、そしてボーカル、サウンドによって表現している。だが、そのなかでも微弱な命の鼓動も感じさせる。歌詞の最後<確かなのは今 息出来ること>はモノクロのなかで一つだけ色を見せている。

対局の物語

 そして、「Memento mori with Aimer」。左(L)に内澤、右(R)にAimerのボーカルが入り、演奏もそれぞれ異なる。そうした異空間が同時進行で展開されていく。恋人との心の重なり、そしてすれ違いを表現するかのように、異なる歌詞が紡がれ、時に重なる。アンサーソングをも組み込んで一つの楽曲に成り立たせる。しかも、内澤、そして、Aimerの歌声が絶妙な空間を作り上げる。

androp「cocoon」通常盤

 冬から始まった物語は、春、夏、秋と四季を綴る。曲調や歌詞こそ違うが、まるでこれまでの1曲目から11曲目の収録曲を「L」「R」という異なる時間軸でなぞるような描写だ。そして、その後の2人の結末を描くように、この曲の2番からは新たな展開が始まる。恋人の2人の感情に変化がみられる。

 面白いのがAimerの歌詞の方が、センテンスが短いところだ。男女の心の違いを表しているのか、否か、いずれにせよ心模様のばらつきがセンテンスに表れている。また、もう一つ言えるのは、アルバム全体をとして、サウンド、特にギターサウンドが喜怒哀楽という心の揺れを絶妙に表現していることだ。まるで内側の想い を代弁しているような声にも似た感じだ。

 それは「L」「R」が異なる「Memento mori with Aimer」ではっきり表れている。内澤の声の「L」は初めにメロディをなぞる。Aimerの「R」はギターも入るがすすり泣くような響き方をしている。そして、何かを切り出すかのように、歌声の始まりを告げるのは「R」だ。その後も、様々な音色が「L」「R」それぞれに流れていく。歪んだギターが印象的だった「L」、しかし、途中からはその音もなくし「R」に変わる。心模様の変化が目まぐるしく、そして克明に描かれている。

暗示する「Tokei」

 こう書いていくとふと、ふと気づいたことがあった。曲ごとに季節や色、匂いは感じるが、どれも対極が曲の中に存在する。例えば「Hanabi」、捉え方によっては恋人が愛を確かめ合っているにようにも見えるし、別れ間際のようにも見える。あるいは過去の記憶をたどっているかもしれない。曲を聴いて最初に感じたものを以下に記してみた。

01.Prism 初春
02.Arigato 新緑
03.Joker 梅雨
04.Hanabi 夏夜
05.Sorry 晩夏
06.Catch Me 晩秋
07.Sleepwalker 初冬
08.Kitakaze san 越冬
09.SOS! feat.Creepy Nuts 真夏
10.Proust 真冬
11.Ao 雪解け
12.Memento mori with Aimer 春夏秋冬

 だが、何度か聴いていくと曲のなかに異なる季節、あるいは感情が存在することに気付く。例えば「Prism」は初春のようでもあるし、曲の中で1年が描かれているようにも感じる。「SOS! feat.Creepy Nuts」は音からにして夏を意識した軽快なリズムだが、歌われている物語は世間への皮肉だ。

 対極にある季節あるいは四季、感情を行き来しながら、最後に迎えるボーナストラックは「Tokei」だ。全ての意味がここで合致するような感じだ。曲が時を刻み、季節をまたいで迎える「Memento mori with Aimer」。さらに言えば、このアルバム自体は、16年に発売されたアルバム『blue』とのつながりも感じさせる。曲、そしてアルバム、更に、彼ら自身が時間軸のなかで一つの物語を紡いでいるように感じる。それを作品として表した。全てを取り込んで、立体的に描かれている。

 様々な描写や情感が自由に、且つ克明に描かれていく。空間の中で音楽を使って過去、現在、未来、そして心を自由に行き来している。そんな完成度の高い作品といえよう。