野崎良太が率いるミュージックプロジェクトのJazztronikが2017年12月20日に、アルバム『BB1』をリリースした。このアルバムは、Jazztronikとしては初となるジャズビッグバンドによる作品で、セルフカバーと新曲が半分ずつ収録されている。2017年は「生身の人間が演奏する音楽に力を入れた1年だった」と語る野崎。4月には今回と毛色の違うクラシカルな『野崎良太 with GOODPEOPLE』というプロジェクトも始動させている。様々なプロジェクトに関わる彼だが、「色々な音楽が同じ線上に感じられる」と平然と語った。新譜についてだけに留まらず、デビューから現在までで変化した音楽環境や、それに付随する問題まで、広範囲に及ぶ話題について話を聞くことができた。【取材=小池直也】

メンバーは世代が固まらないように気を遣った

――2014年からビッグバンド編成のライブに取り組まれていましたが、今回改めてレコーディングされたのはなぜだったのでしょうか?

Jazztronik『BB1』ジャケ写

 ライブをやっていて「音源化しないんですか?」という声が結構多かったんです。僕も今年は4年目なので、そろそろ記録として残しても良いかなと。それがたまたま今回だったという感じですね。ファンの方の声はなるべく反映できるようにしたいですし、ビッグバンドのアルバムはいつか作りたいと思っていたので、タイミングが一致しました。今後も続けられたら良いなと考えているので、今回はシリーズの第1作目という位置付けです。

 ビッグバンドは昔から好きなんですよ。エンターテインメント性もあるし、音楽的にも色々なチャレンジができるジャンルなので。作曲家/アレンジャーとしてはやりがいがあるんです。1日、2日で打ち込みを始めた人がダンスミュージックを作って、という感じとは全然違うじゃないですか。なので、このプロジェクトを始めて1年目でこれを出そうとは思ってもいませんでしたし、出せる様な物が仕上がらなかったんじゃないですかね。4年間もやっていると色々とわかってきました。

――具体的にわかってきた事というと?

 例えば、チームのメンバーが替わっても同じサウンドだと思われがちなんですけど、管楽器ってそれぞれ大分個性が違うんですよ。今回の作品もちょっとメンバーを替えてしまうと、多分違う音になってしまう。そこが面白いんです。結局4年間、ほぼ同じ様なメンバーでやっていますし、そういったところも昨日今日始めたばかりでは出来なかったでしょうね。なのでレコーディングはとても楽しかったです。

――アレンジもご自身でされていますが、苦労された点などありますか。

 セルフカバーの3曲(「Sanctuary」・「Deja vu」・「Meguru(2017 version)」)はライブでもやっている曲なので、残り半分が新曲ですね。管楽器は移調楽器(※)なんですが、これだけの人数がいると頭がグシャグシャになるんです。だから、譜面作りの作業はとにかく大変でしたね。

 もちろん譜面制作ソフトを使って作業をするんですが、最終的な確認は人間の目でするわけなので。そこまで気を遣わないといけません。そこが弦楽器とやる時と違うところです。あとは、ポイントポイントで見せ場を作りたくて、そこは工夫していますね。このタイミングで凄く高い音を出さないといけないから、その前の所を吹いて欲しいけど休みにするといったように。

 録音もライブと同じように「せーの」でやっているので、管楽器の人の体力的なところも考えないといけないんですよ。長い曲もあるし、途中で力尽きちゃうと、その後続けられなくなってしまうので(笑)。そういったところもリハーサルでミュージシャンに確認しましたね。

(※楽器の構造上、トランペットのドの音はピアノでシ♭、サキソフォンのドの音はピアノでミ♭になっている)

――2曲目の「Caprice」は5拍子を基調に4拍子がクロスするシーンもあって興味深かったです。

 この曲は凄く難しくて、リハーサルで最後まで通せた時は拍手喝采でしたね(笑)。リズムに関しては特に何を考えたわけでもなく、自然に出来ました。ああいう拍子の変わり方は伝えるのが難しいんですよ。

 今回は全部が生演奏なので、デモがあってどうこう、というものでもないじゃないですか。ドラムの人がどれだけ僕のイメージしているビートを認識してくれるかも重要。なので、その辺を共有するやりとりが通常のレコーディングよりも多かった印象です。

――そもそも、バンドメンバーの人選はどのように決めたのでしょうか?

 最初は僕の知り合いと、足りないパートはJazztronikでずっとトランペットを吹いてくれている寺内茂さんが集めてくれたメンバーでやり始めたんです。今回のレコーディングは、いつも行っているビッグバンドのライブより人数が4、5人多い編成になっています。気を付けたのは、同じ世代で固まらない様にした事です。なるべく色々な世代が入る方が良いと思っていて。管楽器に限らず、世代の雰囲気というものがあるんですよ。

 例えば、上の世代のプレイヤーだとフュージョンな雰囲気があったりします。あとは、管楽器の世界って基本的に体育会系なので、年上の人を入れると、まとまるという事もありますね。僕がまとめれば良いんですけど、そうすると、自分のプロジェクトなので権限が強くなってしまうんですよ。皆も意見が言いづらくなってしまったりするのが嫌なので、金管楽器(トランぺット・トロンボーンなど)、木管楽器(サキソフォン・クラリネット・フルートなど)にリーダーになれる人を配置したりもしています。そういう意味では凄く人選が大変で(笑)。結局チームワークなので、挨拶などのコミュニケーションができない人にはお願いできませんね。

――年下のプレイヤーについてはいかがですか?

 年下の子たちは真面目ですね。50代の方などは時代が良かったんです。お金のある時代で、ハチャメチャな事をやってもギャランティが発生していた。なので、時代感はあってもアイディアが面白い人が多いんですよ。でも、若い人はジャズが学問になってしまっている感じ。ジャズやビッグバンドって、日本の物ではないんですよ。クラシックもそうですけど、学問だから学校があるじゃないですか。そこで学んだことが正解だと思ってしまって、抜け出せなくなっている人もいる気がします。

 見ていると、若い子は上の人から「おまえ違うよ」と言われない為に教科書通りにやるしかない様にも思えます。それは今回のメンバーだけの話ではなく、シーン全体を見て感じることですね。それはDJでも同じで、年上のDJにブーブー言われるくらいだったら、年上の人が「最高」と言っている曲をかけとけば良いやと思ってしまったりします。それに似ていて、正解/不正解が音楽に出てきてしまったなと。

――それは歴史のある音楽ならではの問題なのかもしれませんね。

 そうかもしれません。なので、年上の人には若い人たちを見て欲しいし、若い人には年上の人たちのことを見て欲しい。そういう理由でメンバーの世代を分散させたんです。僕がそんな先生みたいな事をする必要もないんですけど、もう少し面白い人が増えて欲しいな、という想いがあって。バークリー音楽大学や東京藝術大学を出て活躍している人がどれだけいるかを考えてみると、やはり学問が必ずしも正解ではないと思うんですよ。

 確かにJ-POPの良く出来た曲で、意味不明なソロを入れてしまう訳にはいかないですよ。でも、アンダーグラウンドで自分達が好きにやっている音楽に安全な物はいらないんじゃないかなと。僕も、日々そういう事をやって生き残ってきた人間なので、周りのミュージシャンにはそういう事を伝えていきたいですね。

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