ロックバンドの黒猫チェルシーが13日、ニューシングル「ベイビーユー」を発売。この作品は渡辺大知(Vo)が出演する映画『勝手にふるえてろ』の主題歌になっており、ミュージックビデオも映画のサイドストーリー的な位置付けのものとなっている。このシングルは「今ワクワクしながら活動出来ている」と語る、渡辺が象徴している様に、10周年を迎えてさらにバンドが充実している事を示す様な曲だ。さらに、注目すべきは「ベイビーユー」のメンバー4人によるアレンジバージョンが収録されている事だろう。「歌詞だけを残して後は好きに」というルールで制作していったという。インタビューでは制作意図や、彼らの現在の立ち位置、それぞれのソロ活動について思う事などを聞いた。

長い活動の「暗黙の了解」を壊した

「ベイビーユー」通常盤

――久々のシングルですね。

岡本啓佑(Dr) 自分たちの好きな音楽性ではあるんですけど、黒猫チェルシーとしては新鮮な曲なのかなという印象があります。リード曲があって、それぞれのアレンジ曲で遊んでいる事も含めて。一歩新しいところに行けたなと。

渡辺大知(Vo) 映画『勝手にふるえてろ』の主題歌という事で制作しました。自分達の「今これが面白い」という音楽の楽しみ方が見つけられたなという手応えと、聴いてくれた人にも楽しんでもらえるんじゃないかという期待がありますね。リード曲に関しては凄くシンプルなロックンロールなんですが、古臭くない今っぽいものが出来たかなと思っています。きっかけになった映画に本当に感謝です。

澤竜次(Gt) ギターのソロは今回入れていないのですが、音色に関しては、色々考えました。GS(グループサウンズ=60年代ロックの一派)っぽいイントロのフレーズも、音とリズムが全て相まって良い感じの所にたどり着けたと思っています。シンプルながら感覚的に気持ち良くて、何回も聴きたくなるものが出来て嬉しいですね。

宮田岳(Ba) 4人それぞれのアレンジ曲が肝だと思っています。長い事やっていると暗黙の了解で出来てしまう空気を、遠慮なくぶち壊しにいっている感じですね。ロックバンドの新鮮さが伝わるものになったんじゃないかなと。4人が音楽家として自由にやったんだなと思って貰えるかと。

――「勝手にふるえてろ」の主題歌抜擢は映画に渡辺さんが出演されているところから?

渡辺大知 意外とそうじゃなかったんですよ(笑)。オファーというか、幾つか候補曲のある中から最終的に選んでいただいた形です。映画には僕も出演させて頂いているんですけど、映画に出演した自分だからこそ、出せる空気感みたいなのが出せたかなと思っています。映画へのラブレターを「受け取ってくれ!」みたいな気持ちで作ったので、それを受け取って貰えた感じです。

――リード曲のアレンジなどはどの様に作られたのでしょうか。

渡辺大知 僕が映画を観させてもらって、色々な気持ちをまずデモ音源に残したんです。自分の家で出来る範囲の歌と、ギターと簡単なリズムを入れた物を皆に聴いてもらってという感じでした。

岡本啓佑 渡辺が作ってきたデモに入っていたコーラスがあるんですけど、そのニュアンスやエフェクトのかけ具合に説得力を感じました。それは録り終わるまで頭の隅にありましたね。ドラムを叩く時もそうですし、全体的な物差しになった気がします。いつも完成を意識して叩くので。

澤竜次 「ラブソングでシンプルだけど、おもちゃ箱」みたいなイメージがありました。キーボードの音も皆で「こういう音が入ったら良いのかな?」と話したり。それに対してギターのアプローチを考えています。GSっぽさもありますけど、歌謡曲っぽい感じもありますね。

宮田岳 「今刺さるものってどういうものだろう?」という問いへの、僕らの答えとしては「リズムはアナログ感があって、それに乗っかる物がキラキラしている物」。ベースについては、僕は50年代のロックンロールをやるというバンドもやっていて、そこでのプレイスタイルを意識して取り込んだりもしています。機械で整えた、全て合っているというものではない事をやりたくて。もちろん機械で作ってはいるのですが。

――先行公開されたMVも映画とリンクしていますね。

渡辺大知 前から『勝手にふるえてろ』の大九明子監督に撮って貰いたいと思っていました。映画ありきで動き始めた曲でもありますし。あと、この曲を作った時は自分の中で「初めての恋」というテーマにしていたんです。この映画の主人公が不器用なんだけれど、初めての恋に一生懸命もがいている話なので。それをリンクさせたいなという想いから歌詞を考えているので、同じ監督にお願いするのは意味のある事なんじゃないかなと思って依頼しました。

 自分達の中で「猫を主人公にしたMVにしたい」という構想もあったので、それでも引き受けてくれるのであれば、という感じでもありましたが。大九監督は「猫は大変だけど、やります。猫は赤ちゃんを撮るより難しいからね」と言いながらも、快く引き受けてくれました。「行け!」とか「止まれ!」と言ったり、猫からしたら凄い労力だったんじゃないですかね(笑)。

岡本啓佑 賢い猫ちゃんでしたよ。

澤竜次 絶対にひっかかないし、噛まないし。

タイトルが「BABY BABY」だったら歌えない

黒猫チェルシー

――撮影は順調に行った感じでしょうか?

宮田岳 僕、神主さんの格好をしていたんですけど、本物の神主さんに何度も間違えられました(笑)。普通に参拝に来ていたおばあさんに「お参りしても大丈夫ですか?」と訊かれたりして。

岡本啓佑 あと、このMVの目標再生回数は7000万回です。このペースだと何年かかるか(笑)。まだ只の猫好きな人に届いていないと思うので、そういう人にも見て貰いたいです。「何か猫可愛いけど、この曲なんや、ええやん」と思ってもらえたら最高なんですけどね。

渡辺大知 確かに。音楽とか映画とか主演の松岡茉優さんとか、そういうところから遠い人に届いて欲しいです。今回は映画のサイドストーリーに見える様にも作ってもらっています。そういう楽しみ方って凄く良いなって思うんですよ。だけど、大事だと思うのは、そういう情報を知らない人にどれだけ届くか。曲を作る時も、僕らは観に来るってわかっている人の為に作っている訳じゃなかったりもする。曲が1人歩きして、僕が知らない世界まで届いて欲しいというのが願いなので。

宮田岳 ジャスティン・ビーバーが猫好きだったら良いんですけど(笑)。

――ところで「ベイビーユー」というタイトルはどこから着想されましたか?

宮田岳 さっき、「そういえば『ベイビーユー』ってどういう意味なんだろう?」って思ったんです。

渡辺大知 凄く愛しい人が目の前にいるけど、でもその人に声を掛けれずにいる感じです。「ベイビーユー」というタイトルは他に無くて、さっきのラブレターじゃないですけど、愛しい人に届ける様な曲になったら良いなと。目の前の愛しい人に脳内で「…愛しいんです」と言ってるみたいな。

澤竜次 自分はベイビーだと思っているけど、ユーでしかないみたいな? 今思いついた解釈ですけど(笑)。

渡辺大知 例えば「BABY BABY」(銀杏BOYZの楽曲)だと自分には歌えない感じがありました。でもタイトルの意味とかを説明するのは難しいですね。結局「キャッチーな言葉を見つけたい」というところです。一瞬でこの曲の雰囲気が伝わる様な「この曲はこうなりそう」というのが何となく決まるものにしたくて。

 タイトルはその曲を象徴する言葉なので、タイトルがあって曲を作っていくと、完成した物がイメージと離れる事もあります。だから本当のタイトルは完成してから付けています。歌詞とかメロディとか、そういう事じゃ判断できないレコーディングした時の空気感だったり、微妙な音の質感で印象は変わると思うんです。

 あとは最終的にできた曲を聴いて、それを象徴するのがタイトルであってほしいですね。完成すると、自分の手を離れる寂しさと愛おしさが両方ある感じで少し客観的に聴きます。凄く可愛いですけど、川に流して「元気にやってくれ!」みたいな気持ちです。

――「ライブで曲は育つ」とも良く言われますね。

渡辺大知 僕もそう思っています。曲を作っている時は人の事を一切考えていないんですよ。自分だったり、届けたい目の前の誰かの事しか考えていないです。でもライブになった時に、大事なその曲を少しでも知ってもらいたいとか、楽しんで貰いたいと考えるんです。

――ユニークなカップリング曲についても訊かせてください。それぞれの解釈による「ベイビーユー」が並んでいて面白かったです。

宮田岳 「歌詞だけを残して後は好きに」というルールで作りました。それで決めた訳ではなかったのですが、自分で歌って、楽器も自分で全部やっています。僕もドラム以外は全部やりました。どうやったら宮田の曲になるのかな、というのを考えて作りました。歌詞を削ったりもしています。

澤竜次 それぞれがアレンジするという話になって「澤はメタル/ハードロックだよね?」という感じになりました。それで「まあいいけど」と。本当はビートルズっぽい感じとかやりたかったんですけどね(笑)。この曲をヘビーメタルにするというので「滑ったらどうしよう」という気持ちもありました。

 サウンドはアメリカの学生がガレージでやっているハードコアな要素も少し出して、粗々しくやっています。ドラムのマイクも1本だけで、ノイズもほとんど消していないですね。自分で自分にカウントを出していたり、楽しかったです。シングルで黒猫チェルシーぽくない音楽が入っていたら面白いかなと。

岡本啓佑 僕は「メロディも残す」という縛りを自分に付けてやりました。自分だったら、こういうポップスにしたいなと思って、すんなり景色が浮かびましたね。コーラスで広がりとか厚みを出して、ひと癖あるポップスに出来たかなと思っています。ギターや歌やベースを自分でやるのは大変でした。

渡辺大知 皆が色々やってくれると思ったので、僕は一番どシンプルな何も飾っていないアレンジです。どれだけ色々あっても終われるかな(笑)というのと、弾き語りは入れたいなと話していて。そこでちょうど弾き語りのライブが決まっていたので、それを録る事になったんです。良くも悪くもその時の空気感ですね。ちょっぴりの緊張感とまったり感が丸ごと出ていたら良いなと思っていました。

澤竜次 そもそもは皆で話していて、ぽろっとスタッフから「色々なバージョンのベイビーユーがあったら面白いんじゃない?」という意見が出たんです。そこからどんどん膨らんでいった企画なんですよ。

今、ワクワクしながら活動が出来ている

「ベイビーユー」初回盤

――このアレンジの多彩さは「それぞれが修行を積んだ」という2月にリリースされた、4年半ぶりの前作『LIFE IS A MIRACLE』の流れもあるんじゃないかなと思いましたが、いかがでしょうか?

渡辺大知 まさにそれはありますね。一人ひとりが個としてのキャラクターを確立してきて、バンドにおけるそれぞれの武器みたいな物がはっきりしてきたので、それを伝える機会になったかなと思います。バンド組んですぐには出来なかったことですよ。長くやって来て、これが1番楽しめるやり方かなと。

澤竜次 10年やってきて、自分達の活動というものを少しは俯瞰できる様になったのかなと思っています。黒猫チェルシーというものが、自分にとってこういうものだなと少しずつ見えてきたというのは、大きいかもしれません。楽曲を作る時に自分の得意な事だったり、エゴだったりが自然に含まれます。でも、そこを必死に出してというよりも、黒猫チェルシーの楽曲があって、そこに皆が向かって合わせている様な感覚があります。曲の為にやっているというか、だから結果的に出来が良くなっています。

宮田岳 次回作もこの面白かったところは引き継ぐと思いますので、日々止まっているわけではないですね。もっともっと高みに行かないと駄目だと思います。

岡本啓佑 皆が個人個人で色々やっていて、それが面白いんですよね。

渡辺大知 受ける事が出来る刺激があれば、どんどん受けてバンドがもっと良くなったらよいなとしか、今は考えてないです。もはや自分としては役者としてお仕事を頂けるのであれば、それを武器にしたいと思っています。そこから、自分だからこその音楽が生まれるんじゃないかと。結果的にどう作る方に還元できるかという事です。それさえあれば、何をやっても良いと思っています。

澤竜次 黒猫もあるし、他の事もやっているから血の巡りが良くなっているという実感があります。僕らは「1つのバンドでこうするぞ」というタイプじゃないんだと思うんです。それぞれが考えている事が違いますし、バンドに対する向き合い方も違うと思います。そういう意味でも解放的で、新しい物を取り入れていくというのは大事です。

――来年3月には『第1回 輝く!10周年ゴールデンライヴ 〜栄光のワンマン〜』が開催されますね。

渡辺大知 今、自分たちがワクワクしながら面白がって活動が出来ているんですよ。「音楽でこういう遊び方が出来る」というのを体現できていると思うので、このライブには是非来て頂きたいと思っています。バンド10周年の締めくくりと、今後の僕らの活動を期待して貰える内容になるはずです。ちょうど、渋谷クアトロの日である3月17日は結成した日で、そういう日にライブが出来る事もありがたい事です。新たなスタートを見せたいですね。

宮田岳 全員集合でお願いします。

――では、最後に次の10年への意気込みをお願いします。

澤竜次 ライブの規模にしてもどんどん大きくなる事が理想です。そうじゃないと駄目だなと。その都度、自分達のやりたい事とうのは出来ると思うんですけど、あとは色んな人に聴いてもらいたいし、見てもらいたいというだけです。

岡本啓佑 これまで応援してもらってばっかりなので、応援してきて良かったなと思える様により良い活動をしていきたいです。

宮田岳 個人的な事ですが「どれだけ音楽家としての技術を上げていけるか」です。

渡辺大知 もう止まりたくないですね。10年やっていて、しばらく活動出来ていなかった時期もありましたし。バンドっていつか終わりのあるものかもしれませんけど、とにかく生きている間は放っていたいです。自分達が輝ける場所なので、見せ続けたいですね。生きている間は生を全うしたい、格好良く死にたい。その為に何が出来るのかを考えていきたいと思っています。

(おわり)