4人組ピアノロックバンドのSHE'Sが12月6日に、2ndフルアルバム『Wandering』をリリース。今年は1月に1stフルアルバム『プルーストと花束』を、6月には4thミニアルバム『Awakening』を発売と創作的な年となっている。ライブで消化しきれなかったという、『Awakening』からも敢えて曲を入れ込み、まさに今年の集大成的作品となった。メンバーも口を揃えて新しい挑戦が最高の出来に仕上がった自信作と話す。彼らに今作の制作中のエピソードや、今作を携えての来年のライブへの意気込みなどを聞いた。【取材=長澤智典/撮影=半田安政】

海外で人と話すのはとても新鮮で楽しい

――今年は作品のリリースもそうですが、その間には2本の全国ツアーを挟んでいます。凄まじいペースですね。

井上竜馬 タイト&タイトな中で作っています(笑)。

広瀬臣吾 この秋におこなったツアーは東名阪のみだったし、そこまでカツカツ過ぎずのスケジュールでしたけどね。

井上竜馬 今年の展開は目標にしていたことだったので、目指した通りに進められたな、という感覚だよね。

SHE'S

インタビューのようす(撮影=半田安政)

――それでも、結構な早さでの制作ですよね。

井上竜馬 1stフルアルバム『プルーストと花束』を昨年11月に完パケ、12月は冬フェスなど年末までバタバタしつつ。今年に入ってミニアルバム『Awakening』を作って、その後に全国ツアーをスタートしました。

 5月に少し休む期間があり、そこを利用して僕は一人でイギリスまで次のアルバム制作用のネタ探しに行き、いろんなインスピレーションを受けました。そこから9月頃までかけて、『Wandering』を作っていたので、今作に限っては、これまで程、急いで仕上げなきゃというペースではなかったですね。

広瀬臣吾 夏フェスなども挟んでいたけど、決して毎週末に、というわけではなかったし、比較的時間に余裕は作れていたね。

――イギリスへ一人旅をしたように、自身の中に新しい風を取り入れる様なことも大切だったのでしょうか。

井上竜馬 そうですね。風景を見ながら曲を書くのが好きやし、今までもそうやって作ることが多かった。何より、これまでに行ったことのないところへ行くことで、単純に自分のリフレッシュにもなる。だから、空いた期間どこか海外へ行こうとは、ずっと決めていて。イギリスは、最近ずっとUKの音楽を聞いていることが多かったんで選んだ場所でした。

――イギリスはロンドンを中心に?

井上竜馬 そうです。ロンドンを拠点に据えながら、あちこち足を伸ばした形でしたね。

――メンバーみんなとではなかったんですね。

井上竜馬 一人のほうが、自分のペースで行動出来るから楽なんですよ。

広瀬臣吾 確かにね。たとえ一緒に海外へ行ったとしても、日中は各自好き勝手に行動して、夜に集まってパブで呑むくらいしかやることないもんな。ただ、海外に行くと日本にいる時とは、ちょっと違うテンションでいれるのも確かなんですよ。この間、台湾でライブをやったときも、夜は4人で一緒に呑んでいたんです。いつもよりもテンション高くはしゃいでたもんな。

――やはり、環境の変化はいろんな影響を与えてくれるんですね。

井上竜馬 その影響は大きいと思います。まず知らない人ばかりだから、海外で人と話すのはとても新鮮で楽しい。日本にいるとき以上に社交的になり、いろんな人たちとコミュニケーションして、楽しもうとしていく自分にもなれるんです。

――その感覚、わかる気がします。

井上竜馬 とくに僕は、人と人との関わりを歌詞にしていく分、なおさら海外では、人との関わりを大切にしていきたいなと思ってしまうんでしょうね。

広瀬臣吾 わかる。何か行動せんと、もったいないと思ってしまうし、旅の恥はかき捨てじゃないけど、多少恥ずかしくてもいいから、何かせんとあかんとなる。

自分のやることに対しての誇りも持っている

――今回のアルバムでも、旅での出会いからインスパイアを受けて作った曲が多い?

木村雅人と井上竜馬

木村雅人と井上竜馬(撮影=半田安政)

井上竜馬 決して人との関わりだけではないです。第一の目的が見たかった景色を見に行くことだったし、そこからインスピレーションを受けて「All My Life」や「Home」が生まれて。むしろ風景からインスパイアされたことの方が多いですね。それに文化の違う環境へ行くことで、いろんな面で日本と比較をしながら想いを紡ぐことも出来る。実際に、「日本へ帰っても、こういう気持ちでおれたらいいよなぁ」という気持ちもあったし。

 前にカンボジアへ行った時には、日本の恵まれ過ぎた環境について、いろいろ思い考えることがあって。今回イギリスに旅をしたことで、いろんな物事を受け入れる器が大きく深くなった気がします。イギリス人って、日本人よりも恥ずかしいという感覚が少ないというか、「だから何?」という意識を持っていて、自分のやることに対して誇りも持っている。何より、自分が選んだことに対して恥ずかしがる気持ちを持ってないんですよ。

――「Getting Mad」などでも、器の小さい人のことを巧みに揶揄していますしね。

井上竜馬 それでも僕なんかは、まだまだ自分の知っている範疇内での話にはなってしまうんですけど。

――井上さんにとって旅とは、自分を開放するための手段みたいなものだと。

井上竜馬 それは、大きいと思います。

――今回、プロデューサーに片寄明人さんが参加しています。片寄さんとは制作期間中、ずっと一緒に作業を進めていた形だったのでしょうか?

広瀬臣吾 3カ月くらいは一緒やったな。

井上竜馬 片寄さんとは、1週間に1、2曲を作っては、出来上がる度にメンバーと片寄さんとで集まり、楽曲を煮詰めていくという作業行程を繰り返してきました。

木村雅人 片寄さんは、すごく音楽的知識のある方で、僕らの意見も尊重しつつ、ヒントとなるアドバイスもいろいろくれて。すごく刺激的だったし、何より僕ら自身の視野がとても広がりました。

――具体的には?

木村雅人 この楽曲はこんな感じかなという提案を、具体的にいろんな楽曲を参考に聴かせてくれることで、その曲が生きるスタイルに近づけてくれた形でした。

井上竜馬 今回は、片寄さんがやっているGREAT 3のドラマーの白根さんも手伝ってくれました。キム(木村)はいろいろアドバイスをもらってたもんな。

木村雅人 ドラムのフレーズでいろいろ悩んでいるところへ、ヒントを出してくれたり、一緒に考えながら作ったりもしていました。

服部栞汰 これまでは、自分たちで一度、スタジオ内でまとめ上げ、それを各自が自宅へ持ち帰って練り上げ、さらに、それを次のスタジオで練り上げて…という形でやってきたんです。プロデューサーの方がいると、その場で「こんな感じはどう?」とアイデアを提案して、その場で実践できます。
 その上でさらに、「こうした方がもっと良くなる」とアドバイスしてくれることで、その場でどんどん楽曲が良い形になっていく。その場で楽曲を完成形まで煮詰めていくという面でも、作業はとてもスムーズでした。

広瀬臣吾 スタジオ作業では、最初から最期まで一緒に煮詰めてくれて、そこも良かったね。「C.K.C.S」とか、竜馬が持ってきた原曲の印象とはガラッと変わったもんな。

井上竜馬 最初はもっと今風のサウンドだったところを、片寄さんのアドバイスによって、意外とオールディーズな雰囲気になって。そうやって雰囲気の変わった曲も今回は多かったな。

――「C.K.C.S」の歌詞に出てくるのは、親戚の子供ですか?

井上竜馬 愛犬です。「C.K.C.S」は「キャパリア・キング・チャールズ・スパニエル」という犬種の頭文字を並べた言葉で。でも、子供という解釈もいいですね。人によっては、恋人のこととも受け止めてもいいし、そこは自由に捉えてもらえたらなと思います。

――歌詞として取り上げる題材も幅広いですね。

井上竜馬 いろんな視点から作っていきましたからね。「White」は身近で結婚する人が増えてきたので、その人たちの結婚式で歌いたいなと思って書いた曲やし。今回、「放浪」というコンセプトを持って制作し始めたので、「旅」を題材に楽曲を作り始めたけど、全曲を旅にまつわる曲にしようという意識は、最初から持っていなくて。

 むしろ、どこまで表現の幅を歌詞やサウンド面で広げていけるか挑戦しながら作っていったところが強かった感じです。先に話の出た「C.K.C.S」のような4つ打ちのダンスビートは、今までのSHE'Sだったら絶対に使わなかった。それを、いかにSHE'Sの世界観へ落とし込めるかというチャレンジもあれば、「White」だってピアノではなく、エレピやシンセベースの音を入れたりなど、音色面でもいろんなチャレンジをしています。

――ギターも、楽曲によってはガツンと弾きまくっていますしね。

服部栞汰 そこでも片寄さんが、これまでのSHE'Sだったら使わなかったエフェクターを持ってきてくれたことで、自分たちの音を広げていく色んな新しい挑戦も出来ました。

今までの中でも一番出来の良い作品

――『Wandering』では、それぞれどんな手応えを得ましたか?

井上竜馬と広瀬臣吾

井上竜馬と広瀬臣吾(撮影=半田安政)

服部栞汰 間違いなくいいアルバムになりました。「C.K.C.S」など、SHE'Sらしくない曲調と言いながらも、しっかり各自の個性を反映させた楽曲になったし、1曲1曲にしっかり想いを詰め込めた作品になったのは間違いないです。でも「C.K.C.S」がまさか犬の歌になるとは、そこは予想していなかったから「そうきたか」と驚いたけどね。

井上竜馬 実は、曲を渡したときにメンバーに「愛犬の歌にする」とは言わなかっただけで、そうしようと決めていました。と言うのも、まわりのスタッフから「“るこしゃん”(愛犬)のことでいいから、愛について歌ってよ」と言われていたこともあって、その要望へお答えしようとは思っていて。

 「恋の歌はムズいけど、愛犬のことなら恋愛の歌っぽく書けるんじゃなんいか」と思えたし、実際に愛犬について歌いたい気持ちもあったんで「これはチャンスや」と思って。軽快なリズムの楽曲になったのも、愛犬がキャンキャン飛び跳ねていそうな曲をイメージして作ったので、そうなりました。

――井上さんって、幸せな歌を作るのは苦手なタイプですか?

井上竜馬 今までは苦手意識がありました。でも、今回「White」を通して純愛を描けたことで、自分の中で新たなる扉を開いた感はありました。ただし、また作るかとなったら…。そこは、明確なテーマがないと難しい。それよりも、影の部分を歌った悲しい恋の歌のほうが僕は作るのが好きですね。

 「All My Life」や「Flare」のような、これまでのSHE'Sらしさの中に新しい要素を加えた表情を核にしつつも、片寄さんと一緒にいろんな挑戦の出来たアルバムになって、すごく満足のいく作品に仕上がりました。このアルバムを聞いてSHE'Sのことを好きになれへんかったら、この先もSHE'Sのことを好きになることはない(笑)。もう縁がなかったんやなと、思ってくれてもいい。それくらいの自信作です。

広瀬臣吾 どう思ってくれてもいいっていうくらい?

井上竜馬 うん、それくらいの自信作。今までの中でも一番出来の良い作品を作ったんで、これを聞いて気に入らなかったら、SHE’Sとは縁がなかったという…。

広瀬臣吾 くらいの自信作ということで(笑)。

――「All My Life」や「Home」のようなスケールあふれる楽曲は、聞いていて心地良いです。

井上竜馬 ああいう雰囲気は、僕ら大好きなんでね。「Home」は、僕の中では冬に食べるシチューのCMで流れてくる楽曲というイメージ。あったかい帰れる場所という想いが、何故か北の大地を舞台にした、暖炉のあるダイニングでシチューを食べている姿と重なって見えてきた。

――木村さんはいかがですか?

木村雅人 作品を出すごとにレベルアップしているのは、もちろんなのですが、今回は、そのレベルを一気に跳ね上げた感がありますね。それは上京したことも大きかった。と言うのも、きっと大阪に住んでいたなら、片寄さんとの作業も普段はデータのやり取りが中心で、決まったレコーディングの時期に顔を合わせ、一気に仕上げていく形になったんだろうけど。

 東京に住んでいるおかげで、1曲ごとにスタジオで一緒に作業しては仕上げてを繰り返し続けることができて、どの楽曲も一気にクオリティを上げることが出来た。そこの手応えはとても強く実感しています。

 個人的にその実感を強く感じているのが「Getting Mad」のドラム。すごく切れの良い、格好いいドラムを叩けて、楽曲自体もアルバムの中で異彩を放っているので、これはお気に入りです。あと「Home」も好きですね。さっきクリームシチューという話が出てたけど、何かあのスケールの広さは海や船って感じだった。

井上竜馬 えっ、「Home」の曲の頭で車が走ってんねんけど。それにシチューとは言ったけど、クリームシチューとは言ってない(笑)。

木村雅人 単に自分の印象として、あの楽曲が持つスケール感は大海原で揺れている感があって。

井上竜馬 あー、わかるわかる。ドラクエ感があるからな。

広瀬臣吾 片寄さんって、歌メロに対しての演奏をメチャクチャ重要視する人なんですね。そこを生かしつつ、メンバーの個性を誰一人打ち消すことのない楽曲へ仕上げた、隙のないアルバムに仕上がったなと思っています。

 個人的には、「All My Life」のイントロのサビに入っている歪んだシンセの音がお気に入りです。何より、オールディーズ感と今のテイストを上手くミックスした感覚を全体的に散りばめているところもいいですよね。

井上竜馬 どの曲も、いい感じにハイブリッド出来たな。

――この作品を作ったことで、次の制作に対してのハードルも一気に上がりましたね。

服部栞汰 確かにハードルは上がったね。次の作品では、このクオリティを超えなあかんからな。

井上竜馬 いや、いけますよ。『プルーストと花束』を作りあげた時は、やり切った感や燃え尽きた感があったけど。今回『Wandering』を作りあげたときは、「さらに、こんなことが出来るかも知れない」というワクワク感があって、すでに未来は見えています。

僕らの目覚めから放浪の旅をぜひ味わって

――来年2月からは対バンツアーが、3月にはワンマンツアーが始まります。

服部栞汰と木村雅人

服部栞汰と木村雅人(撮影=半田安政)

井上竜馬 最近はワンマンツアーばかりだったので、今回、対バンツアーをやりたかったんです。自分たちで2マンしたいバンドさんに声をかけ、いろんな気になるバンドさんたちとライブをやることになりました。個人的には2マンのほうが好きなんです。

――それは、どうして?

井上竜馬 心持ちが違うというか、2マンだと対マン感が出るからでしょうね。

広瀬臣吾 楽屋でも、互いにコミュニケーションを取りやすいしね。

――ところで、『Wandering』には、『Awakening』に収録していた「Beautiful Day」と「Over You」も収録していますね。

井上竜馬 『Awakening』を出して、すぐにリリースするので、まだ『Awakening』に収録した曲たちをライブで消化してきれてなくて。それは、とてももったいないことだと思いまして。ならばと、アルバムのバランス感も考慮した上で、あえて『Awakening』の曲も少し収録し、来年のツアーを通して消化していきたいなと思ったんです。なので『Awakening』と『Wandering』と"ing"繋がりにしたわけなんです。

広瀬臣吾 ツアーでは2枚の作品の曲たちもしっかり演っていこうと思っています。

井上竜馬 僕らの目覚め(『Awakening』)から放浪の旅(『Wandering』)を、ぜひ音源でも、ライブでも味わってください。

木村雅人 このアルバムを作れたことは自分らにとっても大きな自信になったこと。今は、やってやるという気持ちしかないです!!

作品情報

SHE'S「Wandering」

2017.12.6 Release
2nd Album『Wandering』(読み:ワンダリング)
初回限定盤:CD+DVD 品番:TYCT-69125/3,500円(税抜)
通常盤:CD 品番:TYCT-60111/2,800円(税抜)

<CD収録楽曲>
1. All My Life
2. Blinking Lights
3. Flare
4. Getting Mad
5. Remember Me
6. White ※日本テレビ系「ウチのガヤがすみません!」12月エンディングテーマ
7. Beautiful Day ※TBS系テレビ「王様のブランチ」6月度エンディングテーマ
8. C.K.C.S.
9. Over You ※TBS系テレビ「CDTV」6月度エンディングテーマ
10. The World Lost You ※「閃光ライオット2012」出演時の楽曲のリアレンジを初収録
11. Home

<DVD収録内容>
・『SHE’S Hall Tour 2017 with Strings〜after awakening〜』at 草月ホールDIGEST
・Scene Of Recording & Shooting OFF SHOT
・アルバム発売記念!無人島サバイバルBBQ大会