<記者コラム:オトゴト>
 音楽と喫茶店は、心地良い関係が保たれている。昔ながらの昭和の雰囲気が漂う「純喫茶」は、手軽な価格の喫茶や甘味が楽しめるチェーン店の勢いに押されてか、時代の波か、年々その数が減ってきている。純喫茶は、他店舗あるフランチャイズストアにくらべると、少々価格帯が高い場合が多いが、そのぶん腰を据えて憩える、絶滅寸前の美が漂う文化遺産的な空間だ。=写真は、エレファントカシマシのサイン(店に許可して撮影)=

 そんな「純喫茶」は、音楽アーティストのゆかりの地となることも少なくない。ゆったりと時間が流れる場所、さりげなく音楽が浮遊する空間、適度な距離感で集う客。そういった空間は、ミュージシャンにとって、創作意欲がかき立てられる場所なのかもしれない。

 今年、紅白出場が期待されるエレファントカシマシのフロントマン・宮本浩次は、デビューして間もない1990年代、東京・赤羽「デア」という純喫茶店に通いつめていたという。店内のクラシック調で暖かみのある雰囲気の中、頭をかきむしりながら作詞、作曲に勤しむ宮本浩次の姿が思わず浮かぶ。

 カウンターにはエレファントカシマシの写真やサインが飾ってあり、エレカシファンがちょっとした“聖地巡礼”としてこの店を訪れることもしばしばあるようだ。

 赤羽から少々北に位置する、埼玉県西川口に佇む純喫茶「アルマンド」には、シンガーソングライター・福山雅治のゆかりの“席”がある。映画の撮影の際に訪れた福山雅治が利用したその席は、「福山シート」と名付けられ、地元の喫茶店ファン、福山ファンの方々からこよなく愛されているという。

 同席には、音楽と、福山雅治と、純喫茶への愛が綴られた書き込みノートが数冊ある。その中には、来店したファンが美しい筆跡で綴った各々の想いがあった。マスターに話を聞くと、全国各地から福山ファンが訪れ、その席で喫茶と音楽の話などを楽しんでいるという。

 店内を満たすクラシック曲やポップスなどについて、音楽好きのマスターと訪れた客が談笑する機会が飛躍的に増えたらしい。「福山雅治さんの音楽は素晴らしいし、この店とファンの方々を音楽で結びつけてくれた。ましゃが来てくれて、会うこともなかったような人達と、この店で出会えることができたんだ」と語る——。

 エレカシと赤羽、福山雅治と西川口。地元の純喫茶と音楽愛という絆を結びつけたほんの一例だが、こういった「音楽と喫茶店の心地良い関係」はきっと、全国各地にあるのだろう。純喫茶と音楽。それは、替え難い価値のある、ほっこり柔らかい想いを生む文化として、人と人とを結びつけている。【平吉賢治】

記事タグ