オーストラリア出身アーティストのサラ・オレインが10月25日に、映画音楽をテーマにした新作『Cinema Music』をリリースする。日本人の音楽家を母に持ち、5歳時からバイオリンを、14歳から声楽を習うなど、英才教育を受けて育った。そしてシドニー大学では言語学および音楽学(パフォーマンス・作曲・音楽理論)を専攻。2008年から東京大学留学生として来日した彼女は、そのまま日本で音楽活動を始め、2012年にメジャーデビュー。現在は音楽活動だけでなく、コピーライターやラジオパーソナリティなども務めるなどマルチな活躍を見せている。今作はフィンランド生まれの世界的人気アニメ『ムーミン』の最新映画『ムーミン谷とウィンターワンダーランド』(12月2日公開)の主題歌「ウィンターワンダーランド」を含む、様々な映画音楽を収録。日本に来て驚いたのは「間」という言葉があることだったと話す彼女。「『間』という言葉を世界言語にしたい」と「間」を意識して歌も歌っている。国境を越えて人々を魅了している才女に、新作や言語について話を聞いた。

様々な表現ができる映画を撮りたい

サラ・オレイン

――新作『Cinema Music』は、4月に東京・紀尾井ホールでおこなった公演『シネマ・ミュージック withサラ・オレイン』がきっかけになって制作されたと聞いています。

 そうですね。たまたまずっと夢見ていたコンサートが実現したので、アルバムとしても作りあげる事ができました。元々映画音楽が大好きで、今まで色々な映画音楽を演奏してきましたが、いずれはそういう作品を作りたいと思っていたんです。

 そもそも映画が好きなんですよ。ほぼ毎週何か作品を観ています。今流行っている物だけではなく、古い作品も。自分の大きな夢は映画を撮ることなんですよ。それは「映画が好き」という事もあるのですが、私はボーカルもやれば、作曲したり、決して「歌手」としては捉えられたくないんですよ。それは1つの表現ツールでしかないので。映画は色んな表現を出来る場なので、憧れています。

 昔の人ならチャールズ・チャップリンさん、最近ならクリント・イーストウッドさんのような。ただ俳優だけではなく、監督もするし、チャップリンさんは作曲もしています。マルチな才能を活かせる舞台という意味では、いつか映画にも挑戦してみたいです。

 普段のコンサートもなるべく自分で構成なども考えるのですが、今回は「映画音楽」ということで、演奏時に映す映像も提案させて頂いたりしています。アルバムに関しても、物語を作りたいと思って。コンサートでもアルバムでも一作の映画を観ている様な物にしたい。そういう意味で、自分ができる事にはなるべく携わろうと思っています。

――今回の選曲もご自分によるもの?

 そうですね。好きな映画、好きな役、色々なことを表しています。どれも大好きな曲ですし、大好きな映画で使われています。「これが1番」というのは選べないですけど、例えば『ムーミン』の主題歌「ウィンターワンダーランド」。私は小さい時からムーミンが大好きでした。フィンランド生まれの作品ですが、私はオーストラリアで育っているので、雪というのは凄く珍しいんですよ。クリスマスも暖かくて雪が降らない。だから映画でムーミンが、ホワイトクリスマスを楽しみにしていることにとても憧れて。

 オファーが来た時は「日本語で歌ってください」とお願いされていたんです。それだけでも凄く嬉しかったのですが、自分の母国語が英語なので、英語でも録音していて。なので去年のクリスマスくらいに、日本語と英語バージョンの2つをフィンランドにお送りしました。『ムーミン谷とウィンターワンダーランド』(12月2日公開)のティザー映像では、色々な国の人が主題歌を歌っている中、日本語が自分の声で流れていて嬉しかったですね。さらに、英語バージョンを再生しても、自分の声だったんです。何の知らせもなかったのですが(笑)。日本語版と、海外の英語版両方を担当出来たのは嬉しかったです。

――『ニュー・シネマ・パラダイス』(1988年)などのご自身がお生まれになった頃の映画も取り上げられていますね。

 私が最初に勉強した外国語はラテン語で、次がイタリア語なんです。オーストラリアは中学1年生でラテン語を学ばないといけないので。凄く面白かったです。パズルみたいで、話せない言語なんですけどね。それからバイオリンも弾いていたので、クラシック音楽の勉強の一環でイタリア語を勉強しました。イタリアの文化も大好きで、『ニュー・シネマ・パラダイス』も素晴らしいですよね。「愛のテーマ」はエンニオ・モリコーネさんと息子のアンドレア・モリコーネさんが音楽を担当していて、アンドレアさんにはお会いした事があるんです。今、彼はLAに住んでいて、実際に彼の前でアカペラで歌わせて頂きました。

――語学もそれだけ勉強されていると、音楽の練習に費やす時間を確保するのは難しかったのではないですか?

 もちろん、そこはバイオリンが優先でした。小さい時は、スポーツやお料理もやらせてもらえなかったですね。今でも自転車に乗れないんですよ(笑)。事故に遭ったら困るという事で。なので練習か、勉強かという感じで。

――最近の映画である『ラ・ラ・ランド』の曲も収録されていますが、御覧になられた?

 これも映画館で観た時に、まず音楽が素晴らしいなと思いました。この映画は古き良きハリウッドのノスタルジック感も、モダンな部分も同居していて。主演のライアン・ゴズリングもピアノが弾けなかったみたいですが、この役の為に一生懸命練習したそうです。そこで「彼が出来るなら」と思って、私もコンサートでピアノに挑戦しました。楽曲も良いのですが、ピアノを弾いたり、バイオリン弾いたり、歌ったり、自分のエンターテイナーとしての面を見せられるということもあって、この曲を収録しています。

サラ・オレイン

――「君をのせて」は英語と日本語を織り交ぜて歌われていますね。

 私はオーストラリアにいる時からアニメが大好きなんです。ジブリと『美少女戦士セーラームーン』を観て日本語を勉強したので。ジブリでは特に『天空の城ラピュタ』が好きで、何度も何度も観ました。音楽も素晴らしいですし。日本の皆さんが知っているからこそ、まず英語でやりたかったんです。おそらく日本語になるとほっとすると思うので、最後のサビは日本語で歌いました。アレンジはビートを効かせた感じにしたかったんです。ダンスミュージックも大好きなので。私はクラシックだけではなく、色々な音楽を聴いて育ったんです。家族も「色々な音楽を聴きなさい」と言ってくれていました。もちろんロックも。母親もポップスなどが大好きでしたし。

――ロックと言えば、日本のロックバンド・RADWIMPSの「なんでもないや」も収録されていますね。

 まずは新海誠監督が大好きで、最初の作品からずっと観ていたんです。『君の名は。』が公開された時は、話題になりすぎて正直あまり観たくなかったんですよ。「変わってしまったのかな?」と思い込んでいて。でも映画館で観たら、久しぶりに映画を観て泣いてしまいました。ストーリーも素晴らしいし、音楽も響きましたね。ちょうど収録する日本語の曲が少なくて、日本の映画音楽も絶対入れたいと思っていたところだったので、だったら『君の名は。』かな、と。そのなかでも少しバラード寄りな「なんでもないや」を選びました。

 こんなにヒットした作品を取り上げるのも難しいんですよ。アレンジを変えるにしても、違い過ぎたらオリジナルの良さが無くなってしまうので。そこで悩んで、録音する前は大変でした。この曲は英語バージョンもあるので、ほとんど英語で歌いましたね。でもサビのところは日本語で歌う事にしました。最終的にレコーディングは1テイクに近いくらいで終わって、楽しめましたね。

オーケストラとのレコーディング

サラ・オレイン


――今回のレコーディングは比較的スムーズに進んだ?

 「美女と野獣」も楽しくレコーディングできました。ディズニーも大好きで、絶対入れたいと思っていました。オリジナルはセリーヌ・ディオンさんとピーボ・ブライソンさんが、夏に公開された実写リメイクではアリアナ・グランデさんとジョン・レジェンドさんがデュエットしています。そこで「自分だったらどうしたら良いのかな?」と考えたんですよ。そんな時、ブルーノート東京で私のライブ前日がピーボ・ブライソンさんの公演だったんです。1度テレビで彼とお会いした事もあったので、ダメ元で交渉したら「是非やりたい」と。なので、彼の本番前の朝にスタジオで一緒にレコーディングしました。

 これはオーケストラと一緒に録音をしているのですが、別録りではなくて、同時に録っているんです。普通ならまずオケを録ってから、歌を載せるんですけどね。ピーボさんが凄く驚いていました。「10年くらいこんな録り方はしていない。これをやっているのはアメリカでもバーブラ・ストライサンド(*)くらい」とおっしゃってましたね(笑)。彼もグラミー賞も獲ったし、この曲を何回も歌ってきていると思いますけど、生のオーケストラとやったことで興奮している様子でした。歌い方もオケに合わせて、変わっていますし、今回の録音は非常にレアなものになったんじゃないかと。

(*編注:バーブラ・ストライサンド=米女優、歌手、作曲家、映画監督)

――日本に実際に来たきっかけは何だったのでしょうか?

 自分には日本人の血も流れていますし、先ほどの通りジブリも好きです。日本の文化で育ったんですね、日本食も食べていました。でも父は日本語を話す事はできません。私も日本の学校にも行っていなかったですし、言語は全く出来なかったんです。でも大学に入ってから、イタリア語を専攻していたのですが、オプションとして日本語を軽い気持ちで勉強したんです。ひらがなから始めて、やっているうちに本当に面白くて、言語を知れば知るほど、ジブリなどの作品ももっと深いところまで理解出来る様になると思いました。

 あと、私の大学では必ず留学しなければいけなかったんです。そこで、日本かイタリアで迷っていたのですが、三島由紀夫の『金閣寺』を読んで「もう日本しかない!」と思いました。音楽は関係なく、三島由紀夫が行っていた東京大学に入りたかったんです。私はオーストラリアでも音楽学校は高校までで、大学は音大ではないところで音楽を勉強していましたから。日本では楽しく過ごしました。専攻したのは日本語、日本文学です。言葉が大好きなので、今はコピーライターとしても活動をしています。どれも私にとっては「表現」なんです。

――オーストラリアで日本のアニメはどのくらい浸透しているのでしょうか?

 今ではかなり浸透しています。『ハクション大魔王』など、小さい時に観ていたアニメが日本の物だと知らなかった作品も沢山ありました。『美少女戦士セーラームーン』や、ジブリは日本の物だと認識していましたが。日本の音楽に触れるのもアニメを通してでした。J-POPは日本に来るまでほとんど知らなかったです。初めて聴いた時は、独特な音楽だなと思いました。洋楽のポップスとも全然違いますし。オーストラリアでは、アメリカでヒットしている曲は聴きますし、地元のデビューしていないローカルアーティストを応援するのも好きな人が多いです。日本人で好きな歌手は小田和正さんや、さだまさしさんですね。もちろんRADWIMPSさんも素晴らしいと思いますよ。

――多彩なサラさんですが、肩書きを問われたら何と答えますか?

 「表現者」でしょうか。アーティストと書いて頂いた時は一番嬉しいです。冒頭も少し話しましたが、歌を歌う時は歌手なのですが、新聞などで「歌手」と紹介して頂くとちょっと複雑な気持ちになります(笑)。

「間」を世界言語にしたい

サラ・オレイン

――昨年『TEDxUTokyo』(*)で、『Meaningful Silence(意味のある無音)』というスピーチをおこわれていましたね。

 きっかけは東大の友人からのオファーだったんです。『TED』は日本でまだ知られてないのかも知れませんが、私は好きでよく観ていましたので、お話を頂いた時は凄く光栄でした。テーマは自由なので「何について話すのが良いのか」と迷いましたね。しかも世界に配信するので英語で話さなくてはいけない、でも聴いている方は日本人なので色々考えました。

 その頃、たまたまオーストラリアに何カ月かぶりに戻っていて、クラシックのコンサートに行ったんです。クラシックコンサートは3楽章あると、楽章の間は拍手をしないんですよ。そういう慣習があって。でも、そのオペラハウスでは思いっきり拍手していて、それに驚いたんです。その時、自分にとって「『無音』も音楽である」という事に気が付いたんです。音が鳴っていない時も曲は続いている。

 日本に来て驚いたのは「間」という言葉がある事です。海外にはそういう言葉がないんですよ。日本人は習わなくても「間」というコンセプトがある。それがどんなに大切にされているかというのは、普通に話してる会話からもわかるじゃないですか。そこでスピーチの時に私が例に出したのは「間抜け」という言葉でした。「間が抜けている」=けなし言葉ですから、どれだけ「間」が大切なのかわかるんです。そして「『間』を世界言語にしていきたい」という結びになっています。

 でも西洋に「間」がないというのは間違いなんです。ポール・セザンヌさん(仏近代画家)の絵にある余白は「間」だと思いますし。ただ“space”や“rest”等では日本語ほど表現することが出来ないんです。だから、日本との出会いが無ければ、私もわからなかったと思います。感じていたかもしれないですが、明確に説明する事は出来なかったかもしれませんね。プレゼンテーションの最後にも、「間」を意識して歌を披露しています。

(*編注:TEDxUTokyo=テクノロジー・エンターテイメント・デザイン。米国発の学術者、アーティストらによる公開プレゼンテーションと東京大学のコラボレーション企画。YouTubeなどで動画配信しており、『TED』では元米大統領のビル・クリントンなど世界的著名人がスピーチをおこなっている)

――このアルバムを踏まえたコンサートが10月と来年3月におこなわれますが、そちらはどの様なものになりそうですか?

 『Cinema Music』の楽曲だけでなく、前のアルバムでも取り上げた映画音楽も織り交ぜていこうと思っています。何かサプライズも用意しようと思っています。もうイメージは出来ていますよ。このアルバムに入っている曲は、今まで1度もやった事のない物もあるので、そこにも注目して頂きたいです。10月以降は来年3月になりますが、『ムーミン谷とウィンターワンダーランド』の公開が12月にあるので、その間も色々と動いていると思います。できたらフィンランドで歌いたいですね。

――ライブをやっていて、日本とオーストラリアでオーディエンスに違いを感じますか?

 オーストラリアはオープンでフレンドリーなイメージはあると思いますけど、日本も基本的に優しい国民性だと思います。だから、こんなに長くこの場所にいるんじゃないですかね。食べ物や場所もあると思うんですけど、最終的には人だと思うので。ここにいる人が好きですし、自分に合う。自分に日本人の血が入っているからかもしれないですが、凄く受け入れられているのかな、という気持ちがあります。

【取材=小池直也/撮影=冨田味我】

作品情報

『Cinema Music』

1.オン・マイ・オウン(映画『レ・ミゼラブル』より)

2.ウィンターワンダーランド(映画『ムーミン谷とウィンターワンダーランド』主題歌)

3.美女と野獣(映画『美女と野獣』より)duet with ピーボ・ブライソン

4.白い恋人たち(映画『白い恋人たち』より)

5.シネマ・パラディーゾ(映画『ニュー・シネマ・パラダイス』より)

6.君をのせて(映画『天空の城ラピュタ』より)(English - Japanese ver.)

7.ラ・ラ・ランド Medley(映画『ラ・ラ・ランド』より)

8.ついに自由に(映画『グラディエーター』より)

9.ポル・ウナ・カベサ(映画『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』より) [Instrumental]

10.なんでもないや(映画『君の名は。』より)(English - Japanese ver.)

11.007 Medley(映画『007』シリーズより)

12.レット・イット・ゴー (映画『アナと雪の女王』より)

13.Shadows Of Time (軍艦島 世界遺産登録推進映画テーマ曲)

14.オールウェイズ・ラヴ・ユー (映画『ボディガード』より)