シンガーソングライターの住岡梨奈が、去る8月23日にダブルミニアルバム『colors』をリリース。ノスタルジーを感じる温かい歌声を持つ彼女のボーカルの特徴を十分に生かしたこの作品は、オリジナルを6曲収録したミニアルバムとカバーを6曲収録したミニアルバムの2枚組。“四季は住岡梨奈を象徴するもののひとつ”と言い「四季とその移り行く色合い」をテーマに、自身がやりたかったことを「全部試せた気がします」と語る。2013年から2014年にかけてフジテレビ系『テラスハウス』に出演し、大きな印象を残した彼女だが、当時は「いっぱいもらいすぎて、自分は何もできていない」と感じていたという。その葛藤を乗り越えていった彼女に、今の活動とこれまでの道のりで獲得していったものについて話を聞いた。

「四季」は住岡梨奈を象徴するもののひとつ

住岡梨奈


――今回のアルバムはオリジナルとカバーの2枚組で構成されていますね。

 レコード会社を移籍したこともあり、私の声を改めて聴いてもらいたかったことと、ライブでもカバー曲をやることは多いので、どちらも聴いてもらうことでリスナーに楽しんでもらえるのではないか、と考えて2枚組という形になりました。

――アルバムのテーマを「四季とその移り行く色合い」にしたいと思ったのはなぜですか?

 私は北海道出身で冬生まれなこともあって、すごく冬の曲が多いんです。また、季節を問わず景色を見て感じたこのを曲にすることが多くあります。「住岡梨奈って何?」と考えたときに、四季は住岡梨奈を象徴するもののひとつになるのではないか、と思ってこのテーマを選びました。

――住岡さんはどんな環境で育ったのですか?

 生まれは登別で、小学校からは札幌で過ごしていました。秋になると枯葉が落ちて絨毯になり、雪が降ったら一面真っ白。夏は芝生が青々としていて、春は桜の咲く時期がとても短くて「咲いた?」というくらいのタイミングで夏が来ます。季節が移り変わっていくのを、ずっと目で見て感じていました。また季節は色とも繋がっていると思います。春は桜のピンク、夏はさわやかな緑や青空の青。そこから今回のアルバムタイトルを『colors』にしました。

――カバーは住岡さん世代より、かなり昔の曲が選ばれていますが。

 テーマを“季節”に決めてから曲を選んだのですが、季節ごとに候補曲を出していき、弾き語りで一度デモを制作してみて「どんなアレンジできるかな」とか「今の私の声でどう表現できるかな」と考えて選んでいきました。正直知らなかった曲もありましたし、少し知っていたけれど、「フルコーラスだとこんな感じなんだ」という曲もありました。特に「Have You Never Been Mellow」(オリビア・ニュートン=ジョンのカバー)はゲームでしか曲を聴いたことがなかったんです。先日、同世代のインタビュアーの方が、「この曲って、ダンスダンスレポリューションの曲ですよね」と言われて、「そうそう!」と盛り上がったのですが、年代が上のスタッフはわからなかったみたいです(笑)。

――今回はサウンドプロデュースも住岡さんがすべて担当されているそうですね。

 昨年12月にリリースした3rdアルバム『心が君を歌ってる』でも何曲かサウンドプロデュースをやっていたので、あまり気負いせずに楽しみながら出来ましたプロデューサーがいる時とはまた別でもっと自分を出すにはどうしたらいいかを考えました。「今の自分を残す」ような感覚で、今回のアルバムは自分の中で最大限できることに挑戦する、という思いで制作しました。

感じたものを音でどう表現するか探し続けた

住岡梨奈

――オリジナル曲はカバー曲とコンセプトを同じ軸にして書き下ろしたそうですね。

 テーマは四季なので、2、3、4、5曲目は春夏秋冬の順に並べて、その前後を四季全体を感じる曲ではさむ形にしました。カバー曲は「春夏秋冬」(泉谷しげるのカバー)から始まり、最後の「君は五番目の季節」(森山直太朗のカバー)で終わることできれいにまとまったので、これはできた!と思いましたね。オリジナルの方はどうしようと考えたとき、春夏秋冬はテーマに沿った曲をしっかり書いて、前後は“季節がめぐる”というところにポイントを置くことにしました。最後の曲「Daughter」は、姉が娘を生んで、私には姪っ子がいるのですが、母親、姉、私、姪っ子という流れを見ていると、不思議だな、と感じました。子どもが親になって、今度は親の気持ちがやっとわかるようになるそんなめぐっている気持ちを季節と重ねて書きました。

――オリジナル1曲目「プレゼント」は<旅に出かけよう>と語りかける軽快なナンバーですね。

 これは前回のツアーで初めて披露した曲で胸を張って前に進んでいくんだという、沸き立つ思いを歌っています。来年も再来年もずっと同じ思いで走っていく、という意味も込めてアルバムの1曲目にしました。

――「プレゼント」というタイトルはどういった思いでつけましたか?

 歌詞に「プレゼント」という言葉は入っていないですからね(笑)。これは「常に与えられたものの中で生きていく」という意味なのですが、決して受け身でいることはありません。今、自分に起こっている出来事も、「なんでこんなことが起こるんだろう?」ではなくて、「こういうことが起きた。さあ、自分はどう戦っていく?」と、常にその場で自分がどう順応していくかを考えるのです。だから、辛いこととも、楽しいことも全部もらいもの。例えば疲れて倒れたときでも、私は「これは今、休めということだ」と考えます。プレッシャーを感じるときでも、「私は絶対できるから、こういう機会が与えられているんだ」と思って頑張れたりします。だから「プレゼント」なんです。

――2曲目「ひみつ」はピアノメインの柔らかなメロディの曲ですね。

 この曲はピアノメインにしたかったんです。なぜかわからないのですが、音楽室の窓が開いていて、グランドピアノを誰かが弾いている、というシーンに春を感じました。これは絶対、キッシー(岸田勇気)にピアノを弾いてもらいたいと思い、理想通りになりました。この曲は、高校生くらいの若い子が主人公のイメージです。若いからこそ抱く淡い気持ちを書いています。信じているけど、これからちょっと気持ちが揺れるかも、といったイメージを儚い声で歌っています。

――次の「Hello Hello」はアクティブなナンバーです。夏をイメージしている?

 エレキギターとドラムとベースの3ピース編成です。私がエレキを弾くと決めていましたが、ギターソロを弾くのは避けたかったんです。でも最後にやっぱりギターソロが欲しいなと思って、結局自分で弾くことになりました(笑)。ベースのヤマシタくん(シナリオアートのヤマシタタカヒサ)には「ベースはめちゃくちゃ動いてほしい」と伝えました。ドラムのクミコちゃん(シナリオアートのハットリクミコ)は、夏らしいすごくカラッとした決めを叩いてくれましたそのイメージがすごくぴったり合っていました。

――歌詞には夏のキーワードがいろいろ入っていますね。

 「サイダー」や「入道雲」は夏らしい言葉だなと思って入れています。なぜか夏って来年のことを考えながら過ごさないんですよね。毎年「最後の恋にしよう」なんて思ったりするイメージがあります。それがすごく不思議だなと思いながら書きました。あと、事務所がオフィス街に引っ越して、駅を出るとビル風がすごいので、冒頭の<かっさらう風>という歌詞が浮かびました。そしてオフィス街を歩いている女性たちは、すごくピシッとしているなという印象を持ちました。私はよく午後1時くらいに会社に行くんですけど、お昼ご飯が終わって会社へ戻る時間だけど、ちゃんとして、ヒールを履いてコツコツ歩いている姿が素敵で、歌詞の中に<美しい人>と書いたりしています。

――次の「サフラン」は秋の夕暮れの感じで、イントロから空気がガラッと変わります。

 これは『Moment』というミニアルバムを一緒に制作した、蜜(=男女音楽ユニット)の橋詰遼さんとアレンジしました。私が弾くギターの隙間を、橋詰さんのギターが縫うように入ってきてくれて、曲をとても理解力してくださるんですよね。サフランは花の名前なのですが、花が咲いたり閉じたりする様子をイメージしたコード進行にしました。夕暮れと木枯らしのイメージも音の感じを出しましたね。

――これは1人で佇む様子を描いているように感じました。

 そうですね。秋は1人で何かをするというイメージがあります。例えば読書は1人になって自分と向き合う時間になるのかな、と。夜長の秋と言いますが、部屋にこもる時間が多くなるのかもしれません。あとは夕暮れや空の高さ、遠いものを見ながら自分と対比させてみたり、秋はそんなイメージです。学校に通っているときはバスに乗っている時間が長くて、枯葉を見ながら、「外は寒そう」と思いながらぼーっとしていた感じを、<いつものバスに乗る>という歌詞にしています。

――「サフラン」はアコギサウンドがメインになっていますね。

 温かいけれど、どこか冷たい風のようなイメージを表現するには、ギターを重ねる音が良いのではないかな、と考えて、何本もギターを重ねています。

――続く「sugar blue」はコーラスが美しいですね。

 雪が降る音ってどんなだろう、と考えら、「ハッ、ハッ、」というイメージがあったんです。

――白い吐息?

 たぶんそうですよね。一緒にアレンジをしたコケグチセイジさんは冬の音を出すのがとても上手い方なんです。冬は寒いけど、人の温かみがよく出る季節でもあるから、そういう部分を音にするにはどうしたらいいか、と話し合いながら作っていきました。あとはダイヤモンドダストのようにキラキラしている、そういう目に見えるか見えないか、みたいなものを音にしたらどうなるかな、と音探しをしたりしました。また、冬の空気感を出すために最も使いこなせたのは声です。この曲はリバーブのかかったかすれたウィスパーボイスで歌っています。

自分の声の出し方を学んだカバー曲

住岡梨奈

――カバーはサウンドに遊び心が散りばめられていますよね。「君に、胸キュン。」(イエロー・マジック・オーケストラのカバー)など特に。

 最初はもっとシンプルにデモを作っていたのですが、だんだんやりたいことが増えていきました。最後に向けてもっと広がるようにしようと思ったら、いつの間にか夢中になって床に座りながらエレキを叩いていましたね(笑)。

――「君に、胸キュン。」を、そういうアレンジにしたいと思ったのはなぜですか?

 どんなに頑張っても、私がやると夏の暑さが出てこないんです。スタッフにも弾き語りのデモで歌ったときから「避暑地感があるよね」と言われました。だから、自分なりにやろうと割り切って、「君に、胸キュン。」は、私の記憶の中にある北海道の夏です。夏に窓を開けたら風が入ってくる。セミも東京みたいに“ミンミン”鳴かないんです。カエルの方が多いくらい(笑)。木の揺れる葉っぱの音が聴こえることが多いです。そんなイメージでアレンジしました。

――5曲目の「北風」(槇原敬之のカバー)はアカペラだけで構成されています。

 自分の声が特徴的なのは自覚しているので、いつかやってみたいなと思っていました。「sugar blue」もそうですが、コーラスを重ねると、冬の雪の中の感じ表現できると思いました。「北風」は原曲でも冒頭にコーラスが入っていますよね。参考にしたのは、山下達郎さんのクリスマスソングです。「声でどこまでできるだろう」、「リズム感は出した方がいい」と橋詰さんと話し合いながら、自分の声の出し方を本当に学びましたね。酸欠にもなりました(笑)。

――ええ!?

 スタジオに1人で、“ハハハ、チュチュ”ってずっと歌っていているから、スタジオの中が自分の二酸化炭素でいっぱいになって苦しくなるんですよ(笑)。ちょっと一回外出ていいですか、と言って外の空気を吸わないとダメでした。

――自分の声と改めて向き合った?

 メンタルが鍛えられるレコーディングでした。コーラスだけを重ねて重ねて録っていったものに、最終的に自分でメインボーカルを入れる。だからコーラスの音が少しズレていたとしても全部自分のせいになるんです。

――ハードですね。

 人のせいにはできないですからね。こんなに自分の声を聴きながら歌うことはもうないだろうと思うくらいでした(笑)。でも、先日キャンペーンで北海道に帰った時に、父親が「これを聴くと、ワゴンの中で3人娘が歌っていたのを思い出す」と言われて「そんなに私たち、声似ている?」という話もしていました。

――ご自身と向き合い、葛藤してできたアルバムなのですね。

 声も年々変わっていくものだと思っています。デビュー当初は大きな声ではっきり歌っていましたが、だんだん声の出し方を調整しながら歌うようになっていきました。「こういう使い方をしたらどうなるだろう?」と、今回は考えたことを全部試せた気がします。カバー曲は、譜割を変えずに歌うようにしました。どうやってピッチを合わせたりするのかなど、とても勉強になりました。

直接会うことで、お客さんを信じられる

――住岡さんは突然の物事に対する柔軟力はあるほうですか?

 それはすごくあると思います。初めての一人暮らしも、初めての共同生活も、すべてにおいて「うわ! できるかな? あ、できてる! 大丈夫!」という感じでした(笑)。そこから逃げることをあまり考えず、「ちゃんとやろう」という思いが自分の中にであるので、できなかったらそれが結果だから、そこも受け止めよう、と思います。

――テレビ番組『テラスハウス』への出演でも、まさに適応力を発揮していました。

 あれはそうですね。オーディションに受かって、2、3日後には入居、という感じでした。何かを選んで何かを捨てる度に学ぶので、「次はこうしよう」と思ったり。ただ環境のせいにはできないので、自分を保つというところは変わらずしっかり持っていようと思っています。

――いつくらいから、そういう考えを持つようになったのですか。

 でも、最近ですよ。デビュー当時は、私の作る音楽や声を良いと言ってもらえると気持ちも上がって「頑張ろう!」と素直に感じていましたが、やはりプロとしてやっていくうちにだんだん「このままではダメだ」と分かってきて、落ち込んだりするときもありました。ここ数年で、やっと自分の土台ができてきました。それは昨年の2月から4月にかけて全国26カ所をカフェツアーで回ったことが大きいです。全国に私の音楽を聴きに来てくれるお客さんがいてくれることを実感して、「そうだ。ちゃんと届けるんだ」という意識を自分に持たせることができました。たぶん、最初の頃は周りからいっぱいもらいすぎて、自分では何もできていない、と思っている部分が大きかったんですけど、私が発信して返ってくるものがあることを感じられたことで、自信がついたんだと思います。

――お客さんとの絆をリアルに感じられたのですね。

 テレビの力はすごくて、私の知らないところで人がたくさん動いているように感じていました。ネットなど私の知らない噂が流れたりもして、そのときは身近な人が私を信頼してくれていればいい、と思いながら生活していました。でも、最近ライブの後に物販に立ってサインをしながらお客さんと1対1で話すのですが、そういう時間がしっかり持てることで、今はリスナーをもっと信じられるし、リスナーも住岡梨奈に会いに来ている、という感覚を持ってくれていると思います。とくに「カフェツアー」が自分にとっては、基盤になっています。

――現在もカフェツアーを開催していますが、カフェという空間は、ライブハウスとどう違いますか?

 「ライブを立って見るのはつらいな」と親が言っているのを聞くと年齢的にもそうだよな、と思いますし、『天才てれびくん』(NHKの子供向け教育番組)の曲を歌っていた頃に小さい子が見に来てくれていたのですが、立っているのはつらそうだし、お母さんも大変そうでした。だから今は椅子に座る形式をとっています。さらにカフェという空間は、お茶しに来たり、リラックスしたり、好きなことを好きな分だけ時間を使って満喫する場所ですよね。そう考えたら、自分の曲だけに集中しなくてもいいから、「飲み物がおいしいな」と思いながら聴いてもらえる、そういう空間を作りたいな、と思いました。いきつけのカフェで、「今日、住岡梨奈って人が歌うんだって。行ってみようかな」くらいの感覚で来てもらうのもいいのかなと。そもそも音楽ってリラックスして聴くものだと思っているので、子どもが寝ちゃったら、そのくらいリラックスできる空間が作れたと「よし!」と思ったりしますね。

――現在、今年のカフェツアーが開催中ですね。

 今、20カ所のカフェツアーを開催しています。実はデビューしてから、1人で弾き語りツアーをやるのは初めてなんです。ただギターと歌だけでは私がもうすでに物足りなくなっていて、新たな機材を増やしてやっています。「また新しいことやっているな」と楽しんでもらえると思うので、ぜひ遊びに来てください。

【取材=桂泉晴名 /撮影=片山 拓】