女優の桜井ユキが、俳優の高橋一生と共演した映画『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY - リミット・オブ・スリーピング ビューティ』が10月21日に公開される。

 『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY - リミット・オブ・スリーピング ビューティ』は、女優を志し田舎を飛び出してきたヒロインが、都会の片隅で、とあるサーカス団に身を寄せマジシャンの助手を務めて生活していくうちに、妄想と現実の境界をさまよいながら、一つの転機にたどり着く姿を描く。

 本作でメガホンを取ったのは、『SLUM-POLIS』『MATSUMOTOTRIBE』などの二宮健監督。ストーリー本編では、全編に二宮監督が自らセレクトした洋楽インディーズのハウス/テクノ調の音楽で満たされており、クールで独特の雰囲気を醸し出している。

 桜井は24歳で女優デビューを果たした。どちらかというと遅咲きの女優だが、これまで『リアル鬼ごっこ』『はなちゃんのみそ汁』『フローレンスは眠る』などの映画作品や、その他舞台、ドラマなどで非常に個性の強い存在感を見せ、高い評価を得ている。本作は桜井にとって、初の主演作となる。

 ストーリーとしても非常に難解に構成されたこの映画に対し、本作で主人公のヒロインであるオリアアキを演じた桜井は、どのように演技に挑んだのか、話を聞いた。

「ほかの方にやられるのが嫌だ」と思った

桜井ユキ

桜井ユキ

――この映画を拝見させていただいた印象ですが、音楽という部分でわりとクラブ系というか、テクノポップ的な感じの音楽が世界観を彩っている感じですね。

 そうですね。二宮監督がこだわった、映画の世界を彩る音楽が素晴らしくて。アキのテーマソングのような曲が2曲くらいあるんですけど、私は演じる中でもそこはすごくキーになりました。例えばアキが昔聴いた音楽で、感覚が蘇るシーンがあるのですが、その中での感覚は劇中のアキ自体が持っていることでもありますし。

――そんな音楽とイメージという部分で、撮影中に何か監督さんとお話をされたことはありましたか?

 いえ、特には。撮影時は、まだどの曲が使われるかはわからなかったんです。でも一曲だけ、Kyla La Grange(英シンガーソングライター)の「Hummingbird」という曲が使われることは決まっていたので、実際にクラブのシーンや踊るシーンではその曲を流して撮影をおこないました。あとはもう完成したものを見て「あっ、こういう世界が完成したんだ」と。映画を見てすごく感動しました。

――桜井さんにとって音楽とは、どのようなものと認識されているでしょうか?

 そうですね…私にとって音楽は、やっぱり日常の中でも大切で、気持ち的にも左右されるものだと。例えば以前に聴いた音楽や、自分が学生のころに聴いた音楽を、ある日意図しないところで耳にした時に、別の時の空気や場所を思い出すことがあります。そういう意味では、耳から入ったものでも、すべての五感が刺激される要素だと思っています。

――桜井さんは、以前楽器をやられていたというお話をうかがったのですが、例えば趣向的にJazzっぽいものを聴かれていたり、プレイされていたりという経験も?

 子供のころにピアノと、学生の時にサックスをやっていました。Jazzもやっていましたね。今はなかなか吹く場所がなくて。上京してからは全然吹く機会がないのですが。

――では、わりと趣向としてはアコースティックな感じが好き?

 音楽のジャンルには特にこだわりがなくて、その時の気分で欲しているもの、耳に入って心地いいものをあさり続けるということをやっています。「すごく好きなんだけど、歌っている人はわからない」という曲もたくさんありますし、その時に聴いていて、心地良いものという音楽を探しています。

桜井ユキ

――例えば最近、映画と絡んで歌う機会があった場合に、そのまま楽曲としてリリースされるケースも多々ありますが、将来的にはそういうことも?

 正直興味はありますね。歌うことは好きだし、実力はさておき、そういう機会があれば、やってみたいという気持ちもあります。

――今回、この映画のストーリーは、全般的には時間軸が行ったり来たり、現実と妄想が交差したり、場面によっては抽象的なシーンもあったりと、かなり構成が複雑です。もともと最初のオファーの際に、こういう具体的なお話も受けられていたのでしょうか?

 そうですね。オファーをいただいた段階で「こういうシーンもあって、結構大変な役なんだよ」という前置きを受けてから、台本を頂きました。台本を読んでみると「なんて世界観だ!?」と思いながらも、すごく引き込まれました。一方でこれは映像になった時には、どうなるんだろう? とも思いました。台本を読んだ時もそうでしたが、撮影をしている時にも想像がつかなくて。でも完成したものを見て、自分の想像を上回るシーンばかりでした。

――このストーリーの構成だと、桜井さん自身が演技として役になり切るという意味では、シーンごとに抱く心理がまったく違うこともあり、立て続けに演技していくのもかなり難易度が高いのでは? と思いました。また役柄としても、バイオレンスな部分や思い切ったラブシーンなど、結構ハードな役という印象もありましたし、「やります!」とご自身で決断の返答をされるのも難しかったのではないでしょうか?

 そうですね。でも、迷うことはまったくなかったです。やりたいという気持ちが強くて、逆に「ほかの方にこの役をやられるのが嫌だ」という思いあり、ハードなシーンやナイーヴなシーンも含めて、やることに抵抗感や不安は私の中でなかったですし、自分自身でも作品の一部としてとらえることができました。

――逆に、実は前からこういう役をやってみたいという希望が?

 というか、まさかこんな役が…って(笑)。本当にまさかですね。こんな役をやらせていただく機会が来るとはもちろん思っていなかったし。こんな作品があるんだということも、本当にびっくりでした。

 ここまで一人の人生にフィーチャーした内容の作品もそうそうないと思うし、その意味でもこの役と出会えたこと、演じる機会を与えてくださったことは有り難いです。今後もこれ程まで一人の世界を表現した作品と出会うことはあるかな? と感じるし、そう…本当にまさかでしたね。

――では今後の自分の代表作にもなりそうな感じですかね。

 なってくれると嬉しいな。そう思うくらい、私もこの作品をすごく愛しているので。全てを注ぎましたから。

本当に日々必死でした

桜井ユキ

桜井ユキ

――桜井さんが演じるアキという女性は、桜井さんとその外見の雰囲気がピッタリだなと思いましたが、年齢的に近い設定なのでしょうか?

 アキは29歳の設定で、私も撮影当時29歳、同い年です。

――わりと桜井さんも女優さんとしてはデビューが遅かったところもあり、アキという女性に関しても、境遇が一致するわけではないですが、29歳のタイミングで、映画で描かれているエピソードを迎えて新たな道へ進む機会を得るという方向としては、何となく桜井さんとの共通点を感じ、人間的に何か共感する部分があるのでは? とも思いました。

 そうですね。この作品のオリアアキの世界観や歩み方からは、その世界観はすごく不思議で特異なものに見えます。でも、例えば一つひとつを切り取って見ると、まず10代のころに女優を目指していて、そこからいろんな葛藤とか失うものもあって、グズグズと10年間同じ場所にとどまっているようなところは、私にもわからない話ではないんです。私も女優を目指したのが遅かったということもあって「あの時動かなかったら、アキみたいになっていたかもしれない」という認識もありました。本当に共通部分はたくさんあると思います。だからこそ、そこから役を広げていく作業ができました。

――ちなみに役作りという部分では、あまり苦労はなかったのでしょうか?

 というか、私は役作りという作業がどういうもののことを言われているのががわからなくて…(笑)。普段は役を構築していく、というよりも想像、妄想してその人物と自分の距離を縮めていくやり方のほうが、自分にはしっくり来ているので。今回もいつもの感じでやりました。アキと距離を縮めていく、アキを理解していくという作業ですかね。

――では撮影の中で、役に入り込む上で何か自分と大きくギャップを感じたりというのは、特にはなかったのでしょうか? 単純に「撮影を始めます」と合図が出た時点で、すぐに入り込めたのか…

 多分、役者さん人それぞれだと思うんですけど、私には衣装だったりメイクだったり、その役の持ち物によって、役が自分の中で落とし込まれているという感覚が大きくあって、今回もそういったものがありました。

 今回の役もしかり、今までもそうなんですけど、違和感を持ったまま現場に臨むということは無いようにしたいし、あってはいけないことだと思うので、とことん自分と役の距離を密にしておいて、その状態で現場に入るようにしています。だから、現場に入る時にピッ! というスイッチが入るようなイメージよりも、衣装を着て、メイクをして、現場に入る、という段階で徐々に準備が整っていく感じです。役によっての動きや佇まいというのもそこで、変わってくると思います。

――ストーリーの中で、アキという存在ともう一つ際立っているのが、高橋一生さんが演じるカイトという一人の男性の存在ですが、このアキという立場から見て、カイトというのはどのような存在であると、感じましたか?

 今までに触れたことのない、暖かい存在、唯一のものだったと思います。アキは親との関係もあまり良くないまま育っていて、カイトという人物に会ったことで、自分の夢というものを初めて他人に話して、それを受け入れてもらう。カイトは口数はあまり多くないけど、それは高橋さんが醸し出す雰囲気もですけど、すごく受け入れてくれる雰囲気を持っているんです。いろんなものがカイトにはあって、だからそこに甘え切っていた部分とか、アキ自身にも見えなくなっている部分もあったと思います。

――見えなくなっている部分があるということは、必ずしも良いというものではないと?

 もちろん、そう思います。

桜井ユキ

桜井ユキ

――実際にはそういった二人の関係に関するお話を、高橋さんとはお話もされたのでしょうか?

 それが…高橋さんとはお芝居についてのお話を、一切していないんですよ(笑)。でも現場で高橋さんとお芝居をさせていただく中で、生まれるものがあったんです。だから不安もなかったです。顔合わせしてから、もちろんお話もしましたけど、役やシーンについて何か話したかというと、何も…でも、それが逆に良かったような気もします。

 そしてそのことを、後で気が付いたんです。この前、高橋さんと一緒にインタビューを受けていた時に「そういえば、そういう話はしていないね、何も」って(笑)。

――わりと桜井さんは高橋さんに対して「この人、似ているな」と思うところもあるのでしょうか?

 結構あるかもしれません。共通している部分とか。性格的にどこというよりも、ものの捉え方とか、解釈になんか癖があるというか(笑)。

――癖ですか?

 癖というと、高橋さんに失礼かもしれませんが。物事の捉え方の感覚とか、そういう部分に近いものは感じました。ただ、それが全くそういう話をせずお芝居が成立したというところにつながったかどうかはわかりませんが、お芝居に生かされていたなら嬉しいな、と思います。

――撮影時の大変だったみたいなエピソードはありましたか?

 もう本当に毎日必死だったので、「ああきつい、大変」ということを感じる余裕もない日々でした。感情の振り幅がすごくあったので、感情をそれぞれのシーンに合わせる作業というか、そこに自分を持っていくのに、かなりきつかったことが一度だけありました。アキの気持ちがどん底のシーンから、一番幸せな時のシーンを撮影した日はもうボロボロでした(笑)。そこだけかな。あとは必死でした、ただひたすらに。

――このストーリーのエンディングは、アキという女性が最後にどういう方向に収まっていくというところを、観衆の感性に委ねるような終わり方に構成されていますが、桜井さん自身は、アキがここからどうなったかと想像しますか?

 やっとスタートラインに立ったんだ、というだけだと思います。目が覚めたことでやり直すのではなく、やっとアキの人生というものに、スタートしたんだと。「何かにすがって、何かのせいにしていた人生」が、一度幕を閉じて本当にやっとスタートしたんだなと。

――それは、例えばカイトと過ごした日々など、何も無くなったという認識ですか?

 何も無くはないんですけど、それまであったと思っていたものは、実は無かったに等しいと思うんです、アキにとって。現実を見ずにこの歳まで来てしまった中で、本当に一人でちゃんと立って生きていくということに対して、やっとスタートラインに立てたというか。

――ではそれは、ハッピーエンドでもバッドエンドでもないと?

 そうかもしれませんね。

【取材=桂 伸也/撮影=片山 拓】