佐藤江梨子にとって音楽とは。また、4年ぶりの主演映画に寄せる想いとは

 女優の佐藤江梨子が、俳優の瑛太とダブル主演する映画『リングサイド・ストーリー』に出演する。

 『リングサイド・ストーリー』は、無名の役者を養うため、とあることがきっかけで格闘技団体で働くことになったヒロイン・カナコと、ダメ男・ヒデオの物語。ヒデオはカナコの行く先々で問題ばかりをおこした挙句に、K-1チャンピオンと一騎打ちを命じられ…。

 このファイト・ラブコメディーで、 ダメ男の役者・ヒデオ役を瑛太、ヒロインのカナコ役を佐藤が演じる。さらに田中要次、高橋和也、前野朋哉、近藤芳正、余貴美子ら豪華俳優陣のほか、プロレスラーの武藤敬司、黒潮“イケメン”二郎や、K-1チャンピオンの武尊(たける)など、錚々たる面子が名を連ねている。また本作の監督を務めたのは、映画『百円の恋』(2014年)で第39回日本アカデミー賞「優秀監督賞」を受賞した、武正晴監督。ちなみに佐藤は、本作で4年ぶりの主演を担当している。

 音楽にはロックバンド・フラワーカンパニーズが参加し、主題歌の「消えぞこない」などのユニークながら芯の通ったサウンドを提供し、映画の雰囲気にさらなる魅力を与えている。役者は「歌えばその時代や空気に戻る」ということはないが、佐藤は「音楽にはそういう力があって、やっぱり凄いな」と、音楽についても言及。

 音楽を含め、ユニークな趣向があちこちにちりばめられている本作について、今回は佐藤に、作品に向けた自身の取り組みやここだけの裏話などを、撮影のエピソードなどと合わせて語ってもらった。

「できることまでしかできません!」でも仕事は楽しく

佐藤江梨子

佐藤江梨子

――とても演技がナチュラルだな、という印象がありましたが、撮影での苦労などはいかがでしたか?

 ありがとうございます。夫も言っていました、「え? これ芝居してるの? 酷いなあ」って感じで(笑)。いつも撮影が楽しかったです。でも、後半なんかはいろんなシーンがあって、100カットみたいな、すごくカット数が多いところもあったり。だからみんな朦朧としていたこともありました(笑)。朝から夜中まで撮っている時もあったり。でもそういうシーンの方が、疲れているけどちゃんといい顔をしていたりするんですよ。

――冒頭でカナコがリストラ宣告を受けるシーンがありましたが、そこでは佐藤さんの表情にかなり悲壮感というか、やつれ感も出ていた気がしました。

 そうですか? 今回の撮影は、割と結構順撮りをしていただいていて、あのシーンは最初に撮ったシーンだったのですが(笑)。

――今回、4年ぶりの映画主演ということですが…。

 ああ、そうでしたね。でも今回もそうなんですけど、ドラマ『その街のこども』(NHK)や、あとその前の映画『ナイトピープル』もそうだし、今回と同じようにダブル主演みたいなのは多いんですよね。

――今回は特に主演ということで、緊張した感じではなかった?

 単独主演みたいなのはあまりなくて、ダブル主演みたいなのが多いので。映画『キューティーハニー』(2004年)とか『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』(2007年)なんかは単独だったし、多少力が入っちゃったなという感じではありましたけど。

――では今回もリラックスした感じで?

 正直「私だけの責任じゃないわっ!」みたいな感じがあります、未だに(笑)。本当にダブル主演だと気が楽、みたいな。

――瑛太さんが演じられたヒデオというキャラクターは、パートナーである一方で、子供っぽい感じの性格ではないかという印象がありました。その意味では、佐藤さんがこの4年で結婚されて、出産をご経験して家庭を持たれたという部分が生きているところもあるのでは、という感じもしましたが…特にそういう意識はありませんでしたか?

 例えば監督に「もう少し優しく言ってください」とか、「“フワン”と言ってください」と言われた時は、前までは「その当時付き合っていた彼などに対して『こう言うかな』という、好きな人に言う感じのセリフ」みたいなことを考えていたんですけど、今は子供や夫もいるので、それじゃない方にしようかなとか、逆なことを考えてみたりしていました。そんなところはあるかと。

――自分でイメージを作ろう、という積極的な感じで?

 確かに。それと子供がまだ小さいので「できることまでしかできません!」という選択というか。例えば、独身の時は「こういうこともやりたい」「ああいうこともやりたい」ということが、自分の中でもっと多かったと思うけど「今の私はこの体力で、この頭で、この時間でできるのはこのくらいしかできません! これ以上は演出してください! お任せします!」みたいな(笑)。そんな感じになっているかもしれません。

――仕事のやり方がわかってきた、という感じですかね。

 前より楽しいです! だから、今回は10社くらいインタビューをやっているんですけど、人と会話ができることがうれしくて、インタビューしてくださって、ありがとうございます(笑)。

――それはありがたいです(笑)。今回、佐藤さんの役柄は裏方さんとして働く役柄で、広報担当という役を演じるわけですが、実際にそういう仕事をやってみた印象や、あるいはプロレスの実際の興行で、裏側を見た感想などはありますか?

 そうですね、本当にフレンドリーですし、もちろん制作自体に会社が入っているということもありますけど、ずっと休憩時間中ついているマネージャーさんみたいな人とお話をした中では、「実はそんなに現場には行かない時もありますよ」みたいな話もあったり(笑)。

 イケメンさん(黒潮“イケメン”二郎)なんかは例えば、つくばで撮影して、新宿で試合して、またつくばに戻って(笑)。なんてやっている中で、会社の人はなかなか現場にはいなくて、まあ上の人は何人かいた中で…「この会計なんですけど」「この電車で、ありますかね?」みたいな(笑)。そんなことをやっているのに対して「ちょっとこれ、いくら俺でも辛いっす」みたいなことを言ってて、私も「ああ、確かにそうだな」って思いました。マネージャーさんの存在はやっぱりありがたいんだな、と。

――劇中で佐藤さんは、すごくテキパキ仕事をやられている印象がありました。マネージャー役というのが、すごく似合っているなという感じもしましたが…

 いや~どうでしょう(笑)。でも私、デキるマネージャーさんがすごく好きで(笑)。やっぱり自分が実はそうできない人間なので。だから今も事務所さんからはマネージャーさんを年中つけていただいているんです。

 それで、前についてもらったマネージャーさんで、ある時期マネージャーさんが変わる時期に、自分よりも若い人や、社会経験が全然ない人が付いたことがあって「この人はこうで、こうだ」みたいな愚痴っぽいことを社長さんに言ったら、逆に「タレントさんでも演者さんでも、良いマネージャーを作るのは自分なんだ、と思いながら教えなさい!」みたいなことを言われたんです。その時、そのマネージャーさんにレクチャーしつつ「自分だったらこうすると思います」という伝え方をしたのを覚えています。

 実は一時期、自分のレギュラー番組をやっている最中に、ちょっと叩かれるようなこともあった時に、一度、裏方の仕事に回りたいと思ったことがあったんです。例えばアイドルの面倒を見るとなれば、撮影だなんだという時にまとめる人が必要で、何して、何が足りなくてとかいうことに対しては、自分たちがこれまである程度やっていた経験があるし。こういう質問だったら答えられるかな、というものも一通りわかっているし。自分はそんなに売れないけど、そういう裏方の仕事もやって行けば、ご飯が食べられるかも、と思って(笑)。

――なるほど。合理的ですね。

 でも「裏方もやりたい!」と実際に一回言ったことがあったんですけど、その仕事の時に照明さんにすごく怒られたんです。「僕はなんでこうやって照明をつけているかわかる? もちろん視聴率のためでもあるけど、一番はあなたを綺麗に映すためで、あなたがこういう仕事を続けているからなんだよ。そんなことを言ったら、もう(光を)当てないよ!」って。そう言われて、目が覚めました。

カナコは「チアガール」に徹する役

佐藤江梨子

――本編の演技について、瑛太さん演じるヒデオとのやり取りからうかがっていければと思いますが、共演されて気を付けられたことはありましたか?

 監督から「(ヒデオとは)ずっと付き合ってるから『これが日常』みたいな感じで」と言われていて、そこは意識しました。ただ、もちろん「これが本当に日常かな」と疑った時もありましたけど(笑)。自分だったらこう言うだろう、こう思うだろうとか。でもそういうものは一度、取っ払って、ヒデオさんについていきました。まあ割と日常、いつものことみたいな感じと思って演じていましたね。

――ヒデオは結構なダメ男ですが、ああいう人は佐藤さんとしては苦手ですか?

 ああいう人も世の中にはたくさんいますしね(笑)。夢は持ったら持った分だけ、格好良いところもありますから、内心わからないでもなかったです。

――ヒデオは、カナコや周りを裏切っているのに、裏切られた方はあまり本気で怒っている感じもない、割と周りの人も結構寛容に見てくれている印象がありました。ヒデオというキャラクターにはダメ男というキャラを差し引いても、何か光る魅力があるのではと感じるのですが…

 いや、それは前提というか狙いがあって、この作品をやる前に武監督から「(ヒデオさんは)のび太だから、(カナコは)自分がドラえもんになるしかない。だから他の人をフォローする時にもっとウケる」そんなことを言われていたんです。

 実はこの作品は、『百円の恋』を手掛けた足立紳さんという脚本家と、その奥さんの話が盛り込まれているんです。足立さんの奥さんは足立さんのマネージャーをされて、最初は頑張れないみたいなことを言っていたけど、ある時期から「私はもうあなたのチアダンサーになる」みたいな感じになった、と言われているんです。

 そこにいるのかいないのかわからないけど、ただちょっと距離を取って踊って応援している、みたいな。それでただの応援している人だから、自分が頑張ったり、自分が楽しいと思って、私のことをどうこう構うんじゃない。働いているということは、それはあなたを食べさせて支えるため、自分が応援団の団長であるということなんです。足立さんはその人がいるから、自分が書くことができると言われていました。だから監督からは「あなたはそういう女の人です」ということを言われました。

――凄い献身ぶりですね。

 もちろん怒るし、そういう思いもあるけど、大前提は「見守る」。だから本当に精いっぱい。別れを切り出すのも「絶対あなた無理、別れよう」なんて言わないんです。どこか逃げ道があって「尊敬できなくなっちゃうよ」という言い方をしていたり。やっぱり男の人にちゃんと逃げ道を与える人って素敵だなと私は思うし、ちゃんと応援してあげられるというのは「だからこそ成功した時に、もっと喜んでいる」と思うし、男の人が上がってくるんじゃないかな、と思うんです。

 『百円の恋』で足立さんが脚本賞をいただいた時に「チアリーダーみたいだ」みたいなことを奥様が言っていたと語ったら、そこの場にはこれからの脚本家の人もたくさん来ていて、その人たちがみんな泣いていたんだそうです。つまり、私の役はそういう役なんだから、そういう感情、これが一個人の私としては「こういう言い方はしないな」とは思っても、どこかそういう役なんだなという認識でした。みんなその話を一通り聞いたから、みんながそう強く言わなくなっちゃって(笑)。

――ちなみに佐藤さんから見て、瑛太さん本人はこのヒデオというキャラクターに結構似ているのか、それとも全然違う感じでしょうか?

 いやいや、瑛太さんはちゃんとしていますよ! やっぱり人の財布からお金は取らないし(笑)。ただ、役作りなのかわからないんですけど、瑛太さんの衣装は毛玉だらけ、デロデロのものだったんです。女の人が見たら引くあの感じわかります? やっぱり働いている人は、ちゃんとシャツやジャケットを着るとか、そういう人を素敵だと思うんです。もちろん技術スタッフでも汗をかいたらちゃんと着替えるでしょ? なのにもうデロデロで。しかも30過ぎてショートパンツ、みたいな(笑)。

 それで、たまに役柄ではあるものの「この姿…見ていいのかな」なんて。イラっとするというか(笑)。でも実はその「イラっとする」みたいなことを直接言ったことがあるんですけど、それまで瑛太さんは私服で割とちゃんとシャツとかをきちんと着て来られていたのに、わざと翌日くらいから衣装みたいなデロデロのパジャマのようなものを着て現れてきたんです! (笑)それから続けて3着くらいをローテーションで着てくるみたいに。

 あれを見るとイラっとするというか「働く気があるのか!?」という気持ちに(笑)。武尊くんなんかは、いつもカッコいいTシャツを着て「おはようございます!」という感じで爽やかに来ていたのに、瑛太さんはわざとデロデロな服で登場。「ヒデオ感がすごく出てくるな」というのが(笑)。わざとやっていると思うのですが。「世界観を作ってくれて、ありがとうございます」っていう気持ちになりましたね(笑)。でもそのイラっとする気持ちと尊敬の気持ちが、何週か見ているうちにどっちなのかわからなくなったり(笑)。

歌はダメ…カラオケと聞いただけでウンザリ(笑)

佐藤江梨子

――例えば最近、俳優の菅田将暉さんがミュージシャンデビューをしたり、昨年は桐谷健太さんがCMで歌っていた「海の声」がヒットをしたりと、俳優の方が歌をリリースされることがよくありますが、佐藤さんもそういう意向はありませんか? 劇中ではアニメ『タイガーマスク』の主題歌をなかなか豪快に歌われているシーンもありましたが。

 いやいや私、歌がヘタ過ぎて…(笑)。昔、歌手デビューが必要になった時があったんですけど、実はヘタ過ぎて未遂になったことがあったんです(笑)。人に聴かせられるような歌じゃない、って。今回も歌というか、1カ所は鼻歌、もう1カ所は歌う、シーンがあるんですけど、私は歌、全然ダメ…

――そうなんですか? でも劇中の歌は、なかなか最初のナレーション部分から魂を込められてたなと…

 いや、私はすっごく下手なんですよ。それがコンプレックスで。皆さん本当に上手いですよね。よく打ち上げなんかで“カラオケで一曲歌って帰ろう”みたいなノリになると、もうカラオケのカの字が出てきただけで「うわ~」って、残念な感じになりますね…(笑)。

――佐藤さんにとって音楽とは、どんなものでしょうか?

 なんかこう、格好良いと思うんですよ、「No Music,NoLife」(TOWER RECORDSのキャッチフレーズ)みたいなことを言う人。私にとって音楽は、その時の時代だったり、社会が、ある程度反映されたものはいいなと思いますし。

 それと、いつか誰かのライブを見終わった後で、みんな打ち上げみたいなところに行って話していた時にビックリしたのが、とあるミュージシャンのファンの人が、そのミュージシャンの家の目の前で、待っていたというエピソード。ファンの人だからかなと思って、握手して帰ろうかと思ってたら、その人は「なんで俺が作った音楽を、俺から取ったんだ?」みたいなことを言われたんだそうです。

 どうもその人はそのミュージシャンの音楽を聴き過ぎて、音楽が自分の中に入り込み過ぎちゃったらしくて。最初は感情移入する程度だったのが、そのファンの人は行き過ぎて、「俺の音楽」になったと。極端な例ですよね。私はそれを聞いた時に「嘘! そんなわけは」と思ったんですけど、その時そこには他にもミュージシャンの人がいっぱいいて「あ、私もそういうことに出くわしたことがあります!」みたいな人が何人もいたんです。

――凄いエピソードですね…

 その意味では、役者は「歌えばその時代や空気に戻る」ということはないですし、歳を取ったら、取っただけ前の作品とも距離ができちゃうと思うのですが、やっぱり音楽の力って、良くも悪くもこんなにすごいんだ、ということに気づきました。

【取材=桂 伸也/撮影=片山 拓】