フレデリックが9月某日、東京・日活調布撮影所で、ミニアルバム『TOGENKYO』(10月18日発売)リード曲「TOGENKYO」のミュージックビデオ(MV)の撮影に挑んだ。MusicVoiceではその撮影現場に密着取材した。過去4作に渡りMV撮影に密着してきたが、今回の楽曲、そして撮影はこれまでの楽曲とは似て異なる趣きを感じさせ、そこに新たなフレデリックを見たが気がした。このMVはきっと、未来への指針となる重要な作品になるだろう。なお、同MVはYouTubeで29日に公開、さらにツアー『フレデリズムツアー2017~ぼくらのTOGENKYO~』の追加公演として、2018年1月13日と14日に東京・新木場STUDIO COASTで『東京・フレデリズムツアー リリリピート公演〜みんなのTOGENKYO〜』が発表された。

みんなで一緒に作品を作った思いがより一層強い

三原健司

 フレデリックの代表曲である「オドループ」はリリースから約3年間で2600万再生という数字を叩き出し、昨年リリースした「オンリーワンダー」も1000万回を超えている。この数字から見てもわかるように、彼らのMVは人気だ。その要因は、リズムを視覚化するユニークな発想が絡んでいるとMusicVoiceでは過去に分析したが、今回の「TOGENKYO」はどのような映像になっているのだろうか。

 撮影がおこなわれた日活といえば、小林旭や石原裕次郎など銀幕スターが撮影をおこなってきたスタジオで、105年を迎えた由緒ある場所だ。実際にスタジオ内に設けられている階段や天井したに設けれている三重と言われる通路は木製。建屋や壁などには長年使われているだろう佇まいがあり、どこか重厚さが漂う。

 そんな重みのあるスタジオでの撮影に気合十分といった面持ちの4人。三原康司(Ba)は「やっぱり広いスタジオに来るとワクワクしますよね。このスタジオの天井を見るとどこかジブリの『千と千尋の神隠し』を思い出します」とこのスタジオのイメージを嬉しそうに話していたのが印象的だった。

 午前8時半、スタジオから離れた敷地内の楽屋では、楽器練習やPCに向かい作業したりと、撮影開始時間まで各々のスタイルで過ごしていた。9時半にスタジオに移動し、撮影はスタート。“TOGENKYO”の文字ネオン管を前にし、三原健司(Vo、Gt)が演技。小林克也がMCを務めている番組『ベストヒットUSA』を彷彿させる80年代の趣を感じさせた。桑田佳祐や森山直太朗など多くのMVを手がけてきた監督の山口保幸氏から「いいね!」と褒められ健司はガッツポーズ。彼の走る姿はなかなかレアなシーン。本人も「あまり人前で走らないから」と笑みを浮かべていた。(※ベストヒットUSAは洋楽を紹介するTV番組)

 多くの人が1本のMVを作るのに切磋琢磨している。妥協なく進められていく姿はまさにプロフェッショナル。フレデリックに関わる人が作品を重ねるごとに着実に増えているのが実感できる。康司は「人がどんどん増えていくんですよ。それだけフレデリックを大事に思って、この作品を大切に作ってくれる人が増えているわけで」と語ると、赤頭隆児(Gt)も「(人が)増えていくことは当然嬉しいです。でも、一人ひとりを大切にしています。やっぱり出来ることが広がって、僕らのやりたい表現が出来る環境に近づいてきたことは本当に嬉しいです」と、規模の拡大にとって、理想を具現化できることに喜びを感じていた。

撮影中のもよう

 正午になると、LEDライトなどを装飾したベンチを使用しての撮影シーン。健司と今作での共演者であるモデルの有佐が、互い違いに座り、互いに何かを感じるかのような表情を見せる。それは桃源郷への入り口を示唆するようにも見えた。耳を触る仕草や、歩く速度など監督のから細かい指示が飛ぶ。それに瞬時に対応していく2人。地面の濡れ具合にも細心の注意を払う。走るシーンでは濡れているため、有佐が滑って危うく転倒しそうになる場面もみられた。このイメージシーンが持つ楽曲への重要度は非常に高いと感じ、今までにない新しいフレデリックの方向性を打ち出している。

 このLEDライトには透過度が薄い透明なテープが巻かれていた。濡れた地面に反射する光もそうだが、テープによって光がぼんやりとする。それはある種、蜃気楼のように人によって桃源郷が遠い存在なのではないか、ということを示唆しているようにも見える。

 さて、ここで、多くのネオンを使用したバンドシーンの撮影にセットチェンジした。「かなしいうれしい」からスタジオだけでの撮影になった。健司はスタジオとロケとの違いを、「ロケだと、僕らが入った時には舞台が出来上がっていて、撮影するだけということが多いんですけど、スタジオでの撮影は準備段階から見られるということです。生の現場感が味わえるというのは一つの魅力です。それを感じることによって、完成した時にみんなで一緒にフレデリックの作品を作ったという思いがより一層強くなります」と語り、武も「ロケーションを作るというのは、曲を作っている時やアレンジを考えている時の感覚に近いです。みんなで一緒に作り上げている感じが楽しかった」とセットチェンジの風景も作品を作る上で一体感を得る要素になっていると感じているようだ。

 時刻は午後7時を回り、多くのネオン管を使用したバンドシーンの撮影に突入。ピンクやグリーン、イエローなど、色とりどりのネオン管の光は、ノスタルジックな気持ちにさせるとともに、桃源郷というイメージを色濃く打ち出していた。

桃源郷は想像を超えていくような場所

撮影中のもよう

 フレデリックと言えば、過去作にもカラフルなライティングを使用したシーンが多く、フレデリック=ラインティング、というイメージもある。康司は「確かにそうですよね。それはMVの監督が僕らの音楽を聴いてそう感じているんだと思うんですよね。僕らのこと、音楽のことを知ったうえでこうした照明が合うと思っている。結果としてフレデリックの形はこうなんだと。野外の場合、昼間だと照明は使わないことが多いんですけど、夜になって照明を使って魅せられるという要素が出てきた時に現実感よりも幻想的なのが似合うバンドだなと改めて思います」と述べ、ライティングがバンドに重要な要素の一つだと改めて実感したようだ。今までは振付を取り入れたりとリズムを視覚化するというところに重きを置いていたが、今作ではこれまでも使用してきた光という要素をより強く打ち出していた。

 さて、その環境下で楽器を手にしたメンバーによる、前作「かなしいうれしい」でも挿入された、ライブさながらの演奏シーンの撮影がスタート。カメラリハでは隆児と康司がちょっと悪ふざけ。マイケル・ジャクソンさんの「THIS IS IT」のアートワークを彷彿とさせるポーズに、現場も和む。隆児は相変わらずのムードメーカーとしての存在感を放っていた。

撮影中の一コマ

 午後7時40分にはバンド全体のシーンを撮り終え、有佐が合流し1シーンを撮影。ちょっとした合間に「TOGENKYO」のメインフレーズを爪弾く健司と隆児の姿も。そして、午後8時40分からソロシーンの撮影へ。康司、武、隆児の順で撮影。各々の撮影を画面越しに見守るメンバー。モニターに向かって手を振るなどおちゃめな一面も覗かせた。

 午後9時40分、この日はスタジオ内によくコオロギが出没し、康司が捕獲し外にリリースする場面もみられた。スタッフからはコオロギを呼び寄せるように捕獲した姿から、“コオロギ使い”の異名をつけられるなど、和やかな雰囲気も。康司は「虫は全然大丈夫なんですよ」と笑顔。ちなみに健司は虫が苦手だと苦笑い。

 時刻は午後11時。ネオン管を使用したトリックアートでの撮影。モニターで確認するメンバーは「すごい!」と驚きを隠せない様子。地面に並べられたネオン管はカメラの角度によって、立体感を帯び、あたかもそのネオン管のボックスの中で演奏しているような空間に。関係者によると桃源郷は自分のなか、内側にあり、自分次第で外側にも桃源郷は広がっていくというメッセージを込めた演出だという。

 この楽曲の世界観について康司は「様々な理想郷を求めていくなかで、手に入るものと手に入れられないものがあって。自分たちが作れる楽園は“ユートピア”で、桃源郷は自分たちの想像を超えていくような場所を指しています」と語る。

 全員での出演シーンを終えたのは日付が変わった午前1時。その後も健司が出演するシーンの撮影が続き、クランクアップは午前3時だった。

撮影中のもよう

 今までもバンドは常に桃源郷を探していたのかも知れない。今も思えば、これまでの楽曲で示してきた彼らの音楽性や、MVで使用されてきたラインティングで既に桃源郷への道を踏んでいたようにも感じる。4人は撮影の合間におこなったインタビューで口々にこの楽曲への自信を覗かせた。彼らの行き先がはっきりと見えた自信だった。それはやはり康司が言うところの桃源郷というユートピアが見えたというところだろう。しかし、今回の撮影では華やかさがある一方で、前記にも触れたが、ライティングのところどころが幻想的に滲んでいた。それは桃源郷の世界が広いように、目の前に映る桃源郷に対して、その先に映る桃源郷はまだ遠い、という事を示唆しているようでもある。それは、彼らが目指す桃源郷はゴールにしてスタートである可能性を秘めている。いうなればこれら演出は彼らの広大な可能性を示しているものである。

 そして、何かを超えた先に新たな世界が広がっているということを、この楽曲と映像から読み取ることができる。少なくともフレデリックはその第一歩をこの「TOGENKYO」で踏み出したはずだ。康司は「みんなと一緒に進んで行って自分たちが想像するものより、もっと大きなところに辿り着きたいという気持ちがあります。書き終わった後にそういう曲になっていくんだなと確信しました」と未来を示す重要な1曲になったことを告げた。

 そんな成長を見せる彼らだが、「ファンと一緒に」「ファンが喜んでくれる」という言葉を必ず口にしていたこと、そして、撮影の合間、撮影を終えた後はじゃれ合い笑顔を見せるなど、これまでと変わらない姿があった。

【取材・撮影=木村陽仁/村上順一】