音楽について「人との関係性よりも深い関係になる。ずっと付き合っていかなければいけないもの」と語る大森靖子(撮影=片山拓)

 シンガソングライターの大森靖子が8月30日に、ニューシングル「draw (A) drow」をリリースする。2014年に『きゅるきゅる』でメジャーデビュー。デビュー前からライブなど精力的に活動を続け、独特な音楽で唯一無二の世界観を作り出している。今作は大森が作詞、3ピースロックバンドの凛として時雨のTK(Vo、Gt)が作曲・編曲プロデュースを担当。タイトル「draw (A) drow」には様々な意味が隠されているという。今まで自身のことを歌詞にしたことがなかったと言い、過去のブログなど見直し歌詞に落とし込んだという。音楽について「人との関係性よりも深い関係になる。ずっと付き合っていかなければいけないもの」と語る彼女。同曲の制作背景や、大森の音楽活動や、表現に対する想いについて話を聞いた。

一番成長ができる

大森靖子

――ツアー『大森靖子 2017 LIVE TOUR "kitixxxgaia"』でアルバム曲をライブで再現した手応えはどうでしたか?

 全国には年に1、2回くらいしか行けないので、アルバム曲を再現するというよりかは、みんなが聴きたいものを提供したいという思いがあります。「この曲はそろそろ聴きたいんじゃないかな?」ということを重視しています。

――アルバムのツアーとはいえど、ベスト選曲?

 毎回そのようにしています。

――アルバム毎にコンセプトがあると思うのですが、そのコンセプトに沿ってアルバムをライブで再現したくなるという思いは?

 アルバムとは他の曲を入れたとしても、アルバムのコンセプトに沿ったものにはしています。いつもはセットリストも考えないでバラバラにやっているのですが。バンドセットのときは考えていますね。弾き語りのときは、何も考えないでその場でという感じですが(笑)。「毎回違うのがいいよね」というお客さんが多いです。そういったスタイルでライブをやっていくツアーは一番成長ができるので、やっていて楽しいです。

――やはり本番が一番自身の成長を感じる?

 バンドで一つのツアーをまわるというモチベーションができるのです。「もっとここを改善しよう」などの課題ができますし。

――大森さんはソロアーティストですが、バンドにはどういったものを求めているのでしょうか?

 自分のエネルギー感を出すために、バックバンドみたいになってしまうのは違うと思います。前のバンドはそれに近くて、それがあまりしっくりこない、というお客さんが多かったように感じました。私も「そうじゃないんだな」と感じたので、バンドみんなで「大森靖子」というものを出していこうという方向に切り替えました。

――それでもなかなか“バンド化”というのは難しかったりしますよね。

 そうですね。アイドルがバンドとやったりして、全部分裂していたりすることもあるので、難しいことなのだと思います。

何もないものに対して怒っている

大森靖子

――一人だからこそ様々な人とやれる、というメリットもあると思います。今作「draw (A) drow」も凛として時雨とコラボレーションして作りあげる、という形ですね。また凄い曲になりましたが、制作の経緯は?

 「凛として時雨っぽい曲を作って下さい」とオーダーしました。楽曲から“時雨臭”みたいのがあると思うので、歌詞もそれらしくしようと。制作時のワクワク感が凄かったことを覚えています。

――今まで歌詞に関して自分のことは書いたことがなかった、とのことですが、それは何故でしょうか?

 自分のことを書くと、「今日は何を食べました」とか、よくある定型のような感じになってしまうのです。「そういうルーティン的なことを歌っても別に…」と私は思っていて。それよりは、もっと色んな人から聞いた話や、「こういうことがあったらいいな」という話の方が書いていて楽しいです。

――そういった情報収集はどこでされていますか?

 基本インターネットです。あとは漫画も好きなので、そこからもあります。他にも「この子にはこういう歌を歌ってほしいな」とか考えることも好きです。

――妄想なども?

 もちろんありますね。今作は日記やブログで自分のデータを集めて、あとは凛として時雨のデータを集めて整合していきました。

――自分の過去のブログなどを見ていて、面白いなと思うのはどんなところでしょう?

 ブログは改めて見てみると10年くらいずっと同じことを書いています。全く同じことに怒っていて、全く同じことを諦めていて、ずっと変わっていないなと。5年くらい前に「10代でこういう気持ちはもう終わると思っていたのに、同じことにずっとムカついていて何なんだろう?」みたいなことを書いていて、「かわいそうだね、これから5年経っても全く変わらないよ」と思ったり(笑)。

――でも、それは考え方にブレがないということでもありますよね?

ブレはないみたいですね。しかも、結局何もないものに対して怒っているだけです。人が「これが素敵だ」とか「これが美しい」と思って作った現実や文化や、思想や哲学、そういうものは、その人がいなくなって、何なのか、わからなくなって実態がないものなのに、それを信じて集まってくれている人達が、答えがない状態で答えだと思うものを持っているから、ブレが生じて、差異が生まれることを許さなくなっていく…という状況が辛いという。結局「誰もいないじゃん」という感じです。

――アーティストもそういうものかもしれませんね。

 そうですね。国や街もそうだと思います。人が集まるということは、全部そういうことだし、そこにどういう目線、態度で挑むのかというものが曲です。

――「draw (A) drow」のタイトルの意図は?

 トリプルミーニングくらいあって、逆読みもできます。あとは単純に時雨(drow)を描く、ということもあります。“draw=描く”というのも自分がずっとやってきたことだし、絵を描いているような気持ちで曲をずっと書いてきています。色や景色など、そういうものをパッと浮かばせたいな、という気持ちで書いています。その瞬間を捉えたいという意味合いが強いです。

――タイトルをつけるときはいつも意味を重ねる?

 これは、ちょっと時雨っぽくしようと思っていまして…。コンセプトに乗っかる方が楽しいです。なので、自分の曲を書くときも「この人みたいに」というテーマを持ちます。たぶん我が強過ぎるので、人のことを書いて、少し我が入るくらいの方がきっと私には丁度いいはず(笑)。

1曲全部に共感している人は少ない

大森靖子

――こういった色んな見方ができる曲を書くことは、凄く難しいと思います。大森さんの楽曲は多角的な面もありつつ、色んな人に刺さっていると思うのですが、どのようにして生み出しているのでしょうか?

 たぶん、破綻することを恐れなければ良いのかもしれません。「曲の最初と最後で違うことを言っては駄目でしょ」と、みんな思っているのではないでしょうか?

 朝起きて考えていることと、夜寝るときに考えていることは違うじゃないですか。だから、曲の中でも違っていてもいいと私は思います。私の1曲丸々全部に共感している人は少ないと思います。

――そういう考え方はしたことがなかったです。

 みんな、していないと思います。それで、これくらいの売れ具合にしかならないかもしれないですけど。なので、私はハイパースタンダードにはならない可能性があります(笑)。

――売れるということに関して?

 私がスタンダードになる時代は、自分目線ではなく良い時代だなと思います。私を紹介する時に、「生き辛さを歌っている」だの、「歌詞が刺激的」だの、そういう捉え方をされることが多い。

 私のファンの人、私のことを聴いている人、および私も、全くそう思っていないし、その「生き辛さ」と表現されるものや、メンヘラと言われているもの、そうことを感じない方が私はおかしいなと思っています。何も思わないことは、思考停止じゃないですか。こちらの方が楽しそうなのに、「何で見下されなければいけないんだ?」と思います。

――見下すのはナンセンスですよね。でもそれは嫉妬心もあるかもしれませんよ。

 だといいのですが。もっと色んなことを楽しいと思えた方が、いいと思うので、それを自分は肯定できると思っています。だから「これがスタンダードですよ」と言われるようになると、もっと色んな人が楽になれると思います。

――今回、TKさんの楽曲に歌を乗せるときは、自分の楽曲に歌を乗せるときと比べてモチベーションやベクトルは違いましたか?

 アレンジャーが毎回異なっていて、曲ごとに全然違うので自分の曲であっても毎回ベクトルは違います。

――例えば、歌のテイクは自身で選んだものと、客観的に選んでもらったものでは捉え方が違っていたり? 個性的な歌い方なので、ジャッジが難しそうなイメージがあります。

 だいたい作曲家さんやアレンジャーさんと私の意見は一致します。

――自分が気に入ったテイクと、選ばれるテイクが異なるという方もいます。自分ではわからなくなって、選んでもらっているという話も聞きますが、大森さんはそうではないということですね。

 恐らく、一般的な歌手は上手に歌えた方を選ぶからだと思います。私は歌を上手いと見られたい、という欲はないです。でも、今はそこを最低限守ってもらわないと、聴いてすらもらえないというシステムですからね。ピッチをちゃんととるのは、とろうと思えば簡単なのですが、ピッチの正確さよりも大事なものがあると思います。

――大森さんが歌において一番大事だと思うことは?

 表現だと思います。ニュアンスです。自己表現ではなくて、曲や歌詞が一番表現したいことを一番適切に表現できる声の温度だったり、そういうことが出来ているかが一番大事だと思います。その上で、ピッチを当てにいったりわざとずらしたりということも大事だと思います。

 全部大事なのですが、ピッチを合わせる、ビブラートをかける、ということを目的にしてはいけない、と思います。それは表現のための目的ではなくて、手法なのですが、今はそれが目的になりがちなので、手法を目的とせずにそこを「超える」という意味で、私は自分のことを「超歌手です」と言っています。

曲が表現したい言葉を探す

大森靖子

――今作では表現が難しかったパートはありましたか? 歌詞解釈のハードルも高そうです。

 全部難しいのですが、5、6回歌えば大体捉えられる感覚はあります。歌詞のハードル高いですね。わかりにくいです。「曲がカッコいいからいいや」と調子に乗ってハードルを上げ過ぎたという自覚はあります(笑)。今まではわかりやすく書いていましたが、今作は曲がカッコいいから曲に甘えようと思って。

――洋楽的な楽しみ方があると感じました。英語がわからない人が洋楽を聴くと、歌詞の意味はわからなくても曲と言葉が合わさったときの音の選び方など、響きで格好良いと感じるような。

 言葉の響きと抽象的なイメージを大事にして、曲が表現したい言葉を探す、という感じがします。なので、私もできるだけそのようにしました。

――私の印象だと、今作は絵に喩えるとピカソのような抽象画です。一見、何を描いているのか分かり辛いという印象ですが、こうやってお話をすると「計算されてこういう配置にしたのだな」と。

 そういった計算は、わかる人がわかればいいので、わからなくてもいいです(笑)。

――仮に伝わらなかったとしても?

 全然いいですよ。伝わらないなりに、変な解釈されても、それはそれで面白いです。

――今までの曲でもそういった、変な受け取られ方をしたものはありましたか?

 ありますよ。逆に「そうだったんだ。じゃあ、そうしちゃおう」というのもありますし、「そっちの方が面白いからそういうことにしちゃおう」みたいな(笑)。

――柔軟ですね。「draw (A) drow」は歌うのは難しいですか?

 自分が作った曲の方が難しくて、「draw (A) drow」の方が歌いやすいです。

ライブハウスが一番嫌かも

大森靖子

――たくさんある楽器のなかでギターを選んだ理由は?

 ピアノの弾き語りの女性が流行っていたからです。2008、2009年あたりはいっぱいいました。そのなかに私が好きな人がいっぱいいたので、ピアノの弾き語りは「その人でいいじゃん」と思いました。ギターは自分の思う格好良い人がいなかったので、それをやろうと思いました。

――“隙間産業”的な考え方で?

 それしか考えていないです。「今、何がされていなんだ?」と。特にインディーズからメジャーに上がるときは一番考えていました。2011年の頃とか、売れていない時期はお客さんが5人とか10人でずっとやっていたので、「売れるってどういうことをすればいいのかな?」と思っていました。

 ライブも選ばずに3、4年やっていました。そうしたら、こうなったというか。出演オファーのなかには本当にひどいものもあります。「自殺を試みた経験を喋って下さい」とか。

――ライブでですか?

 ただのトークですね(笑)。それも含めて、誘われたものは全部受けると。今も面白ければやります。わかっているものよりも、わからないものの方に興味が湧くので受けてしまいます。

 弾き語りのライブをするときは、新しい環境の方が楽しいです。だからライブハウスが一番嫌いかもしれないです。

――定型のような環境が?

 そうですね。そうではない方がいいですね。

――ハプニングは大歓迎?

 もうオールOKです。

――今まで起きたハプニングで「これはさすがにびっくりした」というものはありますか?

 自分はびっくりしたことはないですが、びっくりされたことはあります。ネットで炎上したり。そういえば、「マジックミラー」のMVを撮っているときに火事に遭いました。うちのクルーの機材車の隣の、関係ない機材車が燃えてしまいまして。私は「演出かな?」と思ってそっちの方に行って歌って最後までやり切ったら、実は本当に火事だったということがありました。「大森靖子、MV撮影中に火事」と、私たちが起因の火事みたいなネットニュースになっていました。私たちではないので、それがびっくりしました。

音楽は人との関係性よりも深い関係

「draw (A) drow」【CD+DVD】

――カップリングのカバー曲に欅坂46の「サイレントマジョリティー」を選んだ経緯は?

 リリースイベントのときに私はいつも弾き語りをしているのですが、そのリハーサルのときに、自分の曲をやってもつまらないのでタワーレコードに貼ってあったポスターのアーティストの曲を片っ端から歌っていくということをしていました。

 もし、そのアーティストの曲を知らなくても、そのアーティストっぽい曲を勝手に作ってやるという(笑)。撮影をフリーにしていたのですが、早めに来てそのリハーサルを見ていた人が撮影していて。

 そんな中で、欅坂46のポスターが貼ってあったので「サイレントマジョリティー」をちょっと弾いたら、ファンの方が動画に撮ってインターネットに上げてくれまして。それを欅坂46ファンの方がまとめサイトに載せて下さって、その動画を秋元康さんが観て下さって。

 そこから「サイレントマジョリティー」を入れようか、という話になりました。色んなアイドルの自己紹介が入っている「IDOL SONG」という曲があるのですが、許可を頂こうと思って秋元さんにご連絡しました。そうしたら秋元さんが「『サイレントマジョリティー』良かったよ。歌えばいいのに」と言って下さって。

――アレンジャーはクラムボンのミトさんですが、大森さんのなかで「アレンジはこの人にやってもらいたい」というイメージはあるのでしょうか?

 いつも私の指定です。楽曲のことももちろんありますが、タイミングや巡り会いです。ミトさんは「サイレントマジョリティー」がすごく好きなので。

――大森さんにとって音楽とは?

 一番恋愛対象っぽいです。基本的には、やればやるほど楽しいものなので、ずっと付き合っていかなければいけない。やめる理由もないですしね。音楽はどこまで掘っても面白いから、私は耳が聴こえなくなってもやるのではないかと思います。そこに挫折なり嫉妬なり、色々なものが伴ってくるので、人との関係性よりも深い関係になる。ずっと付き合っていかなければいけないものです。

――いままで音楽をやめたいと思ったことは?

 音楽をやめたい、というのはないです。音楽活動をやめたい、というのはありましたけど(笑)。

 でも日によるので。ずっといる面倒くさい人、みたいな。すごく好きだからこそ面倒くさく感じることってあるじゃないですか? 音楽はそういうやつです(笑)。

(取材=村上順一/撮影=片山拓)

作品情報

シングル「draw (A) drow」
発売日:8月30日

[CD+DVD]

価格:2500円(本体価格)+税
品番:AVCD-83889/B

[CD only]

価格:1000円(本体価格)+税
品番:AVCD-83890

<収録内容>

-CD-

M1:draw (A) drow
M2:わたしみ
M3:サイレントマジョリティー

-DVD-

1:「draw (A) drow」(Music Video/大森靖子Ver.)
2:「draw (A) drow」(Music Video/千葉雄大Ver.)
3:「draw (A) drow」(Music Video/完全版)
4:「わたしみ」(Music Video/自撮りVer.)