沖仁が紐解くフラメンコギターの魅力

 フラメンコギタリストの沖仁が6月7日に、15周年記念アルバム『Clasico』をリリースした。それに伴い全国ツアーも開催。20代でスペインに渡りフラメンコギターを学び、2010年には、スペイン三大フラメンコギターコンクールのひとつ「第5回 ムルシア “ニーニョ・リカルド”フラメンコギター国際コンクール」の国際部門で優勝という、日本人として初の快挙を成し遂げた。そのセンスと才能で、NHK大河ドラマの音楽を手掛ける他、タモリ、福山雅治、MIYAVIなど、多彩なアーティストとのコラボでも知られている。自身の活動を通して「フラメンコギターなんて知らないと言っている人たちを振り向かせたい」と話す沖が、フラメンコギターとはどういうものか、その魅力は? どんな想いで対峙しているのか、話を聞いた。※「Clasico」の「a」は正しくはアクサン・グラーヴアクセント符号付き。

どうしてこんなに日本人くさくなるのかと、苦しんだ20代

沖仁

――『Clasico』というアルバムタイトルは「伝統」という意味ですが。

 本作には、クラシックで使われるストリングスのアレンジを採り入れた曲を収録していて。それと、たとえば「禁じられた遊び」などの古くからある楽曲のカバーや、チック・コリアの「スペイン」といったジャズの古典などを収録していて、そういう古典という意味でのクラシックもありますね。それらの曲を、僕なりに料理するとこんな風になりますよ、という気持ちが込められています。

――「Tierra [ティエラ]〜大地行進曲〜 con 葉加瀬太郎」は、葉加瀬太郎さんと亀田誠治さんとのコラボ曲。クラシック、J-POP、フラメンコという三者の融合みたいなイメージ。メロディラインが、まさしくJ-POPという感じで、それだけキャッチーさがあるという。

 はい。でもそういうメロディは、紙一重で。デモの段階で、「J-POPの誰かが歌っていたんじゃない?」と、気になって調べたほどです(笑)。とてもスリリングな制作で、お二人は本当にすごいと思いました。パワーと仕事に対する姿勢とか、音楽を本当に愛していることがビシビシ伝わりました。

――今作では、カバーも多く収録していて。

 フラメンコギターで僕のアレンジをやったら、どういう曲でも別モノになってしまうので、みんなが知っている曲であればあるほど面白いし、「こんなに違うんだ!」という楽しみ方をしてもらえたら嬉しいです。そういう意味では、よりベタな曲のほうが面白いと思って選びました。

 でもフラメンコには、本来既存の曲をカバーするという考え方がなく、本場の人からは、それは“似非フラメンコだ”と揶揄されます。それも重々承知の上で、音楽として面白かったら良いかなと。

――沖さんとしては、似非と言われようが、様々な形で日本の多くの人にフラメンコギターを知って欲しいと。

 それはあります。フラメンコ通の人たちだけに聴いてもらおうという気持ちは、あまりなくて。聴いてもらえたら、それはそれで嬉しいですけど。むしろ「フラメンコギターなんて知らない」と言っている人たちを振り向かせたいと思っています。

――だからこそ、これまでにもMIYAVIさんなど多彩なアーティストとコラボしていて。

 そういうのが好きなんです。MIYAVIくんとは、最初に二人でスタジオに入ったときに、お互いに「どうやって弾いてるの?」って感じで教え合って。さすがに彼の弾き方はマネできませんでしたけど、彼もできなかったようで。ひとつでもテクニックを盗んでやろうと思いましたが、お互いにひとつも盗めずに終わりました(笑)。

――タモリさんとセッションしたご経験も。他に、cobaさんや東儀秀樹さんとか、SOIL&"PIMP"SESSIONSのメンバーによるピアノトリオのJ.A.Mとか。どんな音楽でも、そこに沖さんなりのフラメンコを刻むみたいな。

 と言うよりも、その人の音楽が好きなら、その人と一緒にできるという感覚です。もちろん向こうが僕に興味を持っていなければ、成り立たないですけど。お互いの音楽や人に興味があって、お互いにジャンルの枠を越えてやりたいという気持ちを共有できた時に、初めてコラボが始まるし、面白い何かが起こります。

――沖さんのフラメンコは、スペインのオリジナルのものよりも、独自のものだったりするのですか?

 結果的に、そういうものになっていると思います。20代の頃は、「スペイン人っぽく弾きたい」とばかり考えていて。「どうしてこんなに日本人くさくなってしまうのだろうか」と、とても苦しみました。でも今はまったく逆で、むしろ自分らしい音を奏でたいと思っています。結果としてスペイン人が弾くフラメンコとは似ていないと思うし、それで良いと思っています。

 もちろん20代までの、スペインのフラメンコを追求した修業時代があったからこそで。やはりフラメンコは民族音楽なので、勝手な解釈をしてはいけない。そこがポップスと大きな違いです。歴史の勉強もすごくしました。それがなければ、フラメンコギタリストとは、名乗ってはいけないと思っていて。それをやって来た自負があるからこそ、今はスペイン人と違っても良いと言えるだけの自信を持つことができたと思っています。

フラメンコギターは、可能性が眠る宝の山

沖仁

――そもそもフラメンコギターとは?

 フラメンコギターは、クラシックギターから派生しました。おそらくロマ民族の人が、酒場に捨ててあったクラシックギターを拾って、ああでもないこうでもないと弾き始め、それに合わせて歌い始めたものであろうと。

――具体的にクラシックギターとは、どういう違いが?

 叩いた時にパーカッシブな音が鳴るように材質を変えていたり、表面にゴルペ板と呼ばれるものを張っていたりします。見た目ではそれほど大きな違いはありませんが、一番大きいのは弾き方でしょう。

 例えばラスゲアードと言う、いわゆるジャカジャカとかき鳴らす奏法が有名です。かき鳴らし方にも種類があって、指を5本とも使うものから2本だけ使うもの、デコピンするみたいに弾いたりとか。それによってリズムを多彩に刻みます。歌や踊りの後ろでかき鳴らすための、要は伴奏楽器だったわけです。

 それが、パコ・デ・ルシア(スペインのギタリスト)などの演奏者が出て来たことで、ソロ楽器としても発展しました。今では、クラシックギターと双璧を成すような形で、ギターミュージックのひとつのスタイルとして認知されています。

――リズム楽器の要素もあって、フレーズを奏でることもできる。

 リズム楽器でありながら、クラシカルな奏法も出来るし、速弾きでソロを弾いたりなど表現が多彩で、即興性も高いのでジャズミュージシャンとコラボして丁々発止するようなこともできます。いろいろなポテンシャルを秘めているというところで、僕は可能性が眠る宝の山だと思っているのですが、それをやっている方はあまりいなくて。

――そこにチャレンジしているのが、沖さんですね。でも、もともとは普通にエレキギターをやっていたそうですが。

 もともとは、日本のロックが好きで。親の世代が聴いていた、頭脳警察とか泉谷しげるさんなども好きでしたが、自分からレンタル屋さんで初めて借りて聴いたのがBOØWYでした。そこで初めてエレキギターのカッコ良さにはまりました。同時に、兄がクラシックギターをやっていた経緯もあって、僕もクラシックギターをやっていて、当初はその道に進むつもりでいました。

――フラメンコギターを始めたきっかけは、何だったのですか?

 衝撃を受けたのは、20歳くらいの時です。ビセンテ・アミーゴの演奏を聴いて、「これはすごい!」と。実際に生で見たときは、本当にすごい衝撃でした。

 テクニックもそうだし、音楽性が洗練されていてカッコイイと思って。すごく未知の世界に感じました。いろいろなジャンルをやって来たけど、ビセンテの音楽は、それまで聴いたことのなかったもので。パーンと道が開けるような、何かとてつもない可能性を感じて。それで、自分もその道に進みたいと思いました。

――それですぐに、実際にスペインへ行かれて。

 それから数カ月後に、まずは旅行で1カ月半くらい行きました。バックパッカーで、とにかく安い宿に泊まりながら。唯一の情報源「地球の歩き方」を手に、スペインのいろいろな土地を訪ね歩きました。

 小さな村へ行くとギターを持った日本人自体が珍しくて、「じゃあ誰々に合わせてやる」みたいな感じで、演奏者を紹介してもらったりして。そうして旅の最後には、ビクトル・モンヘ・セラニートという巨匠に会うことが出来ました。彼に会うことも旅の目的のひとつでしたが、彼から直接レッスンを受けることができたのは大きかった。それを足がかりに、本格的に留学することになりました。

アンダルシアの広場には、フラメンコの霊が漂っている

沖仁

――20歳そこそこでアンダルシア地方などに住み、フラメンコギターを学んだ沖さんですが。スペインは明るく情熱的な人種で、日本人の国民性とは逆のイメージですが、そういう部分で苦労はなかったですか?

 特にアンダルシア地方の方は、声がでかいし約束もあまり守らない。その瞬間の感覚で生きているような感じだから、よくケンカにもなりましたね。何時間待っても待ち合わせ場所に来ないので、家に電話をかけたら電話に出て「まだ家にいるのか!」って(笑)。特にフラメンコのアーティストたちは、本当にその時の衝動に任せて生きている人たちです。

――それが、フラメンコの情熱的な部分に通じているのでしょうね。

 彼らが作って来た文化ですからね。でも、日本人の根本にもそういう面を持っていて。どの面が表に出ているかの違いだと思いますが、僕自身は、その日本人の中でもラテン気質が無い方です(笑)。だから「本当にフラメンコが好きなのか?」と、疑問に思う時もありました。本当にスペインが好きな人たちのように、スペインに永住したいとかは、一度も思ったことがないし。そういう僕がフラメンコギターをやっているのは、好き嫌いではないところで、惹きつけられるものがあるのだと思います。

――単に音楽として好きとか。

 そうやって割り切れたらすっきりするのですが、それとも違って。否が応にもと言うか、因縁があると言うか、どうしても引っ張られてしまう。この感覚は、上手く言葉で説明できませんが、音楽も人も含めたアンダルシアのフラメンコというものに、自分の何かを鷲掴みされて逃げられないみたいな感覚です。だから、世界中でアンダルシアに行くのが、一番キツイです。

――キツイというのは、精神的に?

 毒に当たっちゃうみたいな感じです。アンダルシアには、フラメンコの血と歴史が濃い広場があって、テレビ番組の撮影で行った時は、撮影クルーはみんな平気で広場へどんどん入って行くけど、僕はフラメンコの霊がそこに漂っているみたいで恐ろしくて。

――歴史を知ればこそなんでしょうね。

 それもあると思いますけど、実際にすごく濃い何かがあります。人間の愛情と憎しみがぶつかり合って育まれて来た、生々しいものが。アンダルシアには、一族全員がフラメンコの歌い手というファミリーが、いたるところにひしめき合っていて、表面上は平穏ですけど、それぞれの血族同士でにらみを利かせ合っています。ギタリストのファミリー、ダンサーのファミリーもあり、それぞれ自分の家系が一番だと思っているので。

――血の濃さとかファミリーの絆の強さがあるのは、映画『ゴッドファーザー』のような世界ですね。

 だからこそ、外部の人間が入る余地がない。そういうものが分かっていると、その街でギターを背負って歩くなんてもってのほかで、普通の心境ではいられませんよね。

――そういうある種の閉鎖された世界で、一方でそこで認めさせようという強い想いもあるわけですよね。

 そこは、正直言って手つかずです。まだ戻れないと言うか、まだ途中段階かな。いろいろなことをやって行く過程で、そこにもチャレンジ出来たら良いなと思いますけど、それを目標にして活動しているわけではないですから。

――そんな沖さんは、15周年。記念ライブも行われましたが。

 15年、よくやって来られたと思います。よく生き延びたなと(笑)。7月1日の「DEBUT 15th ANNIVERSARY Concert 15-QUINCE-」は、インディーズ時代まで遡って15年前から振り返りつつ、この日にしかやらない曲もあったので、メモリアルな一夜になったと思います。

 また、11月に開催する「沖仁CONCERT TOUR 2017 Clasico」は、アルバム『Clasico』を聴いて来ていただけると、2倍楽しめると思います。やはり生で聴いてほしいですね。ライブでは弾くフレーズも変わりますし。曲によって決め込んでいるものもあるけど、割り合いとしては即興の部分がかなりあるので。

(取材・撮影=榑林史章)

 ◆沖仁とは エレキギター、クラシックギターの経験を経て、20代の時にスペインでフラメンコギターを学ぶ。1997年、日本フラメンコ協会主催新人公演において奨励賞を受賞。2006年にアルバム『ナシミエント~誕生~』でメジャーデビューし、翌年にはNHK大河ドラマ『風林火山』紀行テーマ曲を手掛ける。2010年7月に、スペイン三大フラメンコギターコンクールのひとつ「第5回 ムルシア “ニーニョ・リカルド” フラメンコギター国際コンクール」国際部門で優勝し、日本人として初の快挙を成し遂げた。以降ジャンルを超えたコラボを繰り広げ、コラボ相手は、タモリ、菊池成孔、福山雅治、MIYAVI、EXILEなど実に多彩。

作品情報

「Clasico」


沖仁
15周年記念アルバム『Clasico』
発売日:6月7日
2800(税抜)VICL-64793

▽収録曲
01. Spain
02. マドリードの花市場
03. Tierra [ティエラ] ~大地行進曲~ con 葉加瀬太郎
04. 禁じられた遊び
05. Estrellas [エストレージャ] ~星空と涙~(オリジナル曲)
06. アグヘータを訪ねて
07. Al norte - Al sur [アル・ノルテ - アル・スール]
08. ロミオとジュリエット
09. Tremolo [トレモロ] ~お別れの歌~
10. 乱れ咲きフローレス
11. Someone to watch over me
12. Esperando [エスペランド] ~まっているよ~

ライブ情報

▽「沖仁CONCERT TOUR 1027 Clasico」
11月10日 宮城・電力ホール
11月16日 北海道・札幌市教育文化会館 大ホール
11月24日 大阪・サンケイホールプリーゼ
11月29日 愛知・名古屋市芸術創造センター
12月9日 神奈川・鎌倉芸術館 大ホール
12月16日 福岡・電気ビルみらいホール
12月23日 東京・渋谷文化総合センター大和田さくらホール