キーボーディストの塚本周成によるShusei’s Project。新譜はプログレだが「覚えやすいメロディ」を目指した

 キーボーディストの塚本周成によるShusei’s Projectが3月8日に、シンフォニック・ロック・プロジェクト・アルバム『Same Dreamer』をリリースする。プログレッシヴ・ロック・バンドのアウター・リミッツやヴィエナで活動。個人ではX JAPANのToshIのソロ・プロジェクトやGACKTなどのアレンジも手掛け、アニメの劇伴からシャンソンまで幅広く活躍する。今作は昨年4月から制作を開始し、ヴォーカルに若手女性声優の雅絢恵と相馬優をオーディションから起用した。バックバンドには手数王の菅沼孝三(Dr)やアウター・リミッツの荒牧隆(Gt)フレットレスベースの永井敏己、ヴァイオリンの藤本美樹などが名を連ね、豪華なバンド編成でレコーディングした。「夢」というキーワードの中に隠された“生”というテーマ。プログレだが「覚えやすいメロディ」と「あまり複雑な構成にしない」という事を念頭に制作したという。Shuseiは今回のインタビューで日本の音楽シーンの現状を踏まえ「日本には“歌手”という人があまりいない」と提言。一方の雅絢恵、相馬優はクラシックなどの観点から今作への想いに触れた。今作を通してみる音楽シーンの現状とは。

今生きている意味もまた違った目で捉えられる

Shusei

――唐突ですがShuseiさんは最近何かハマッている事はありますか?

Shusei 何にも無いですね…。音楽くらいしかないです。寂しい人生なんですよ(笑)。

――いやそんな事ないですよね、音楽は心が豊かになると思いますし。

Shusei そりゃあ聴き手はね。作り手は天国と地獄を数秒の間に体験しているんですよ。

――作曲家は精神をすり減らしながら音楽を作っているとよく聞きます。

Shusei 「俺は天才だ!」と思うところがあって、次の瞬間には「全く才能が無い。駄目だ…」という事の繰り返しですよ。

――音楽を作っている時は気分が高揚しますか?

Shusei 出来ない時があったりするしね。僕はそういう事は少ない方なんですけど、テーマが絞り込めないとか、ありきたりだと感じたり、そういった事はあります。音楽だけですけど自分に厳しいという。

――他の事はそうでもないんですか?

Shusei 他はもうヌルヌルしてますね。

――メリハリがあって良いと思います。

Shusei 今はどこでも作曲が出来ますよね。ノートパソコンでも作曲が出来ますし、ケータイに吹き込んだりも出来ますし。ずっと音楽をやっているか、寝ているか、TVを観ているか…。

雅絢恵 メリハリですね。

――今作の『Same Dreamer』はそういった日常から生まれた作品でしょうか?

Shusei これはそうではなくて、昨年『おじさんとマシュマロ』というアニメの仕事をしているなかで、若林いおり役の喜多村英梨さんに歌って頂いたキャラクターソング「メッセージ」という曲があるんです。その作詞、作曲、アレンジをしたんですけど、自分で書いていて「ああそうか」とか思ったりして。よくある歌詞なんですけどね。

 この夜空の星というのは、何万年も旅をして今見えているんだけど。自分の命も何万年も受け継がれてきているんだよという内容の歌詞なんです。作った時は「ありきたりだけど洒落(しゃれ)てるじゃん」と思い、良いなと感じていたんですけど、だんだん時間が経ってくると「ああそうか」と思うんですよ。

 自分の命というのは、親がいて、その親にも親がいて、その親にも…、というふうにずっと受け継がれてきて今自分がいるのだから、もしどこかでそれが断たれていたら今の自分は無いなと改めて思ったんです。今、世の中に生きている人というのは、全員が過去まで繋がっていると考えると凄いなと思うし、壮大なものを感じるんです。今生きている意味というのもまた違った目で捉えられるかなと思ったのがこの作品のコンセプトですね。

――とういうことは作品のコンセプトは1年以上前に見え始めた?

Shusei 4月に入ってすぐに作ろうという事で始めたんです。1カ月でだいたい出来ましたね。さらに1カ月かけてもっと詞を見つめ直して、6月末には原曲が全部出来ていたんです。

――凄く早いペースですね。

Shusei 別に自慢にもなりませんけどね(笑)。

儲け物だなという嬉しさがあった

雅絢恵

――雅絢恵さんと相馬優さんにオファーした経緯は?

Shusei まず、最初にCDを出す前にライヴをやる予定でいたんですよ。というのも、プログレッシヴ・ロックってレコーディングに凄く時間がかかるんです。だったらまずライヴを先にやって、皆である程度慣れてからレコーディングをすると、ギュッとレコーディング時間も短くなるかなと思ったんです。

 メンバーは最初から頭の中で考えていて、その人達の演奏のクセを織り込みながらアレンジをして作ったんです。そこで最初に思ったのは「女の子に歌ってもらおう」という事だったんです。歌い手が男性だと、自分がやって来た音楽の仕事のこともあり、どうしても要求が高くなってしまうんですよ。それでキーも最初から女性の歌の音域に合わせて作りました。

――そこからオーディションという流れに?

Shusei 自分の周りで色々なアーティストがいるんですけど、自分の年齢層だと、単純におばさんですよね(笑)。 ライヴをやるイメージでおばさんが出てきても面白くないかなと思ったりもして、もっと華やかな感じにしたいなという考えがあったので、若い方にお願いする事にしたんです。

 アニメの仕事もしていたので、若い方でもしっかり歌える声優さんなどがいる事も分かっていたんです。色んな事務所に声を掛けて頂いて9人くらい集まったんです。もう曲は出来ていたので、その抜粋した部分を課題としてお渡しして「これを当日歌って下さい」という流れだったんです。「夢」と「戦いの中で」を課題曲にしたんです。

相馬優 そういえばオーディションの当日、私の名前がリストになかったんですよね。

Shusei そうそう。なんか「1人多いぞ」みたいなことがありました。

――そんなハプニングもあったんですね。雅さんと相馬さんは、この楽曲を受け取ってどう感じましたか?

相馬優 課題曲の2曲は楽曲の色が違ったものだったんですけど、私は「夢」の方が歌いやすかったんです。普段はバラード系のゆったりした曲を好んで歌う事が多いんです。「戦いの中で」は曲のテンポも速いですし、譜割りも細かいし、得意分野ではなかったので練習をするのが大変でした。でも結局、蓋を開けてみたら歌わせて頂いたのは「戦いの中で」の方なんです。

――雅さんは曲を最初に受け取ってどう感じましたか?

雅絢恵 私は元々クラシックをやっていた事もあって「夢」の方が歌いやすかったんです。でもどうしてもこういう曲調はクラシックの歌い方が出やすいので、そこを求められているわけではない事が分かっていたので、その点を考えるとオーディションの時は「戦いの中で」の方が作りやすかったのかなと、歌ってみて思いました。「夢」は綺麗な世界感で、プログレ界の方々にも受け入れて頂けるように、“完璧なクラシックな歌い方”にはなってはいけないなと探りながら歌いました。

――ちなみにクラシックの歌い方の特徴は?

Shusei 基本的には発声ですね。オペラのような発声だと、どんな歌い方をしてもそうなっちゃうんですよ。それをやらないで地声で歌うという事は、声楽を極めれば極めるほど難しくなるんですよね。

――そういった歌い方も出来る上で、今回のような歌い方の振り幅も見せられましたね。

Shusei そう。そういった意味では僕にとってはインパクトがありました。逆に「そういった歌い方しかできないのかな?」と思っていたので、儲け物だなという嬉しさがありました。

最初から最後まで全体の流れを考えながら歌わなければいけない

相馬優

――今回のサウンド面のこだわりは?

Shusei 「覚えやすいメロディ」と「あまり複雑な構成にしない」という事ですね。特に今回はターゲットをプログレファンだけではなくて、アニメファンやゲームファンの方々にも向けているので、そういった層にも分かりやすい曲にしたいと思ってアレンジや音使いを考えました。

――それでも「Same Dreamer」は5拍子だったりしますね?

Shusei でも、パッと聴いて5/4拍子と分かる人は少ないと思うんです。

――確かに5拍子とは感じさせないナチュラルさがありました。

Shusei 基本的には変拍子を作ろうとして曲は作らなくて、気がついたら変拍子になっていたんです。とんでもない変拍子になる事もあるんですけどね。今作の特典で付くインスト楽曲では9/16拍子が入っていたり。でも普通に聴こえたりするんです。

――9/16拍子の曲は楽しみですね。

Shusei でも普通に聴こえると思いますよ。全く意図した訳じゃないんですけどね。

――お2人は変拍子はどうですか? プログレとは変拍子というイメージもあったりしますが。

雅絢恵 むしろ変拍子は好きな所がありますね。プログレは今回参加するまでは、そこまでは知らなかったんですけど、特に違和感はなかったんです。

Shusei 元々、民族音楽には変拍子はたくさんありますからね。教会音楽が西洋音楽のもとになっていますけど、その前は民族音楽ですからね。そういう意味では6/8拍子も変拍子扱いですよね。変拍子は逆に分かりやすいんですよ。強拍がメロディとリンクしていますからね。普通の4/4拍子で強拍がずれていく方が難しいんですよ。

――変拍子の方が拍の頭が分かりやすいと。

Shusei メロディがしっかりしていればね。プログレッシヴ・ロックというのは、だいたい60年代後半から70年代なんですけど、それの影響で日本のバンドがプログレをやったりとかするんです。その中で日本人が気に入った変拍子の部分とか近代音楽的な響きを真似しているんですよね。もとはもっと自由なんです。だから僕は、最初からクラシックの作曲とロックの楽しさですね。高校時代はディープ・パープルのコピーバンドをやってたりしましたし。

 ロックの楽しさも知っているし、音楽大学に行っていたのでクラシックの楽しさも知っているので、それが融合したというか。基本的な考え方はヨーロッパのピンク・フロイドとかキング・クリムゾンとか、プログレの大もとのバンドと同じ立場で曲を作っているつもりではいるんです。だから真似はなるべくしたくないと思っているんです。

――両方の魅力を知り尽くしているShuseiさんならではですね。相馬さんは変拍子に馴染みはありましたか?

相馬優 曲を頂いて聴いた時に、特に違和感なく聴けたので、意識をせずに歌えました。楽譜を見て初めて驚くみたいな感じでした。

Shusei 歌中は4拍子なので問題ないでしょう(笑)。

――「戦いの中で」はメロディのリズムが難しそうですが、やはり歌うのは大変でしたか?

相馬優 音の動きも多かったので大変でした。でも楽しかったんです。オーディションの時から凄く練習しましたし。「細かい音が取れていなかったよ」という事をShuseiさんが仰って下さったので、鍵盤のアプリで音を一音一音確認しながらひたすら練習しましたね。

Shusei 今はDAWで音程を簡単に合わせちゃうんですけど、歌というのはそういうものじゃないんですよね。“部分”で感じちゃうと駄目なんです。最初から最後まで、全体の流れを考えながら歌わなければいけないと僕は思っているんです。「後で音程が直せるからいいや」という事で飛ばさないで、一音一音しっかりと音程と表現、ブレス、全体の流れを感じながら歌って頂きたいなという事をいつも思っていますね。

――レコーディングはあまり細かく切らずに、セクション毎にまるごと録音していくやり方でしょうか?

Shusei そうですね。どうしても録りにくいところは部分録りをしたりもしましたけど、あまり細かくはやらないですね。しつこく何回も歌ったりもしないです。だいたい良くはならないので。今、日本には“歌手”という人があまりいないんですよ。ほとんどが“アーティスト”になっちゃって。もしくは“アイドル”ですね。

 歌だけでちゃんと仕事をこなしている人は少ないんです。そういう意味では歌のレベルがどんどん下がっていってるんですよね。機械で直しちゃっている部分もありますし。僕が声優さんを使ったというのは、「歌と歌詞をしっかり聴いて欲しい」という事があったんです。今回は歌を最初に録音したんです。仮歌はボーカロイドを使ったので、それと本番に近いオケで練習してもらい、そこから歌をまず録音して、それからドラムを録ったんです。

――それは珍しいパターンですね。

Shusei なぜかというと、曲の世界感をちゃんとした歌を聴いてもらいながら演奏してもらいたかったからなんです。そうする事によって、より感情移入出来ると思ったんです。そうすればそれぞれがイメージしやすいので今回は歌から録りました。

――今回、歌を声優さんにお願いしたのは「役になりきる」という点も大きかった?

Shusei そうですね。今作は歌の表現力が大事だったので、そういう意味では声優さんに歌って頂いたのは凄く良かったと思います。

1回組み上がったプラモデルを壊してまた1から作り直す

Shusei

――レコーディングで記憶に残った事は?

雅絢恵 「Border」が他の曲と歌い方が違ったので、これが受け入れられるのかと心配でした。世界感があるので、各々のイメージを擦り合せて録る必要があると思いましたね。

――その「Border」の歌にディレイ(編注=音を遅らせてこだまさせる音響効果)がかかっている箇所があって、そのタイミングがまた面白いですね。

Shusei これは意図的にそうしたんです。プラグイン(編注=DTMで使うエフェクトの総称)の面白い所で色々遊んで。

――この曲の世界感を表していると感じた効果でした。

Shusei 単純に、歌詞の<夜空の星〜>という事でディレイをかけて広がる感じを表現するという事もあるし、歌詞部の言葉の比喩を音として感じ取って欲しいと思ったんです。人間の感情など、色んなものがあっても、それは夜明けになると消えていってしまうんだという。ある所で忘れられるというか、そういった所を変わったディレイをかける事によって表現出来たらいいなと思ったんです。歌い手にとっては「歌にこんな事されて!」と思うかもしれないけど...。

雅絢恵 いやいやいや(笑)

――いつもミックスダウンまで全てご自身でやるスタイルなのでしょうか?

Shusei 僕の仕事って、ほとんどがどういう訳かプリプロの段階からマスタリングまでずっと関わるんですよ。エンジニアさんとも一緒であらゆる工程をずっと見ているから、だいたいミキシングは覚えたんです。

――ご自身でやってしまった方が早いという部分も?

Shusei 最初に曲を作り始めている時から出来上がりが頭の中にあるから、それを他人に任せる必要もないですしね。マスタリングは第三者に客観的でなるべく自然に聴こえる様に調整してもらいますけど、ミキシングに関しては「ミキシングされた状態」が自分の中で想定されているので、その流れで言えば自分でやればそんなに違和感は無いんです。

――アニメの劇伴などもそうなのでしょうか?

Shusei そうです。そっちはマスタリングも自分でやっていますね。

――そうなると作業量がかなり多そうですね。

Shusei 僕の中では一貫した作業なんです。だから逆なんですよね。曲が出来た時点でもう終わっているんです。それを再構築していく作業を延々とやらないといけないから、さすがにマスタリングまではもうやりたくないというのが正直な所なんですけどね(笑)。でも納期を考えると自分でやっちゃいますけど。1回組み上がったプラモデルを壊してまた一から作り直す様なものですよ。

“生きる”って本当はもっと違うんじゃない?

雅絢恵

――相馬さんは今回のレコーディングで思い出に残っている事は?

相馬優 とても楽しかったです。特に今作では「Black Card」が一番好きな曲なんです。全体を通してそうなんですが、歌詞から物語を想像するのも楽しかったです。

――「Black Card」は歌詞の世界観が現代なんですよね。

相馬優 そうなんです。ブラックカードを持つ夢を想像したら楽しくなっちゃって。ブランドのドレスを着て高級車に乗ってパーティ三昧(笑)。TVに出てるタレントや学者さんがこぞってハグをしに来るってどういう状況なんだろうと思ってしまいましたね。

Shusei 彼女達がそうなってくれれば良いのかもしれないですけどね。売れない時があって、そこからそういうセレブになった人達を僕は間近で見ていますからね。「人間ってこうなれちゃうんだなあ」とね。結果的な所だけ見ているけれども、裏を返すと、中身や付き合っていく周りの人間もどんどん変わっていくんですよ。CMか何かに出るとその企業の社長と知り合いになったりね。

――もう生活レベルが違ってくるんですね。

Shusei 急にレコーディング先がLAになったりね。プールがあるスタジオでプリプロをやったりして。

雅絢恵 まさに夢ですね。

Shusei まあでも駄目な例だけどね(笑)。もともと金持ちではない人が急にお金を持ったり、有名になったりするとどこかルーズになったりするというね。自分も周りのお金持ちの人達と同じレベルだと勘違いしてしまうんですよ。だから「Black Card」は“成金お嬢さん”の浮かれ具合ですね。「本当にこんなに浮かれていていいの?“生きる”って本当はもっと違うんじゃない?」という事が言いたいんです。

――今作のラストトラックを「夢の始まり」にした意図は?

Shusei 単純に言えば「夢」の説明ですね。1曲目の「夢」は、こういう流れの背景の中で人類がどんどん拡散して、これだけ苦労した遺伝子が我々に受け継がれているという事を言いたいが為に「夢の始まり」を最後に持ってきているんです。

――これまでの事の答え合わせみたいなものでしょうか?

Shusei でも絶望的ですね…。だけど、その絶望的な所を生き抜いてきている訳ですからね。ついこの間も何万年前かの遺跡で虐殺された遺骨がたくさん見付かったりしましたね。今の人類とはまた別の人類になりそうな人達が淘汰されたりしているんですよね。“今生きている”という事はどういう事なのかを知って頂きたいという気持ちですね。

相馬優

――今作の裏のコンセプトでもありますか。

Shusei まあでも、そんな事は考えずに楽しく聴いてもらえたらと思います。

――それでは最後に読者にメッセージをお願いします。

雅絢恵 今作はプログレなのでストーリー性があるのですが、聴く人によっては全然違う風に聴き取れる曲が多いと思いますし、皆さんがどう感じ取るのかを私達も知りたいと思う作品なので、是非皆さんに聴いて頂いて感想を聞かせて頂ければと思います。

相馬優 1曲目から7曲目まで全部繋がっていて、最後まで聴いたらまた1曲目に戻れる作品なんです。何度も聴いていると、色んな物語をたくさん想像出来るので、是非楽しんで聴いて頂きたいです。

Shusei ダウンロード販売が半年後とか1年後になるので、是非アルバムを買って頂いて、なるべく曲を飛ばさないで最初から最後まで聴いてくれると嬉しいですね。

(取材・撮影=村上順一)