東京・福生市のPR動画「What's Up FUSSA」に出演しているマチーデフ

 東京・福生(ふっさ)市が、市の魅力を市内外にアピールするため、PR動画「What's Up FUSSA」を作成した。映画監督の福山功起氏が手掛けたこの動画には、日本語ラップのアーティストである、マチーデフと晋平太の2氏が起用されている。昨今MCバトルの人気が上がり、日本の音楽シーンで存在感を増しているラップ。この1年ほどでヒップホップアーティストをテレビやCMで見かける事が増えたが、地域振興にラッパーが採用されるというのは珍しい。今回は両氏にインタビューをおこない、参加した経緯やヒップホップの特長、地域との関わりに迫った。まずはマチーデフ。彼はラッパーとしての作品作りだけではなく、学校でラップの授業も担当している。ヒップホップとの出会い、ラップと日本語詞の相性などを聞いた。

https://youtu.be/bQf9yvjsRKI

敢えて客観的に作ったラップ

マチーデフ

――まずは今回の福生市PR映像『What's Up FUSSA』に参加に至った経緯から教えてください。

 今回監督をしている福山功起さんが、元々知り合いだったというか、一緒に仕事をしたことがあったんです。僕は兄が映画監督で、映画にも出た事があって。その作品が映画祭にノミネートされた時に、その授賞式に福山監督も来ていて、そこで知り合ったんです。それから、福山監督が手がけたCMのナレーションをやらせて頂いたりしていました。それで、今回「ラップを使って福生市のPR動画を撮りたい」という話だったので、是非やらせてくださいと引き受けた感じです。

 撮影では、監督に歌詞の原型みたいなものをまず戴いたんです。監督が「福生のこういうところを紹介したい」っていう、画のイメージから歌詞を箇条書きで考えてくれて。それにフロウを付けて韻を踏んでラップ化していくっていう作業を主にやりました。自分なりにも福生の事を調べて歌詞を肉付けしていきました。晋平太くんとご一緒するのは初めてだったんですけど、元々クラブで会っていて。だから、挨拶した事はあったんですよ。でも一緒に作品を作るっていうことは無かったです。今回は福山監督の縁でやらせて戴いて。今回の仕事は刺激的だったし、レコーディングも楽しかったです。

――福生市については?

 福生はPV撮影の時に行ったのが初めてでした。東京以外の県と都心の間みたいなところがありますね。都会的な部分と郊外的な空気が良い感じでミックスされているなと思います。街は整備されているんですよね、駅前とか。でも、ちょっと外れると田園風景が見えたりもする。あとは、市役所がめっちゃ格好良いんですよ。『What's up FUSSA』のにも出てきますけど、建物もデザインもいいし、中もイケてる感じ。「これ市役所なの?」っていうところもあったりする。そういうところも都会的だと思います。

――ヒップホップには地元を代表するレペゼン(represent)文化がありますが、マチーデフさんはどこをレペゼンされていますか。

 僕は渋谷区の初台出身で、その事をテーマにした歌も歌っています。自分の曲では、渋谷区の曲があります。渋谷区を紹介する曲ではないんですけど、そこで育った事を歌にしました。でも、福生市の曲を作るという事で、いわゆる主観というよりは客観目線で歌っているので、福生を紹介するようなラップになっています。

ヒップホップとの出会い

マチーデフ

――そもそもマチーデフさんはどの様にしてヒップホップに出会ったのでしょうか。

 ラップ始めたのは高校2年の春頃です。聴き始めたのは中2の時。もう20年以上になりますね。世代的には「DA.YO.NE」とか「今夜はブギーバック」があって、それを入り口にヒップホップにハマっていったんです。94年とか95年ですね。

 あの時のヒップホップは『さんぴんCAMP(編注=1996年に日比谷野外音楽堂で開催された、伝説のヒップホップイベント)』とか、盛り上がりがあって。その後にメロコア(ロックの1ジャンル)が流行ってHi-STANDARDとかに流れていった人もいて。パラパラ(ダンスの一種)とかもあったじゃないですか。だから、ユーロビートにいく人もいて。「高校生パーティ」っていうのも流行ってたんです。今じゃ考えられないですけど、高校生がクラブを貸し切って。

 そういうのがあったのは、関東近郊だけかもわからないですけど。僕は渋谷区出身っていうのもあって、結構そういう世界が身近にあった。しかもラップやってるので、そういう高校生パーティで「ラップやってよ」って言われてライブしてたんです。けどDJがかける音楽が、最初ヒップホップだったのに段々とユーロビートの割合が増えていって。その中でもラップを頼まれて(笑)。だから、そういう混沌とした高校生パーティに出演していく中で「あ、流行りが変わっていっているな」って肌で体感していましたね。でも僕はそういう音楽にはいかずに、ずっとヒップホップが好きで今に至る感じです。

ラップと社会活動

マチーデフ

――日本語ラップによる地域振興については、どう思いますか。

 社会貢献だったり、いわゆる行政と関わることに僕は全然抵抗が無いです。ヒップホップって、色々な人種の人がいるので。僕は、好んでそういうところと絡んでいくタイプなんですよ。ラップの先生もやっていますし。以前にも地域のPRにラップで協力するっていう事もやってます。「ラップを使って地元を盛り上げたい」と言って、僕に声を掛けて戴くのはありがたいです。

 これまでにも葛飾区立石のお祭『立石フェスタ』では、立石の人がラップをする『立石ラップのど自慢』という企画をやりました。要は、普通のお祭でやるカラオケ大会を、全部ラップでやるっていうものです。でもカラオケ大会と大きく違うところもあって。それは既存の曲を歌うのではなく、それぞれがオリジナルのラップを披露するという事です。1カ月くらい準備期間を設けて、練習を何回かやって。正直大変な部分もありましたが、凄くやりがいもあって。なので「ラップを使って街を盛り上げる」っていう事は、今までもこれからもずっとやっていきたいですね。

――マチーデフさんは、フリースタイルもされるんですか。

 やりますね。ただ、バトルっていう事はやらない、というか性格的に人をディスる(けなす)とかあまりしたくないんです。実は僕も2008年、2009年くらいまではバトルの大会とかにも出ていたんですよ。『B BOY PARK』や『ULTIMATE MC BATTLE』にも参加した事があります。その時なぜ出ていたか、というと野心みたいなものがあるのに、でも「何をしたらいいかわからない」っていう状態だったからなんです。どうやったら自分が売れていけるのかわからない、模索状態で。

 バトルっていうのはわかりやすいんです。勝ち負けがはっきりしているし、トーナメントで頂点に行けば単純にそれだけで注目される。売れる道筋が見えるんですよね。だから、バトルに出てたんです、売名行為というか「有名になりたい」という想いで。なんですけど、勝ちあがるために人の事をディスったりしている自分がちょっと「健康的じゃないな」というところもどっかであったと思うんです。「有名になるためには仕方ない」っていう感じでした。

 でも、段々バトルに出る事をやりつつも、ラップの先生(教育)業みたいなものをやりはじめたら「あ、自分に合っているのは、こっちなんじゃないかな」と。最近ではバトル以外の道筋が見えてきました。バトルに出る必要がなくなったというのも変ですけど、単純にまずディスるのが自分的に不健康で、やろうとは思わないんですよ。でも「即興」っていうものは、ラップを始めた頃からずっとやっていて好きなんです。だからオープンマイクとかサイファー(どちらも、セッションの一種)みたいなものは今でもやります。

ラップによる自己表現

マチーデフ

――先生業についても詳しく教えて頂けますか。

 先生は結構好きでやってますね。「ラップの楽しさを知ってもらいたい」っていう気持ちが凄くあるんですよ。なので、そういう活動は今後もやっていきたいなと。今は、アイドルとか、学生にも教えています。

 僕が教えているのはラップっていう「歌唱法」なんですよ。「ヒップホップ」という概念や価値観だったりとか、歴史を踏まえてとか、そういう事についてはあまり教えていません。「ラップはこういうものですよ」っていう歌唱法だけの楽しさにフォーカスして教える事が多いですね。「リズムの刻み方はこういうのがありますよ」とか「韻の踏み方はこんな感じのがありますよ」といった様な。

 実際、学校で教えるのは、ラッパーになりたい人という訳じゃないんですよ。芸人になりたい人とか、役者になりたい人とかが集まる学校で。選択科目の1つとして「ラップ」という科目を作ってもらっているんです。だから自分の表現の引き出しのひとつとして、興味がある生徒が来てくれてる。目的は、そういう人にラップの歌唱法の面白さを伝えて、自分の表現に活かしてもらったり、還元してもらうことです。

 だからヒップホップ的な価値観は全くという訳ではないですけど、本当に触りしか教えない。そういうものは、自分で掘って築いていくものだと僕は思うんですよね。HIPHOPに対する価値観てやっぱりそれぞれ個々に違うものだと思うんです。だから、それを押し付ける事はあまりやりたくなくて。それだったら、ラップの楽しさの部分をとりあえず「どう? 面白いでしょこれ」と伝えて、それで面白いと思った人それぞれが「自分なりのヒップホップ」にゆくゆくは行き着いていってくれたらいいなと思います。

――ラップは自己表現の1つとして役立つと思いますか。

 役立つと思いますよ。今はまだそんなに表現方法として、まだちょっと珍しい空気はあると思うんですけど。変化球みたいな真新しい感じで。でも、これもそのうち無くなってくると思います。そうなった時に、タレントの人とか声優さんもそうですけど「歌が上手かったらCDを出す」とかそういう展開がビジネスとして展開できるじゃないですか。そういう部分もあるし、ラップもこれからどんどん当たり前にある表現のひとつになっていく様な気がするので。それを習得しておいても損はないかなと思ったりします。

 一般の人もラップする時代が、もうすぐそこまで来てます。会社の飲み会とかでいきなりフリースタイルでラップしあう、っていう事もあったりするらしいですし。僕が主催側で参加している『社会人ラップ選手権』は名刺交換をして、フリースタイルバトルをするんです。もう即興で普段言えない事だったりとかを会社帰りに言いあって。そのイベントはクラブでやっていますけど、そういうところじゃなくて、例えば家の中でお父さんと娘によるラップバトル、みたいなものがあっても良いんじゃないんですか。「お父さんの服と一緒に洗濯されたくない!」ってラップで仕掛けた娘に、お父さんがラップで返すとか(笑)。まだそこまでいってはいないかもしれないですけど、もしかしたらそういう時代になるかもしれません。

 即興ラップって、コミュニケーション方法の1つだと思っているんです。実際、授業で即興をやっていたら、今まで全然喋らなかった生徒が突然とんでもない爆弾発言をしたことがありました。「え、そうだったの?」っていう様なカミングアウトだったんですけど。でもそれはラップじゃなかったら出てこなかった事で、多分普通に喋ってる中で言われたら、笑っていいのかもわからない内容でした。でもラップだから、全然変な空気にはならなくて。「あ、これがラップの力だな」ってその時、思いました。「そうなるのは、ラップならではだな」と。

 その発言で場に活気が出て、皆もそれに対してラップで質問していく様な状況が生まれました。本当にコミュニケーションツールとして機能していたんです。

マチーデフ

――歌よりもラップの方が響きやすい様な気もします。

 「喋りに近い」っていうのがあるからですかね。歌だとメロディが付いてしまうのでちょっと違う。ラップって音程が無くて、テンポ感があるので話すみたいな感覚。だから、すっと入ってきやすいと思います。あと普通に喋ってる時って、「どう言おうかな」とか考えながら喋ってると思うんですよ。でも、フリースタイルだと「リズムに乗らなくちゃいけない」っていう足枷みたいなものが出来る。そうするとそっちに気を取られるが故に、相手に気を使っている部分がおろそかになる。単純に「あ、言っちゃいけない事言っちゃった」ってなるのはそういう事なんですよ。リズムに気をとられる。それがフリースタイルの効果なんですよ。

――ツイッターやSNSで過剰に発言をしてしまう、ということにも関連しますか。

 それは「想像が出来てない」っていう事かもしれません。例えば、ツイッターで発言した事って見てる見てないは別にして、地球全体に発言しているのと一緒じゃないですか。「今から全世界に発言する」って毎回思わないですよね。ラップで例えるなら、「こういう事を言ったら、相手が嫌な気分になるかもしれない」っていうのを普通の会話だと考えながら話すけど、その想像力の部分が「リズムに乗る事」で欠如するというか。そういう部分は似てるとは思います。

――相手の言った事にリアルタイムで対応しなきゃいけない、という事もありますよね。

 そういう意味で上手い人、晋平太くんとかは本当にすごいと思います。脳みその中で、多分考えてる部分が分かれてるんじゃないですかね。僕はせいぜい2個くらい。「リズムに乗る」脳みそと、「話す」脳みそしかなくて。話が組み立てられなくて8小節が終わっちゃうっていうこともあります。それにさらに「韻を踏む」っていう脳みそもあったりするから、コンピュータがもう全然違う様な気がしますね。あと「歌詞を考える」脳と「即興」で使う脳もちょっと違う気がします。僕は割と即興の方は衰えているというか、昔の方がもっと言葉が出て来たなって思う時もあります(笑)。

リズムで考えるラップ

マチーデフ

――『What's up FUSSA』の歌詞についてのこだわりなどはありますか。

 「福生」って「読み方がわからない」という人が多いと思うんです。だからサビで「FUSSA FUSSA FUSSA FUSSA YEAH」と連呼して読み方を覚えてもらおうと(笑)。あとは「福生」っていう言葉が持っているリズムが、ラップにした時すごい気持ち良いんですよ。

 FUの音とSAの音っていうのは、ちょっとジャストなリズムに対してアタック(音の始まり)が遅れる感じになります。それが後ノリっぽくなってグルーヴ感が生まれます。しかもその間に「ッ」が入ってる。「ッ」が入ってるとリズムが作りやすいんですね。だからラップするには本当ピッタリな音なんですよ。「FUSSA」って連呼する事でそのリズムの気持ち良さを増幅させようという狙いもありました。

――では最後に読者にメッセージをお願いします。

 動画を見ながら一緒にサビだけでも歌って頂けると嬉しいです。そしてぜひラップの気持ち良さを体感してください!

(取材=小池直也)