「DAVID BOWIE is」日本展会場入り口(撮影・松尾模糊)

 昨年1月に亡くなった英アーティストのデヴィッド・ボウイさん(以下敬称略=ボウイ)の大回顧展『DAVID BOWIE is』のメディア内覧会が5日、東京都・天王洲の寺田倉庫で開催された。ここでは、ボウイが提供した300点を超える彼の活動や思想を物語る展示品が公開されている。読書家としても知られる彼が読んでいた書籍なども観ることができる。そのような文学的な観点から改めてボウイの活動を辿ると、彼の提示した作品の違った魅力が引き出される。

 『DAVID BOWIE is』は全世界で1億3000万枚以上のアルバムセールスを記録し、音楽のみならず「20世紀で最も影響力のあるアーティスト」として、その50年という長い創作活動をおこなってきたボウイの作品やステージ衣装など300点を超える品々を展示している。2013年にロンドンを皮切りに世界9カ国を巡り、アジア初となる日本展が8日から4月9日まで開催される。

ボウイの哲学

所々で見られるボウイの愛読書

 キュレーターの英・V&A博物館のヴィクトリア・ブロークスさんは、同日開かれたオープニングセレモニーで見どころについて「300点以上の展示物があるので、どれか1つを挙げるのは難しいが、未だ10代の頃色々なことを考えていた、そのプロセスが見れる。何よりボウイの哲学が見どころではないか。全てに対してオープンで柔軟な姿勢は、今なお我々にとって重要なメッセージなのではないか」とで語った。

 ボウイは10代の頃から読書家で、展覧会では彼が愛読していた英小説家のD・H・ローレンスの書籍や、彼自身が描いた小説家・三島由紀夫の肖像画を観ることができる。

 また、英作家のジョージ・オーウェルのディストピアSF小説『1984』に着想を得たアルバム『ダイヤモンドの犬』を映画化する為に描いた絵コンテも公開されている。同作でボウイは、「カットアップ」という手法で歌詞を作成している。これはこの時期にボウイが、ある雑誌記者の紹介で、アメリカの作家であるウィリアム・バロウズを紹介された彼の影響で制作されたことによる。

 「カットアップ」は、テキストをランダムに切り刻んで新しいテキストに作り直す、偶然性の文学技法で、1920年代の芸術思想・芸術運動であるダダイズムの中で生まれた。ダダイスムの創始者として知られる、仏詩人のトリスタン・ツァラは新聞記事から切り出した言葉を袋の中に入れ、ランダムに取り出した言葉を使って詩を作ることを実践し、その手法について「帽子の中の言葉」という記事を書いている。

 英バンドのレディオヘッドのフロントマンであるトム・ヨークは、これに習い2000年のアルバム『キッド・エー(Kid A)』制作時、バンドがリハーサルをしている際、テキストを1行書き、それを帽子に入れ、ランダムに抜き出したという。そして、この『Kid A』は小説家である村上春樹氏の小説『海辺のカフカ』に登場する。

音楽と文学

ボウイが実際に着たステージ衣装も展示

 昨年10月にボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞し、シンガーソングライターである彼が世界最高峰の文学賞を受賞したことで賛否両論が起き、また彼自身が授賞式に出席しなかったっことが大きな話題となった。

 ボブ・ディランは2008年に、米最高峰の文学賞である「ピューリッツァー賞特別賞」を受賞している。特別賞は毎年授与されるものではなく、過去に音楽界からはジャズミュージシャンのセロニアス・モンクとジョン・コルトレーンが死後に受賞している。ノーベル文学賞の候補としても毎年のように名前は挙がっていたという。

 さらに言えば、ボブ・ディランは元々彼の出生名ではなく、ディランという名前は、ウェールズの詩人および作家であるディラン・トマスから取ったものである。

 そもそも音楽と文学は、とても近しい関係にあるものだ。言葉は詩となり、詩は物語となった。そこに明確な線引きなど、できようがないのである。『DAVID BOWIE is』を訪れると、そのことを再認識することができる。ボウイはこの展覧会で観ることができるインタビューでも「もしボクが音楽を演奏できなかったら、きっと作家になって小説を書いていただろうね」と語っている。

 ボウイのそうした側面を意識して、改めて彼の50年に及ぶ活動の歴史を振り返るのも1つの“DAVID BOWIE is Context(コンテクスト=文脈)”な楽しみとして提案したい。(文・松尾模糊)