紅白のリハーサルで「恋」を歌う星野源。恋ダンスも披露した

 星野源が熱い。冷え込みが一段と進んだ1月を迎えても、ホットな空気を運び、巷間の話題の中心を担っている。歌手であり、役者であり、文筆家であり――。多彩な才能を惜しげもなく披露する“時の人”は昨年、出演したTBS系ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』が高視聴率を記録。その余韻が残る中で大みそかにはNHK紅白歌合戦に2年連続出場を遂げた。稀代のエンターテイナーとしての地位を確立する星野。紅白リハーサルの囲み取材で紅白が「落ち着く」場所と語った彼に、“紅白の申し子”としての横顔を見た。

 まだ暖かさの残った師走の東京。NHKホールでおこなわれた「第67回NHK紅白歌合戦」のリハーサル初日となる12月28日、星野は歌唱する楽曲「恋」の音合わせに臨んだ。穏やかな佇まいでステージに立ち、番組スタッフの仕事に配慮をのぞかせる。引き続いておこなわれた囲み取材のなかで、星野は「時間のない中で、時間を割いてもらっている」とスタッフへの気遣いを見せた。主役を担うポジションでありながら、満ち溢れる謙虚な姿勢。“好漢”の二文字がよく似合った。

 昨年に引き続いての出場となった紅白歌合戦。嬉しそうな笑みを湛えながら、星野は「落ち着く」「アットホーム」という言葉を使い、本番となる31日に意気込んだ。「すごく好きな場所。雰囲気とか言葉にできない、落ち着く感じがありますね」。やや低音の、聞き心地の良い口調で話していた。

 取材の眼目は“みくり”との共演だった。本番当日には、『逃げ恥』で主人公の“みくり”ならぬ新垣結衣がゲスト審査員として参加する。最終話で20.8%の最高視聴率を記録した番組で披露され、一大ブームを起こした星野の楽曲「恋」の“恋ダンス”。新垣と星野の共演が、大みそかの紅白で再現されるのか。取材陣はもとより、国民的音楽番組の視聴者にとっても大きな関心事だった。

紅白の囲み取材に応じた星野源

 取材陣はこの囲み取材で開口一番、「みくりちゃん」とのワードを使って星野に質問を投げかける。星野は「新垣さんですね」と笑顔を見せながらしっかりと修正。そして、「審査員の皆さん、お客さんも、テレビの前の皆さんにも一緒に踊ってもらえたら」と言葉をつないだ。あくまで「NHK」の紅白歌合戦。関係者に配慮しながら、より多くの人との“恋ダンス”共演を望んでいた。

 星野に『逃げ恥』出演の話が舞い込んだのは一年前だったという。主題歌「恋」の話は半年前、そこから撮影に臨んだと話す星野は「一年間、ずっとこの作品のことを考えていた」と打ち明ける。そして、「ダンスもドラマも色んな人が見て、聴いてくださった。たくさんの人に声をかけていただいて、中1から音楽と芝居をずっとやってきて、それが報われた思い」と続けている。

 質問が一つ、二つと進むうち、どんどん星野の魅力に引き込まれていく。紳士的な対応にうなり、時折のぞかせる照れたような笑顔に取材陣もニンマリ。海外の取材者から母国でも「逃げ恥が人気」であることを知らされると、嬉しそうな笑みで対応した。“時の人”のいる空間から逃れまいとするよりも、その人柄に引き込まれるように、多くの取材者が星野を囲んだ。

 紅白本番のステージは、おなじみとなっている「こんばんわ~星野源で~す」の挨拶からスタート。もたらされるのは安心感であり、パフォーマンスへの期待感。バックダンサーが“恋ダンス”を踊り、二胡やバイオリンが優美な音を奏でた。終盤には、審査委員席の新垣が“恋ダンス”を披露する瞬間がカメラによって映し出され、ステージと「遠距離」ながらも繋がった「恋」に番組視聴者はくぎ付けとなった。

<紅白リハ>星野源が有働アナと握手

初出場となった一昨年の紅白。リハーサルで有働アナと握手する星野源

 楽曲「恋」は“恋ダンス”と切っても切れない深い縁で結ばれている。ただ、改めて歌詞に焦点を当てると、多くの人に懐かしさを抱かせることだろう。「営み」「暮らし」「カラスと人々の群れ」。誰もが生きる日常のひとコマ、そこにフォーカスしながら星野自身の言葉で歌詞を書き上げている。

 その「日常」といえば、星野が2011年に発表した2ndアルバム『エピソード』に収録されている楽曲のタイトルでもある。<無駄なことだと思いながらも それでもやるのよ♪><日々は動き 今が生まれる♪>などの歌詞フレーズからも、誰もが一様に持つ、当たり前の日々の息遣いが聞こえてくるようだ。

 星野は紅白という舞台に「落ち着き」を感じると語ったが、飾り気のない世界観を提示する星野という存在に「落ち着き」を感じ取る人も多いことだろう。昨年を漢字一文字で現すと…そう尋ねられた星野は、「楽」という漢字を選んでいる。「本当に楽しかったです。去年紅白に出させていただいて、色んな人に知っていただけた。おかげでリラックスした状態で仕事ができた」と充実感をこめて理由を説明している。

 「楽」は、星野を見守った多くの人が抱いた感想ともいえる。来年への意気込みを語った星野は「無理しないように」ともコメントしている。2度のくも膜下出血で倒れた経験を持つ星野。彼が健康を優先しながら表舞台に立ち続けることは、多くの人にとって、星野と「楽しさ」を分かち合うための強い願望とも言える。その寄り添い合う関係性に、星野から「落ち着き」を感じる根拠があると言えるのかもしれない。

 星野の楽曲は、J-POPの範疇に入ってくる。ただ、演歌が伝える人情の機微も、ロックバンドの荒々しさも、ダンス・テクノの峻烈なサウンドも、そのどれもを包含した広義の歌謡曲と捉えることもできる。日本の様々なジャンルの音楽が一堂に会し、視聴者を含め、苦楽を乗り越えて迎えた一年のオーラスを飾る紅白歌合戦。星野が描き出す世界観は、年を越す間際に「落ち着き」を届ける紅白という舞台の縮図のようであり、紅白を愛し、紅白に愛された“申し子”と形容しても差し支えないだろう。今年の大みそかに、星野が紅白の舞台に立っていることを早くも願ってやまない。(文・小野眞三)