主演を務めた前野健太と原作者のみうらじゅん。『変態だ』はみうらじゅんの近未来の物語

主演を務めた前野健太と原作者のみうらじゅん。『変態だ』はみうらじゅんの近未来の物語

 イラストレーター・作家のみうらじゅん執筆の小説を原作とした映画『変態だ』が、12月10日から公開される。作品の監督にはみうらの朋友であるイラストレーターの安齋肇、主演にシンガーソングライターのマエケンこと前野健太を迎え作られたこの作品は、パンツ一枚に縄で縛られた前野のビジュアルイメージや、「ロックポルノムービー」というサブタイトルなど、公開前から強烈なインパクトを放ち、今年おこなわれた『東京国際映画祭 2016』にも出品されるなど、多くの話題を集めている。みうらがこの作品で描いた世界と「変態」「ロック」「ポルノ」といった刺激的なキーワードが、どのように結びついているのか? そしてその世界観を、前野を始めとした周辺の人間がどうのように感じ、表現したのか? 今回はみうらと前野の2人に話を聞いた。

「変態」とはメタモルフォーゼしていくこと

みうらじゅん

みうらじゅん

――この原作のストーリーをみうらさんが書かれた経緯について、まずはお伺いしたいと思います。特にみうらさんは小説執筆の活動の中で、“青春”というテーマを追い続けて執筆を続けられていますが、その中で今回、このインパクトのあるストーリーを描かれた経緯は、どのようなものだったのでしょうか?

みうらじゅん 僕が今まで書いてきたものは、要素的には自伝というのが多かったし、世の評価も大体そういう感じのものだったと思うんです。でも、今回はそれとはまた違ったものにしたくて。実はこれは自伝より一歩先の話で、僕の中の近未来の話なんです。

――近未来ですか? 未来像と「変態」というテーマがどう結びつくのでしょうか?

みうらじゅん 変態というのは、「メタモルフォーゼしていく」という意味を表しています。変わっていく、変化していくというか、今ある状況から一歩ずつ変わる、それも無理やり変わるのか、自然に変わるのかわからないけどね。今までこのストーリーじゃないけど、青春期があって、音楽をやっていた、そんなところにまったく違う要因も入ってきて、どんどんそれが崩れていくという話を書こうと思っていたんです。それこそはロックだと思っているし。音楽家は、いつも音楽だけをやっているわけじゃないから、音楽以外の要因で自分が変わっていったりすることに興味があるし、そこに焦点を当てた作品を書きたいと思って書きました。

――今までみうらさんは、音楽に関わる小説として2004年には『色即ぜねれいしょん』を執筆されました。あの作品は、例えば学生時代から音楽とつながってきたという観点では、スタンスが似ているような気もします。しかし『色即ぜねれいしょん』がどちらかというと「こういう高校時代もあったかな」と思わせるような甘酸っぱさや、さわやかな雰囲気がありました。それと比べると『変態だ』は、かなり年代的には進んでいる上に、想像を超えた刺激的な方向に進んでいる感じではあります。

みうらじゅん まあ、自分で付けたイメージを、自分で壊していくということですね。周りが付けたイメージでもいいし、自分が付けたものでもいいし。それを一歩ずつ壊していくものがロックだと思う。それを中心に描いたのが今回、というわけです。

――一方でこの作品の映画化を決めた時に、監督に安齋肇さんを指名したのは、みうらさんのご指示ですか?

みうらじゅん そう、これは僕の指定なんです。僕が監督に安齋肇、主演に前野健太でやってほしいと、あらかじめ考えていました。それを1回目の打ち合わせの段階で言いましたね。「間違いないから!」と。

――それは物語を書いていた時から、何か思い入れもあったのでしょうか?

みうらじゅん そんなキャラクターを想定していたし、もしこの映画を作るとなれば、キャスティングも僕が決めるのが一番正しいと思ったしね。ストーリーの世界は僕しか知らないし。

――それで、前野さんが良かったと?

みうらじゅん うん、マエケンが一番良かったですね。「マエケンが断ったら、マエケンに似た人を使うだろう」ということは、マエケンにも言いましたし。まあ、その第一回の打ち合わせの話が、安齋さんもマエケンもしばらくは知らないままに進行していました(笑)

前野健太

前野健太

――すごい進行ですね(笑)。ではその話が決まって、前野さんとしてはオファーを受けた時にどのように思われました?

前野健太 以前にもドキュメンタリー映画の出演はあったんですけど、それは演奏して歌う、ということだけだったし、今回は演じるということで劇映画も初めてだったので、「できるのかな? 演技とかやったことないですよ?」と不安はありました。でも「大丈夫!」と言われたんで。

――押されましたね(笑)

前野健太 最初からみうらさんは、「前野くんを想定して書いたんだ」と言いながら、原作があることをおっしゃっていたんですけど…。そういうの、嬉しいじゃないですか? でもその時「ただちょっと、ブリーフ一丁になるところがあるし、大変な撮影になると思うけど」と言われて「ブリーフかぁ…それ、カッコいいのかな?」と思いました(笑)。ですけど、先程みうらさんが言われた通り「マエケンが断るのなら…」とおっしゃっていただいたので、結局「いや、それならやらせてください!」とOKを出しました。

――男気ですね。もう引けない感じで…。

前野健太 引けなかったですね。最初の打ち合わせというか、一件目の飲みの場がそうでした。

――でも、ポスターのビジュアルからすごいですが、まさか縛られたりするとは…(笑)

前野健太 そう、原作が送られてきたのが、最初の飲み会から2カ月後くらいだったんですけど(笑)、でもまあ皆さんもロック大好き、僕もロック大好きですから、ここには何か当然あるだろうと思っていたんです。じゃないと絶対に動き出さない。どこかで絶対に「ロックなものが出てくるんだろう」ということを考えていました。

――ではその前野さんのOKが出て、実際に撮影がスタートして、みうらさんから前野さんに対して映画のイメージを伝える場を設けたりはしたのでしょうか?

みうらじゅん いや、何も言わなかったですね。安齋さんに引き受けてもらってからは、基本映画は監督のものだから、それはもちろん崩さないし、こうしたほうがいいということも言ったことはない。安齋さんが原作を読んで思ったことをやるのが一番いいと思ったし、マエケンをどうしたらいいとか、一切口を出したことはないです。

――それも信頼関係ですね。自身の世界観に何らかのこだわりはあったのでしょうか?

みうらじゅん そうですね…、原作を書いた時もそう思ったんですけど、絵が動くわけだから「何か変なんだけど、最後はカッコいいな」と思えるような作品にしてほしいとは思っていましたね。(マーティン・スコセッシ監督作の)『タクシー・ドライバー』みたいに。「トラヴィス・ビックル(ロバート・デ・ニーロ)があんなことになって、最後モヒカンなんだけど、何かカッコいいじゃん!」って。それが、この映画のラストイメージなんです。

――確かにあの映画もインパクトありましたね。

みうらじゅん この映画は、見てない人からするとタイトルからして「『変態だ』?、何だこれ?」って感じですけど、見ると「何かこれ、カッコいいんじゃないか!?」って。それがロックじゃないですか? 常識とかではないし。そういうことが裏返ったりするということが、ロックだと思っているんで。大学時代の「ある男」を演じたマエケンが、最後には何か覚醒してカッコ良くなった、という感じにね。そんな感じにはしてほしかったし、安齋さんにもそう言ったことはありました。

前野健太、みうらじゅん

前野健太、みうらじゅん

――そういうイメージは、安齋さんから前野さんには何かイメージとして演技指導みたいなことをされることもありましたか?

前野健太 いや、そういうことは特には。ただ最初は喜劇っぽくしたほうがいいのかなと思っていたんですけど「絶対それはやめてほしい」と。「そのままでいい」ということは終始おっしゃっていました。「あまり作りこまないでほしい」って。

――確かに劇中のイメージとして前野さんのイメージは、何かテンションがそれほど高くない感じではありますね。最後はかなり…ありましたが(笑)

前野健太 そうですね、そんなに高いという感じでもないですね…。

――ちなみに毎年、みうらさんが受賞者を決められる「みうらじゅん賞」(編注=94年から開始されたみうらじゅんの独断で贈呈される賞)という賞がありますね?

みうらじゅん そう、あるんですよ。今年はボブ・ディランがノミネートされています。そこだけは言っておきます(笑)

――この映画のサウンドトラックに参加されているGLIM SPANKYも昨年受賞されていますし、前野さんも受賞されていますね…。

みうらじゅん まあそれは”口説き”ですよね、僕の(笑)。口説いていくには、賞をあげるのが一番いい。近くなれるし。その年一番興味があるというか。まあ何かどんな仕事であれ、結びつけるのが俺の仕事なので、何かあったらいいなと常々思っています。

主題歌「Kill Bear」はヘビメタにしたかった

みうらじゅん

みうらじゅん

――映画に合わせてリリースされるサウンドトラック集に関してお伺いしたいと思うのですが、音楽という面では前野さんの作られる音楽に対して、みうらさんが何か思われたところもあるのでしょうか?

みうらじゅん 僕が彼と数年前に初めて会った時に、CDをもらって聴いたら「すごい!」と思ったんです。歌詞もすごく好きだし、声も歌も好き。だけど普段、そう思えることはあまりなくて、何かの縁でここまで来たんだけど、マエケンの作る世界観というのは、そこに流れるイメージなんですよね、やっぱり。

――前野さんが2011年に前野さんがリリースされたアルバムの楽曲「ファックミー」が、映画に出演された月船さららさん、白石茉莉奈さん、そして、前野さんと3人が歌われる3バージョン作られたものが、音楽集のほうには入っているのですが、この楽曲と、映画のイメージと強く結びつかせるというのは…。

前野健太 それを当てはめたのは、(安齋)監督なんです、映画はね。僕からすると古い曲なんで、それほどでもないんですけど、安齋さんはこの曲を推していて、(安齋肇のモノマネで)「『ファックミー』なんだよね!」って(笑)。まあそうおっしゃっていただいたので「じゃあ是非お願いします」と。ただ「僕が歌うより月船さんが歌ったほうがいいんじゃないか」と。さらに「白石さんのも作ったら面白いんじゃないか?」って。

――ちょっと雰囲気がまた違って面白いなという感じもありまして。

前野健太 うん、だからこの歌を録って、実際に映画にはめてみたりもしたらしいですね。でもフワッとしすぎちゃうという感じもあるからって。せっかくだからサントラに入れちゃおうということになったんですけど。

――前野さんのバージョンは、サックスの梅津和時さんも参加されていますね。

前野健太 そう、これはサントラを作る時に梅津さんも参加されていて、「せっかくだからやってみなよ!」と安齋さんが。それからその場で、一発録りでやりました。

――梅津さんのサックスは、このサントラの中でも相当なインパクトがありますが、今回この音楽制作に参入されたきっかけは、何かあったのでしょうか?

前野健太

前野健太

前野健太 それは安西さんが呼ばれたんです。音楽は安齋さんとドラマーの古田たかしさんが監修されたんですけど、すごく贅沢な感じですよね。

――この音楽の制作には、みうらさんもこの制作に関わっているところがあるとお伺いしましたが?

みうらじゅん 「Kill Bear」という曲なんですけど、この映画の主題歌でエンディング曲なんですけど、マエケンと2人で歌っているんです。とりあえず詞は何かいい悪いじゃないという歌にしたくて、それを心掛けて書きました。例えば自分を断罪するということとか、全部変態につながる要素の歌詞は書いたつもりです。それを大好きなGLIM SPANKYのギターの亀ちゃん(亀本寛貴)に曲を書いてもらって。ヘビメタにしたかったの。大概、ホラー映画のエンディングはヘビメタですから(笑)。

――ホラーですか? 確かにラストシーンは、ある意味ホラー的な展開もありますね(笑)

みうらじゅん 主人公が覚醒したところで、メタルっぽい雰囲気が欲しかった。でも僕にはメタルのセンスはないので、頼んで作ってもらいました。ドイツ人がヘタな英語で歌っている感じというか(笑)

――なるほど、何かドイツ訛りが入った感じということでしょうか?(笑)。前野さんは、この音楽の中では「Kill Bear」と「ファックミー」の他にも何か関っておられる曲もありますか?

前野健太 実は映画本編のほうには入っていない「変態か」という曲があるんです。サントラには入っているけど、映画には間に合わなくて(笑)。だからこの曲は客出しの歌というか、「Kill Bear」で映画本編が終わって、明るくなったら流れる予定です。

――「蛍の光」みたいな?

前野健太 まさしく。まあ、アンサーソングですよね、映画に対しての僕の気持ちというか、ミュージシャンとしての。

「よくぞやった」と言ってもらえた

みうらじゅん、前野健太

みうらじゅん、前野健太

――『変態だ』で「変態か」ですか…。ちなみに『変態だ』というタイトルの意味に関して、前野さんとしてはどのように解釈されたのでしょうか?

前野健太 どうでしょうね(笑)。でも僕もまあこういう商売ですから、退路を断って突き進むというか。さっきみうらさんもおっしゃっていたけど、どんどん変わっていっていいんだ、って。そういう部分を、僕も当然ロックが好きな者の一人としてメッセージを受け取ったつもりです。

――劇中の最後で覚醒するシーンがありますが、役柄ではない自身の中で、やはり同じように覚醒するものもあったのでしょうか?

前野健太 うん、まあ一緒に覚醒しないと乗り切れないですから。あそこでは、ノーマルではいられないですよ。ただ、アドレナリンがブワーッとなっているので、撮影の時は入り込んじゃっていましたね。その中で自分としてはやっぱり覚醒していたと思います。

――ちなみに雪山でブリーフ一丁というシーンもありましたが、あれは本当に雪山で?

前野健太 そう見えなかったですかね?(笑)

――いや、そう見えましたけど、いくら何でもあんな寒いところでブリーフ一枚なんて…CGかな?と。

前野健太 いや、あれがCGだったら金かかりますね(笑)。

みうらじゅん 金かかることはやってないんで、全部生身でやっています(笑)

――やっぱりそうなんですか…では、前野さんと月船さん、お二人で、下着姿で…。

前野健太 そうですね、寒かったです。でもみんな寒かったんですよ、現場は。みんな寒そうだったからこそ乗り切れましたね。誰か一人でも暖かそうだったら、マズかったでしょうね(笑)。結構吹雪いたりもしたので、そういった雰囲気や意識の共有はしていました。

――この格好で映画に出られて、お知り合いのミュージシャンからの反応はどうだったのでしょうか?

前野健太、みうらじゅん

前野健太、みうらじゅん

前野健太 ものすごく「よくぞやった」と言ってもらえましたね。「すごい、勇気をもらった」という声が多いです(笑)。なかなかできない、と言ってくれる人は多い。まあそういう役なので、途中から「Tシャツ着たい」とか言うわけにもいかないじゃないですか?(笑)

――振り切っちゃったほうが、カッコ良いですよね。

前野健太 いや、振り切らないと、(役を)降ろされちゃいますし(笑)。

――確かに。では、最後に読者に向けての、作品のアピールなどをコメントいただければと思います。

みうらじゅん まあ、昨今あまりないジャンルの映画だと思うんです。特に、今「君の名は。」の時代にあって、真逆な映画だと(笑)思うんですけど「あってもいいじゃん?」と思う。だから是非一度見て、いろんなことを考えてもらえれば。

――確かに昭和な感じがしますね。

みうらじゅん ね? ほとんど白黒だし。「あってもいいじゃないか」と岡本太郎みたいに思います。どういう方に勧めるか、というのはないですけど、敢えて言うなら「18歳以上の人」(笑)

前野健太 「飛び込んでみること」というのが全てですね。何か歳を重ねると、人って守りに入りがちじゃないですか?僕は特に守りに入りがちな方なんですが、それでももう一回飛び込んでみようよ、って。そういうことを感じてもらえればいいなと思います。

(取材・桂 伸也/撮影・冨田味我)

前野健太

前野健太

 ◆前野健太 1979年生まれ、シンガーソングライター。2007年に自ら立ち上げたレーベル”romance records”より『ロマンスカー』をリリースしデビュー。ライブや音楽制作を続ける中、2009年元日に東京・吉祥寺の街中でゲリラ撮影された、ライブドキュメント映画『ライブテープ』(松江哲明監督)に主演として出演。第22回東京国際映画祭「日本映画・ある視点部門」で作品賞を受賞し全国の劇場で公開された。2013年には『FUJI ROCK FESTIVAL’13』、2014年には「SUMMER SONIC 2014」へ出演。音楽活動を続ける傍ら、近年ではエッセイや小説の寄稿など、幅広い活動を展開している。