ソロになって改めて「楽しませる」ことを強く意識したと語る堀込泰行

ソロになって改めて「楽しませる」ことを強く意識したと語る堀込泰行

 1996年に活動開始し、その独特な楽曲やサウンドで音楽シーンに衝撃を与えたバンド、キリンジ。兄・堀込高樹と弟・堀込泰行による兄弟デュオである。彼らは数々の名曲を生み出した後、2013年に泰行が脱退。その泰行は翌14年からソロ活動を開始した。そして、10月19日、堀込泰行名義としては初となるフルアルバム『One』を発売する。アメリカンポップスの懐かしさと今の新しい風が混在した魅力溢れる作品だ。制作まで実に約3年の空白があり、まさに満を持しての作品だ。今回は、このアルバムに込めた意図や、最近の音楽シーンについて考えていることなど、“堀込泰行”の考えを深く掘り下げるべく話を聞いた。

作品としての広がりを意識した

写真・堀込泰行「One」インタビュー(4)

――ソロとしての1stアルバムとなりますが、手応えは?

 やっぱり大変でしたね。1人になったので、当然曲も倍の数を書かなきゃいけないですし。なんせ、やる作業が多いですから。ただ今回はいつもキーボードをやってもらっている、伊藤隆博さんに管や弦のアレンジをお願いしました。彼に協力して貰いながら作ったので、まるまる1人で作るよりかは、作品としての広がりが持たせたものになったと思います。なかなか気に入ったものができて良かったなと。

――キリンジ脱退までは「馬の骨」名義でソロ活動もされていましたが、その時との変化はありますか?

 キリンジで僕が最後に関わったのは『Ten』というアルバム(2013年発売の10thアルバム)ですけど。結構、渋い内容ではありましたが、好きな作品でした。だけど、今回、アルバムを作るに当たっては、等身大的なものを引き続きやっていくというよりかは、もう少し広がりのあるものをやってみたいという気持ちがありました。サウンド的な部分で。なので管楽器を多く入れてみたりとか、シンセでストリングス系の音を多く使ってみたりして、広がりを持たせるということも考えました。

――タイトルの「One」はKIRINJIの「ネオ(NEO)」に対するものだったのでしょうか?

 そう思われるだろうなと思いつつ(笑)。単純に1枚目であることと、あとは1人になったということ。それから「One」そのものが、物や人などを指す意味でもありますし、そういう広い意味の解釈も含めたものになっています。

――個人的には今回のアルバムを聴いて、楽曲に「どこか懐かしい感じ」という印象を受けました。

 「新しい」と言っても、自分にとっての新しさは、「今までやらなかった感じの広がりを持たせたい」という意味だと思うんです。「凄く今のサウンドにしたい」というわけでもなかったし。ただ、そこからあまりにも離れて旧譜のリイシュー(編注・再発盤)みたいなCDになってしまうのは、つまらないと思っていたので。細かい部分になるのですが、ドラムの音とかはその辺をエンジニアが気にしていたみたいですね。

普通ということに抵抗はなくなった

写真・堀込泰行「One」インタビュー(5)

――オフィシャルインタビューには「普通っていうことに抵抗が無くなった」と発言されていますが。

 そうですね。キリンジをやっている時は「キリンジのモード」というか「キリンジのマナー」というものを無意識に考えていたと思うんですよね。その美意識の中で物を作っていたと思うんです。特に言葉という部分では、それが強かったかもしれないなと思っていて。離れてみたらそこから少し解放されたと言いますか、もっと簡単な言葉遣いで、簡単な表現で歌詞を書くようになっていきました。それは今回やっている時に何となくそう思ったんです。

――今になって思う「キリンジのマナー」とはなんだったんでしょうか?

 「くせのある物を作りたかった」ということだと思います。多分、デビューした時は流行っていたものに対して自分たちはもっと…何だろうな。一聴すると普通のポップスだけど、聴き込んでいくうちにもうちょっと違うというか、ひねりのある感じというところで楽しませたいという意識が強くて。その気持ちは最後まで変わらなかったのかなとも思っています。いちいちそういう確認はとってないけど、多分それが「キリンジのマナー」だったのかと。

――そこから解放されてこのアルバムを出すまでの空白期間は何をされていたんですか?

 ちょこちょこCMの音楽をやったり、人の楽曲にゲストヴォーカルとして参加したり、楽曲提供やイベントに出ていましたよ。

新しい才能を探しに

写真・堀込泰行「One」インタビュー(6)

――「新しいミュージシャンと知り合いたかった」とも発言されていますが。

 そうですね。やっぱり1人になるわけだから。それまで、キリンジをサポートしてくれていたミュージシャンは凄く良い状態で、もうバンドみたいな感じになっていて。「これは、今一番いい状態だな」なんて思った時期もありました。だけど、そういう時に辞めて。

 当時のサポートメンバーは新しいKIRINJIのメンバーになったので、そのままサポートしてもらうわけにはいかないじゃないですか。みんなは、やってくれるとは言うんですけど、それはそれで気持ちだけ受け取って。だから僕は僕で違うミュージシャンを探さなければいけない。というので、呼ばれた色んなイベントに出来るだけ出る様にして「良いミュージシャンいないかな?」というのは考えてました。

――ご自分でリサーチして「行ってみよう」というのもありましたか?

 そうですね、元bonobosのドラマーの辻凡人君とか。あとは青山陽一さんも昔から知っているけど、ギターが大好きなので駄目元で連絡してみたり。あとはイベントで知り合って共演した、北山ゆう子さん(MISOLA)という女性のドラマーが凄く良かったので、『One』では、ほぼお願いしたんです。とはいえバンドのメンバーの選定についてはまだまだ流動的というか、これからもいいなと思う人がいたら声を掛けていきたいなというのはありますね。

 キリンジ時代も最後のサポートメンバーに至るまでは結構な年月かかってますし、なかなかそう完全な固定メンバーというのは見つかるものではないかなと。時間をかけて出来上がっていくものだとは思っています。とにかくそれまでの間は色んなミュージシャンと戯れるような感じでやっていければいいなと。だから多少不完全であっても、新しい血を入れていって自分の音楽に新鮮味を与えるというのを常に考えてます。

楽しませたいという気持ちが強かった

写真・堀込泰行「One」インタビュー(7)

――今回のアルバムで特に印象に残っている曲などがありましたら教えてください。

 楽曲単位ではどれも気に入っているんですよ。それぞれの最終的なミックスダウンの出来に差はあったりするのはあると思うけど。やっぱアルバムのレコーディングに入るまで、結構な期間があったので曲の頭数は揃ってはいたんです。

 その中でも最後に滑り込ませた1曲の「New Day」はちょっとR&Bっぽい感じも意識しましましたし気に入ってます。

――今回管楽器が多用されているのは、狙いがあったんですか?

 「管楽器を増やしたら新鮮だろうな」というのはあったかもしれないですね。あんまりキリンジでもセルフプロデュースになってからは管楽器は入ってなかったので。自分がソロで第1弾を出す時に「管楽器が沢山入っていたらきっと新鮮だろう」という、ちょっと邪心もあったんです。でも、それも「楽しませたい」という気持ちがあったからなんですけどね。

――やっぱり「楽しませたい」という気持ちはおありなんですね。

 基本はどんな形であれ、エンターテインメントにしたいというのはあると思います。それはキリンジの時もあったと思います。ただ、ソロに当たっては改めてその辺を意識しました。変わったというか、何というか。散々お客さんを待たせたというのもあると思うんですけど。暗い気持ちとか、悲しい気持ちを共有するというよりは、楽しい気持ちやちょっと前向きな、暖かみのある何かしらポジティヴな気分を出したかった。

 初ソロだからといって、いきなり私小説的な重い内容になるのは嫌でした。古いファンにも新しく興味を持ってくれる人もいるかもしれないので、気持ちとしては全方位に向きたかったというのはありました。今までは、あまりそういう事は考えなかったんですけど。1人でやっていく上で心境が変わったのかもしれないですし。挨拶代わりの一枚なので、何かこう内容が偏った格好良さよりも、間口が広い親しみやすい物を提供したいという想いが強かったです。

普通のポップスが消えた

写真・堀込泰行「One」インタビュー(2)

――それは間口が広いものが枯渇している、音楽シーンの細分化へのある種、危機感というものもあったんでしょうか。

 それもちょっとはありますね。何か普通のポップスが無くなっちゃったという印象があるから。尖がっているものしか無くて、それが飽和している感じというか。もちろん、このアルバムには「Buffalo」みたいなちょっとオルタナティヴなものもありますけど。

 「普通にただ良いものを作る人がいないんだったら、自分がやろうかな」という様な気持ちもちょっとはありました。確かに「自分が背負う」と言ったらちょっと驕(おご)りはありますが、みんなは“偏って尖がっているという所”に行っているから「俺は辞めようかな」という思いはあります。

 普通普通って言ってますけど、普通に聴いても楽しめるものが案外、尖がっていて格好良いものを作るのと同じくらいに大変ってわけじゃないけど、簡単ではない。凡庸なものを作るっていう事とは違うんです。だから「普通に楽しめる、だけど凡庸じゃない」というところを心がけて作りましたね。

――最近の音楽もチェックするんですか?

 それは特に意識的にはしてないです。“生活していて耳に入ってくるもの”ということですかね。後はお酒を呑んでYouTubeを観てると、どこかの動画に色々飛んでいくので「最近こんなバンドいるのか」というのはあります。具体的な人を挙げるほど詳しくは観てないですけど「若い人は楽器が上手い人が多いな」とか、「器用に色んなバンドを掛け持ちして」とか。僕は多分そういうのは無理だなあと思いながら。僕は完全に古いタイプなんだという感じはしています。

自分なりのコミュニケーション

サムネイル用

――SNSも全くやられてないということですが。

 そうですね。本当はそういうのもやった方がいいとは思うんですけど、なかなかね。嫌な事は絶対言われたくないんですよ(笑)。どうなんですかね、CD出してライブやっていてというサイクルの中でのコミュニケーションで良いんじゃないかなと僕は思うんですけど。

 あとはファンレターが来れば直に声は届くし。ラジオでもやっていれば、ファンからの声も届くかもしれませんけど。まあ、SNSは人の声を活かす力が無い人がやっちゃいけないんじゃないですか。僕は多分ないですね。だからやってないんだと思う。

 3年前くらいに「はじめなきゃ」と友達に言われて、色々見てみることにして。でも「ツイッターはちょっと面倒な事が起きそうだから」と相談したら、「インスタグラムだったらそんな変な奴は来ないよ」と言われて。「そうか」と思って色々チェックしてみたんですよ。モデルさんとかのを。そしたら闇雲に「カワイイ」とか、ケーキを写したら「美味しそう」とか、こう闇雲なんですよ、褒め方が。この闇雲なやりとりが薄っぺらいと思って。だからと言って、そこにわざわざやってきて炎上させてる奴も気持ち悪いなと思うし。

 結局、新しい物ができたら書き手も移って、情報の受け手も移っての繰り返し。最初は、新鮮味があったり、ある種のモラルが守られているけど、結局最後はそれも崩壊していく。そしてまた、新しいメディアが現れて、という繰り返しなのかと考えたら「これはやらなくていいんじゃないか」と。自分には向いてないってことですよね、良い悪いじゃなくて。

イミテーションから離れた時代

写真・堀込泰行「One」インタビュー(3)

――これから先、東京五輪などもあって日本の音楽が世界に開かれていくと思います。何か思う所はありますか?

 そうですね。韓国とかインドネシアのバンドが、キリンジの曲を聴いてくれていたという話がちらほら耳に入ってきます。よりオリジナリティみたいなものは大事になってくるのかな、思いますね。世界のどこの誰が聴くかわからない。たまに自分の音源をYouTubeでどう観られているのかをチェックするんですけど、英語でのコメントだったり、読めない文字でのコメントがあって。そうすると「日本の中で聴かれるんだ」という意識を持っていた頃と少しずつ変わってきますよね。

 単純に良くできたイミテーション(模倣品)を作って、国内でこうオタク的な感覚で共有していた時代ってあったと思うんですけど。90年代以降とかは特にその傾向が強くて。ただ、今の状況を見ていると、そういう時期とは離れたんだなとは思いますね。やっぱりこれまで聴いてきたものの影響からは逃れられないわけですが、今は何かを始める場合「自分だったらこうする」というのがより多く求められるんだろうなと感じます。

――最後に読者にメッセージをお願いします。

 とにかくどの曲も親しみやすくて聴く人を選ばない作品になってます。だからといって内容が薄いわけではないので、とにかく一度聴いてみてください。よろしくお願いします。

(取材・小池直也/撮影・冨田味我)

 ◆堀込泰行 97年にキリンジのVo/Gtとしてデビュー。2013年4月12日に キリンジを脱退。ソロアーティスト/シンガーソングライターとして活動を開始。2014年11月19日にソロデビューシングル「ブランニューソング」をリリース。2015年までにライブツアー、客演参加、楽曲提供などをおこなう。代表曲は「エイリアンズ」「スウィートソウル」「燃え殻」など。希代のメロディメーカーとして業界内外からの信頼も厚くポップなロックンロールから深みのあるバラードまでその甘い歌声は聴くもの魅了し続けている。また、キリンジ時代から提供楽曲も多く、ハナレグミ、安藤裕子、畠山美由紀、杉瀬陽子たちにも提供。これまで「馬の骨」名義のソロアルバム2枚、キリンジとしてはオリジナルアルバム10枚を発表。近作は、堀込泰行としての初の洋楽カバーアルバム『Choice by 堀込泰行』をリリース、そしてついにファーストソロアルバム「One」が完成した。

作品情報

堀込泰行 1st Album 『One』
2016.10.19 Release
▽収録曲
01.New Day
02.Shiny
03.Waltz
04.Wah Wah Wah
05.ブランニュー・ソング
06.Jubilee
07.さよならテディベア
08.Buffalo ※Instrumental
09.最後の週末
10.僕らのかたち

ライブ情報

<アルバム「One」発売記念・東阪ライブ「堀込泰行LIVE2016」>
○2016.12.12(mon)
東京・TSUTAYA O-EAST OPEN 18:00/ START19:00
料金5,940円(税込み/オールスタンディング/整理番号付/ドリンク代別/未就学児童入場不可)
一般発売日:2016年10月29日(土)
問合せ:ホットスタッフ・プロモーション 03-5720-9999

○2016.12.14(wed)
大阪・UMEDA AKASO OPEN18:00/START19:00
料金5,940円(税込み/オールスタンディング/整理番号付/ドリンク代別/未就学児童入場不可)
一般発売日:2016年10月29日(土)
問合せ:キョードーインフォメーション 0570-200-888

<全国ツアー「HORIGOME,YASUYUKI LIVETOUR2017」>
アルバム「One」を携えた全国ツアー来春開催予定。