「運に巡り会えたという事が僕らの幸運であったところであり、強さだった」と語った水野良樹

「運に巡り会えたという事が僕らの幸運であったところであり、強さだった」と語った水野良樹

 今年3月15日にメジャーデビュー10周年を迎えた、いきものがかり。そのリーダーでソングライターでもある水野良樹(Gt)が8月25日に、自伝的ノンフィクション作品『いきものがたり』を上梓した。同書は、水野が昨年10月から今年5月までの間、Twitter上で書き綴ってきたグループ17年間の活動記録や想いをまとめたもの。そこには、グループ結成からの苦悩や葛藤、音楽ディレクターとの確執、人生を変えたミュージシャン達との出会いなど、これまで明かしてこなかった歴史が刻み込まれている。いきものがかりと言えば、路上ライブで注目を集め、NHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』主題歌「ありがとう」等のヒット曲を連発し、トントン拍子で音楽シーンを駆け抜けた印象がある。しかし、水野は「出会いや運に巡り会えたという事が僕らの幸運であったところであり、強さだった」と人の巡り合わせや運が良かったことが要因であったと語る。結成17年、メジャー10年の歩みのなかでどう想い、どう感じ活動をしてきたのか。水野に話を聞いた。

僕らが出過ぎてしまうと良くない

「僕らが出過ぎてしまうのは良くないと思っていた」と水野良樹

「僕らが出過ぎてしまうのは良くないと思っていた」と水野良樹

――自伝書『いきものがたり』を拝読しました。良い事も悪い事も、苦悩までも全てをさらけ出していると感じました。これらを綴っていこうと思った動機は?

 昨年10月にTwitterで綴り始めた時は、ちょうどベストアルバムのリリースを控えていたので、プロモーション的な感じになればいいなというのがありました。それともう一つ動機がありまして、今までは曲そのものが皆さんの元へ届いて欲しいと思っていたのですが、このタイミングで自分達のストーリーも届けて良いのではないかと。

 例えば、恋愛ソングを歌った時に、「これは吉岡(聖恵)さんの経験談なんですか? 水野さんの経験談なんですか?」みたいな感じになると曲が狭くなってしまうので、今まで自分達の事をなるべく喋らずにきたんです。

 それが、10周年というタイミングで自分達の事もストーリーとして楽しんでもらえるんじゃないか、と思ったんです。「10周年というタイミングだったら許されるんじゃないか」と。その中で書き始めたのがきっかけでもあります。

――これまでご自身達の事を話さなかったというのは、意図的に決めていた事だったのでしょうか。

 そうですね。自分達の自己表現であったり、個人的なストーリーというものが全面に出てしまうと、“曲が遠くに届かなくなる”“遠くに行く事を邪魔してしまう”という気持ちが凄くあったんです。曲と作り手、歌い手との繋がりが強すぎるとそればかりが目立ってしまうんです。

 もちろん、そういう曲の素晴らしさというのもあると思うのですが、僕らの場合は聴いて頂いて“なんぼ”なので。皆さんに自分の大切な人を思い浮かべてもらったり、自分自身の個人的な物語を皆さんの方で思い浮かべて聴いて頂くというのが一番大事で、そこに僕らが出過ぎてしまうのは良くないと思っていたんです。

――自分達は無色透明なくらいの方が良い?

 出来ればそうであって欲しいという思いではあります。

――10周年というタイミングで自分達を出したという事ですが、改めて出すとなると照れくさかったりしませんか?

 照れくささというか難しさはありましたね。「本当に書いて良いんだろうか」という迷いがなかった訳でもなくて、自身を晒す(さらす)という事も一度は踏み込んでみないといけないのかなという気持ちもあって、それが結果的に本になるというところまで行くとは、現実的にはイメージしていなかったんです。

――書籍としてのリリースは、これはもうサプライズ?

 そうです。Twitter上の企画で出来ればいいかなという感じでした。ただ、読んで下さる方も多くて、それで出版社の方が声をかけて下さって。割と大事(おおごと)になってしまったなと(笑)。まさか自分達の事を書いた本を出すとは思わなかったですね。なかなかリアルにイメージをしていなかったです。

――音楽ディレクターさんとのやりとりやメンバーとの葛藤がリアルに書かれていますが、吉岡(聖恵)さんや山下(穂尊)さんは『いきものがたり』を読まれたのでしょうか?

 読んでいますね。

――お二人から感想は頂きましたか?

 彼らが知っている事の方が大きいので、僕が知らないような経験もしているでしょうし、この本にも書きましたけど、自分が経験してきた事と彼らが見てきた事や考えてきた事は微妙に違っていると思うので、いろいろ思うところもあると思います。

――水野さん視点という事で、吉岡さんと山下さんがどういう視点で見ているかというのはまた別物と。

 また別の事ですね。なので、複雑に思っている事もあると思うんですけど。

――「ああ、そう見ていたんだ」という部分もあるでしょうね。

 それはあるかもしれないですね(笑)。

自身を客観的に見ようとする癖はついている

「グループの中の一部としての自分をすごく意識している」と語る水野良樹

「グループの中の一部としての自分をすごく意識している」と語る水野良樹

――書籍の中で一人称を「自分」や「水野」と使い分けていますがその意図は?

 そんなには気にしていなかったんですけど、自身を客観的に見ようとする癖はついていますね。僕は、いきものがかりというグループでしか曲を書いた事がないので、曲を書くにしても作品を世に出すにしても、グループとして出すんです。

 それなので、自分が自己表現をしているという事とは少しずれていて、一歩引いて見ているというか、グループの中の一部としての自分をすごく意識しているので、だからこそ何か物を書く時に「水野は…」みたいに、ちょっと引いた感じになっていると思うんです。

――強く意識して客観視している事もあったのではないかと思いました。癖なんですね?

 さすがに長くやっているとそういう風になってしまうところもあって。いわゆるエゴサーチで「いきものがかり」がネットでどのように言われているかを他の人よりもはっきり見るタイプだと思うんです。それもたぶん客観視しているから出来る事で、グループだとどこか“自分の事であり自分の事ではない”みたいな部分があるんです。

 なかには、本当に傷付く言葉もあったりするので、それに耐えられるのも“半分自分じゃない”という意識があるからだと思います。自分一人だけでテレビに出て話をした後の反応を見る時のダメージが全然違うんですよね。僕はそのグループの中の自分というのを客観的に見ているんだなと思う瞬間は凄くあります。

――そうした心にダメージを受けるような意見や批判は引きずったりしませんか?

 個人としては確かに引きずるところが無い訳でもないですね。やっぱり人間なので“ヘコむなぁ~”という事もありますけど、グループとして一つひとつの意見をつぶさに見ているというよりかは、何となくそこに流れている空気を読むというか。“自分達は今、どんな風なバンドの中で音楽をやっているだろう”という、風を読むというイメージが強いでしょうか。

 もともと路上ライブのグループだったので、そこではその場の空気を読まないとお客さんを集める事が出来ないので。それは、どんな駅のどんな環境の中で路上ライブをやっているのか、立ち止まっているお客さんが女子高生なのか、サラリーマンなのか、という要素も含めて、その場の空気でやるべき事は全く変わってくるので。

 そういう事を意識するのが癖になっているんです。だから今、当時路上ライブをやっていた頃よりも多くの人に届く所でやっていても考え方は同じというか、その場の空気をなんとか読もうとすると言いますか。だからネットの反応も見ますし、良い事も悪い事も皆さんの声を聞いて、その場の空気を読みたいという気持ちは強いです。

――正に「路上とライブハウスの違い」という事も本には書かれていて、そこは気になったところでした。その空気感みたいなものを察知するには、アンテナを常に張っている感じでしょうか。

 それはもう癖になっちゃっていますね(笑)。違うグループからスタートして、途中でこのいきものがかりになっていたとしたら、そうじゃなかったかもしれないですけど。音楽の道を志す年頃の時にはもうこのグループだったし、始まった場所が路上ライブだったので、そういう考えが癖になっています。それ以外のやり方を知らないと言ってもいいくらいです。

――書籍には“対バンというシステムすら知らず、いきなり「ワンマンライブをしたい」と言い放った若造に困惑したライブハウスの店長”という記述もありましたが、その当時はあまりライブハウスに観に行くという事もなかった?

 見に行くという事もほとんどなかったし、高校の文化祭などでライブハウスに出入りした経験はあるくらいで、ブッキングでイベントに出たりとか自分達でイベントをやるという事などは経験していなかったから、本当にライブハウスの文化を何も知らなかったんです。でも、むやみに自信だけは持っているという、若者にありがちなものはありまして(笑)。

――自信がないとやっていけないという部分もありますよね?

 そうですね。半分、勘違いみたいなものが上手く転がったというのがありましたね。路上ライブである程度お客さんを集める事が出来ていたので、そのお客さんをライブハウスに呼び込んで、あとは学生だったから友達も呼び込んで…。もう恥も外聞もなくという感じでした。「とにかく集まればいいや」みたいな感じの勢いでやったのが、たまたま上手くいったのかなとは思います。

――そういった流れを経て今があると思うと10年という歳月は凄いなと思います。メジャーデビューをしてからも福岡でのライブで人が入らなかったというのもあり、それが悔しくてバネになったと書かれていましたが、今でも福岡に行くとその時の事を思い出すんですよね?

 本当にあの時は売れたチケットの枚数が10数枚とかだったので…。それを考えるとホールやアリーナで出来ている事に対して、単純に感謝の気持ちがあります。イベンターのスタッフさんが当時と同じだったりして、その頃から僕らを担当してくれた方々が現地にいたりするので、どうしてもそのストーリーを共有していると言うか、大きな舞台に立ってもやっぱり思い出しますね。

自分達の予期しないようなヒットがある

「もうずっとスランプで、全然書けないんです」と水野良樹

「もうずっとスランプで、全然書けないんです」と水野良樹

――10年以上前のお話も細かく書かれているので凄いなと思いました。

 山下にも「よくお前覚えているな」と言われていましたね(笑)。「あれ、これどうだったっけな?」という事がほとんど無くて。話の順番は多少変えましたけど、基本的には全部覚えていた事ですね。書いてみたら450ページにもなっていて「書き過ぎだな」と思いましたけど(笑)。

――書籍の内容は大ボリュームですが、読んでみて長さは感じなかったです。個人的には作曲に関しての葛藤などの描写が、ご本人の事なので当たり前かもしれませんが、リアルでした。例えば、ヒット曲「ありがとう」も自分の中で“確信が持てなかった”というのもあり、これには衝撃でした。

 あの時は全然上手く行かなくて、自分の中で何か引っかからないというか。“スルッ”と手から抜け落ちちゃうようなメロディばかりで、手応えが無いというか…、そういう時期で。だから「ありがとう」という曲を出した時は本当に不安で「これで駄目になっちゃうかな、ここから下り坂かな」みたいな事を本当に思っていたので。分からないものですね。それが…、僕たちの短いキャリアのなかで「ありがとう」は一番、皆さんに聴いてもらった曲になったんです。

 綺麗に言えば、“自分自身の分かっている範囲を超えた所に自分達の予期しないようなヒットがある”という風になっているのかなと。“自分が理解出来るところだけで曲を作っていても、遠くまでそんなに届かないもの”なのかなとか、凄く色んな事を教えてくれた曲ではありますね。

――実際スランプだったのでしょうか?

 いや、もうずっとスランプで(笑)。全然書けないんです。その中でも本当にキツイ時期ではありましたけど。凄く数を書いていた時だったので単純に疲れていたのかもしれないですけど。

――自分が良いと思えるキャパシティのものは、実際は狭いと思うんです。好きなメロディ感だったり、コード感しかり。確信に迫ろうとすると、どうしても昔に書いて、気に入っている曲と似てきたりすることも。そういった事はいかがですか?

 そうですね。なかなか自分から逃れるというのが難しいので、やっぱり自分一人で出来る事って凄く狭い事ですし、その中で、おっしゃる通り、昔作ったメロディに似てきたり、パターン化されてきたりとか。それだけではなくて気力の問題とかも。だから、そんなに簡単に投げられるものでもないというのもあるんです。

 でも、そういう事をグダグダ言っていてもしょうがないというか。まあ、グダグダ言うタイプではあるんですけど…。でも、何とかやっていくなかで、その時々で出来ていくものを出しているというのが僕らなのかなとも思います。

――「ありがとう」を初めて聴かせた時のお2人の反応は?

 後から聞いた話ですけど、山下は「本当にこの曲で大丈夫かね?」と思っていたらしいです。3人が「この曲、凄くいいね!」という感じでは全くなかったんです。むしろ自信がないという感覚を持っている曲だったと思うので。

 曲によってあるんですけど「これはいいね」という感じの空気が何となく3人のなかでもある曲だったり、レコーディングを進めていってだんだん「いいね!いいね!」と皆で言い合うタイプの曲もあれば、レコーディングは淡々と進んでいって、いつの間にか終わっていて「大丈夫かね?」というのもあります。

 「ありがとう」は正にそうでしたね。本間昭光さんには凄く失礼なんですけど、本間さんに素敵なアレンジをして頂いてレコーディングも上手くいって、本間さんは「大丈夫、大丈夫」とずっと言っていたんですけど、僕らは不安のままで。結果、本間さんの判断が正しかったんですけど(笑)。

――メンバーとの価値観についても書かれていました。特に山下さんとは価値観が一緒と。それは音楽以外の事でも一緒なのでしょうか?

 いや、音楽以外は全然違いますね。同じ所が少なくて真逆と言ってもいいくらいです。性格もバラバラだし、音楽以外の事は多分好きなものも趣味も全然違います。だから、不思議なんですよね…。こと音楽に関しては良いなと感じる曲が似通っていたりとか。3人ともそうですね、吉岡も含めて性格も趣味、嗜好もバラバラなんだけど、音楽に関する事についてはすごく近い所にいるというか。

――メンバー2人の事を書く時は「これは書いていいのかな?」と迷うところはありましたか?

 はい、ありました。例えば、吉岡が初代のディレクターに鍛えられていたところなんかは、吉岡自身はそんなに言いたくない事でしょうし。その時の頑張りや悔しさを、僕が正確に理解できているかと言えばそうではないとも思うので、「分かったようには書けないな」と思いながら書いていました。それはいろんな場面であるのかなと思います。

――書き進めていくなかで気を付けた部分はありましたか?

 本当に誰かの悪口になってしまうような事はやめようという風には思っていました。それくらいかなあ…。あとは分かった気になって書く事はやめようと。例えば、吉岡や山下の気持ちを分かった気になって書くのは気を付けないといけないと思いました。同じ体験を3人でしてきても、やっぱり違う事を各々思っているはずだし、僕が見てない事を2人が見ている可能性もあるので、そこだけは気を付けようと思っていました。

――このような自伝を書く時と作詞をする時ではやはりモードは違いますよね?

 全然違いますね。これはある事を書いているだけなので。文量としては大変でしたけど。歌詞はメロディがあって、それに合わせなければいけないというのもあるから、全然モードが違いますね。でも、自分の頭の中の違う部分を使っている感じで、そういう意味では楽しかったです。

――これだけの量を書くという事に挫折しそうになりませんでしたか?

 大丈夫でした。Twitterはもっと早く終わりそうだったんですけど、やっぱり量が多くて。3月15日がデビュー日で、ベストアルバム『超いきものばかり~てんねん記念メンバーズBESTセレクション~』もその日に出るので、3月15日で終わりに出来ればいいかなと思っていたら、全然終わらなくて(笑)。結局5月になってしまったんです。でも書くのは苦ではないです。

一番間違われる単語「いきものがたり」

「夢がもう自分達だけのものではない」と話す水野良樹

「夢がもう自分達だけのものではない」と話す水野良樹

――タイトルが『いきものがたり』ですが、他にも「いきものばかり」「いきものがっかり」などいろいろとグループ名をもじった言葉がありますが、このようなアイディアは常に考えているのでしょうか?

 そんなに考えていないですね(笑)。「いきものがたり」というグループ名と間違われる事が多いんです。デビュー当時からそうで、一番間違われる単語がこれなんです。だから「いきものがたり」で検索すると結構ヒットするんですよ。この本の事ではなく(笑)。「『いきものがたり』の新曲良かった」みたいなつぶやきが凄く多かったりして。だから、そういう意味では昔からあった言葉ですよね。

――けっこう間違えられるものなんですね?

 本当にいっぱいありますよ。「いきものがり」というのもありましたしね。「いきもの狩り」じゃ全然意味が違いますよね(笑)。「いきものががり」もありましたし、色んな間違えありました。その中で一番多いのが「いきものがたり」なんです。

――グループ名をちょっとでも間違えられると“イラッ”とする方も中にはいると思うのですが、水野さんはいかがですか。

 いやいや全然。僕らだって間違えますもの(笑)。インタビューで「いきものがたり」って言っちゃった事もありましたし。僕は“イラッ”としないので大丈夫です。

――本の中で「怒」の感情が見られる部分もありますが、普段の生活の中では怒りの感情はありますか? 僕が持つ水野さんのイメージにはないのですが…。

 僕、すごく短気でして。

――短気なんですか?

 グループ内では一番かも…いや、吉岡も出るかな。兄妹喧嘩みたいな事を一番するのが吉岡と僕なので、本当にくだらない事で言い合いになって、山下がそれをなだめるというスタイルがありますね。

――山下さんが仲介役なんですね。

 山下が一番、大らかというか。

――水野さんが短気というイメージが湧かないですね。

 まあ、そんなに怒りの表現はしないですけどね(笑)。

――ちなみに今まで作ってきた楽曲は「喜怒哀楽」、どの感情が多いと思いますか。

 喜怒哀楽で言うと「哀」の悲しいというところが強いと思うんですが…。歌になる所がそういう場面が多いからですかね。確かに「怒」は少ないですね。「ラブとピース!」は「怒」に近いような気もするけど、どうですかね? そんな視点で曲を見た事はなかったですね。曲にストレートに自分の感情を乗せるというタイプではないと思うので、やっぱりちょっと引いて見ているというか。

――10年やってきた事を書いてみて、改めて気付いた事はありましたか?

 やはり、改めて思ったのは、3人だけで進んできたのではないという事です。本には、本当にたくさんの人が登場するんですけど、「このタイミングでこの人に出会っていなければどうなっていたんだろう」という方が大勢いるんです。人生を背負い合っているのは3人なんですけど、新曲の「ぼくらのゆめ」と重なりますが、“自分達がこうなりたい”と思っていた夢がもう自分達だけのものではないというか。

 「いきものがかりがこんな風になってほしい」と思ってくれた人の力によって出来た事もたくさんあるし、それは聴いて下さる皆さんだけじゃなくて、スタッフチームもそうだし、ミュージシャンの方もそうだし、本当に色んな人の力が上手く自分達の所に集まってきてくれたお陰で進んでいるんだなという事を改めて、書いていて思いました。

運や出会いを掴む事にも一生懸命だった

――この10年の活動で重要な事を3つ挙げるとしたら?

 一つは吉岡を入れた事です。自分とは違う人間に歌を歌ってもらうという事を始めたのが、このグループを広げたきっかけだと思います。自分の事を自分で表現していたら、曲が凄く狭くなる瞬間もあると思うんです。結果的にそういうグループではなかったから、自分の事を違う人間に歌ってもらう事によって、遠くへ届いていくというタイプのグループになれたという事は凄く大きかった。なので、やはり吉岡が加入してくれたという最初の原点が凄く大きかったですね。

 次を挙げると、ライブハウスに初めて踏み込んで300人集めたというワンマンライブの時です。結成してから17年くらい経っていて、いろんな挑戦がその都度あったんですけど、一番無謀だったのがこの挑戦だったと思います。何も兆しが無いなかで、いきなりワンマンライブを立ち上げて300人を何とか3人で集めてライブをやったというのは、本当に大きな挑戦だったと思うんです。あれを成功させたというのが、自分達の人生を変えたんだと思うんです。たまたまそのライブを観に来てくれていた人が初代マネージャーだったりするので、やはりこのライブは大きな契機になっていたんです。

 もう一つは何だろうな…。凄くラッキーだったのはWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の決勝、準決勝で自分達の歌、「SAKURA」が使われているCMが流れたという事で、これはもう運でしかないので、あれが無かったら、また人生変わっていたと思います。もう神のみぞ知る領域でしたね。

――運や出会い、縁などの要素は重要ですよね。

 もう、それはほぼ全てですね。

――では“才能”の要素はどうですか?

 才能は、それがないと絶対無理ですね。他の人が誰も敵わないような才能を持っている訳ではなくて、大体皆それくらい持っているだろうという才能を3人とも持っていると思うんです。だけど、それを最大限に活かす出会いとか、運に巡り会えたという事が僕らの幸運であったところであり、強さだったと思うんです。

 唯一自負をしているのは「運を掴む事」に対しては一生懸命だったという事です。出会いを掴む事にも一生懸命だったと思うんです。そうでなければ出会えない事があったんだろうなと思っています。

――書籍にも書いてありましたが、何かを捨てて、削ぎ落として掴んだものですからね。

 10個欲しいものがあったとして、10個全てを手に入れるという事は出来ないので、だいたい10個のうち1個が手に入ってトントンくらいの感じですから。その10個の中から「何を選ぶか」というのを決めなくてはいけないんですよね。

 それは色んな場面であって、3人でそれぞれ切り落として来たというか、しょうがないなと思って前に進んできた部分がたくさんあって、それは3人で背負ったものもあれば、その1人で背負ってきたものも多分あるだろうし。その中で、いきものがかりにとって「これだけは譲れないね、守らなきゃね」というのを何とか皆で選んできたという感じだと思います。

――10個のうち1個ですか…。

 でも、普通は1個も獲れないですからね。10個のうち1つも獲れなくてやめていってしまうという仲間達をたくさん見ていますし。17年やっていると本当に色んな人達と出会ってきて、インディーズの頃なんかに対バンしていたグループなんてもうほとんど、いませんから…。自分達よりもよっぽど努力しているように見えて、よっぽど才能があるように見える人がどんどん目の前で倒れていくのを見てきたので…。もうこれは“運”としか言いようがないなとは思いますよね…。

自分達の今を象徴しているシングル

いきものがかりの水野良樹(Gt)

いきものがかりの水野良樹(Gt)

――8月24日にリリースされた両A面シングル「ラストシーン/ぼくらのゆめ」には、メジャーデビューしてから10年の活動の思いが込められているのでしょうか。

 そうですね。凄く今を象徴しているシングルになっていると思っていまして、自分達の事をなるべく歌わないようにしてきたグループが「ぼくらのゆめ」という、正に自分達自身を歌う曲なので、今までと違う事をやっているんです。

 そういう曲が1曲入っていて、もう1曲の「ラストシーン」は、これまでのいきものがかりというか、自分達の事ではなくて“別れ”がテーマになっていますけど、“別れの先を生きなければいけない”という人達に何とか寄り添えるような曲を、という思いを込めた曲です。

 「自分達と離れたところにあるテーマを歌う」という今までのいきものがかりがやってきた事の流れになる曲と、それぞれ2曲並んでいるというのが今の転換点に居るかもしれないし、これから10年経ってこの先の10年どうやっていこうか、と考えている時の自分達の今を象徴しているシングルだと思います。

――ミュージックビデオ(MV)では吉岡さんが演技をされていますが、相手は彼氏という設定なのでしょうか?

 そうです。一緒に暮らしていた人と離れ離れになってしまったというか、端的に言えば死んでしまったというか、そういうイメージです。

――死別という捉え方もあるんですね。MVの撮影には立ち会いましたか?

 ちょっとだけ立ち会いました。あんまり僕が居ると、演技という普段やらない事をしているので恥ずかしいでしょうし(笑)。

――「ラストシーン」のような切ない楽曲を書く時は、環境的なシチュエーションなどにこだわりますか?

 作っている時の環境はいつも変わらないですね。ただ、今回は映画『四月は君の嘘』の主題歌でもあったので、原作のイメージも凄くヒントになりました。こういうタイプの曲でなくても、曲を作るという時は映像を思い浮かべるというか、それこそMVを思い浮かべる瞬間もあるし、一方では曲が流れている場面を想像する場合もあります。今回は『四月は君の嘘』という作品の世界観によるヒントを受けながら、更に、大切な人を失ったり、別れてしまわなければならなかったり、そういう人の場面を何となくイメージしながら書いていきました。

――環境は変わらないんですね。例えば悲しい曲を書く時は部屋を暗くしたりとか。

 そういう事はあまりないですね。

――以前、テレビに出演された時に、曲を書く時はギターでコードを探りながら様々なメロディーパターンを試していくという事を話しておられましたが、バラードを書く時もその手法で?

 そうですね。最近はその頃から変わってきて鍵盤で作る事があります。ただ、歌いながら書くというスタイルは変わっていません。色んな事を試しながら歌い続けて書くという事は、伴奏がギターであれ、鍵盤であれ、変わらないんです。

――この10年間でご自身の楽曲に対する判断基準も変わらずでしょうか。

 判断基準は分からないですね。その時によって変化しているかもしれないですけど。ただ、何となく自分の中で“良し”とするラインはあって、そのラインになると録音の「Recボタン」を押すんです。仮に「Recボタン」を押して録音して聴いても駄目という時は捨てちゃいます。そんなのばっかりです。

――その没テイクも聴いてみたいですね(笑)。

 いやいや、お聴かせ出来ませんよ(笑)。

――やっぱり後から聴いたら名曲だった事とかありませんでしたか?

 一応、後から聴いてみるんですけど、あまりそうはならないですね。やっぱりその時の判断はそんなに間違っていなくて。残るネタは「ネタ」として残りますけど、その時駄目だなと思ったものはやはり後から聴いても駄目ですね。

――それでは最後にこの書籍を手に取る方々にメッセージをお願いします。

 僕らは自分達の事をそんなに喋ってこなかったグループなので、この本を読んで頂くと「そんなストーリーがあったんだな」とか、「この曲の時はこんな事を考えていたんだな」など、意外に思われる事もたくさんあると思います。その上で、例えばベストアルバムを聴いて頂くとか、「ぼくらのゆめ」は本の中にも歌詞が書いてあるので、今回のシングルを聴いて頂くとまた違った楽しみ方があって、「この3人はこんなストーリーを経てきたグループなんだ」という事を違った形で楽しんで頂けると思います。この本と、僕らはやっぱり音楽グループなので、僕らの曲たちを一緒に読んで聴いて頂けると、今までと違った楽しみ方が出来ると思うので是非一緒に!

――いきものがかりの“ガイドブック”という感覚でもいいかもしれないですね。

 あはは!でもこれに縛られて曲が狭くなってしまうのは本意ではないんですけど、“こういう楽しみ方もあるよ”という事で、脇に置いておくだけでも良くて。ここから、より僕らの曲や活動に興味を持って頂けたらいいなと思います。

――この「いきものがたり」に対して吉岡さんと山下さんのアンサー的な作品もあったら面白そうですね。

 本という形でなくても、2人が考えてきた事を表現してくれてもいいと思いますね。

(取材・村上順一/撮影・冨田味我)

書籍情報

水野良樹が上梓した自伝的ノンフィクション作品『いきものがたり』書影

水野良樹が上梓した自伝的ノンフィクション作品『いきものがたり』書影

いきものがたり
自伝的ノンフィクション作品

著=水野良樹
定価=本体1574円+税
発売日=8月25日
判型/頁=4-6/450頁
ISBN=9784093885058

「いきものがかり」の「いきものがたり」。「ありがとう」「風が吹いている」誰もが口ずさめる名曲ばかり。国民的グループ「いきものがかり」の有名曲の多くを作詞作曲している水野良樹が、自分たちの出会い、グループの結成、路上ライブ、メジャーデビュー後までのプロセスを、自ら甘酸っぱく書き下ろした。青春成長物語と呼ぶべき自伝的ノンフィクション。デビュー前の初公開秘蔵写真も多数収録。

作品情報

いきものがかり 32nd Single「ラストシーン/ぼくらのゆめ」ジャケット

いきものがかり 32nd Single「ラストシーン/ぼくらのゆめ」ジャケット

「ラストシーン/ぼくらのゆめ」
8月24日発売 32nd single(両A面)

4曲収録(ESCL-4659:1111円+税)
<初回仕様限定盤特典>いきものカード049封入
※初回仕様限定盤が無くなり次第、通常盤が出荷

1、「ラストシーン」
 作詞/作曲:水野良樹 編曲:島田昌典
 ※映画「四月は君の嘘」主題歌
2、「ぼくらのゆめ」
 作詞/作曲:水野良樹 編曲:亀田誠治
 ※「爽健美茶」2016年キャンペーンソング
3、「ラストシーン -instrumental-」
 作詞/作曲:水野良樹 編曲:島田昌典
4、「ぼくらのゆめ -instrumental-」
 作詞/作曲:水野良樹 編曲:亀田誠治