井上陽水が見せた唯一無二の世界観[1]

唯一無二の世界観で魅了した井上陽水

 歌手の井上陽水(67)が19日、東京・NHKホールで全国ツアー『コンサート2016「UNITED COVER2」』の東京公演をおこなった。陽水が「この年齢で新作は快挙と言っても良い」と冗談交じりに自画自賛するカバーアルバム『UNITED COVER2』(昨年7月発売)を引っさげてのツアーで、オリジナル曲とカバー曲を織り交ぜながら歌い届けられた。カバー曲では演奏前に、歌の解説やカバー元アーティストとのエピソードを語るなど、演奏のみならずユニークなMCでもファンを楽しませた。「氷の世界」や「夢の中へ」などヒット曲も披露し、最後は鳴り止まない拍手に応え、急遽「夏の終りのハーモニー」を演奏。全20曲を披露したコンサートは大盛況のうち、幕を閉じた。

徳を積む、善行がテーマ

3月16日に発売された「井上陽水 コンサート2015 UC2」DVD

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 昨晩から降り続いた雨も上がり、続々とNHKホールにファンが集まる。そして、定刻になると開演を告げるブザーがホールに鳴り響いた。そこから5分ほど経ったころゆっくりと暗転、サポートメンバーがステージに登場し、大きな拍手で迎えられた。そして、緊張感ある静寂がホールを包みこむと、幻想的なシンセサイザーの音がNHKホールに響き渡った。そのシンセサウンドに今堀恒雄(Gt)のオリエンタルなギターフレーズが彩りを添える。

 その幻想的なサウンドが流れる中、ゆっくりとした歩みで井上陽水がステージに登場した。客席からは割れんばかりの大きな拍手がホールに降り注いだ。オープニングナンバーは「ミス コンテスト」。オケの上を、ゆらゆらと泳ぐような独特のグルーヴで歌う陽水。そして、「カナリア」、「Make-up Shadow」とヒット曲を立て続けに披露し、観客を楽しませる。

 ここでMCを挟む。「桜が開花したとか、しないとか曖昧ですが、このコンサートもきっと曖昧なことかと思います」と陽水らしい切り口で会場の笑いを誘った。そして、長田進(Gt)のブルージーなギターに導かれるように78年発表の「映画に行こう」へ。スローブルースアレンジに陽水の“タメ”の効いたリズムと歌声が相まって、楽曲に心地よい抑揚をつけていく。

 MCで陽水は「最近は善行、徳を積むということ心掛けて生きています(笑)」と現在の自身のテーマを語った。そして、「45年前は座ってライブをしていた」として、1枚目のアルバムから「断絶」を椅子に座って披露。懐かしい楽曲に会場から歓声が上がった。陽水の軽快なギターがホールに響く。アコギの刻むサウンドの隙間から、時折顔を出す小島良喜(Key)の美麗なピアノのフレーズがアクセントとなり「断絶」の持つ世界観をさらにブラッシュアップさせる。

 曲が終わると「いや〜懐かしいです」とデビュー当時を思い出す陽水。続いて、最近大きな徳を積んだことを報告。娘と孫とカニを食べに島根県まで行き、そこで徳を積んだ話など、ユーモアあふれる話で会場をさらに盛り上げる。

 アルバム『UNITED COVER2』について「新しいアルバムを出すことは滅多にない。快挙と言っても良い」とおどける陽水。その快挙となるアルバムの中から松任谷由実の「リフレインが叫んでる」を披露した。完全に井上陽水ワールドとなっている楽曲に、カバーだということ忘れてしまいそうだ。続いて、吉田拓郎の「リンゴ」を披露する前に、吉田との関係も語った。

 「40年間、友達と呼んでいいのか、音楽仲間というか、ビジネスパートーナーとでもいうのか、付かず離れずやっている。こう見えて私は吉田拓郎を尊敬しているんです。フォークシンガーは沢山いるが、それを全国区にしたのは吉田拓郎。みんなその後に続いている」と吉田拓郎の功績を讃え、ボサノバチックなお洒落アレンジが心地よい「リンゴ」を歌い上げた。

 そして、NHK「ブラタモリ」に提供した楽曲「女神」と「瞬き」の2曲をフルコーラスで披露。「いつもは(テレビで)1番だけしか流れないから、全部(フルサイズ)やって良いの? という感じ。チラッと聴いて良いと思ったのなら、そのままにしたほうがいいかな」とチラリズムの魅力をユーモアを交えて語った。「女神」はゆったりとしたラテン系のグルーヴに“ハローハロー お元気?”という陽水らしいフレーズが耳に残る楽曲。「瞬き」は長田進がE-BOW(音を持続させる機会)を使用し、ギターながらもバイオリンのようなサウンドで、陽水のバラードの世界観をさらに押し上げていた。

 NHKホールということもあって、50年前のバラエティー番組『夢で会いましょう』のテーマソングで、坂本スミ子が歌う「夢で会いましょう」を歌い上げる陽水。この番組を当時、楽しみにしていたと思い出も語った。このMC中には坂本九さんの「上を向いて歩こう」や「こんにちは赤ちゃん」など当時流れていた楽曲も贅沢にもアカペラで“さわり”だけ披露する場面もあった。「夢で会いましょう」では今堀のガットギターが美しく鳴り響き、そこに吐息までも聴こえてきそうな陽水の優しい歌声が乗る。時間がゆっくりと流れているかのようにゆったりとした空間がホールに広がった。その懐かしい楽曲にファンも耳を傾けていた。この曲を持って第1部を終了し「また15分後に会いましょう」と告げステージを後にした。

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