音の違いを理解できれば楽しみは増える

角松敏生

角松敏生

――音源を聴いた時に、とても35年前に作られたとは思えない良い音質といいますか、マスタリングはされていますが、音の奥深さを感じることが出来ました。

 この時代になってくると、オーディオマニアがいろいろと言うんですけど、今はいろんな聴かれ方をされてしまっていますよね。デジタルだったら形式が「wav」とか「mp3」とか、最近ではハイレゾが出てきている。正直言って「何が違うんですか?」と言う人もいる訳じゃないですか。しっかり向かい合って聴けば、「ああ、違うな」ということがわかるんですけど、パッと聴きでは…。もちろんわかるものもあるんですけどね。スタジオで最初に生まれ落ちた音というのはいろんな事に腐心して作っている訳ですから、それをそのまま聴いてもらいたいと思いますけども、結局デジタルでCDに落とすとなるとダウンコンバート(編注=音質が下がること)する事になるので、音は悪くなるんですよね。また、スマホでしか聴かない人もいるし、ちゃんとしたスピーカーで聴く人もいるし、聴く装置によって聴こえ方も全然違うので、それらで聴いている人はそれがスタンダードだと思っているから、「これが良い音なんだから、そんな音で聴いているんじゃないよ」という時代ではないんだよね。

 ただやっぱり、“リファレンスとなる良い音”というのがどういうものであるかという事、“音に違いがある”という事がわかると、それがまた「楽しみの一つ」となるんじゃないかな、っていう意味でのプレゼンテーションが今回の作品にはあります。レーザーターンテーブルから起こしたものと、最新作。「最新作の音が良い」とさっき仰られたのは、何でそう思われたのかはわからないんですけど、いろんな理由はあると思いますね。マスターはデジタルではなく、アナログのマルチテープに録ったものをマスタリングしているとか。そういう事が、お耳には「良い音」として聴こえたのかもしれないし。僕らは良い音にしようと思って一生懸命作っているので、「良い音です」って言われると嬉しいですよ。

 現行で売られている『SEA BREEZE』のCDがあって、それにレーザーターンテーブルでアーカイブしたもの、今作のDISC 2ですね。そして、今回作り直したリメイク盤。これら3つとも音が違うんです。だからわかりやすく言うと、現行のCDがどれだけ音が悪いかという話になっちゃうんですけど。でも良い悪いは別にしても「音が違う」というのは、そんなに音に詳しくない人でもわかるように作ってあるのが、今作の面白さかなと思いますね。

音と向き合う時間を作ってほしい

――レコードからカセット、CDやMD、そして、今では配信されたものを携帯電話で聴くというように、リスナーの聴く環境が変わってきている中で、最良の録音環境やバックミュージシャンのもとで録った当時の音源を、更に手を加えられて、音にこだわりぬいた今回の作品は、今の時代への問題定義として大きな意味を持つと感じました。

 もう、わかる人にはわかっている話なんですよ。音楽を聴き込んでいる人にとっては。でもそうじゃない人もたくさんいるので、じゃあそういう人達にわかりやすく音の違いみたいなものを理解してもらえたらいいなと思います。最近、ブルースペックCDとか“CDのイイ音版”というのがあるんですね。ブルースペックCDと普通のCDの違いって、あんまりわからないんですよ。音楽を仕事としている人達にはわかりますけど、一般のリスナーはわかるかなという感じ。よっぽど良いアンプやスピーカーで聴き比べたりすればわかるかもしれないけど、一般的にはそれほどわからない程度なんですよ。そういう事だったら面白くないじゃないですか。

 もっとわかりやすくする事が重要だなって思ったので、今回こういう試みもしましたけどね。ライナーノーツにもいろいろ書いてある事によって、聴く人が「ああそうなんだ!」と。パッケージを楽しむという事なんですよね。それを楽しむために、音の良さの違いであったりとか、長い文章のライナーノーツだったりとか、そういうのが全て今回、僕が表現したい事なんです。音を聴きながら作品と向かい合う時間をつくってほしいなと思います。アナログレコードの時はみんなそういう聴き方をしていたものですからね、80年代とかは。好きなアーティストの新しいレコード買ってきて、家でレコードに針を落として聴いて、レコードからテープに落として、ウォークマンか何かで聴いたりと。でもこれって大変な作業じゃないですか?

――そうですね。今の時代からすれば手間がかかる作業ですね。

 今みたいにダウンロードファイルでパパッと出来る訳じゃないですからね。全部をまず聴いてから、カセットテープに録ってという、そういう一生懸命な所作があったから音楽に対して一生懸命だったんですよね。そうやって聴いてもらっていたものが、時代と共にスタイルが変わってきましたよね。でも、僕ら音楽で飯を食っている連中は、それでもパッケージを出していかなくちゃいけないというのがあるので、今の時代のパッケージの楽しみ方というのをね、考えてはいます。パッケージを買う人というのはそれが好きで買っているのだと思います。そうじゃない人はみんなダウンロードして音楽を楽しんでいると思いますし。

 最近の若いアーティストのCDを見ていると思う事があって。まずアナログレコードって、溝が細くなってくると音が悪くなるんですよ。溝の幅が広い方が音は良いし音圧もあるんですよ。だから片面に入れる収録曲は少ない方がいいんです。だからレコードの片面は、1曲が3分くらいの曲だったら5曲くらい入るのかもしれないけど、僕の曲は5分以上の曲が多かったので、片面4曲とかなんですよ。だから8曲入りのアルバムなんです。これ、今の世の中で「8曲入りのCD」と言ったら「ミニアルバム」と名乗らなければいけないのかなと言う感じになるんですね。

――確かに言われてみればそうですね。今は、15曲は当たり前ですからね。

 CDの時代になるとそういう制約がなくなるので、最近の若いアーティストのCDは16曲とか普通に入っている訳。そういう時代が来て、結局若いアーティストをプロデュースした時に「自分の好きなCD持ってきて」と言うと、何枚か持ってきて、「このCDの何曲目と何曲目が好き、こっちは何曲目」と言われるんですよ。「そのCD一枚が好きな訳ではないの?」ってね。だから、そういう聴き方になっているんですよね。「一枚のアルバムを名盤として聴く」という感覚は正直今はないですよね。

――アーティスト自身もそのような感覚をもっておられる?

 まあ世代の違うアーティストですけどね。その子に「君はどんな音楽が好きなの?」と聞いたらそういう風に言ってきたんだよね。それなら一般の方も言わずもがなだろうと思いますし、取捨選択でこの中から好きなものを選んで下さいという世の中じゃないですか。「だから16曲とか要るんでしょうね」と思う訳ですよ。

 僕なんかが昔ながらにちゃんと聴こうとするとだんだん疲れてきますよね。16曲聴き終わって「ふぅ」と思っているともう1曲目忘れてるんですよ。ちなみに、心理学的にポップスなど大衆音楽を連続して聴くのに適した時間って、45分〜50分と言われているんですよ。それくらいだと集中して聴けると。そういう意味では、僕らの時代は「一枚のアルバム」という言い方をしていました。“起承転結のある本”を書いているような気持ちでアルバム制作をやっていましたよね。わかりやすく言えば。今のCDは「このアーティストはこんな事をやっています」という“情報のファイル”なんですよね。

――それは目からうろこですね。

 だから一応、曲の並びとかも考えて作っているのだろうけど、あんまり関係ないですよね。「こんな曲をやっていますけど、この中から好きなのを選んで下さい」という事ですから。僕らが作っていた時代というのは、「この曲順」じゃなければダメだし、こうやって聴いてもらわないと困る、という気持ちで作っていましたよね。「飛ばして聴かれては困るんです!」みたいな(笑)。そもそもレコードの時代は曲を飛ばすという事自体がなかなか難しかったですからね。

――今回の2016年バージョンでは「Wave」と「Still I’m In Love With You」の波音SEが消されていたりなど、アルバムの流れを変えてみたりというのもなさっているようでしたが。

 僕自身がイニシアチブを持っていなかったというか、このアルバムを精査したのは初めてなんです。だいたいどんな音が入っていたかというのは知っていますけど、どのトラックにどう分けて入っていて、「ああ、こうなっていたのか」というのが面白かったですね。自分でミキサーを立ち上げて、バランスをもう一回取り直して。それが今作での重要なポイントになる訳ですよね。


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