水木一郎

水木一郎

 1965年に放送が開始された、日本漫画界の巨匠、手塚治虫原作のアニメ『ジャングル大帝』。日本の代表的な音楽レーベルの一つ、日本コロムビアは、この作品よりアニメの主題歌、挿入歌の制作を開始し、今年で50周年を迎えた。これを記念して、9月27日に東京・Zepp Tokyoでイベント『日本コロムビア アニメソング50th THE LEGENDS』を開催。アニソン界に名だたる大御所シンガーが勢ぞろい、日本アニメ界の金字塔ともいうべき名作の主題歌、挿入歌を存分に披露するという、ファンにはたまらないステージが披露された。

 アニメはかつて「子供のためのもの」とばかりに、限られた範囲での評価しか受けられていなかった存在だったが、今や日本を代表するカルチャーの一つとして、世界的にも大きな関心を集めていることはいうまでもない。この日登場したシンガーたちの披露した曲は、70~80年代に放映された作品のものが中心であるが、とりわけこの時期の作品の主題歌は現在に至るまで長く親しまれているものが多く、かつ現在でも活発に活動しているアニソンシンガーを多く輩出している。今回はこの日のステージの模様から、これらの作品が長きにわたって愛されてきた意味を、楽曲やシンガーのパフォーマンスより探ってみたい。  【取材・桂 伸也】

 会場のフロアを埋めたのは、やはり70~80年代にアニメとともに青春を過ごした、高い年齢層のファンが多いように見受けられた。幼年期に楽しんだアニメのオープニングやエンディングで、あこがれながら聴いていたアニメソング。実際にその歌を歌ったシンガーが一堂に会して見られるというイベント、そんな夢のひと時に、期待に胸を膨らませて集まった人々が、スタート前から会場をにぎわせていた。そして、いよいよスタートの時間。この日の司会は、数々の歴史的なアニメ作品で、重要な役どころを担当してきたベテラン声優、古川登志夫。彼の「さあ、今日は最初からクライマックスだぞ!」という叫び声で、会場には大きな歓声が上がり、いよいよステージはスタートした。

万人に伝わる熱い思いを込めた歌

堀江美都子

堀江美都子

 オープニングより登場したのは、水木一郎。自身の代表曲ともいえる「マジンガーZ」で、ステージをスタートさせた。彼のキメ文句ともいえる「ゼーット!」を叫べば、フロアは大興奮でその声に応じ、さらに大きな歓声を上げた。水木の特徴は、何といっても全身全霊で表現する魂の歌。「キャプテンハーロック」「バビル2世」でスケール感も豊かに、かつ熱い気持ちを表現していた。一方で「ルパン三世愛のテーマ」では、しっとりとした曲調の中で、これもまた高鳴るような熱い気持ちをしっかり歌い上げた。この日のファンが彼の歌に大歓声などの強烈な反応を見せたことは、彼の歌からするとごく自然なことであるようにも見えた。

 そんな水木とは対照的な歌を披露したのはささきいさお。甘いマスクと声で、多くの人々を魅了してきたささきは、この日は「ゲッターロボ」「宇宙戦艦ヤマト」といった名作の主題歌を披露。大人の魅力を感じさせるセクシーさと、そのたぎるような思いを表現したニュアンスを、満面の笑みで披露したささきにも、観衆は惜しみない歓声と手拍子を送った。ささきのボーカルは力強さと情感にあふれ、子供の時分で耳にしても強く印象付けられるように見えた。さらに印象的なアニメ「銀河鉄道999」の主題歌「銀河鉄道999」と、そのエンディングテーマ「青い地球」で観衆を魅了、アニソン界のレジェンドとしての存在感をしっかりとアピールした。

 女性アニソンシンガー、さらに声優としての活躍も目覚ましい堀江美都子は、アニメ「キャンディ・キャンディ」の主題歌「キャンディ キャンディ」と、エンディングテーマ「あしたがすき」、さらに世界名作劇場の一作で歌われた「グローイング・アップ」を披露。いずれも大人への階段を上る少女の物語を彩ったアニメソングだ。少女のイメージにマッチした可憐でキュートな声は、堀江ならではの歌。さらに合わせて人々を勇気づけるような力強さを持っていることも彼女の歌の魅力だ。その強さを表す「ボルテスVのうた」では、水木、ささきに負けない高揚感で、観衆をエキサイトさせた。

大人へと成長していく子供の目線に追従したアニソン

影山ヒロノブ

影山ヒロノブ

 ステージに駆け足で登場、時に左へ、右へと一時も観衆をじっとさせないパフォーマンスを繰り広げたのは影山ヒロノブ。この日披露した「聖闘士神話~ソルジャー・ドリーム~」「スターダストボーイズ」を始めとして、彼の歌はアニメを愛する子供たちに目線がに近く、見るものの距離をドンドン縮めてくれる。さらに彼の歌の代表作でもあり、世界中のアニメファンの胸を熱くした「CHA-LA HEAD-CHA-LA」では、もうそのイントロが流れただけで会場は猛烈な熱気に包まれた。サビでは「CHA-LA!HEAD-CHA-LA!」と、影山と合わせて叫ばないものは一人もいなかったほどだ。

 影山同様、串田アキラもまた、ステージでのパフォーマンスに定評のあるアーティストだ。荒々しくも勇ましく、カッコいいと思わせるそのボイスで、強い大人へのあこがれを奮い立たせてきた串田は、この日「ガツガツ!」「キン肉マンGo Fight!」を披露。そのコブシの利いた歌声には、思わず振り上げる拳に力が入った観衆も少なくなかったようだ。「カッコいい男に」そんなメッセージすら聞こえてきそうな彼の歌声には、力強く歓声を上げながらも、しっかりと耳を傾け、その真意を味わう様子を見せる観衆が多く見られた。

 その串田とは対照的に、前川陽子は「女の子らしさ」を目いっぱいに表現。この日披露したアニメ「魔女っ子メグちゃん」の主題歌、そして「キューティーハニー」の主題歌と、そのエンディングテーマである「夜霧のハニー」と、輪郭がはっきりしていながら、何かドキッとするような色っぽさを持つ前川の歌声は、まさにこの2作品のアニソンのイメージにぴったり。この日も歌の中で変わらぬその色気を存分に発揮し、観衆のハートを虜(とりこ)にしていた。

「まさに伝説」会場が歌に包まれた瞬間

大杉久美子

大杉久美子

 少年、少女を対象とした世界の名作をアニメ化し、多くのファンを獲得した「世界名作劇場」。その数々の作品群でも多くの主題歌、挿入歌を手掛けた大杉久美子は、そのメドレーと「ドラえもん」を披露。さらに「ハクション大魔王のうた」「みなしごハッチ」と、ブルージーなフレーバーの歌声が特徴であるしまざき由理も、当時と変わらぬ印象的な歌声で観衆を楽しませていた。それぞれの明確な個性を示しながら、子供になじみやすいそのメロディ、歌いまわしで、観衆を懐かしい思い出に浸らせていた。

 さらに当時、社会現象ともなった大ヒット劇場版アニメ「銀河鉄道999」の主題歌を担当したバンド、ゴダイゴのボーカリストであるタケカワユキヒデも、映画の主題歌「THE GALAXY EXPRESS 999」と、同作品の挿入歌「テイキング・オフ!」を披露。映画さながらの世界観を描いたその歌で観衆を熱狂させていた。さらに日本コロムビアのまさに「レジェンド」となる、アニソン第一作となったアニメ「ジャングル大帝」にて挿入歌「レオのうた」を歌った弘田三枝子も特別ゲストとして登場、その伝説的な歌で観衆を魅了した。

 盛大なアンコールに応え、この日登場したすべてのシンガーは再びステージに登場した。そして最後に披露されたのは、水木一郎が手掛けたアニメ「海のトリトン」の主題歌「Go!Go!トリトン」、そして「科学忍者隊ガッチャマン」の主題歌「ガッチャマンの歌」。作品の放映当時は、子供向けの作品くらいにしか思われなかったであろうこの歌は、この日全編にわたって、ステージに立つシンガーたちだけでなく、フロアの観衆全員のコーラスにより歌われた。その様はまるで、年末の恒例行事のごとく歌われるベートーベンの「交響曲第九番」を思わせる壮観さを醸し出していた。そしてエンディング。出演者の思いを込めたあいさつに続き、水木の「愛してるゼーット!」の叫び声で、イベントは幕を閉じた。

 楽曲、歌、歌い方など、細かく見れば「優れた音楽」「優れたミュージシャン」として恐らくそれなりの評価を得るであろう、この日披露されたアニメソング。しかしそれぞれの歌がその評価以上の魅力を発揮しているのは、アニメという一つの高度な作品の一部分として存在するからに他ならない。個々の歌には、アニメ作品に基づいた、様々な視点から見た世界観が展開され、単に音を楽しむという感覚以上に、そのアニメに親しんだ印象を深く刻み込んでいる。そんな要素があったからこそ、この日の夢のような盛り上がりが現れたのではないだろうか。今では非常に大きな可能性を持った音楽ともいえるアニメソング。この機会に是非一度、改めて親しんできたアニメソングを深く聴き感じてみてはいかがだろうか。

セットリスト

01. マジンガーZ(アニメ「マジンガーZ」より 唄:水木一郎)
02. ボルテスVのうた(アニメ「超電磁マシーン ボルテスV」より 唄:堀江美都子)
03. ゲッターロボ!(アニメ「ゲッターロボ」より 唄:ささきいさお)
04. 魔女っ子メグちゃん(アニメ「魔女っ子メグちゃん」より 唄:前川陽子)
05. ハクション大魔王のうた(アニメ「ハクション大魔王」より 唄:しまざき由理)
06. 聖闘士神話~ソルジャー・ドリーム~(アニメ「聖闘士星矢」より 唄:影山ヒロノブ)
07. ガツガツ!!(アニメ「トリコ」より 唄:串田アキラ)
08. テイキング・オフ!(アニメ「銀河鉄道999(劇場版)」より 唄:タケカワユキヒデ)
09. スターダストボーイズ(アニメ「宇宙船サジタリウス」より 唄:影山ヒロノブ)
10. 銀河鉄道999(アニメ「銀河鉄道999」より 唄:ささきいさお)
11. キャプテンハーロック(アニメ「宇宙海賊キャプテンハーロック」より 唄:水木一郎)
12. メドレー~
   よあけのみち(アニメ「フランダースの犬」より 唄:大杉久美子)
   草原のマルコ(アニメ「母をたずねて三千里」より 唄:大杉久美子)
   ロックリバーへ(アニメ「あらいぐまラスカル」より 唄:大杉久美子)
   グローイング・アップ(アニメ「私のあしながおじさん」より 唄:堀江美都子)
13. 青い地球(アニメ「銀河鉄道999」より 唄:ささきいさお)
14. 夜霧のハニー(アニメ「キューティー・ハニー」より 唄:前川陽子)
15. あしたがすき(アニメ「キャンディ・キャンディ」より 唄:堀江美都子)
16. ルパン三世愛のテーマ(アニメ「ルパン三世」より 唄:水木一郎)
17. レオのうた(アニメ「ジャングル大帝」より 唄:弘田三枝子)
18. THE GALAXY EXPRESS 999(アニメ「銀河鉄道999(劇場版)」より 唄:タケカワユキヒデ)
19. ドラえもんのうた(アニメ「ドラえもん」より 唄:大杉久美子)
20. みなしごハッチ(アニメ「昆虫物語みなしごハッチ」より 唄:しまざき由理)
21. CHA-LA HEAD-CHA-LA(アニメ「ドラゴンボールZ」より 唄:影山ヒロノブ)
22. キューティーハニー(アニメ「キューティー・ハニー」より 唄:前川陽子)
23. キン肉マンGo Fight!(アニメ「キン肉マン」より 唄:串田アキラ)
24. キャンディ キャンディ(アニメ「キャンディ・キャンディ」より 唄:堀江美都子)
25. バビル2世(アニメ「バビル2世」より 唄:水木一郎)
26. 宇宙戦艦ヤマト(アニメ「宇宙戦艦ヤマト」より 唄:ささきいさお)
encore(出演者全員で合唱)
E01. 海のトリトン(Go! Go! トリトン)(アニメ「海のトリトン」より)
E02. ガッチャマンの歌(アニメ「科学忍者隊ガッチャマン」より)